スピントロニクス理論の基礎/X-5

(2242d) 更新

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経路積分について

東京大学出版 須藤 晴 著
「解析力学・量子論」10章を参考にしながら復習する。

経路積分の導入

時刻 t=t_a \bm x=\bm x_a にあった系が、
時刻 t=t_b \bm x=\bm x_b にある確率が、
P(b,a)=|K(b,a)|^2 で表されるとする。

ファインマンの経路積分の考え方に依れば、

(t_a,\bm x_a) (t_b,\bm x_b) を通る すべての経路 \bm x(t) は、

その経路に沿った作用(ラグランジアンの時間積分) S[\bm x(t)] 1/\hbar を位相に持つ指数関数だけの寄与を K に及ぼす。

すなわち、

K(b,a)&\propto\sum_{\bm x(t)}\exp\left\{\frac{i}{\hbar}S[\bm x(t)]\right\}\\ &=\sum_{\bm x(t)}\exp\left\{\frac{i}{\hbar}\int_{t_a}^{t_b}dt\,\mathcal L[\bm x(t),\dot{\bm x}(t),t]\right\}

P(b,a)=|K(b,a)|^2

である。

古典極限

ある経路 \bm x(t) と、そこから少しだけ異なる経路 \bm x(t)+\delta\bm x(t) とは、異なる位相を持って K に寄与する。その位相差は、

\frac{\delta S}{\hbar} =\frac{S[\bm x(t)+\delta\bm x(t)]-S[\bm x(t)]}{\hbar}

であるが、古典的な系(大きな系)では、小さな \delta\bm x(t) に対しても、 \delta S \hbar に比べて非常に大きくなるため、 異なる経路の寄与は互いに打ち消し合い、多くの場合に総和をほぼゼロと見なすことができる。

唯一確率が打ち消さずに残るのは、 S[\bm x(t)] \bm x(t) の変化に対して停留値となる場合であり、その結果、古典的な系では S[\bm x(t)] を最小とする経路のみが実現されることになる。

ミクロな系では小さな \delta\bm x(t) に対して \delta S \hbar と比較可能な大きさとなるために、 1つの経路のみが実現される形にはならず、「確率」が運動を支配することになる。

経路積分の時間分割

上記のような K を定義できるとすれば、
時刻 t=t_a \bm x=\bm x_a にあった系が、
時刻 t=t_c \bm x=\bm x_c にある確率は、
途中の時刻 t=t_b にいる点 \bm x=\bm x_b を考えることで、

K(c,a)=\int d\bm x_b K(c,b)K(b,a)

と表すことができる。

これを推し進めると、
時刻 t=t_0 \bm x=\bm x_a にあった系が、
時刻 t=t_N \bm x=\bm x_N にある確率は、
時間を N 個の区間に分割することにより、

K(N,0)=\int d\bm x_1\int d\bm x_2\dots\int d\bm x_{N-1} \prod_{n=0}^{N-1}K(n+1,n)

と表せることになる。

N が十分に大きく、 t_{n+1}-t_n を十分に小さいと見なせる場合には、 その間にラグランジアン \mathcal L(\bm x,\dot{\bm x}, t) が大きく変化することはないであろう。(そのような確率を無視して計算を進めるということで、 本当ならもう少しちゃんとした議論が必要だが、直感的には受け入れられよう。)

\mathcal L(\bm x,\dot{\bm x}, t)\sim \mathcal L\big(\frac{\bm x_{n+1}+\bm x_{n}}{2},\frac{\bm x_{n+1}-\bm x_{n}}{t_{n+1}-t_n}, \frac{t_{n+1}+t_n}{2}\big)

したがって、

K(n+1,n)\sim \frac{1}{A}\,\exp\left\{i\,\frac{t_{n+1}-t_n}{\hbar}\mathcal L\big(\frac{\bm x_{n+1}+\bm x_{n}}{2},\frac{\bm x_{n+1}-\bm x_{n}}{t_{n+1}-t_n}, \frac{t_{n+1}+t_n}{2}\big)\right\}

と書ける。ここで A は規格化定数で、後でまた議論する。

これを代入した

K(N,0)&=\int d\bm x_1\int d\bm x_2\dots\int d\bm x_{N-1} \prod_{n=0}^{N-1}\frac{1}{A}\,\exp\left\{i\,\frac{t_{n+1}-t_n}{\hbar}\mathcal L\big(\frac{\bm x_{n+1}+\bm x_{n}}{2},\frac{\bm x_{n+1}-\bm x_{n}}{t_{n+1}-t_n}, \frac{t_{n+1}+t_n}{2}\big)\right\}\\ &=\frac{1}{A^N}\int d\bm x_1\int d\bm x_2\dots\int d\bm x_{N-1} \,\exp\left\{i\sum_{n=0}^{N-1}\frac{t_{n+1}-t_n}{\hbar}\mathcal L\big(\frac{\bm x_{n+1}+\bm x_{n}}{2},\frac{\bm x_{n+1}-\bm x_{n}}{t_{n+1}-t_n}, \frac{t_{n+1}+t_n}{2}\big)\right\}\\ &=\frac{1}{A^N}\int d\bm x_1\int d\bm x_2\dots\int d\bm x_{N-1} \,\exp\left\{\frac{i}{\hbar}\sum_{n=0}^{N-1}S(n+1,n)\right\}\\

により、経路積分の具体的な計算方法が判明した。

慣用的にこの積分を、

K(N,0)&=\int \mathcal D\bm x \exp\left\{\frac{i}{\hbar}S[\bm x(t)]\right\}\\ &\equiv\lim_{N\rightarrow\infty}\frac{1}{A^N}\int d\bm x_1\int d\bm x_2\dots\int d\bm x_{N-1} \,\exp\left\{\frac{i}{\hbar}\sum_{n=0}^{N-1}S(n+1,n)\right\}\\

と書き表す。

確率密度振幅との関係

量子力学で出てくる確率密度振幅は、
系を時刻 t \bm x に見出す確率を

|\psi(\bm x,t)|^2

とするものであった。

この \psi と上で定義した K との関係を、

\psi(\bm x',t')=\int d^3x K(\bm x',t';\bm x,t)\psi(\bm x,t)

と書くことができる。

シュレーディンガー方程式の導出

上式を用いて無限小時間後の変化を考えよう。

&\psi(\bm x+\Delta\bm x,t+\Delta t)\\ &\sim \int d^3x K(\bm x+\Delta\bm x,t+\Delta t; \bm x,t)\psi(\bm x,t)\\ &=\int d^3x \frac{1}{A}\exp\left\{i\frac{\Delta t}{\hbar}\mathcal L\big( \bm x+\frac{\Delta\bm x}{2},\frac{\Delta\bm x}{\Delta t}, t+\frac{\Delta t}{2} \big)\right\}

簡単のため、ラグランジアンとしては単純な1粒子系の物とする。

\mathcal L(\bm x,\dot{\bm x},t)=\frac{1}{2}m\dot {\bm x}^2-U(\bm x,t)

代入すると、

&\frac{\Delta t}{\hbar}\mathcal L\big( \bm x+\frac{\Delta\bm x}{2},\frac{\Delta\bm x}{\Delta t}, t+\frac{\Delta t}{2} \big)\\ &=\frac{1}{2\hbar}m\frac{\Delta x^2}{\Delta t}-\frac{\Delta t}{\hbar}U(\bm x,t)\\

となり、 \Delta t\rightarrow 0 としたときには第1項が支配的となる。

\frac{1}{2\hbar}m\frac{\Delta x^2}{\Delta t}

この項は \Delta t に比べて \Delta x^2 が大きいときには 位相の変化が激しくなって打ち消し合い、有意な寄与を与えないことから、

\frac{m\Delta x^2}{\Delta t}<\hbar

すなわち、

\Delta x^2<\frac{\hbar}{m}\Delta t

の部分だけが重要となる。

そこで、以下では \Delta t が小さいとして \Delta t の1次までを考えるが、 \Delta x についてはその2次までを考えることにする。

多少技巧的ではあるが、これまで
時刻 t x にあった系が
時刻 t+\Delta t x+\Delta x にある確率を考えていた物を、

時刻 t x-\Delta x にあった系が
時刻 t+\Delta t x にある確率を考えることとして、

&\psi(x,t+\Delta t)=\psi(x,t)+\frac{\PD\psi}{\PD t}\Delta t\\ &\sim \int d(\Delta x) K(x,t+\Delta t; x-\Delta x,t)\psi(x-\Delta x,t)\\ &=\int d(\Delta x) \frac{1}{A}\exp\left\{i\frac{\Delta t}{\hbar}\mathcal L\big( x-\frac{\Delta x}{2},\frac{\Delta x}{\Delta t}, t+\frac{\Delta t}{2} \big)\right\}\psi(x-\Delta x,t)\\ &=\frac{1}{A}\int d(\Delta x) \exp\left\{ \frac{i}{2\hbar}m\frac{\Delta x^2}{\Delta t}-\frac{i\Delta t}{\hbar}U(x-\Delta x,t) \right\}\psi(x-\Delta x,t)\\ &=\frac{1}{A}\int d(\Delta x) \exp\left\{ \frac{i}{2\hbar}m\frac{\Delta x^2}{\Delta t}\right\} \exp\left\{-\frac{i\Delta t}{\hbar}U(x,t) \right\}\psi(x-\Delta x,t)\\ &=\frac{1}{A}\int d(\Delta x) e^{ \frac{i}{2\hbar}m\frac{\Delta x^2}{\Delta t}} \left\{1-\frac{i\Delta t}{\hbar}U(x,t)\right\} \left\{\psi(x,t)-\Delta x\frac{\PD\psi}{\PD x}+\frac{\Delta x^2}{2}\frac{\PD^2\psi}{\PD x^2}\right\}\\ &=\frac{1}{A}\left\{1-\frac{i\Delta t}{\hbar}U(x,t)\right\}\int d(\Delta x) e^{ \frac{i}{2\hbar}m\frac{\Delta x^2}{\Delta t}} \left\{\psi(x,t)-\Delta x\frac{\PD\psi}{\PD x}+\frac{\Delta x^2}{2}\frac{\PD^2\psi}{\PD x^2}\right\}\\

ここに、

\int dx\,x^n e^{iax}

の形の積分が3つ ( n=0,1,2 ) 現れるが、これらはそれぞれ

\int dx\, e^{iax}=\sqrt{\frac{\pi i}{a}}

\int dx\, xe^{iax}=0

\int dx\, e^{iax}=\sqrt{\frac{-\pi i}{a^3}}=\frac{i}{a}\sqrt{\frac{\pi i}{a}}

と評価できて、

&\psi(x,t)+\frac{\PD\psi}{\PD t}\Delta t\\ &\sim \frac{1}{A}\left\{1-\frac{i\Delta t}{\hbar}U(x,t)\right\} \sqrt{\frac{2\pi i\hbar\Delta t}{m}} \left\{\psi(x,t)-\frac{\hbar\Delta t}{2m}\,\frac{\PD^2\psi}{\PD x^2}\right\}\\ &\sim \frac{1}{A}\sqrt{\frac{2\pi i\hbar\Delta t}{m}} \left\{\psi(x,t)-\frac{\hbar\Delta t}{2m}\,\frac{\PD^2\psi}{\PD x^2}-\frac{i\Delta t}{\hbar}U(x,t)\psi(x,t)\right\}\\

\Delta t\rightarrow 0 の時、両辺が等しくなるはずであるから、

\frac{1}{A}\sqrt{\frac{2\pi i\hbar\Delta t}{m}}=1

すなわち、

A=\sqrt{\frac{2\pi i\hbar\Delta t}{m}}

として、未定だった( \Delta t 依存の)係数 A が決定される。

これを代入すると、

&\psi(x,t)+\frac{\PD\psi}{\PD t}\Delta t\\ &\sim \psi(x,t)-\frac{\hbar\Delta t}{2m}\,\frac{\PD^2\psi}{\PD x^2}-\frac{i\Delta t}{\hbar}U(x,t)\psi(x,t)\\

i\hbar\frac{\PD\psi}{\PD t}\sim -\frac{\hbar^2}{2m}\,\frac{\PD^2\psi}{\PD x^2}+U(x,t)\psi(x,t)\\

として、シュレーディンガー方程式が得られた。

一般のラグランジアンの場合にも同様の導出が可能であり、 経路積分の考え方は、 ラグランジアンおよび作用を用いた古典力学の定式化を 自然な形で量子力学へ拡張するものであることが分かる。

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