線形代数II/抽象線形空間 のバックアップ(No.13)

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4-1 線形空間 (あるいは ベクトル空間)

線形代数I では主に数ベクトルについて学んだ。

「線形空間」は数ベクトルに類似した代数的構造を表わす概念である。

定義

まず、ある既知の「体」 K を想定する。

K=\mathbb R\ \mathrm{or}\ \mathbb C であることが多いが、四則演算(加減乗除)が可能であれば他の体でも良い

  • 線形空間 V は集合であり、その元をベクトルと呼ぶ
       すなわち、 \bm x,\bm y\in V なら \bm x,\bm y はベクトル
  • 2つのベクトルの間に「和」が定義され、 V はベクトルの和に対して閉じている
       すなわち、 \forall\bm x,\forall\bm y\in V に対して \bm x+\bm y\in V
  • K の元とベクトルとの間に「スカラー倍」が定義され、 V はスカラー倍に対して閉じている
       すなわち、 \forall a\in K \forall\bm x\in V に対して a\bm x\in V

さらに、これらの「和」と「スカラー倍」に対して次の公理が成立する。

  1. \forall \bm x,\forall \bm y\in V について \bm x+\bm y=\bm y+\bm x                → ベクトル和に対する交換法則
  2. \forall \bm x,\forall \bm y,\forall \bm z\in V について (\bm x+\bm y)+\bm z=\bm x+(\bm y+\bm z)     → ベクトル和に対する結合法則
  3. \forall \bm x\in V について \bm x+\bm 0=\bm x を満たす元 \bm 0\in V が存在     → ゼロ元の存在
  4. 1\in K について、 \forall \bm x\in V について、 1\bm x=\bm x             → スカラーの単位元
  5. \forall \bm x\in V について \bm x+(-\bm x)=\bm 0 を満たす元 -\bm x\in V が存在 → 逆元の存在
  6. \forall a,\forall b\in K \forall \bm x\in V について、 (a+b)\bm x=a\bm x+b\bm x       → 分配法則(1)
  7. \forall a\in K \forall \bm x,\forall \bm y\in V について、 a(\bm x+\bm y)=a\bm x+a\bm y      → 分配法則(2)
  8. \forall a,\forall b\in K \forall \bm x\in V について、 a(b\bm x)=(ab)\bm x           → スカラー倍の結合法則

このとき、 V K 上の線形空間と呼ぶ。

線形空間の例

V=\mathbb R^3,K=\mathbb R は線形空間である( \mathbb R^3 は3次元実数ベクトルの集合)

V=\mathbb R^3,K=\mathbb C は線形空間ではない!

x の2次以下の実係数多項式の集合 ( V=\set{ax^2+bx+c|a,b,c\in \mathbb R}, K=\mathbb R ) は、自然に定義される和と実数倍に対して線形空間となる(線形空間がベクトル同士の積に対して閉じている必要がないことに注意せよ)

V=\set{(3a,-a,2a)\in \mathbb R^3|a\in \mathbb R} \mathbb R^3 に定義される和と実数倍に対して線形空間となる

線形空間の性質

このような一般の線形空間 V がどこまで \mathbb R^n と似ているかを考えるのが以下の目標となる。

たとえば 線形代数Ⅱ/抽象線形空間/性質? で見るように、 上記の公理を満たすすべての線形空間は、

  • ゼロ元はただ1つだけ存在する
  • 逆元はただ1つだけ存在する
  • ベクトルの引き算を定義可能
  • \bm x-\bm x=\bm 0
  • -(-\bm x)=\bm x 逆元の逆元はもとの元に戻る
  • \bm a+ \bm b=\bm a+\bm c \to \bm b=\bm c
  • (-\bm x)=(-1)\bm x
  • 0\bm x = \bm 0

といった、数ベクトル空間と同じ性質を持つことを定理として証明できる。

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