量子力学Ⅰ/群速度と波束の崩壊

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目次

位置と運動量の確定した古典粒子に対応する波動関数

ある位置に局在する、特定の運動量を持つ「波」を作りたい。

  • x=x_0 に存在する運動量 p=p_0 の古典粒子

に対応するのは、

  • x=x_0 付近に局在する波数 k=k_0=p_0/\hbar の波動関数

である(波動関数が幅を持たなければ波数を定義できないことに注意せよ)。

このような局在した波動関数を「波束」と呼ぶ。

以下、 x_0=0 として波束を作り、その運動を考えよう。

波数 k=k_0 の波動関数は全空間に広がってしまうので(下のグラフ黄土色)、

  \varphi_{k_0}(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{ik_0x}

ガウス関数 e^{-x^2/4\sigma_{x0}^2} (下のグラフ紫色)を掛けて「波束」(下のグラフ青色)にする。

  \varphi(x) &=\frac{1}{\sqrt{\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}}}e^{-x^2/4\sigma_{x0}^2}\,e^{ik_0x}\\

ここでは確率密度分布が標準偏差 \sigma_{x0} 正規化されたガウス関数になるよう係数を設定した。

  |\varphi(x)|^2=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}}e^{-x^2/2\sigma_{x0}^2}

wave-packet-shape.png wave-packet.png

左のグラフでは複素関数 e^{ik_0x} および \varphi(x) については「実部」をプロットした。 右のグラフは位相まで含めた \varphi(x) x 軸に対してプロットしたもの。 奥行きが実軸、上下が虚軸になっている。原点に近づくに従って中心軸(ゼロ)からの距離 |\varphi(x)| が大きくなり、また遠ざかると小さくなる。その間、位相は一定速度で回転するためこのような渦を巻くようなグラフになる。

上記の波束は波数 k_0 の正弦波の一部を切り取ったものと見なせるが、 この関数の波数は k_0 であると言って良いだろうか?

\varphi(x) をフーリエ変換すれば、

  \varphi(k)&=\int_{-\infty}^\infty \frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-ikx}\varphi(x)dx\\ &=\frac{1}{\sqrt{2\pi\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}}}\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2/4\sigma_{x0}^2}e^{-i(k-k_0)x}dx\\

  \phantom{\varphi(k)} &=\sqrt{\frac{2\sigma_{x0}}{\pi\sqrt{2\pi}}}\underbrace{\int_{-\infty}^\infty e^{-\{x/2\sigma_{x0}+i\sigma_{x0}(k-k_0)\}^2}\frac{dx}{2\sigma_{x0}}}_{\sqrt \pi}e^{-\sigma_{x0}^2(k-k_0)^2}\\ &=\sqrt{\frac{2\sigma_{x0}}{\sqrt{2\pi}}}e^{-4\sigma_{x0}^2(k-k_0)^2/4}

となり、この \varphi(k) を用いれば \varphi(x) を様々な波数を持つ平面波の重ね合わせとして表せる。(逆フーリエ変換そのもの)

  \varphi(x)=\int_{-\infty}^\infty \underbrace{\varphi(k)}_{係数}\, \underbrace{\left(\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{ikx}\right)}_{波数kの成分}dk

上記波動関数の運動量を計測した際に p=\hbar k となる確率は、

  |\varphi(k)|^2&=\frac{2\sigma_{x0}}{\sqrt{2\pi}}e^{-4\sigma_{x0}^2(k-k_0)^2/2}

p の確率分布は \hbar k_0 を中心に、 \hbar \sigma_{k0}=\hbar/2\sigma_{x0} のガウシアンとなる。

「波束」にしたことにより、 k=k_0 の成分だけでなく、 おおよそ k=k_0\pm\sigma_{k0} の成分を含んでしまったことになる。

この関数に対して、

  \sigma_{x}\cdot\sigma_{p}=\sigma_{x}\cdot\hbar\sigma_{k}=\hbar/2

が成立し、この波束が不確定性原理で与えられる最小値を与えることが分かる。 このような波束は「最小波束」と呼ばれる。

ここでは波束 \varphi(x) の空間分布をガウス関数としたために最小波束が得られたが、 一般の波束に対しては、 \sigma_{x}\cdot\sigma_{p} は必ず \hbar/2 より大きくなる。

不確定性原理の意味するところは、 k 空間のピーク幅と x 軸上でのピーク幅が反比例の関係を持つという意味である。 空間的に狭い範囲に局在した波束ほど、幅広い範囲の波数の重ね合わせになる。

異なる波数の重ね合わせて波束が生じる理由

k_0=20 として、 k を 1 ずつ変えながら平面波を加えていくことで、 異なる波数を持つ平面波の重ね合わせで波束が作れることを理解しよう。

wavepacket.gif 

k_0=20 の成分のみでは単なる正弦波であるが、 k=19, k=21 の成分が加わると、 3つの異なる波長を持つ正弦波のうなり(・・・)により波にくびれが生じる。 k=18, k=22 などの成分を徐々に加えていくと、 x=2n\pi の付近を除いて振幅が小さくなる様子が分かる。これは、異なる波長を持つ波は原点及び 2\pi の整数倍の点ではそのすべてが強め合うが、そこから離れるに従って互いに打消し合うためである。ここでは k を1ずつ変えながら加えたために 2\pi の整数倍すべてにピークを生じたが、 k を連続的に変えながら加えればピークは原点以外に現れなくなる。こうしてできたのが上記の波束である。

自由な波束の運動

自由な粒子では、

  \varepsilon=\frac{p^2}{2m}  に対応して  \hbar\omega_k=\frac{\hbar^2 k^2}{2m}

がその分散関係*1 \omega k の関係を与えるのであった。

したがって、波数 k の成分 \varphi_k(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{ikx} の位相は e^{-i\omega_kt}=e^{-i\hbar^2 k^2t/2m} で回転する。

すなわち、上記最小波束の時間発展は、

  \psi(x,t)&=\int_{-\infty}^{\infty}\varphi(k)\underbrace{\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{ikx}e^{-i\omega_kt}}_{\psi_k(x,t)\,=\,\varphi_k(x)e^{-i\omega_kt}}dk\\ &=\dots\\ &=\sqrt{\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}(1+i\xi t)}}\exp\left[\frac{-x^2/4\sigma_{x0}^2+i(k_0x-\omega_{k0} t)}{1+i\xi t}\right]\\

となる(→ 計算の詳細)。 ただし、 \xi=\frac{\hbar}{2m\sigma_{x0}^2} \omega_0=\frac{\hbar k_0^2}{2m}

このとき、

  |\psi(x,t)|^2 &=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}\sqrt{1+\xi^2 t^2}} \exp\left[\frac{-\{x-(\hbar k_0/m) t\}^2}{2\sigma_{x0}^2(1+\xi^2t^2)}\right]\\

であり、これは

  x=x_0-(\hbar k_0/m) t

を中心とする、標準偏差

  \sigma_x=\sigma_{x0}\sqrt{1+\xi^2 t^2}=\sigma_{x0}\sqrt{1+\left(\frac{\hbar}{2m\sigma_{x0}^2}\right)^2t^2}

のガウス関数になっている。

すなわちこの関数は古典論で期待されるのと等しい速度 v_G=\hbar k_0/m=p_0/m で進みながら、 徐々に幅が広がり、高さがつぶれていく。

幅の広がる速さは \sigma_{x0} が小さいほど速いことも注目に値する。

分散と波束の崩壊

上記の結果より、

  • 波束の中心は古典的に期待される一定速度で移動する
  • 波束の幅は徐々に広がる

なぜ時間と共に波束が広がるのかを理解するために、 \sigma_{x0}=0.7 , \hbar/2m=1 , k_0=5 とした場合の \psi(x,t) の「実部」を 0\le t\le 2 の範囲でプロットした。

 wave-packet.gif 

注目すべきは広がった後の波束において、 後縁部に比べて前縁部の波数が大きい(波長が短い)ことである。

なぜか?

平面波一般に対して

  e^{i(kx-\omega t)}=e^{ik(x-\omega t/k)}=e^{ik(x-v_\phi t)}

すなわち、位相速度 v_\phi の定義

  v_\phi=\omega_k/k

に自由な電子の分散関係*2 \omega_k k との関係を分散関係と呼ぶ

  \hbar \omega_k=\frac{\hbar^2k^2}{2m}

を代入すれば、

  v_\phi=\frac{\hbar k}{2m}

を得る。

すなわち、自由空間の平面波は「波数の大きなものほど早く進む」。 これが波束の形状が変化する理由である。

上で見たように波束は「異なる波数を持つ平面波の重ね合わせ」で構成される。 t=0 の最小波束では、 すべての波数成分の位相が位置 x=0 で揃っていた。 その後、波数の小さなものほど遅く、波数の大きなものほど早く移動した結果、 前縁部がより大きな波数を持つ、幅の広がった波束に変化したのである。

\sigma_{k0}=1/2\sigma_{x0} から分かるとおり、 \sigma_{x0} が小さい波束ほど、広い範囲の波数成分を含んでいる。 このため空間的に鋭いパルスほど、速やかに幅が広がる。

このように、異なる波数成分が異なる速度を持つ状況を「分散がある」という。 逆に異なる波数成分がすべて同じ速度を持つ場合を「分散がない」という。 *3プリズムに白色光を入射すると波長ごとに異なる角度で屈折し「分散」する。これは波長により屈折率、すなわちプリズム中での光速が異なることによる。波長ごとに光速が異なることを「分散がある」と呼んだり、 \omega k との関係を「分散関係」と呼ぶ理由がここにある。

上記の位相速度 v_\phi と、波束の速度 v_G とが一致せず、

  2v_\phi=v_G

となっていることに注意せよ。

位相速度と群速度

上の波束の平均的な波数は k=k_0 で、その波数成分の伝播速度は

  v_{k_0}=\frac{\hbar k_0}{2m}

である。このことと対応して、波束の中心部において \mathrm{Re}(\psi) がゼロになる点(より一般には「等しい位相を持つ点」)が移動する速度は、

  v_{\phi}=\frac{\hbar k_0}{2m}  (「位相速度 (phase velocity)」と呼ぶ)

となる。一方、「波束の中心」が移動する速度は

  v_G=\frac{\hbar k_0}{m}  (「群速度 (group velocity)」 と呼ぶ)*4波束は異なる波長を持つ波の一群と見なせることを上で見た。その波の一群が全体として持つ速度が群速度である。

であるから、自由な粒子に対しては群速度が位相速度の2倍となる。

この違いは、位相速度が

  v_\phi(k)=\frac{\omega_k}{k}

であるのに対して、群速度が

  v_G(k_0)=\left .\frac{\PD \omega_k}{\PD k}\right|_{k_0}=\frac{\hbar^2k_0}{m}=2v_{k_0}

で与えられるためである(→ 詳しい導出 結果が上記の計算と一致することを確認せよ)。

分散がない場合(位相速度が波数によらない場合)には位相速度と群速度とは一致する。

  \omega_k=v_\phi k

より、

  v_G=\frac{\PD \omega_k}{\PD k}=v_\phi

このとき、波束の概形が崩れないだけでなく、波束中の搬送波の位相も時間に対して変化しない。

 wave-packet2.gif 

逆に分散がある場合には一般に、位相速度と群速度とは一致せず、また、 波束は時間と共に形が崩れる。

真空中を進む光(電磁波)の分散はゼロであるため、このように波形も位相も保存したまま波束が伝播するが、 物質中では分散がゼロでないため、例えばフェムト秒(10-15 秒)程度の超短光パルスを発すれば、 パルス幅は物質中で徐々に広がることが知られている。(元のパルス幅が小さいほど、広がる速度が速かったことを思い出せ)

位相速度より群速度が速い例

波数に比例する速度を持つ2つの波が干渉してできるうなりが それぞれの波の位相速度のほぼ2倍の速度の群速度で移動する様子をアニメーションにした。

  \cos[k_1(x-a k_1 t)]+\cos[k_2(x-a k_2 t)]

groupvelocity.gif


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質問・コメント




無題

kazzy? ()

自由な波束の運動の項目の標準偏差求めるところでξ代入するとき2乗が抜けてるかもしれません

  • ご指摘ありがとうございます。間違っていた部分を修正いたしました。 -- 武内(管理人)?

*1 \omega k の関係
*2 \omega_k k との関係を分散関係と呼ぶ
*3 プリズムに白色光を入射すると波長ごとに異なる角度で屈折し「分散」する。これは波長により屈折率、すなわちプリズム中での光速が異なることによる。波長ごとに光速が異なることを「分散がある」と呼んだり、 \omega k との関係を「分散関係」と呼ぶ理由がここにある。
*4 波束は異なる波長を持つ波の一群と見なせることを上で見た。その波の一群が全体として持つ速度が群速度である。

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