フォック方程式の導出

(83d) 更新

量子力学Ⅰ

このページ、まだ推敲中でいろいろ間違いがあると思います。どうもすみません。

フォック方程式の導出

ハートレー・フォック法の1粒子方程式となるフォック方程式を導出する。

変分法を使うので、まだ学んでいなければ次のことだけ理解しておくこと。

  • 変分法の考え方
    • あるハミルトニアンに対する基底状態とは、そのハミルトニアンに対して最低のエネルギー期待値を与える波動関数のことである
    • つまり、いくつかのパラメータを含む試行的な波動関数を作り、それらのパラメータを調節して厳密な基底状態が得られるなら、それは波動関数のエネルギー期待値が最小となる点である
    • 試行関数では厳密解を表せない場合にも、なるべく良い近似解を作るのには波動関数のエネルギー期待値を最小化するようにパラメータを調節するのが良い指針になるだろう

ハートレー・フォック法では1つのスレーター行列で表せる関数の中から、最も小さいエネルギー期待値を与える関数を探すことにより、その形で表すことの可能な「最良の近似解」を求める。

目次

時間に依らないシュレーディンガー方程式

n 個の同種粒子からなる系を考える。

  \hat H\mathit\Phi =\varepsilon \mathit\Phi

ハミルトニアン \hat H は運動エネルギー T 、1体ポテンシャル V_\mathrm{1体} 、 2体ポテンシャル V_\mathrm{2体} の和で表わせる。

  H&=T+V_\mathrm{1体}+V_\mathrm{2体}\\ &=\sum_i T_i + \sum_i V_1(\bm r_i,s_i) + \sum_i \sum_{j>i} V_2(\bm r_i,s_i,\bm r_j,s_j)\\

  \phantom{H} &=\sum_i T_i + \sum_i V_1(x_i) + \sum_i \sum_{j>i} V_2(x_i,x_j)\\ &=\sum_i T_i + \sum_i V_1(x_i) + \frac{1}{2}\sum_i \sum_{j\ne i} V_2(x_i,x_j)\\

ここで、

  • \bm r_i 等は空間座標、 s_i などはスピン座標、 x_i などは空間座標とスピン座標を合わせた座標の意味
  • 粒子は同種だから、 V_1,V_2 i,j によらず同一 (異なるポテンシャルを感じる粒子は同種でない)
  • 2行目の j>i は、同じ2つの電子に対してポテンシャルを重複して計算しないため
  • 4行目では j>i とする代わりに、全て2回ずつ数えておいて最後に半分にした

多粒子波動関数モデル

多粒子波動関数は \{\phi_i\} から作られる単一のスレーター行列式で表すものとする。

  \Phi &=\frac{1}{\sqrt{n!}}\mathrm{det} (\phi_1, \phi_2, \cdots, \phi_n)\\ &=\frac{1}{\sqrt{n!}}\sum_{(p_1\ p_2\ \cdots\ p_n)}\sigma(p_1\ p_2\ \cdots\ p_n)\phi_{p_1}(x_1) \phi_{p_2}(x_2) \cdots\phi_{p_n}(x_n)\\ &=\frac{1}{\sqrt{n!}}\sum_p(-1)^p\phi_{p_1}(x_1) \phi_{p_2}(x_2) \cdots\phi_{p_n}(x_n)\\

ただし、 \{\phi_i\} は正規直交系をなす n 個の1粒子関数。

  \int d\bm r\,\sum_s\,\phi_i(\bm r,s)\phi_j(\bm r,s)= \int dx\,\phi_i(x)\phi_j(x)= \delta_{ij}

以下で見るとおり、この形に置くこと自体が平均場近似(電子相関の無視)を仮定していることと同義となる。

エネルギーの期待値

変分法で波動関数を最適化するため、まずはエネルギーの表式を求めておく。

  E&=\langle H\rangle=\int d^nx\ \mathit\Phi^* H \mathit\Phi\\ &=\int d^nx\ \mathit\Phi^* (T+V_{1体}+V_{2体}) \mathit\Phi\\

以下、項ごとに見ていく。

運動エネルギー

式変形に対するコメントが脚注にある(Web ブラウザで読んでいる場合には *2 などにマウスカーソルをかざすと脚注が表示される)ので参考にせよ。

  \langle T_i\rangle &=\int d^nx\ \Phi^* T_i \Phi\\

  \phantom{\langle T_i\rangle} &=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{1}{n!}\sum_p\sum_q(-1)^p(-1)^q \int d^nx\, \phi_{q_1}^*(x_1) \phi_{q_2}^*(x_2) \cdots\phi_{q_n}^*(x_n) \nabla_i^2 \phi_{p_1}(x_1) \phi_{p_2}(x_2) \cdots\phi_{p_n}(x_n)\\

  \phantom{\langle T_i\rangle} &=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{1}{n!}\sum_p\sum_q(-1)^p(-1)^q \Big(\prod_{j\ne i}\delta_{p_j,q_j}\Big) \int dx_i\ \phi_{q_i}^*(x_i) \nabla_i^2 \phi_{p_i}(x_i)\\ *1 \nabla_i が作用するのは x_i のみなので、 j\ne i では \textstyle \int dx_j\ \phi_{p_i}(x_j)\phi_{q_j}(x_j)=\delta_{p_j,q_j} が現れる

  \phantom{\langle T_i\rangle} &=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{1}{n!}\sum_p \cancel{(-1)^{2p}} \int dx\ \phi_{p_i}^*(x) \nabla^2 \phi_{p_i}(x)\\ *2 j\ne i に対して p_j=q_j である項以外は消える。このとき p_i=q_i も成り立つので、ゼロにならずに残った項では置換 q p に等しい。定積分に使う変数を x に書き直した。

  \phantom{\langle T_i\rangle} &=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{1}{n}\sum_j \int dx\ \phi_j^*(x) \nabla^2 \phi_j(x)\\ *3置換 p の取り方は n! 通りあるが、そのうち p_i=j となる (n-1)! 通りのものごとにまとめた。

スレーター行列式は粒子の区別の付かない波動関数であるのだから 当然と言えば当然ではあるが、結果は i に依存しない形になった。

  \langle T\rangle&=\sum_i \langle T_i\rangle\\ &=n \langle T_i\rangle\\ &=-\frac{\hbar^2}{2m}\sum_j \int dx\ \phi_j^*(x) \nabla^2 \phi_j(x)\\

この形は \phi_i ( i=1,2,\dots,n ) のそれぞれに合計 n 個の粒子が詰まっている、という描像を端的に表している。

1体エネルギー

計算は上とほぼ同様の変形により、

  \langle V_i\rangle &=\int d^nx\ \Phi^* V_i \Phi\\ &=\frac{1}{n!}\sum_p\sum_q(-1)^p(-1)^q \int d^nx\, \phi_{q_1}^*(x_1) \phi_{q_2}^*(x_2) \cdots\phi_{q_n}^*(x_n)\,V_1(x_i)\,\phi_{p_1}(x_1) \phi_{p_2}(x_2) \cdots\phi_{p_n}(x_n)\\ &=\frac{1}{n!}\sum_p\sum_q(-1)^p(-1)^q \Big(\prod_{j\ne i}\delta_{p_j,q_j}\Big) \int dx_i\ \phi_{q_i}^*(x_i)\,V_1(x_i)\,\phi_{p_i}(x_i)\\ &=\frac{1}{n!}\sum_p \cancel{(-1)^{2p}} \int dx_i\ \phi_{p_i}^*(x_i)\,V_1(x_i)\,\phi_{p_i}(x_i)\\ &=\frac{1}{n}\sum_j \int dx\ \phi_j^*(x)\,V_1(x_i)\,\phi_j(x)\\

これも i に依存しない形になった。

  \langle V_\mathrm{1体}\rangle&=\sum_i \langle V_i\rangle\\ &=n \langle V_i\rangle\\ &=\sum_j \int dx\ \phi_j^*(x)\,V_1(x_i)\,\phi_j(x)\\ &=\sum_j \langle V_1\rangle_{\phi_j}

ただし \langle V_1\rangle_{\phi_j} は、 \phi_j に対する V_1 の期待値。

この形は \phi_i ( i=1,2,\dots,n ) のそれぞれに合計 n 個の粒子が詰まっている、という描像を端的に表している。

2体エネルギー

式変形に対するコメントが脚注にある(Web ブラウザで読んでいる場合には *2 などにマウスカーソルをかざすと脚注が表示される)ので参考にせよ。

  \langle V_{ij}\rangle &=\int d^nx\ \Phi^* V_{ij} \Phi\\ &=\frac{1}{n!}\sum_p\sum_q(-1)^p(-1)^q \int d^nx\, \phi_{q_1}^*(x_1) \phi_{q_2}^*(x_2) \cdots\phi_{q_n}^*(x_n) V_2(x_i,x_j) \phi_{p_1}(x_1) \phi_{p_2}(x_2) \cdots\phi_{p_n}(x_n)\\

  \phantom{\langle V_{ij}\rangle} &=\frac{1}{n!}\sum_p\sum_q(-1)^p(-1)^q \Big(\prod_{k\ne i,j}\delta_{p_k,q_k}\Big) \iint dx_idx_j\ \phi_{q_i}^*(x_i)\phi_{q_j}^*(x_j) V_2(x_i,x_j) \phi_{p_i}(x_i)\phi_{p_j}(x_j)\\ *4今度は k\ne i,j が条件になる

  \phantom{\langle V_{ij}\rangle} &=\frac{1}{n!}\sum_p\sum_q \iint dx_idx_j\ \big\{\cancel{(-1)^{2p}}\phi_{p_i}^*(x_i)\phi_{p_j}^*(x_j)-\cancel{(-1)^{2p}}\phi_{p_j}^*(x_i)\phi_{p_i}^*(x_j)\big\} V_2(x_i,x_j) \phi_{p_i}(x_i)\phi_{p_j}(x_j)\\ *5 q p と等しいか、 p p_i p_j を交換したものかのどちらかである。後者に対しては (-1)^q=-(-1)^p が成り立つ

  \phantom{\langle V_{ij}\rangle} &=\frac{1}{n(n-1)}\sum_k\sum_{l\ne k} \iint dxdx'\ \big\{\phi_k^*(x)\phi_l^*(x')-\phi_l^*(x)\phi_k^*(x')\big\} V_2(x_i,x_j) \phi_k(x)\phi_l(x')\\ *6 p_i=k,p_j=l となる (n-2)! 個の置換ごとにまとめた。

  \phantom{\langle V_{ij}\rangle} &=\frac{1}{n(n-1)}\sum_k\sum_{l} \iint dxdx'\ \big\{\phi_k^*(x)\phi_l^*(x')-\phi_l^*(x)\phi_k^*(x')\big\} V_2(x_i,x_j) \phi_k(x)\phi_l(x')\\ *7 k=l の項は \big\{\ \dots\ \big\} の部分がゼロになるので、式の上では入れる形に書いておいて構わない

これも i,j に依存しない形になった。

  \langle V_{2体}\rangle &=\sum_i\sum_{j>i} \langle V_{ij}\rangle\\ &=\sum_i (n-i) \langle V_{ij}\rangle\\ &= \Big\{n^2-\frac{n(n+1)}{2}\Big\} \langle V_{ij}\rangle\\ &= \frac{n(n-1)}{2} \langle V_{ij}\rangle\\ &=\frac{1}{2}\sum_k\sum_{l} \iint dxdx'\ \big\{\phi_k^*(x)\phi_l^*(x')-\phi_l^*(x)\phi_k^*(x')\big\} V_2(x,x') \phi_k(x)\phi_l(x')\\ &=\langle V_\mathrm{2体A}\rangle+\langle V_\mathrm{2体B}\rangle\\

ここで、 \langle V_\mathrm{2体A}\rangle は古典的に予想される次の形であり、 電子に対しては「クーロン積分」と呼ばれる。係数の 1/2 は、 \sum_k\sum_l によりすべての粒子対に対してポテンシャルを2度ずつ数えてしまっているのを補正するための係数となっている。 k=l の項は古典的には意味のない項であるが、 \langle V_\mathrm{2体B}\rangle に含まれる項と打消し合う。

  \langle V_\mathrm{2体A}\rangle &=\frac{1}{2}\sum_k\sum_l \iint dxdx'\ \phi_k^*(x)\phi_l^*(x') V_2(x,x') \phi_k(x)\phi_l(x')\\ &=\frac{1}{2}\sum_k\sum_l \iint dxdx'\ V_2(x,x')\,|\phi_k(x)|^2|\phi_l(x')|^2\\

\langle V_\mathrm{2体B}\rangle は古典的には理解しにくい形で、交換積分と呼ばれる。

  \langle V_\mathrm{2体B}\rangle &=\frac{1}{2}\sum_k\sum_{l} \iint dxdx'\ \phi_l^*(x)\phi_k^*(x') V_2(x,x') \phi_k(x)\phi_l(x')\\

エネルギーを最小化する波動関数を求める

エネルギーの期待値は次のようになった。

  E=&-\frac{\hbar^2}{2m}\sum_j \int dx\ \phi_j^*(x) \nabla^2 \phi_j(x)\\ &+\sum_j \int dx\ \phi_j^*(x) V_1(x) \phi_j(x)\\ &+\frac{1}{2}\sum_j\sum_k \iint dxdx'\ \big\{\phi_j^*(x)\phi_k^*(x')-\phi_k^*(x)\phi_j^*(x')\big\} V_2(x,x') \phi_j(x)\phi_k(x')

このエネルギーを最小化するような \set{\phi_i} を求めることにより、 1つのスレーター行列式で表現可能な波動関数の最良解を探そう。

ただし、 {\phi_i} が規格直交化されていることを前提としているので、

  \int dx\,\phi_i^*(x)\phi_j(x)=\delta_{ij}

の条件の下で、 \phi_i を変化させて E を最小化することになる。

そこで ラグランジュの未定係数法 を使う。

ラグランジュの未定係数法

正規直交を表す条件式は n^2 個あるので、 n^2 個の未定係数を \varepsilon_{jk} として、

  L=E-\sum_i\sum_j\varepsilon_{jk} \Big[\int dx\,\phi_j^*(x)\phi_k(x)-\delta_{jk}\Big]

を定義し、この L \delta\phi_i,\varepsilon_{ij} で微分しゼロと置く。ただし、

  \Big[\int dx\,\phi_j^*(x)\phi_k(x)-\delta_{jk}\Big]=\Big[\int dx\,\phi_k^*(x)\phi_j(x)-\delta_{kj}\Big]^*

であるため、 \varepsilon_{ij} の条件式と \varepsilon_{ji} の条件式とは独立ではない。そこで \varepsilon_{ji}=\varepsilon_{ij} となるようにパラメータを置くことで、実質的なパラメータ数を減らしておく。このとき、正方行列 \varepsilon=\big(\varepsilon_{ij}\big) はエルミート(対称)になる。

\varepsilon_{ij} で微分した結果をゼロと置けば正規直交条件が出てくるので、これは \{\phi_i\} として正規直交系を用いることのみで成立する。

一方、 \phi_i(x) を変化させ、 \phi_i(x)+\delta\phi_i(x) とした時の変化を L\to L+\delta L として、任意の \delta \phi に対して \delta L=0 となる、という条件式が求める1体方程式となる( (汎関数微分)=0 の形になる*8汎関数微分については例えば http://eman-physics.net/analyt... などを参考にすると良い)。

  \delta L= &-\frac{\hbar^2}{2m}\int dx\ \big\{\delta\phi_i^*(x) \nabla^2 \phi_i(x)+\phi_i^*(x) \nabla^2 \delta\phi_i(x)\big\}\\ &+\int dx\ \big\{\delta\phi_i^*(x) \phi_i(x)+\phi_i^*(x) \delta\phi_i(x)\big\}V_1(x)\\ &+\frac{1}{2}\sum_k \iint dxdx'\ \big\{\delta\phi_i^*(x)\phi_k^*(x')-\phi_k^*(x)\delta\phi_i^*(x')\big\} V_2(x,x') \phi_i(x)\phi_k(x')\\ &+\frac{1}{2}\sum_k \iint dxdx'\ \big\{\phi_i^*(x)\phi_k^*(x')-\phi_k^*(x)\phi_i^*(x')\big\} V_2(x,x') \delta\phi_i(x)\phi_k(x')\\ &+\frac{1}{2}\sum_j \iint dxdx'\ \big\{\phi_j^*(x)\delta\phi_i^*(x')-\delta\phi_i^*(x)\phi_j^*(x')\big\} V_2(x,x') \phi_j(x)\phi_i(x')\\ &+\frac{1}{2}\sum_j \iint dxdx'\ \big\{\phi_j^*(x)\phi_i^*(x')-\phi_i^*(x)\phi_j^*(x')\big\} V_2(x,x') \phi_j(x)\delta\phi_i(x')\\ &-\sum_k\varepsilon_{ik}\int dx\delta\phi_i^*(x)\phi_k(x) -\sum_j\varepsilon_{ji}\int dx\phi_j^*(x)\delta\phi_i(x)\\

  \phantom{\delta L}= &-\frac{\hbar^2}{2m}\int dx\ \big\{\delta\phi_i^*(x) \nabla^2 \phi_i(x)+\phi_i^*(x) \nabla^2 \delta\phi_i(x)\big\}\\ &+\int dx\ \big\{\delta\phi_i^*(x) \phi_i(x)+\phi_i^*(x) \delta\phi_i(x)\big\}V_1(x)\\ &+\sum_k \iint dxdx'\ \big\{\delta\phi_i^*(x)\phi_k^*(x')-\phi_k^*(x)\delta\phi_i^*(x')\big\} V_2(x,x') \phi_i(x)\phi_k(x')\\ &+\sum_k \iint dxdx'\ \big\{\phi_i^*(x)\phi_k^*(x')-\phi_k^*(x)\phi_i^*(x')\big\} V_2(x,x') \delta\phi_i(x)\phi_k(x')\\ &-\sum_k\varepsilon_{ik}\int dx\delta\phi_i^*(x)\phi_k(x) -\sum_k\varepsilon_{ki}\int dx\phi_k^*(x)\delta\phi_i(x)\\

演算子のエルミート性

ここで、ある演算子 \hat H がエルミートであるとき、

  (g,\hat Hf)=(\hat Hf,g)^*=(f,\hat Hg)^*

すなわち、

  (f,\hat Hg)+(g,\hat Hf)=(f,\hat Hg)+(f,\hat Hg)^*=2\,\mathrm{Real}\big[(f,\hat Hg)\big]

のようにまとめられる。これを用いると、

  \delta L=2\,\mathrm{Real}\!&\int dx\ \delta\phi_i^*(x)\Big[ -\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2 \phi_i(x)+V_1(x)\phi_i(x)\\ &+\sum_k \int dx'\,V_2(x,x')\big\{\phi_k^*(x') \phi_i(x)\phi_k(x')-\phi_k^*(x') \phi_i(x')\phi_k(x)\big\}-\sum_k\varepsilon_{ik}\phi_k(x)\Big]\\

これが任意の \delta\phi_i に対してゼロとなるには \Big[\cdots\Big] の部分がゼロでなければならない。

  -\frac{\hbar^2}{2m}& \nabla^2 \phi_i(x)+V_1(x)\phi_i(x)+\\ &\sum_j \int\! dx'\,V_2(x,x')\big\{\phi_j^*(x')\phi_i(x)\phi_j(x')-\phi_j^*(x')\phi_i(x')\phi_j(x)\big\}=\sum_j\varepsilon_{ij}\phi_j(x)&

積分演算子

上記方程式に現れる \phi_i(x') を含む項は、

  -\sum_j\int dx'\ V_2(x,x') {\phi_j}^*(x') \phi_i(x')\phi_j(x) &=-\int dx'\,V_2(x,x')\Big\{\sum_j\phi_j^*(x') \phi_j(x)\Big\}\phi_i(x')\\ &=-\int dx'\,\mathcal V(x,x')\phi_i(x')

のように書き直すと、この項は \phi_i(x') に以下の積分演算子を適用した形になっている。

  \hat V_\mathrm{ext}:\phi_i(x)\mapsto -\int dx'\,\mathcal V(x,x')\phi_i(x')

この演算子は、

  \hat V_\mathrm{ex}\big\{a\phi(x)+b\phi'(x)\big\} &=-\int dx'\,\mathcal V(x,x')\big\{a\phi(x)+b\phi'(x)\big\}\\ &=-a\int dx'\,\mathcal V(x,x')\phi(x)-b\int dx'\,\mathcal V(x,x')\phi'(x)\\ &=a\hat V_\mathrm{ex}\phi(x)+b\hat V_\mathrm{ex}\phi'(x)

のように線形演算子である。この表記を用いると最小化の条件は、

  \underbrace{\bigg[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 +V_1(x)+\sum_j \int\! dx'\,V_2(x,x')\,|\phi_j(x')|^2+\hat V_\mathrm{ex}\bigg]}_{\hat H_\mathrm{HF}}\phi_i(x)=\hat H_\mathrm{HF}\phi_i(x)=\sum_j\varepsilon_{ij}\phi_j(x)&

のように表せる。

対角化

右辺がややこしいので簡単にする。

対称行列 \varepsilon=(\varepsilon_{ij}) を対角化するユニタリ行列を U とする。すなわち、 \varepsilon'=(\varepsilon_{ij}')=U\varepsilon U^{-1} を対角行列とする。 U=(u_{ij}) に対して

  \phi_i=\sum_j u_{ij} \phi_j'   ベクトル形式で   \bm\phi=U\bm \phi'

として \{\phi_i'\} を定義すれば、 \mathrm{det}(\phi_1\ \phi_2\ \cdots\ \phi_n)=\mathrm{det}(\phi'_1\ \phi'_2\ \cdots\ \phi'_n) である一方、

  \hat H_\mathrm{HF}\bm \phi&=\varepsilon\bm\phi\\ \hat H_\mathrm{HF}U\bm \phi'&=\varepsilon U\bm\phi'\\ U^\dagger\hat H_\mathrm{HF}U\bm \phi'&=U^\dagger\varepsilon U\bm\phi'\\ U^\dagger U\hat H_\mathrm{HF}\bm \phi'&=U^\dagger\varepsilon U\bm\phi'\\ \hat H_\mathrm{HF}\bm \phi'&=\varepsilon'\bm\phi'\\ \hat V_\mathrm{ex}\phi_i(x)=-\int dx' V_2(x,x') (\bm \phi(x'),\bm \phi(x) ) \phi_i(x')

のようにして、条件式から \varepsilon_{ij} の非対角項を消せる。ここで、

  \hat V_\mathrm{ex}\bm \phi(x)&=-\int dx' V_2(x,x') \big(\bm \phi(x'),\bm \phi(x) \big) \bm\phi(x')\\ \hat V_\mathrm{ex}U\bm \phi'(x)&=-\int dx' V_2(x,x') \big(U\bm \phi'(x'),U\bm \phi'(x) \big) U\bm\phi'(x')\\ U^\dagger\hat V_\mathrm{ex}U\bm \phi'(x)&=-U^\dagger\int dx' V_2(x,x') \big(\bm \phi'(x'),\bm \phi'(x) \big) U\bm\phi'(x')\\ U^\dagger U\hat V_\mathrm{ex}\bm \phi'(x)&=-U^\dagger U\int dx' V_2(x,x') \big(\bm \phi'(x'),\bm \phi'(x) \big) \bm\phi'(x')\\ \hat V_\mathrm{ex}\bm \phi'(x)&=-\int dx' V_2(x,x') \big(\bm \phi'(x'),\bm \phi'(x) \big) \bm\phi'(x')\\

の関係を使った。

すなわち始めから対角成分のみ残した式を解くことにすれば、一般の \{\phi_i\} ではなく、 \{\varepsilon_{ij}\} を対角化するような特別な \{\phi_i'\} が求まることになる。

フォック方程式

上式は i によらないため、 \phi'_i \phi と書きなおし、 \varepsilon_{ii} \varepsilon としたのがフォック方程式である。

  \underbrace{\bigg[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 +V_1(x)+\sum_j \int\! dx'\,V_2(x,x')\,|\phi_j(x')|^2+\hat V_\mathrm{ex}\bigg]}_{\hat H_\mathrm{HF}}\phi(x)=\hat H_\mathrm{HF}\phi(x)=\sum_j\varepsilon_{ij}\phi(x)&

第1項は1粒子運動エネルギーで、ハートレー法でも同じものが出てきた
第2項は1粒子の1体ポテンシャルで、ハートレー法でも同じものが出てきた
第3項は1粒子の平均場ポテンシャルで、ハートレー法でも「ほぼ」同じものが出てきた
   j についての和にすべての粒子が含まれているところが異なる

として理解できるが、

第4項はややこしい。

  \hat V_\mathrm{ex}: \phi(x)\mapsto -\int dx'\,V_2(x,x')\Big\{\sum_j\phi_j^*(x') \phi_j(x)\Big\}\phi(x')

この物理的な解釈については後ほど検討しよう。

フォック方程式は、

  \hat H_\mathrm{HF}\phi(x)=\varepsilon\phi(x)

の形をしており、一見、線形演算子 \hat H_\mathrm{HF} の固有値問題に見えるが、 実際には \hat H_\mathrm{hf} 自体に \phi_j が含まれるため、単純な固有値問題にはなっていない。

仮に \phi_j を決めてやれば、方程式から固有値 \varepsilon に対応する固有関数 \phi が無数に見つかる。新たに見つかったそれらの関数は元の \phi_j より良い近似を与えることが多く、このような演算を繰り返すことでハートリーフォック近似の下での最良解へ近づいていく。

1粒子固有値と多粒子エネルギーとの関係

エネルギー期待値の表式を見直すと、

  E=&\sum_i \langle H_\mathrm{hf}\rangle_{\phi_i}

の形となっているから、各 \phi_i が固有値 \varepsilon_i に属する固有関数であれば、

  E=&\sum_i \varepsilon_{i}

となり、系全体のエネルギーがフォック方程式の固有値の合計で与えられる事が分かる。

2体ポテンシャルがスピンに依らない場合

  V_2(x,x')=V_2(\bm r,\bm r')

のように空間座標のみで書ける場合、 \hat V_2,\hat X に含まれる \int dx' のスピン座標部分が V_2(\bm r,\bm r') の具体的な形に依らず積分できて、

\hat V_2 &=\frac{1}{2}\sum_j\int dx'\ V_2(x,x')|\phi_j(x')|^2\\ &=\frac{1}{2}\sum_j\int d\bm r'\ V_2(\bm r,\bm r')|\phi_j^r(\bm r')|^2\underbrace{\sum_{s'}|\phi_j^s(\bm s')|^2}_{=\,1}\\ &=\frac{1}{2}\sum_j\int d\bm r'\ V_2(\bm r,\bm r')|\phi_j^r(\bm r')|^2\\

は、やはり古典的に期待される平均場ポテンシャルである。

一方、

\hat X: f(x)\mapsto &-\frac{1}{2}\sum_j\int dx'\ V_2(x,x')\phi_j^*(x') f(x') \phi_j(x)\\

=&-\frac{1}{2}\sum_j\Big[\int d\bm r'\ V_2(\bm r,\bm r') {\phi_j^r}^*(\bm r') f^r(\bm r') \Big]\Big[\sum_{s'} {\phi_j^s}^*(s')f^s(s')\Big]\phi_j^r(\bm r)\phi_j^s(s)

=&\begin{cases} \displaystyle-\frac{1}{2}\sum_j\Big[\int d\bm r'\ V_2(\bm r,\bm r') {\phi_j^r}^*(\bm r') f^r(\bm r') \Big]\phi_j^r(\bm r)\phi_j^s(s)&\hspace{10mm}\phi_j^s=f^s\\0&\hspace{10mm}\phi_j^s\ne f^s\\\end{cases}

であるから、交換項はスピン成分が同じ軌道同士の間にしか働かない。

物理的には、スピン軌道が重なるものの間だけに交換相互作用が働くため、 その分だけ2粒子相互作用に補正がかかることになる。

この補正が数式として現れたのが交換項と考えられる。

コメント・質問





*1 \nabla_i が作用するのは x_i のみなので、 j\ne i では \textstyle \int dx_j\ \phi_{p_i}(x_j)\phi_{q_j}(x_j)=\delta_{p_j,q_j} が現れる
*2 j\ne i に対して p_j=q_j である項以外は消える。このとき p_i=q_i も成り立つので、ゼロにならずに残った項では置換 q p に等しい。定積分に使う変数を x に書き直した。
*3 置換 p の取り方は n! 通りあるが、そのうち p_i=j となる (n-1)! 通りのものごとにまとめた。
*4 今度は k\ne i,j が条件になる
*5 q p と等しいか、 p p_i p_j を交換したものかのどちらかである。後者に対しては (-1)^q=-(-1)^p が成り立つ
*6 p_i=k,p_j=l となる (n-2)! 個の置換ごとにまとめた。
*7 k=l の項は \big\{\ \dots\ \big\} の部分がゼロになるので、式の上では入れる形に書いておいて構わない
*8 汎関数微分については例えば http://eman-physics.net/analytic/functional.html などを参考にすると良い

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