線形代数II/代数学的構造

(1225d) 更新

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目次

代数学とは

この授業は「線形代数」という名前だけれど、この言葉の意味を知っているだろうか?

これまでに「線形」の意味は教わった。

f(\bm x) が線形とは: f(\bm x+\bm y)=f(\bm x)+f(\bm y) および f(a \bm x)=a f(\bm x) が成り立つこと

あるいは、

f(\bm x) が線形とは: f(a \bm x+b \bm y)=a f(\bm x)+b f(\bm y) が成り立つこと

すなわち関数がベクトルの和とスカラー倍に対して透過的*1関数適用前に演算を行っても、適用後に行っても結果が変わらないであることを言う。

では「代数学」は?

これまで様々な「数の集合」を学んできた。

  • \mathbb N 自然数 = 加算・乗算について「閉じている」 → a,b\in \mathbb N ならば  a+b, a\times b\in \mathbb N
  • \mathbb Z 整数  = 減算についても閉じている a-b
  • \mathbb Q 有理数 = 除算についても「ほぼ」閉じている a/b (ゼロでの除算は例外)
  • \mathbb R 実数  = 収束する有理数列の極限演算についても閉じている \lim_{n\rightarrow\infty}a_n
  • \mathbb C 複素数 = 負数の開根操作についても閉じている \sqrt{-1}

\mathbb N \subset \mathbb Z \subset \mathbb Q \subset \mathbb R \subset \mathbb C であり、新しい「演算」の導入により「数の集合」を拡大してきた。

「解析学」はこの最上位の \mathbb R または \mathbb C (あるいは \mathbb R^n \mathbb C^n )の上で、極限や微積分を扱う学問だった ( \mathbb R^n \mathbb C^n n 次元実数ベクトル、 n 次元複素数ベクトルの集合)

「代数学」は \mathbb N, \mathbb Z, \mathbb Q, \mathbb R, \mathbb C の系列から外れて、
例えば、

加算は定義されないが、乗算だけが定義される数の集合

などというように、「何らかの演算」と、「その演算に対して閉じた数の集合」を定め、 そこに現れる「構造」を研究する。

線形代数学で主役となる「ベクトル」もそのような意味での「数」の一員である。

代数学的構造の例: 群

ある集合 U の2つの元の間に ある演算 * が定義され、 U * について「閉じている」とする。

集合 U が演算 * について「閉じている」とは、演算の結果が必ず U に含まれること。

すなわち \forall x,\forall y \in U について x*y\in U

\forall x\in U について」 は、「任意の U の元 x について」 という意味

閉じていない例: 1,2\in \mathbb N しかし、 1/2 \not\in \mathbb N なので、 自然数は除算について閉じていない。

さらにこの演算が次の公理を満たすものとする。

  1. \forall x,\forall y,\forall z\in U に対して結合法則 (x*y)*z=x*(y*z) が成り立つ
  2. 特別な元 e\in U が存在し、 \forall x \in U に対して e*x=x*e=x を満たす(単位元の存在
  3. \forall x \in U それぞれに対して、 x*y=y*x=e を満たすような元 y\in U を(最低限1つずつ)見つけられる(逆元の存在

このとき、「 U は演算 * に対して群である」 という。

上記の条件は、for all 記号 \forall 、exists 記号 \exists を使えば次のようになる。

0. \forall x, \forall y\in U, x*y\in U
1. \forall x,\forall y,\forall z\in U, (x*y)*z=x*(y*z)
2. \exists e\in U, \forall x\in U, x*e=e*x=x
3. \forall x\in U,\exists y\in U, x*y=y*x=e

群の例

一見すると、 U を有理数 \mathbb Q * を通常の乗算 \times と考えれば群の公理を満たしそうに思えるが、 0\in \mathbb Q が逆元を持たないため、 有理数 \mathbb Q は乗算 \times について群とはならない。

U を有理数 \mathbb Q からゼロを除いた集合 \mathbb Q-\set{0} とすれば、この集合は乗算 \times に対して群となる。

U を整数 \mathbb Z * を通常の加算 + 、単位元を 0 と考えると公理を満たすから、 \mathbb Z は加算について群である。(加算の単位元は 0 である

U k の倍数 \set{nk|n\in \mathbb Z} * を通常の加算 + 、単位元を 0 と考えると、これも群を為す。

群の要素数が有限である場合もある。

自明な群: 1つしか要素を持たない集合 U=\set{e} に対して、 e*e=e と定義すれば、 U は群である。

U={a,b,c} に対して、演算 *

 *  a  b  c 
 a a b c
 b b c a
 c c a b

と定義すれば、 U は群である。
ただしこの表は、 (左に書かれた数)*(上に書かれた数) の演算結果を示した物である。

代数学で扱う「演算」は、このように表を作ることで任意に定義できる。

例えばこの表を、

  \odot   a  b  c 
 a a b c
 b b c b
 c c b a

とすると別の演算 \odot を定義できるが、 (c\odot b)\odot b=b\odot b=c\ne c\odot (b\odot c)=c\odot b=b となって \odot は結合法則を満たさず、 U \odot に対して群ではない。

「群」の公理は上のように単純なものであるが、 その数学的構造は非常に奥深く、「群論」だけで数学の1分野となる。

応用理工の数学カリキュラムでは群論の詳細には立ち入らないが、 結晶学や分子振動における点群や、 ゲージ理論などにおける対称性に関する議論に重要な応用があるため どこかでまた学ぶことになるかもしれない。

その他の代数的構造

  • 群 = 上記
  • 可換群 = 群の公理に交換法則 a*b=b*a を加える
  • 体 = 2つの演算 +,* を持ち、 + に対して可換群、 + の単位元である 0 を除いて * に対しても可換群であり、さらに分配法則 a*(b+c)=a*b+a*c が成立する(つまり「四則演算」ができる集合のこと)

有理数 \mathbb Q や実数 \mathbb R 、複素数 \mathbb C は 自由に四則演算の行える構造を持ち、「体」である。
そこでしばしば 有理体、実数体、複素数体 などとも呼ばれる。

これ以外にも様々な代数的構造が研究されている。→ Wikipedia:代数的構造

代数的構造の意味

「代数的構造」の優れた点は数学的に類似の構造を持つ対象を抜き出して、 それらをまとめて議論できる点にある。

異なる対象の「類似点」を公理の形で記し、公理のみを基に定理を導くことにより、 個々の対象に依存せず、すべての対象に適用可能な結論を導くことができるのである。


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質問・コメント




細かいですが、間違いを見つけました。

工学システム学類の変な男? ()

「代数学的構造の例: 群 」 のfor all とexistsの使用例の3ですがx と a が混在しています。

最近、このサイトをみつけました。教科書よりも読み易く、面白い読み物として利用させて頂いています。

  • 指摘をありがとうございます。早速訂正しました。ぜひ役立ててもらえればこちらもうれしいです。 -- 武内(管理人)?

*1 関数適用前に演算を行っても、適用後に行っても結果が変わらない

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