電磁場中のシュレーディンガー方程式とゲージ変換

(88d) 更新

量子力学Ⅰ

電磁場中のシュレーディンガー方程式とゲージ変換

電磁場中のシュレーディンガー方程式をゲージ変換して、ゲージ不変性を確認する。

電磁場中のシュレーディンガー方程式

電磁場中のハミルトニアンはベクトルポテンシャル \mathbf A 、スカラーポテンシャル \varphi を用いて次のように表せる。参考:電磁気学/電磁ポテンシャルの導入#k13bd197

  H_\mathrm{em}=\sum_n \bigg[\frac{1}{2m}\big(\frac{\hbar}{i}\mathbf \nabla_n-q\mathbf A(\mathbf x_n,t)\big)^2+q\varphi(\mathbf x_n,t)\bigg]

すると電磁場中でのシュレーディンガー方程式は次のようになる。

  i\hbar\partial_t\Psi(\mathbf x_1,\mathbf x_2,\cdots,\mathbf x_N,t)= H_\mathrm{em}\Psi(\mathbf x_1,\mathbf x_2,\cdots,\mathbf x_N,t)

ゲージ変換

静電ポテンシャルをゲージ変換しても物理的には同じ状態を表す。
参考:電磁気学/電磁ポテンシャルの導入#fde7eaa7

  \mathbf A'=\mathbf A+\frac{\hbar}{q}\mathbf \nabla f

  \varphi'=\varphi-\frac{\hbar}{q}\partial_t f

ゲージ変換後のハミルトニアンとその解

  \begin{aligned} H_\mathrm{em}' &=\sum_n \bigg[\frac{1}{2m}(\frac{\hbar}{i}\mathbf \nabla_n-q\mathbf A'(\mathbf x_n,t))^2+q\varphi'(\mathbf x_n,t)\bigg]\\ &=\sum_n \bigg[\frac{1}{2m}(\frac{\hbar}{i}\mathbf \nabla_n-q\mathbf A(\mathbf x_n,t)-\hbar\mathbf \nabla f(\mathbf x_n,t))^2+q\varphi(\mathbf x_n,t)-\hbar\partial_t f(\mathbf x_n,t)\bigg]\\ \end{aligned}

よく知られるように、ゲージ変換によりハミルトニアンは変化するが、波動関数は位相のみの変化にとどまる。位相の部分を U と置こう。

  \begin{aligned} \Psi'(\mathbf x_1,\mathbf x_2,\cdots,\mathbf x_N,t) &= e^{i\sum_n f(\mathbf x_n,t)} \Psi(\mathbf x_1,\mathbf x_2,\cdots,\mathbf x_N,t)\\ &= U(\mathbf x_1,\mathbf x_2,\cdots,\mathbf x_N,t) \Psi(\mathbf x_1,\mathbf x_2,\cdots,\mathbf x_N,t)\\ \end{aligned}

位相だけが異なるため、

  |\Psi'(\bm x_1,\bm x_2,\dots,\bm x_N,t)|^2=|\Psi(\bm x_1,\bm x_2,\dots,\bm x_N,t)|^2

となって、波動関数の空間分布はゲージ変換前の物と変わらないことになる。

波動関数の変換が「一次のユニタリー変換」となることことを指して、この変換は U(1) 群をなす、と言う。( U(n) なら n 次のユニタリー変換、 SU(n) なら n 次の固有値1のユニタリー変換)

電磁気学が U(1) 変換に対して不変であることを指して、電磁気学は u(1) -ゲージ理論である、という。

解になっていることを確認する

\Psi' がゲージ変換後のシュレーディンガー方程式を満たすことを確かめよう。

  \partial_t U=\Big[\partial_t\sum_n if(\mathbf x_n,t)\Big]U

  \mathbf\nabla_n U=\Big[i\mathbf\nabla_n f(\mathbf x_n,t)\Big]U

より、

  \begin{aligned} i\hbar\partial_t\Psi'&=i\hbar\partial_t\big(U\Psi\big)\\ &=\Big(-\sum_n \hbar\partial_tf(\mathbf x_n,t)\Big)U\Psi+Ui\hbar\partial_t\Psi \end{aligned}

  \begin{aligned} &\Big(\frac{\hbar}{i}\mathbf \nabla_n-q\mathbf A(\mathbf x_n,t)-\hbar\mathbf \nabla f(\mathbf x_n,t)\Big)\Psi'\\ &=\Big(\frac{\hbar}{i}\mathbf \nabla_n-q\mathbf A(\mathbf x_n,t)-\hbar\mathbf \nabla f(\mathbf x_n,t)\Big)U\Psi\\ &=\Big(\hbar\mathbf\nabla f(\mathbf x_n,t)\Big)U\Psi+ U\Big(\frac{\hbar}{i}\mathbf \nabla_n-q\mathbf A(\mathbf x_n,t)-\hbar\mathbf \nabla f(\mathbf x_n,t)\Big)\Psi\\ &=U\Big(\frac{\hbar}{i}\mathbf \nabla_n-q\mathbf A(\mathbf x_n,t)\Big)\Psi\\ \end{aligned}

したがって、

  \begin{aligned} &\Big[\sum_n\Big(\frac{\hbar}{i}\mathbf \nabla_n-q\mathbf A(\mathbf x_n,t)-\hbar\mathbf \nabla f(\mathbf x_n,t)\Big)^2\Big]\Psi'\\ &=U\Big[\sum_n\Big(\frac{\hbar}{i}\mathbf \nabla_n-q\mathbf A(\mathbf x_n,t)\Big)\Big]^2\Psi\\ \end{aligned}

ゲージ変換後のシュレーディンガー方程式は、

  i\hbar\partial_t\Psi'=H'\Psi'

  \begin{aligned} &\Big(-\sum_n \hbar\partial_tf(\mathbf x_n,t)\Big)U\Psi +Ui\hbar\partial_t\Psi\\ &=U\sum_n \bigg[\frac{1}{2m}(\frac{\hbar}{i}\mathbf \nabla_n-q\mathbf A(\mathbf x_n,t))^2+q\varphi(\mathbf x_n,t)-\hbar\partial_t f(\mathbf x_n,t)\bigg]\Psi\\ \end{aligned}

  \begin{aligned} &Ui\hbar\partial_t\Psi =U\sum_n \bigg[\frac{1}{2m}(\frac{\hbar}{i}\mathbf \nabla_n-q\mathbf A(\mathbf x_n,t))^2+q\varphi(\mathbf x_n,t)\bigg]\Psi\\ \end{aligned}

両辺を U=e^{i\sum_n f(\mathbf x_n,t)} で割れば、

  i\hbar\partial_t\Psi=H_\mathrm{em}\Psi

となり、ゲージ変換前のシュレーディンガー方程式と同値であることが分かる。

すなわち、 \Psi がゲージ変換前のシュレーディンガー方程式の解であれば、 \Psi' はゲージ変換後のシュレーディンガー方程式の解となる。

ゲージ変換により現れる余計な項が、 U の時間微分や空間微分と打消し合ったことに注意せよ。

反対称性も問題ない

電子が2個の時、 \Psi(\mathbf x_1,\mathbf x_2,t) がフェルミオンの反対称性を満たす解であったとする。

\Psi(\mathbf x_2,\mathbf x_1,t)=-\Psi(\mathbf x_1,\mathbf x_2,t)

ゲージ変換後の解は、

\begin{aligned} \Psi'(\mathbf x_2,\mathbf x_1,t)&=e^{if(\mathbf x_1,t)+if(\mathbf x_2,t)}\Psi(\mathbf x_2,\mathbf x_1,t)\\ &=-e^{if(\mathbf x_1,t)+if(\mathbf x_2,t)}\Psi(\mathbf x_1,\mathbf x_2,t) =-\Psi'(\mathbf x_1,\mathbf x_2,t) \end{aligned}

このように、位相部分の U は任意の粒子の入れ替えに対して対称な関数となるため、全体としての対称性・反対称性がゲージ変換によって失われることはない。

エネルギー期待値

以下の通り、ゲージ変換の結果、エネルギー期待値が変化してしまうことが分かる。

  \begin{aligned} \langle \Psi'|H'|\Psi'\rangle&= \langle \Psi|U^\dagger H'U|\Psi\rangle\\ &=\langle \Psi|U^\dagger U\Big[H-\hbar\sum_n\partial_t f(\mathbf x_n,t)\Big]|\Psi\rangle\\ &=\langle \Psi| H|\Psi\rangle -\hbar\langle \Psi|\partial_t \sum_nf(\mathbf x_n,t)|\Psi\rangle\\ \end{aligned}

なぜ H の期待値が変化してしまうかというと、 その理由はこの項がどこから来たかを考えれば一目瞭然である。

この項は q\varphi の項から現れており、 端的にはスカラーポテンシャルのゼロ点が変化したことに対応する。

一般のゲージ変換に対しては「スカラーポテンシャルのゼロ点」が空間的にも時間的にも一定である必要がない。エネルギーのゼロ点が変化すれば全エネルギーが変化するのは当然であるが、エネルギー変化は波動関数の位相にしか現れないため、上記の通りゲージ変換前後で波動関数の絶対値の自乗の空間分布は変化しない。

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