量子力学Ⅰ/平均場近似

(90d) 更新

量子力学Ⅰ

目次

平均場近似による1体問題化

前述のように、「粒子間の相互作用がないこと」を仮定すれば、 1粒子波動関数を複数掛け合わせて、多粒子シュレーディンガー方程式を解ける。

しかし、「粒子間の相互作用がないこと」を要件とする限り、 興味のある問題にはまったく適当できない。

そこで、「擬似的に相互作用をなくすために」粒子・粒子間の相互作用を平均化して、 ポテンシャル V に含めてしまう平均場近似が行われる。

ハートレーの方法

上で見た水素様「分子」のポテンシャル

  V(\bm r_1,\bm r_2)&=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\Biggl[ \underbrace{ \frac{-1}{|\bm r_1-\bm R_1|}+ \frac{-1}{|\bm r_1-\bm R_2|}}_{電子1と原子核}+ \underbrace{ \frac{-1}{|\bm r_2-\bm R_1|}+ \frac{-1}{|\bm r_2-\bm R_2|}}_{電子2と原子核}+ \underbrace{\frac{+1}{|\bm r_1-\bm r_2|}}_{電子間相互作用} \Biggr]\\ &=V_{1体}(\bm r_1)+V_{1体}(\bm r_2)+V_{2体}(\bm r_1,\bm r_2)

でもそうだったように、 粒子間の相互作用が「2体相互作用の重ね合わせ」で書けるとすれば、 多体問題のポテンシャルを一般に次のように表せる。

  V(\bm r_1,\bm r_2,\dots,\bm r_n)= \underbrace{\sum_{j=1}^n V_j(\bm r_j)}_{1粒子ポテンシャル}+ \underbrace{\sum_{j=1}^n\sum_{k=j+1}^n V_{j,k}(\bm r_j,\bm r_k)}_{2粒子ポテンシャル}

(相互作用ポテンシャルを2重にカウントしないため、 2つ目の \sum k j+1 から始まっている)

このようなポテンシャルを仮定した場合、 例えば粒子 j の感じるポテンシャルは他の粒子の位置により変化するのであるが、

  v_j(\bm r_j)&=V_j(\bm r_j)+\sum_{k\ne j} V_{j,k}(\bm r_j,\bm r_k)\\

これを "平均場" で置き換えよう。

  \overline{v_j}(\bm r_j)&= V_j(\bm r_j)+\sum_{k\ne j} \overline{ V_{j,k}}(\bm r_j)\\

ただし、

  \overline{ V_{j,k}}(\bm r_j)=\int V_{j,k}(\bm r_j,\bm r_k)\,|\varphi_k(\bm r_k)|^2\,d\bm r_k

であり、これはポテンシャル V_{j,k} を粒子 k \bm r_k に見いだされる確率 |\varphi_k(\bm r_k)|^2 で重み付けして平均したものである。 k 番目の粒子は様々に動き回るが、その際 \bm r_k に存在する確率が |\varphi_k(\bm r_k)|^2 であることから、粒子 j の感じるであろう「平均的なポテンシャル」を上記のように求めたわけである。

この \overline{v_j}(\bm r_j) に対する「1体のシュレーディンガー方程式」 を解いて、粒子 j に対する一体の波動関数 \varphi_j(\bm r_j) を得る。

  \left[-\frac{\hbar^2}{2m_j}\nabla_{r_j}^2+\overline{v_j}(\bm r_j)\right]\varphi_j(\bm r_j)=\varepsilon_j\varphi_j(\bm r_j)

このようにして、平均場近似により多体問題が1体問題に変換されたことになる。

ただし、 \overline{v_j}(\bm r_j) を求めるのに \set{\varphi_j(\bm r_j)} が必要で、 個々の \varphi_j(\bm r_j) を求めるのに \overline{v_j}(\bm r_j) が必要なので、 この方程式はそのままでは解けない。

始めに適当な \overline{v_j}(\bm r_j) を仮定して \varphi_j(\bm r_j) を求め、 そこから新しい \overline{v_j}(\bm r_j) を求め、、、、などと繰り返して、 「全体としてつじつまの合う(セルフコンシステントな=自己無頓着な)」解 \varphi_j(\bm r_j) を得るような手順(= 自己無頓着場の方法 あるいは セルフコンシステント法)が必要となる。

そのようにして求めた \varphi_j(\bm r_j) から

  \Phi(\bm r_1,\bm r_2,\dots,\bm r_n)=\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)

を作れば、1体のハミルトニアン

  &\hat h_j=-\frac{\hbar^2}{2m_j}\nabla_{r_j}+V_j(\bm r_j)+\sum_{k\ne j}\overline{V_{jk}}(\bm r_j)\\

をにらみつつ、

  &\hat H\Phi(\bm r_1,\bm r_2,\dots,\bm r_n)\\ &=\left[-\sum_j\frac{\hbar^2}{2m_j}\nabla_{r_j}+\sum_jV_j(\bm r_j)+\sum_j\sum_{k>j}V_{jk}(\bm r_j,\bm r_k)\right]\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\ &\sim\sum_j\left[-\frac{\hbar^2}{2m_j}\nabla_{r_j}+V_j(\bm r_j)+\sum_{k>j}\overline{V_{jk}}(\bm r_j)\right]\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\ &=\sum_j\left[\hat h_j-\sum_{k<j}\overline{V_{jk}}(\bm r_j)\right]\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\ &\sim\underbrace{\left[\sum_j\varepsilon_j-\sum_j\sum_{k<j}\overline{V_{jk}}\right]}_{E}\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\ &=E\Psi(\bm r_1,\bm r_2,\dots,\bm r_n)

のように、多粒子ハミルトニアンの(近似的な)固有関数になっていることが分かる。

ここで、

  \overline{V_{jk}}=\iint V_{jk}(\bm r_j,\bm r_k)\,|\varphi_j(\bm r_j)|^2\,|\varphi_k(\bm r_k)|^2\,d\bm r_j\,d\bm r_k

とした。

このときのエネルギー固有は、

  E=\sum_j\varepsilon_j-\sum_j\sum_{k<j}\overline{V_{jk}}

であるから、1体問題のエネルギー固有値の単純な足し算にはなっていない。 これは、2粒子ポテンシャルのエネルギーを j k とで2回取り込んでしまっているためであり、上式の2つ目のシグマはこの分を差し引いているものである。

上記のようにして求まる解が「多体波動関数を1つのハートレー積で表示する場合」の最適解となることを「変分法」(量子力学II で学ぶ)を用いて確かめることができる。

問題点

ハートレー法にはいくつかの問題点があり、実用性には乏しい。

  • 波動関数が対称化・反対称化されていない(実在粒子の波動関数として正しくない)
  • 粒子毎にハミルトニアンが異なり、1体波動関数間の直交性が保証されない

そこで、ハートレー・フォック法を始めとした、 さらに実用的な1粒子問題化の方法が開発されている。

ハートレー・フォックの方法

多体波動関数を「1つのハートレー積で表示する場合」の最適解を求める方法がハートレー法だったのに対して、多体波動関数を「1つのスレイター行列で表示する場合」の最適解を求める方法がハートレー・フォック法である。*1「最適解」の意味は変分法を学ぶところで理解せよ

ハートレー・フォック法ではハートレー法とは異なり、1粒子方程式(「フォック方程式」と呼ばれる)はすべての粒子に対して共通となる。

フォック方程式には、ハートレー法でも現れた

  • 1粒子ポテンシャル
  • 平均化された2粒子ポテンシャル

の他に、

  • 波動関数が反対称化されたことを反映した「交換ポテンシャル」

と呼ばれる項が現れる。

この項は、波動関数の反対称性から生まれるパウリの排他律により、 同じスピンを持つ電子が互いに避け合う効果のために、 反対称化しない場合に比べて電子・電子間の斥力エネルギーが低下する影響(交換相互作用)を表している。

パウリの排他律により複数の粒子が同じ固有関数状態を取ることはできないため、 フォック方程式の固有関数をエネルギーの低い方から n 個集めて作ったスレイター行列が、求める最適解となる。

この1粒子波動関数は正規直交系に選べるため、理論的にはハートレー法よりも見通しが良くなる。 (実際に数値計算等で求めるのはより難しくなっている)

また、この形では(仮想的な)励起状態やイオン化状態を容易に表せることもメリットとなる。

固有関数をエネルギーの低い方から順に n 個集める代りに、 いくつか飛ばしながら n 個集めれば、 それは低エネルギー状態の電子を高エネルギー状態へ励起した、 (仮想的な)「励起状態」を表す。

当然、固有関数の取り方を変えればフォック方程式に現れるポテンシャル形状も変化するため、 取り方を変えるたびに自己無撞着計算をやり直さなければならず、 それにともなって固有関数の具体的な形も変化するが、 それでも最終的に「励起状態」に対応する解が求まる。

電子数を増やしたり減らしたりする場合も、対応するポテンシャル項を付けたり、 減らしたりすれば任意の n に対して電子 n 個の解を得られる。

平均場ポテンシャルフォック方程式正規直交固有関数系任意のn個を対称化収束まだ?

ハートレー・フォック法での解法をまとめると上記のようになる。

適当なポテンシャルから始めて、

  1. 1体方程式の解として、フォック方程式の正規直交固有関数系を得る
  2. 任意の数の1体波動方程式を選び、それらを対称化して多体波動関数を作る
    • ここでの選び方により、任意の数の粒子の任意の基底/励起状態を作れる
  3. 多体波動関数から平均場ポテンシャルを求めて、
    • 1. で仮定したものと等しければ終了
    • 等しくなければポテンシャルを適当に更新して 1. から再スタート

全体としてセルフコンシステントな解が得られるまで繰り返す

2. において、任意の数の粒子を含む任意の基底/励起状態を作れることが、 さらに進んだ議論において重要となってくる。

精度の限界

多体波動関数が「1つのスレイター行列式で表示できる」というのはあくまで近似であるため、 この近似の範囲を超えた精度を必要とする計算には、ハートレー・フォック法を越えた議論が必要となる。

「1つのスレイター行列式で表示できる」というのは、 個々の粒子があくまで平均場ポテンシャル(と交換相互作用)のみを感じて運動しており、 ポテンシャルが他の粒子の位置に依存しない(相関関係を持たない)ことと同義である。

そのような複雑な相互作用(「相関相互作用」と呼ばれる)を取り込むために、 ハートレー・フォック法を越えた理論が必要となる。

  • ハートレー法:フェルミ粒子の反対称性を反映しない
  • ハートレー・フォック法:フェルミ粒子の反対称性に起因する粒子間の反発 (同じ座標に2つの粒子が入れない)= 交換相互作用(粒子の交換に対する反対称性に起因) を正しく取り込む
  • それ以上の近似:ハートレー・フォック法で取り入れられていない粒子感の相関 (クーロン斥力を及ぼし合う電子同士は互いに避け合いながら運動する)= 相関相互作用 を程度取り込もうとする

波動関数を複数のスレイター行列式の線形結合で表すことにより、 「相関」を取り入れることができる。

上で述べた「最安定状態」のスレーター行列と、 複数の「励起状態」のスレーター行列との線形結合を取ることで、 より正確な「最安定状態」が得られる事が知られている。

当然、多くの項数を含めた高精度な計算には多大な計算資源が必要となる。

複数種類の粒子

全体の波動関数は、 それぞれの粒子に対応するスレーター行列式の掛け合わせで表される。

質問・コメント





*1 「最適解」の意味は変分法を学ぶところで理解せよ

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