球座標を用いた変数分離/MathJax

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目次

量子力学Ⅰ

中心力場の中での運動

球対称なポテンシャル $V(\bm r)=V(r)$ の中での運動を考える。

このとき、$x,y,z$ の直交座標ではなく、 $r,\theta,\phi$ を用いた球座標を用いると都合がよい。

球座標における微分演算子(まとめ)

spherical-coordinate2.svg

導出方法はこちら

球座標:

$$ \begin{cases} x=r\sin\theta\cos\phi\\ y=r\sin\theta\sin\phi\\ z=r\cos\theta \end{cases} $$

ラプラシアン:

$$ \begin{aligned} \nabla^2=\Delta=&\frac{\PD^2}{\PD x^2}+\frac{\PD^2}{\PD y^2}+\frac{\PD^2}{\PD z^2}\\ =&\frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda \end{aligned} $$

$$ \hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2} $$

角運動量の大きさの2乗:

$$ \hat{\bm l}^2=|\bm r\times\hat{\bm p}|^2=-\hbar^2\hat\Lambda $$

ラプラシアンの $1/r^2$ の項の係数は、 角運動量の大きさの2乗の演算子 $\hat l^2$ と $-\hbar^2$ の係数を除いて等しい。

$z$ 軸まわりの運動量:

$$ \hat l_z=(\bm r\times\hat{\bm p})_z=-i\hbar\frac{\PD}{\PD\phi} $$

残りの角運動量:

$$ \begin{aligned} \hat l_x^2+\hat l_y^2=&\,\hat{\bm l}^2-\hat l_z^2\\ =&-\hbar^2\left[\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\right]+\hbar^2\frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\\ =&-\hbar^2\left[\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\tan^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\right]\\ \end{aligned} $$

角運動量の上昇・下降演算子(意味は後ほど):

$$ \hat l_\pm=\hat l_x\pm i\hat l_y=\hbar e^{\pm i\phi}\Big(\pm\frac{\PD}{\PD\theta}+\frac{i}{\tan\theta}\frac{\PD}{\PD\phi}\Big) $$

演習:シュレーディンガー方程式の変数分離

球座標表示におけるラプラシアンは以下のように表される。

$$ \nabla^2=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r}\frac{\PD}{\PD r}+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda $$

$$ \hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2} $$

以下の問いに従って、中心力場 $V(\bm r)=V(r)$ の中での粒子の運動について考えよ。

(1) $\displaystyle\frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r}\frac{\PD}{\PD r}$ を示せ。

(2) 与えられたラプラシアンの表式と (1) の結果を用いて、 球座標表示における時間を含まないシュレーディンガー方程式を書き下せ。 解答には $\hat\Lambda$ を用いて良い。

(3) 波動関数を $\varphi(r,\theta,\phi)=R(r)Y(\theta,\phi)$ と置き、 (2) の方程式を変数分離することにより、以下の方程式を導け。 ただし共通の定数を $l(l+1)$ と置いた。

$$ {}-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\PD^2}{\PD r^2}rR(r)+\left\{V(r)+\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}\right\}rR(r)=\varepsilon\,rR(r) $$

$$ \hat\Lambda Y(\theta,\phi)=-l(l+1)Y(\theta,\phi) $$

(4) (3) の方程式を解いて得られる $Y(\theta,\phi)$ および $\varphi$ が角運動量の大きさの2乗 $\hat l^2$ の固有関数であり、その固有値が $\hbar^2l(l+1)$ となることを確かめよ。

(5) 古典論において、質量 $m$ の粒子が原点から $r$ の距離を角速度 $\omega$ で回転するときの角運動量は $L=mr^2\omega$ であり、遠心力は $f_c=mr\omega^2$ で与えられる。
ここから遠心力に対するポテンシャルエネルギーが $V_c(r)=\frac{L^2}{2mr^2}$ と書けることを示し、(3) で得た $R(r)$ の方程式に現れる $\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}$ の項が遠心力の寄与を表わすことを理解せよ。中心力場内では角運動量が保存量となるため、 遠心力とポテンシャルエネルギーとの関係は $L$ 一定の元で $\frac{\PD V_c}{\PD r}=-f_c$ であることに注意せよ。

(6) $Y(\theta,\phi)=\Theta(\theta)\Phi(\phi)$ と置いて (3) の第2式を変数分離すると以下の式が得られることを確かめよ。

$$ \left\{\sin\theta \frac{\PD}{\PD \theta}\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+ l(l+1)\sin^2\theta-m^2\right\}\Theta(\theta)=0 $$

$$ \frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\Phi(\phi)=-m^2\Phi(\phi) $$

ただし、共通の定数を $-m^2$ と置いた(質量 $m$ と紛らわしいが慣例に従った)。

(7) $\Phi$ に対する方程式は、$\Phi$ が $\frac{\PD}{\PD \phi}\Phi(\phi)=im\Phi(\phi)$ を満たせば自動的に満たされる。この方程式を解き、連続の条件 $\Phi(2\pi)=\Phi(0)$ を満たすためには $m$ が整数値を取らなければならないことを確かめよ。

(8) (7), (3) を解いて得られた $\Phi(\phi)$ および $\varphi(r,\theta,\phi)$ は $\hat l_z$ の固有関数であり、その固有値が $\hbar m$ であることを確かめよ。

●解答はこちら

解説

球対称ポテンシャル $V(\bm r)=V(r)$ に対する時間を含まないシュレーディンガー方程式:

$$ \hat H\varphi(\bm r)=\left[-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}+V(r)\right]\varphi(\bm r)=\varepsilon \varphi(\bm r) $$

は球座標

$$ \begin{cases} x=r\sin\theta\cos\phi\\ y=r\sin\theta\sin\phi\\ z=r\cos\theta \end{cases} $$

を用いて $\varphi=R(r)Y(\theta,\phi)$ のように変数分離できることを仮定すると、

$$ \hat {\bm l}^2 \,Y_l(\theta,\phi)=\hbar^2l(l+1)\,Y_l(\theta,\phi) $$

$$ \displaystyle\underbrace{\bigg[-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dr^2}+\bigg\{V(r)+\overbrace{\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}}^{遠心力ポテンシャル}\bigg\}\bigg]}_{\textstyle \hat H^l}\Big\{rR_n{}^l(r)\Big\}=\varepsilon_n{}^l\Big\{rR_n{}^l(r)\Big\} $$

を得る。

第2式は $Y(\theta,\phi)$ が全角運動量の二乗 $\hat{\bm l}^2$ の固有関数であることを示しているが、これは波動関数 $\varphi$ 自体が $\hat{\bm l}^2$ の固有関数ということと同義である。 ($\hat{\bm l}^2$ は $R(r)$ に作用しないことに注意せよ)

そこで上式は、全角運動量の二乗が $\hbar^2l(l+1)$ と確定した波動関数に対しては、 $rR(r)$ が遠心力に対するポテンシャル $\hbar^2l(l+1)/2mr^2$ を含めた1次元ハミルトニアン $\hat H^l$ に対するシュレーディンガー方程式の解となる ことを示している。(遠心力が外向きに働くことに対応して、原点から遠ざかる向きにポテンシャルが減少することを確認せよ)

なぜ $R(r)$ でなく $rR(r)$ に対する方程式となるかについては後に見る

全角運動量を決める量子数 $l$ (後にこれがゼロ以上の整数となることを見る) が変わると $rR(r)$ に対する方程式も変化する。 各 $l$ に対して複数の固有値 $\varepsilon_n^l$ と固有関数 $R_n^l(r)$ が見つかるため、エネルギーは2つの量子数 $n, l$ で指定される。

$Y$ に対する方程式は $V(r)$ を含まない。 すなわち中心力でさえあれば、具体的なポテンシャル形状を与えずに解ける。

$Y=\Theta(\theta)\Phi(\phi)$ のように変数分離できることを仮定すると、

$$ \hat l_z^2\Phi(\phi)=-\hbar^2\frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\Phi(\phi)=\hbar^2m^2\Phi(\phi) $$

$$ \begin{align} &\bigg\{\frac{\hbar^2}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta}\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big) {}+\frac{\hbar^2 m^2}{\sin^2\theta}\bigg\}\Theta(\theta)=\\ &\bigg\{\underbrace{\frac{\hbar^2}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta}\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{\hbar^2m^2}{\tan^2\theta}\rule[-11pt]{0pt}{0pt}}_{\displaystyle l_x^2+l_y^2}+ \underbrace{\hbar^2 m^2\rule[-11pt]{0pt}{0pt}}_{\displaystyle l_z^2}\bigg\}\Theta(\theta)=\underbrace{\hbar^2l(l+1)\rule[-11pt]{0pt}{0pt}}_{\displaystyle l^2}\,\Theta(\theta) \end{align} $$

を得る。

$\phi$ は $z$ 軸周りの回転を表すから、 $\Phi$ には $\Phi(\phi+2\pi)=\Phi(\phi)$ の周期性が要求される。 ここから、$m$ が整数であることが必要となる($m=\dots,-2,-1,0,1,2,\dots$)。 このとき、$\Phi(\phi)$ は $\hat l_z$ の固有値 $\hbar m$ の固有関数となる。

$\hbar m$ が $z$ 軸周りの角運動量を表し、 $\hbar^2l(l+1)$ が全角運動量の2乗を表すことを考えれば、 第2式の左辺で $\hbar^2 m^2$ を除いた部分が $\hat l_x^2+\hat l_y^2$ を表すことが分かる。

第2式は $l_z$ が決定している状況で $l^2$ の固有値を求める問題になっており、

$$ l\ge |m| $$

を満たす整数値 $l$ に対してのみ解を持つことが知られている。

逆に、ある $l$ に対しては $-l\le m \le l$ となるため、

全角運動量 $l\sim\hbar l$$z$ 軸周り角運動量 $l_z=\hbar m$状態
$l=0$$m=0$$s$ 状態
$l=1$$m=-1,0,1$$p$ 状態
$l=2$$m=-2,-1,0,1,2$$d$ 状態
$l=3$$m=-3,-2,-1,0,1,2,3$$f$ 状態
$\vdots$$\vdots$$\vdots$

原子の軌道を表す場合には、量子数 $l$ をそのまま用いる代わりに $s,p,d,f,g,\dots$ のアルファベットを用いる方が一般的である。$l$ とアルファベットの対応は以下の通り。原子の軌道を考える際には多くの場合 f 軌道までで十分である。現在知られている最も重い原子でも、基底状態では g, h などの電子軌道に電子が入ることはない。

 $l$ 0 1  2  3  4  5  … 
文字 s  p  d  f  g  h  … 

上記を線形代数的な言葉でまとめるならば、

$$ \hat{\bm l}^2Y_l{}^m(\theta, \phi)=\hbar^2l(l+1) Y_l{}^m(\theta, \phi) $$

なる固有値問題において、固有値 $\hbar^2l(l+1)$ に対する $Y$ の固有空間は $2l+1$ 次元になる。 そして、この固有空間に角運動量の $z$ 成分を表す演算子 $\hat l_z$ に対する $2l+1$ 個の独立な固有関数を取ったのが $Y_l{}^m(\theta, \phi)=\Theta_l{}^m(\theta)\Phi_m(\phi)$ である。

$$ l_zY_l{}^m(\theta, \phi)=\hbar m Y_l{}^m(\theta, \phi) $$

ただし、

$$ l=0,1,2,\dots $$

$$ m=-l,-l+1,\dots,-1,0,1,\dots,l-1,l $$

この関数は 球面調和関数 と呼ばれ、具体的には次の形を取る。

$$ Y_l^m(\theta,\phi)= \underbrace{(-1)^{(m+|m|)/2}\sqrt{\frac{2l+1}{2}\frac{(l-|m|)!}{(l+|m|)!}}P_l^{|m|}(\cos\theta)}_{\Theta(\theta)} \underbrace{\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{im\phi}}_{\Phi(\phi)} $$

結果的に3次元の固有関数は3つの量子数 $l,m,n$ でラベル付けされ、

$$ \varphi_{lmn}(r,\theta,\phi)=R_n^l(r)Y_l^m(\theta,\phi)=R_n^l(r)\Theta_l^m(\theta)\Phi_m(\phi) $$

$$ \hat H\varphi_{lmn}(r,\theta,\phi)=\varepsilon_n{}^l\varphi_{lmn}(r,\theta,\phi) $$

すなわち、この系のエネルギー固有値は2つの量子数 $l,n$ により指定される。

$n$ を主量子数、$l$ を方位量子数、$m$ を磁気量子数、と呼ぶ。

$\varphi_{lmn}$ に対して $\hat l^2 \varphi_{lmn}= \hbar^2l(l+1)\varphi_{lmn}$ であるから、この関数の角運動量の大きさ $|\bm l|$ は $\hbar\sqrt{l(l+1)}$ であるが、 慣例として「角運動量の大きさが $\hbar l$ のとき」などという。

角運動量の大きさが $\hbar l$ であるとき、その $z$ 成分 $l_z$ が $-\hbar l\le \hbar m\le \hbar l$ を満たすのは当然と思えるはずである。 $m=\pm l$ のときも、不確定性により $l_x,l_y$ は完全にはゼロとならず、 $l_x^2+l_y^2=\hbar^2 l$ となる。これが $|\bm l|^2=\hbar^2l^2$ とはならず、 $|\bm l|^2=\hbar^2l(l+1)$ となる理由である。

波動関数 $\varphi_{nml}(\bm r)=R_n{}^l(r)Y_l{}^m(\theta,\phi)$ を全空間で積分した際に1となるよう規格化するためには、$R(r),\Theta(\theta),\Phi(\phi)$ をそれぞれ、

$$ \begin{align} &\iiint|\varphi(\bm r)|^2d^3r=\\ &\int_0^\infty dr\int_0^\pi r\sin\theta\,d\theta\int_0^{2\pi}r\,d\phi\ |\varphi(\bm r)|^2=\\ &\underbrace{\int_0^\infty r^2|R(r)|^2dr}_{\displaystyle=1}\ \underbrace{\int_0^\pi \sin\theta|\Theta(\theta)|^2 d\theta}_{\displaystyle=1}\ \underbrace{\int_0^{2\pi}|\Phi(\phi)|^2 d\phi}_{\displaystyle=1}=1 \end{align} $$

となるように規格化すればよい。*1これを $1\times 1\times 1$ ではなく $1/4\pi\times 2\times 2\pi$ となるよう規格化しても構わないのだが、球面調和関数の定義が上記の規格化を採用しているため、ここでもこれに従う

$R(r)$ に対する積分に $r^2$、 $\Theta(\theta)$ に対する積分に $\sin\theta$ の重みが それぞれかかることに注意せよ。

それぞれの正規直交性は、

$$ \int_0^\infty \big\{rR_n{}^l(r)\big\}^*\big\{rR_{n'}{}^l(r)\big\}\,dr=\delta_{nn'} $$

$$ \int_0^\pi \sin\theta\ \Theta_l^m(\theta)^*\Theta_{l'}^m(\theta) d\theta=\delta_{ll'} $$

$$ \int_0^{2\pi}\Phi_m(\phi)^*\Phi_{m'}(\phi) d\phi=\delta_{mm'} $$

であり、このとき

$$ \begin{align} \iiint\varphi_{lmn}^*(\bm r)\varphi_{l'm'n'}(\bm r)d^3r &=\delta_{ll'}\delta_{mm'}\delta_{nn'}\\ &=\begin{cases} \ 1&(l=l',\, m=m',\, n=n')\\ \ 0&(それ以外)\\ \end{cases} \end{align} $$

が成り立つ。


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質問・コメント





*1 これを $1\times 1\times 1$ ではなく $1/4\pi\times 2\times 2\pi$ となるよう規格化しても構わないのだが、球面調和関数の定義が上記の規格化を採用しているため、ここでもこれに従う

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