一次元箱形障壁のトンネル のバックアップの現在との差分(No.5)

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* トンネル現象 [#p3b163d8]

「トンネル現象」は古典物理学では起きえない不思議な現象として、
量子力学の代名詞ともなっているような有名な現象である。

ここではこの問題を以下の順で理解していきたい:

- 量子力学では確率の流れを伴う定常状態が存在する
- トンネル現象などの問題を記述するのに平面波を用いた近似が役に立つ
- 波動関数のエネルギー固有値 $\varepsilon$ がポテンシャルエネルギー $V$ よりも
-- 大きいところ $\varepsilon>V$ では波動関数が振動的にふるまう
-- 小さいところ $\varepsilon<V$ では波動関数が指数関数的にふるまう
- すなわち自身のエネルギーよりも高いエネルギー障壁中で存在確率は指数関数的に減衰する
- 減衰しきらず残った部分は反対側の有限振幅の振動解と接続し、有限の透過確率 = トンネル確率を与える

** 目次 [#y30590ba]

#contents

* 電子のエネルギーとポテンシャルエネルギー [#ha47b60e]
&katex();

電子のエネルギーはポテンシャルエネルギーと運動エネルギーの和であるから、次式が成り立つ。
* 確率の流れを伴う「定常状態」 [#m88a76fc]

 &math(\varepsilon = V(x) + \frac{p^2}{2m});
古典論では「定常状態」とはすべての粒子が静止している状態、
あるいは一定の運動を繰り返している状態を指す言葉であった。

このため古典力学においては、常に
一方で、量子論では ''定常的な確率の流れ'' を伴う「定常状態」を考えることがある。

(1) (電子のエネルギー) > (ポテンシャルエネルギー)
一例として、1次元空間における自由な電子に対するシュレーディンガー方程式の解

が成り立った。
$$\psi(x,t)= e^{i(kx-\omega t)}$$

一方、量子力学では
を挙げる。確認のためシュレーディンガー方程式

(2) (電子のエネルギー) < (ポテンシャルエネルギー)
$$
i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi(x,t)
=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}\psi(x,t)
$$

となる領域にも有限の確率密度を取り得ることを見てきた。
へ代入すると、

 &math(p^2=\hbar^2k^2=2m\{\varepsilon-V(r)\});
$$
\hbar\omega\psi(x,t)=\frac{\hbar^2k^2}{2m}\psi(x,t)
$$

と書きなおせば分かるとおり、
であるから、$\hbar\omega=\hbar^2k^2/2m\ \ (=\varepsilon)$ となるように $\omega,k$ 
を選べば方程式を満たすことが分かる。

 &math(k=\pm\frac{1}{\hbar}\sqrt{2m\{\varepsilon-V(r)\}});
そしてこの平面波解 $\psi(x,t)$ は、

であり、(1) では √ 内部が正であるが、(2) では負である。つまり、
$$
\psi(x,t)=\underbrace{e^{ikx}}_{\varphi(x)}\,\underbrace{e^{-i\omega t}}_{\tau(t)}
$$

(1) では運動エネルギーは正である。これは数学的には運動量が実数であるためである。
のように、空間座標依存性 $\varphi(x)$ と時間依存性 $\tau(t)$ とに分離可能であるから、
その空間部分 $\varphi(x)$ は時間を含まないシュレーディンガー方程式を満たす。

(2) では運動エネルギーは負である。すなわち運動量は虚数になる。
$$
\underbrace{-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}}_{\hat H}\,\varphi(x)=\underbrace{\frac{\hbar^2k^2}{2m}}_{\varepsilon}\,\varphi(x)
$$

これらに対応して、(1) に対応する位置においては波数 &math(k=p/\hbar); は実数であり、
$|\tau(t)|=1$ は時間に依存しないから、

 &math(e^{ikx});
$$
|\psi(x,t)|^2=\underbrace{|\varphi(x)|^2}_{t\,\text{を含まない}}
$$

のように、確かに ''確率密度の空間分布は時刻によらず変化しない'' ことを確かめられる。

この、「確率密度の空間分布は時刻によらず変化しない」が量子力学における
「定常状態」の定義であり、
この解が $x$ 軸の正方向へ ''確定した運動量 $p=\hbar k$ を持って進む'' 電子を表していることや、
そのために $x=-\infty$ から $x=\infty$ 
へと ''確率が定常的に流れていること'' と、この解が「定常状態」であることは矛盾しないのである。

** 確率流密度 [#a795b527]

ある波動関数に対する確率の流れの大きさ(確率流密度)は、

$$
S=\mathrm{Re}\bigl[\psi^*\,\hat v \,\psi\bigr]
=\mathrm{Re}\left[\psi^*\frac{\hat p}{m} \psi\right]
=\mathrm{Re}\left[\psi^*\frac{\hbar}{im}\frac{\partial}{\partial x} \psi\right]
$$

[[と表せるのであった。>量子力学Ⅰ/波動関数の解釈#tff807cf]] 
上記の $\psi(x,t)=A e^{i(kx-\omega t)}$ ただし $k\in \mathbb R$ に対しては、

$$
\begin{aligned}
S&=\mathrm{Re}\left[\psi^*\frac{\hbar k}{m} \psi\right]\\
&=\frac{\hbar k}{m} \mathrm{Re}\left|\psi\right|^2\\
&=\frac{\hbar k}{m}|A|^2= v|A|^2
\end{aligned}
$$

確率の流れはその場所での確率密度と速度との積で表せることが分かる。

三次元では単位時間当たりにある面を通って流れる確率は、この「確率流密度」に面積をかけることで求められる。
電流密度に面積をかけることで電流を求められたことと対比して理解せよ。

今は一次元問題なので、上で求めた $S$ はそのまま単位時間あたりにその地点を通過する確率を表す。
** 近似的な波動関数としての平面波 [#z01138af]

厳密な平面波は通常の意味で規格化することができず、
物理的な状態とは言えない。

それでも、例えば大きく広がった波束の中央部分では時間及び位置に対して振幅や波数・振動数はほとんど変化しないため、そのような状態を平面波で近似して扱うことがよく行われる。

そのような「準定常状態」は上記のような「定常状態」の解とほとんど同じ振る舞いをするだろう
というのがその理由である。

以下ではそのような準定常状態の近似として、平面波で表される「定常状態」を考えることにする。

* 電子のエネルギーとポテンシャルエネルギー [#ha47b60e]

電子のエネルギーはポテンシャルエネルギーと運動エネルギーの和である:

$$\varepsilon = V(x) + \frac{p^2}{2m}$$

このため、古典力学においては常に、

 (1) $\varepsilon \ge V(x)$

であった。ところが量子力学では

 (2) $\varepsilon < V(x)$

となる領域にも有限の確率密度を取り得るのであった。上の式を $p^2$ や $k$ に対して解けば、

$$p^2=\hbar^2k^2=2m\{\varepsilon-V(x)\}$$

$$k=\pm\frac{1}{\hbar}\sqrt{2m\{\varepsilon-V(x)\}}$$

であるから、

(1) の領域では運動量 $p$ および波数 $k=p/\hbar$ は実数であり、

$$e^{ikx}$$

は振動する解を与える。
&math(k); はポテンシャルエネルギーの関数であるから、場所によって波長も異なる。

一方、(2) に対応する位置においては波数 &math(k=p/\hbar); は虚数であるから、
(2) の領域では運動量 $p$ および波数 $k=p/\hbar$ は虚数であり、

 &math(k=i\kappa);
$$e^{ikx}=e^{\pm|k| x}$$

と置けば、
となり、指数関数的に減衰・増加する解を与える。

 &math(e^{ikx}=e^{-\kappa x});
下図はばね定数 $K$、質量 $m$ を持つ[[調和振動子に対する波動関数を図示したもの>量子力学Ⅰ/調和振動子#l80144e9]]である。

となり、指数関数的に減衰する/増加する解を与える。
横軸は $r_0=\sqrt{\hbar/m\omega}$ 
を単位として測った位置座標、縦軸は $\hbar\omega$ を単位として測ったエネルギーになっている。
ただし、$\omega=\sqrt{K/m}$ は系の固有振動数である。

次は調和振動子に対する波動関数を図示したものである(左が &math(\varphi(x)); 
右は &math(|\varphi(x)|^2);)。
上記の関係をこの図にあてはめて理解せよ。
二次曲線が調和振動子のポテンシャルエネルギーを表しており、
量子数 $n=0$ から $n=10$ までに対応する波動関数 $\varphi(x)$ (左図)およびその絶対値の二乗 $|\varphi(x)|^2$ (右図)を、エネルギー固有値 $\varepsilon_n=\hbar\omega(n+1/2)$ に対応する位置に適当なスケールで描いた。

&attachref(量子力学Ⅰ/調和振動子/harmonic2.png,,50%);  
&attachref(量子力学Ⅰ/調和振動子/harmonic1.png,,50%);

上記の関係をこれらの図にあてはめて理解せよ。
~
特徴:
- 二次曲線は &math(y=Kx^2/2); であり、古典的な調和振動子ではこの外には出られない
- 量子力学的な解は外側にも少しはみ出している
- &math(\varepsilon>V); の領域では振動する
- &math(\varepsilon<V); では指数関数的に減衰する
- &math(V(x)); に比べて &math(\varepsilon); が大きいほど波長が短く=波数が大きくなる
- &math(V(x)); に比べて &math(\varepsilon); が小さいほど早く減衰する
- 古典的な調和振動子では二次曲線で表された範囲の外には出られない
- 量子力学的な解の確率密度は外側にも少しはみ出している
- 外側 $\varepsilon<V$ では指数関数的に減衰する
-- $V(x)$ に比べて $\varepsilon$ が小さいほど早く減衰する
- 内側 $\varepsilon>V$ では振動する
-- $V(x)$ に比べて $\varepsilon$ が大きいほど波長が短く=波数が大きくなる

* トンネル現象 [#xa22c51e]

量子力学においては、電子が自身のエネルギーよりも高いポテンシャル中にも存在できるため、
「トンネル現象」と呼ばれる量子力学に特有の現象が生じる。
上記のように、量子力学においては電子が自身のエネルギーよりも高いポテンシャル中にも存在できることを反映して、
「トンネル現象」あるいは「トンネル効果」と呼ばれる量子力学に特有の現象が生じる。

#ref(no-tunnel.png,right,around,25%);
図のように、電子が自身のエネルギーよりも高いエネルギー障壁 
電子が図のように、自身のエネルギーよりも高いエネルギー障壁 

 &math(
$$
V(x)=\begin{cases}
0                  &(x<0,a\le x)\\
V_0\ \ >\varepsilon  &(0<x\le a)\\
\end{cases}
);
$$

へ左から入射する場合を考えよう。

古典論ではこのような障壁は完全弾性障壁とみなせ、
入射方向と逆方向に入射時と同じ大きさの運動量を持って跳ね返される。

古典論でも電子はエネルギー障壁に跳ね返される(反射する)が、
確率密度の一部は自身よりも高いエネルギーをもつ障壁の中へ染み込む。
通常、量子論でも電子はエネルギー障壁に跳ね返される(反射する)。
しかし上でも見たとおり確率密度の一部は障壁の中へ染み込む。

染み込んだ障壁中では確率密度が距離とともに指数関数的に減衰するが、
障壁の右端でも完全には零とならず、
染み込んだ障壁中で確率密度は距離とともに指数関数的に減衰し、
すぐに実質上ゼロと見なせる程度に小さくなる。
しかし数学的には障壁の右端でも完全には零とならず、
その成分はエネルギー障壁を通り抜けて進む電子を表す確率密度となる。

すなわち量子論においては、電子が ''自身のエネルギーよりも高いエネルギー障壁を通り抜けて進む'' 
確率が存在する。

あたかもエネルギー障壁にトンネルを空けてその中を電子が通るかのようであるという意味で、
この現象は「トンネル現象」と呼ばれる。

高く、厚い障壁の場合には、この確率は無視できるほど小さいが、
障壁が低く、薄い場合には観測可能なほどの透過確率が得られることもある。

現実の問題としては、わずかな間隙を挟んで平面的な金属電極が向かい合わされている状況が、
上図の状況に相当する。
電子にとって真空部分のポテンシャルエネルギーは金属内部のポテンシャルエネルギーよりも高く、
その部分がエネルギー障壁となる。
電極間距離が 1 nm 程度まで近づけば、計測可能な程度の「トンネル電流」が計測されることになる。
電極間距離が 1 nm 程度まで近づけば、十分に計測可能な程度の「トンネル電流」が計測される。

以下ではこの現象をシュレーディンガー方程式から理解しよう。
江崎玲於奈氏のノーベル賞受賞理由となったエサキダイオードは、このトンネル現象を利用した素子である。
通常、素子に印加する電圧を増やせばより大きな電流が流れるが、エサキダイオードでは電圧を増加すると
むしろ電流が減る「負性微分抵抗」を示す特異的な素子である。
この負性微分抵抗が現れる理由は量子力学的なトンネル現象により説明される(この授業では詳細に立ち入らない)。

* 確率密度の流れを伴う「定常状態」 [#m88a76fc]
以下ではこのトンネル現象を時間を含まないシュレーディンガー方程式から理解する。

古典論には「定常状態」とはすべての粒子が静止している状態、
あるいは一定の運動を繰り返している状態を指す言葉であった。
* 解くべき問題 [#n41f28fb]

量子論では確率密度の流れを伴う「定常状態」を考えることができる。
右下図の1次元箱型障壁に左から振幅1の平面波が入射した際の、反射、障壁への侵入、透過について調べるために、時間を含まないシュレーディンガー方程式を解いて「確率の流れを伴う定常解」を求めたい。

 &math(\psi(x,t)\propto e^{i(kx-\omega t)});
$$
\underbrace{\Big[-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}+V(x)\Big]}_{\hat H}\,\varphi(x)=\varepsilon\,\varphi(x)
$$

は、&math(x); 軸の正方向へ確定した運動量 &math(p_0=\hbar k_0); 
を持って進む電子を表す波動関数であった。
この問題においてポテンシャルエネルギーは区分的に定数であるから、それぞれの領域($x<0$ と $0<x<a$ と $a<x$)における一般解はいずれも

電子は静止しておらず、一定の運動を繰り返しているわけでもないが、
確率密度の空間分布は時間とともに変化しない。
$$
\varphi(x)=A e^{ikx}+B e^{-ikx}
\hspace{5mm}\text{ただし}\hspace{2mm}
k=\frac1\hbar\sqrt{2m(\varepsilon - V)}
$$

このような状態を考える上で問題となるのは、この波動関数を規格化できないことである。
現実にはこのような確率密度の流れがあれば左遠方の電子の確率密度が減少し、
右遠方の確率密度が増加しなければならず、そのような電子の供給源、
吸収先が存在しないことが規格化できないという問題の根底にある。
である。ただ $0<x<a$ においては $k$ が虚数となるため $\kappa=\frac k i$ と置いて、

それでも、上記のような波動関数を考えることには物理的な意味がある。
$$
\varphi(x)=A e^{\kappa x}+B e^{-\kappa x}
\hspace{5mm}\text{ただし}\hspace{2mm}
\kappa=\frac1\hbar\sqrt{2m(V - \varepsilon)}
$$

先に学んだように電子の波数が &math(k_0); に確定しておらず、
&math(k=k_0\pm\Delta k); の範囲にあるような波束を考えれば、
そのような波束は空間的に &math(\Delta x=\hbar/2\Delta k); 
程度かそれ以上に広がることを学んだ。
#ref(tunneling-waves.png,right,around,25%,ogp);

&math(\Delta k); が十分小さい場合、&math(\Delta x); は十分大きく、
そのような波束の中央部分ではほぼ &math(\psi(x,t)\propto e^{i(kx-\omega t)});
と同じ状態が実現する。
となる。

そのような「準定常状態」は上記のような「定常状態」の解とほとんど同じであろうというのがその理由である。
- $e^{ik}$ : $x$ 軸の正方向へ進む平面波
- $e^{-ik}$ : $x$ 軸の負方向へ進む平面波

シュレーディンガー方程式は線形であるから、
「準定常状態」において生じる物理現象を議論する目的には
波束全体の規格化によって決まる波動関数の振幅を確定する必要はない。
入射波の振幅が2倍になれば、反射波や透過波の振幅も2倍になるだけである。
を考慮して、

* 各領域における波動関数 [#n41f28fb]
入射波: $\varphi_I(x)=e^{ikx}$~
反射波: $\varphi_R(x)=Re^{-ikx}$~
透過波: $\varphi_T(x)=Te^{ikx}$~
障壁内: $\varphi(x)=B_-e^{-\kappa x}+B_+e^{\kappa x}$~
(I:incident, R:reflected, T:transmitted, B:in barrier)

そこで以下では、左から入射する電子の波動関数を
とすると、これらはそれぞれ個別にシュレーディンガー方程式を満たす。

 &math(\psi_I(x,t)=e^{i(k_Ix-\omega_I t)});  
ただし、&math(\varepsilon_I=\hbar\omega_I=\frac{\hbar^2k_I^2}{2m}); 
そこで系全体の波動関数を上記の波動関数をつなぎ合わせることで

と置く。(I は incident electron 入射電子 の頭文字)
$$
\varphi(x)=\begin{cases}
\varphi_l(x)\ \equiv\varphi_I(x)+\varphi_R(x)&(x\le 0)\\
\varphi_m(x)\equiv\varphi_B(x)&(0<x\le a)\\
\varphi_r(x)\,\,\equiv\varphi_T(x)&(a<x)\\
\end{cases}
$$

また、反射波と透過波を
のように構成し、これが必要な境界条件を満たす解となるように各パラメータ、
特に $R,T$ を定めるのがここでの問題である。解をこのように置いた時点で、
$x=\pm\infty$ における境界条件が満たされていることを確認せよ。

 &math(\psi_R(x,t)=Re^{i(-k_Rx-\omega_R t)});  
ただし、&math(\varepsilon_R=R\hbar\omega_0=\frac{\hbar^2k_R^2}{2m});
シュレーディンガー方程式は線形なので、反射波、透過波の振幅は入射波の振幅に比例する。
上記のように入射波の振幅を1として問題を解いておけば、得られた解に実際の振幅をかけることで任意の入射波に対する解を容易に求められる。

 &math(\psi_T(x,t)=Te^{i(k_Tx-\omega_T t)});  
ただし、&math(\varepsilon_T=T\hbar\omega_0=\frac{\hbar^2k_T^2}{2m});
$R,T$ より、

と置く。(R は reflected electron 反射電子、T は transmitted electron 透過電子 の頭文字)
 反射率:$S_R/S_I=\frac{\hbar k}{m}|R|^2/\,\frac{\hbar k}{m}|1|^2=|R|^2$ ~
 透過率:$S_T/S_I=\frac{\hbar k}{m}|T|^2/\,\frac{\hbar k}{m}|1|^2=|T|^2$ ~

さらに、障壁内部をトンネルする電子を、
が求められる。

 &math(\psi_B(x,t)=B_-e^{-\kappa_B x-i\omega_B t}+B_+e^{\kappa_B x-i\omega_B t});  
ただし、&math(\varepsilon_B=\hbar\omega_B=V_0-\frac{\hbar^2\kappa_B^2}{2m});
** 境界条件 [#l7323c39]

と置く。(B は electron in barrier 障壁中の電子 の頭文字)
以下に見るように、$\varphi$ は $x=0,a$ で滑らかに接続しなければならないため、

#ref(tunneling-waves.png,right,around,25%);
$$\varphi_l(0)=\varphi_m(0)\ \ \ \ \varphi'_l(0)=\varphi'_m(0)$$

&math(k_I); が与えられたとして、
&math(R,k_R,T,k_T,B_1,B_2,\kappa_t); を境界条件から決定するのがここでの問題である。
$$\varphi_m(a)=\varphi_r(a)\ \ \ \ \varphi'_m(a)=\varphi'_r(a)$$

&math(\varepsilon_I,\omega_I,\varepsilon_R,\omega_R,\varepsilon_T,\omega_T,\varepsilon_B,\omega_B);
は &math(k_I,k_R,k_T,\kappa_B); より上記の分散関係を用いて容易に求まることに注意せよ。
が成り立つ。

$$\varphi_I(x)=e^{i(kx-\omega t)}$$

$$\varphi_R(x)=Re^{i(-kx-\omega t)}$$

$$\varphi_T(x)=Te^{i(kx-\omega t)}$$

$$\varphi_B(x)=B_-e^{-\kappa x-i\omega t}+B_+e^{\kappa x-i\omega t}$$

この4つの条件式から4つの未知数 $R,T,B_-,B_+$ を定めれば問題が解けたことになる。

* 波動関数の連続性 [#zcdcd945]

上記の問題では障壁端面での波動関数の連続性が境界条件を与える。
ポテンシャルに有限の飛び(不連続性)がある点においても、波動関数はなめらかに接続しなければならない(一次微分まで連続でなければならない)ことは以前にも使った条件であるが、ここではこれを証明しておく。

シュレーディンガー方程式は &math(x); に対する2階微分を含んでいるから、
&math(V(x)); がなめらかである限り、波動関数は
「&math(x); で2階微分可能」になる。
シュレーディンガー方程式は $x$ に対する2階微分を含んでいるから、
$V(x)$ が連続である限り、波動関数は「$x$ で2階微分可能」になる。

ただし、上記の箱型障壁の端点ように &math(V(x)); が ''不連続に変化する点'' では、
「&math(x); に対する1階微分が連続」
ではあるが、「2階微分は不可能」になる。
そもそもその点では &math(V(x)); の値が決まらないので、
シュレーディンガー方程式自体が意味を持たないことに注意せよ。
$$\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}\varphi(x)=\Bigl[ V(x)-\varepsilon\Bigr]\varphi(x)$$

#ref(potential-step.png,right,around,25%);

波動関数の空間微分 &math(\varphi'(x)); が連続であることは、
&math(V(x)); が &math(a<x<b); の範囲で連続に、
しかし急峻に変化する状況を考えれば証明できる。
ただし、上記の箱型障壁の端点ように $V(x)$ が ''不連続に変化する点'' では、
この限りではない。このような点での波動関数の振る舞いを見るために、$V(x)$ が $a<x<b$ の範囲で連続に、しかし急峻に変化する状況を考察する。

この区間でシュレーディンガー方程式を積分すれば、
この区間で時間を含まないシュレーディンガー方程式を積分すれば、

 &math(
$$
\int_a^b\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}\varphi(x)+V(x)\varphi(x)-\varepsilon\varphi(x)\right)\,dx=0
);
$$

 &math(
$$
\left[\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d}{dx}\varphi(x)\right]_a^b
=\int_a^b\Big(V(x)-\varepsilon\Big)\varphi(x)\,dx
);
$$

 &math(
$$
\begin{aligned}
\frac{\hbar^2}{2m}\Big(\varphi'(b)-\varphi'(a)\Big)
&=\overline{\Big(V(x)-\varepsilon\Big)\varphi(x)}\int_a^b\,dx\\
&=\overline{\Big(V(x)-\varepsilon\Big)\varphi(x)}\cdot (b-a)
);
\end{aligned}
$$

ただし、&math(\overline{\Big(V(x)-\varepsilon\Big)\varphi(x)}); は区間 &math([a,b]);
における &math(\Big(V(x)-\varepsilon\Big)\varphi(x)); の平均値である。
ここkで、$\overline{\Big(V(x)-\varepsilon\Big)\varphi(x)}$ は区間 $[a,b]$
における $\Big(V(x)-\varepsilon\Big)\varphi(x)$ の平均値である。

&math(V(x)); が非常に急峻に変化しており、&math(a); と &math(b); を十分に近く取れる場合には
&math(b-a=0); とみなせるから、
$V(x)$ が非常に急峻に変化しており、$a$ と $b$ を十分に近く取れる場合には
$b-a=0$ とみなせるから、平均値が有限である限り

 &math(\varphi'(b)-\varphi'(a)=0);
$$\varphi'(b)-\varphi'(a)=0$$

すなわち、&math(V(x)); が不連続に変化する点を挟んで、&math(\varphi'(x)); が連続であることが示される。
すなわち、$V(x)$ が不連続に変化する点を挟んで、$\varphi'(x)$ が連続であることが示される。

ただし、無限大の深さをもつ緯度型ポテンシャルの時のように不連続点の片側で &math(V(x)); 
が &math(\pm\infty); となる場合には、
「&math(\Big(V(x)-\varepsilon\Big)\varphi(x)); の平均値」が有限とならないため、
&math(\varphi'(b)-\varphi'(a)); の値も不定となる。
ただし、無限大の深さをもつ井戸型ポテンシャルの時のように不連続点の片側で $V(x)$ 
が $\pm\infty$ となる場合には、
右辺の平均値が有限とならないため、
$\varphi'(b)-\varphi'(a)$ の値も不定となる。

すなわち、そのような点では &math(\varphi'(x)); は不連続になりうる。
すなわち、そのような点では $\varphi'(x)$ は不連続になりうる。
実際、井戸型ポテンシャルでは境界で傾きが不連続に変化した。

* 境界条件 [#nd265f03]
* 境界条件から係数を求める [#nd265f03]

障壁の左端と右端とで波動関数が
境界条件に波動関数を代入すると、

- &math(t); に対して連続
- &math(x); に対してその1回微分が連続
 (1) 
$e^{ik0}+Re^{-ik0}=
B_-e^{-\kappa 0}+B_+e^{\kappa 0}$

となる条件から、上記のすべての未知変数を決定できる。
 (2) 
$ike^{ik0}-ikRe^{-ik0}=-\kappa B_-e^{-\kappa 0}+\kappa B_+e^{\kappa 0}$

波動関数は、
 (3) 
$B_-e^{-\kappa a}+B_+e^{\kappa a}=
Te^{ik a}$

障壁の左側: &math(\psi_L(x,t)=\psi_I(x,t)+\psi_R(x,t));~
障壁の内部: &math(\psi_M(x,t)=\psi_B(x,t));~
障壁の右側: &math(\psi_R(x,t)=\psi_T(x,t));
 (4) 
$-\kappa B_-e^{-\kappa a}+\kappa B_+e^{\kappa a}=
ikTe^{ika}$

として、
となる。$\kappa/k=\lambda$ と置けば、

左端: &math(\psi_L(0,t)=\psi_M(0,t),\ \psi_L'(0,t)=\psi_M'(0,t));~
右端: &math(\psi_M(a,t)=\psi_R(a,t),\ \psi_M'(a,t)=\psi_R'(a,t));
 (1)' $1+R=B_-+B_+$

となる。具体的には、
 (2)' $1 - R=-i\lambda \big(- B_-+B_+)$

 (1) &math(
e^{i(k_I\cdot 0-\omega_I t)}+Re^{i(-k_R\cdot 0-\omega_R t)}=
B_-e^{-\kappa_B \cdot 0-i\omega_B t}+B_+e^{\kappa_B \cdot 0-i\omega_B t}
);
 (3)' $B_-e^{-\kappa a}+B_+e^{\kappa a}=Te^{ik a}$

 (2) &math(
ik_Ie^{i(k_I\cdot 0-\omega_I t)}-ik_R Re^{i(-k_R\cdot 0-\omega_R t)}=
-\kappa_B B_-e^{-\kappa_B \cdot 0-i\omega_B t}+\kappa_B B_+e^{\kappa_B \cdot 0-i\omega_B t}
);
 (4)' $i\lambda B_-e^{-\kappa a}-i\lambda B_+e^{\kappa a}= Te^{ik a}$

 (3) &math(
B_-e^{-\kappa_B  a-i\omega_B t}+B_+e^{\kappa_B  a-i\omega_B t}=
Te^{i(k_T a-\omega_T t)}
);
(1)'+ (2)' より、$2=(1+i\lambda)B_-+(1-i\lambda)B_+$

 (4) &math(
-\kappa_B B_-e^{-\kappa_B  a-i\omega_B t}+\kappa_B B_+e^{\kappa_B  a-i\omega_B t}=
ik_T Te^{i(k_T a-\omega_T t)}
);
(3)'- (4)' より、$(1-i\lambda)e^{-\kappa a}B_-+(1+i\lambda)e^{\kappa a}B_+=0$

となる。
したがって、

(1) より、 &math(
1+Re^{-i(\omega_R-\omega_I) t}=\big(B_-+B_+)e^{-i(\omega_B-\omega_I) t}
);
$$B_-=-\frac{1+i\lambda}{1-i\lambda}e^{2\kappa a}B_+$$

ここから &math(\omega_R=\omega_B=\omega_I); でなければならないことが理解できる。
同様に、(3) より &math(\omega_T=\omega_B); であることが得られるから、
すなわち、&math(\varepsilon_R=\varepsilon_B=\varepsilon_T=\varepsilon_I); となり、
すべての箇所で電子のエネルギーは等しい。
$$2=\left[-\frac{(1+i\lambda)^2}{1-i\lambda}e^{2\kappa a}+(1-i\lambda)\right]B_+$$

ここから、&math(k_R=k_T=k_I); (&math(=k); と置く) および &math(\kappa_B=\sqrt{\frac{2mV_0}{\hbar^2}-k_I^2}); (&math(=\kappa); と置く) を得る。
$$
\begin{aligned}
B_+&=\frac{2(1-i\lambda)e^{-\kappa a}}{(1-i\lambda)^2e^{-\kappa a}-(1+i\lambda)^2e^{\kappa a}}\\
&=\frac{-(1-i\lambda)e^{-\kappa a}}{2i\lambda\cosh\kappa a+(1-\lambda^2)\sinh\kappa a}
\equiv\frac{-(1-i\lambda)e^{-\kappa a}}{X}\\
\end{aligned}
$$

このとき &math(\kappa/k=\lambda); と置けば、
$$
B_-=\frac{(1+i\lambda)e^{\kappa a}}{X}
$$

 (1)' &math(1+R=B_-+B_+);
(1)' より、~
$$
\begin{aligned}
R&=B_-+B_+-1\\
&=\frac{2i\lambda\cosh\kappa a+2\sinh\kappa a}{X}-1\\
&=\frac{(1+\lambda^2)\sinh\kappa a}{X}
\end{aligned}
$$

 (2)' &math(1 - R=-i\lambda \big(- B_-+B_+));
(3)' より、~
$$
T=\frac{(1+i\lambda)-(1-i\lambda)}{X}e^{-ika}=\frac{i2\lambda}{X}e^{-ika}
$$

 (3)' &math(B_-e^{-\kappa  a}+B_+e^{\kappa  a}=Te^{ik a});
** 流量 [#v0408cd4]

 (4)' &math(i\lambda B_-e^{-\kappa  a}-i\lambda B_+e^{\kappa  a}= Te^{ik a});
反射率や透過率を評価するため、$|R|^2, |T|^2$ を求めたい。

(1)' と (2)' より、&math(2=(1+i\lambda)B_-+(1-i\lambda)B_+);
$$
\begin{aligned}
|X|^2&=4\lambda^2\cosh^2\kappa a+(1-\lambda^2)^2\sinh\kappa a\\
&=4\lambda^2(1+\sinh^2\kappa a)+(1-\lambda^2)^2\sinh\kappa a\\
&=4\lambda^2+\underbrace{(1+\lambda^2)^2\sinh^2\kappa a}_{4\lambda^2Y^2\,\text{と置く}}\\
&\equiv 4\lambda^2(1+Y^2)
\end{aligned}
$$

(3)' と (4)' より、&math((1-i\lambda)e^{-\kappa a}B_-+(1+i\lambda)e^{\kappa a}B_+=0);
$$
|R|^2=\frac{(1+\lambda^2)^2\sinh^2\kappa a}{4\lambda^2(1+Y^2)}=\frac{\cancel{4\lambda^2}Y^2}{\cancel{4\lambda^2}(1+Y^2)}=\frac{Y^2}{1+Y^2}
$$

したがって、
$$
|T|^2=\frac{\cancel{4\lambda^2}}{\cancel{4\lambda^2}{(1+Y^2)}}=\frac{1}{1+Y^2}
$$

 &math(B_-=-\frac{1+i\lambda}{1-i\lambda}e^{2\kappa a}B_+);
であるから、$|R|^2+|T|^2=1$ を満たすことが分かる。ここで、

 &math(2=\left[-\frac{1+i\lambda}{1-i\lambda}e^{2\kappa a}+(1-i\lambda)\right]B_+);
入射流量:$S_I=\mathrm{Re}\big[\varphi_I^*(x)\frac{\hbar}{im}\frac{\partial}{\partial x}\underbrace{\varphi_I(x)}_{e^{ikx}}\big]
=\frac{\hbar k}{m}$

 &math(
B_+&=\frac{2(1-i\lambda)e^{-\kappa a}}{(1-i\lambda)^2e^{-\kappa a}-(1+i\lambda)^2e^{\kappa a}}\\
&=\frac{-(1-i\lambda)e^{-\kappa a}}{2i\lambda\cosh\kappa a+(1-\lambda^2)\sinh\kappa a}\\
&=\frac{-(1-i\lambda)e^{-\kappa a}}{X}\\);
反射流量:$S_R=\mathrm{Re}\left[\varphi_R^*(x)\frac{\hbar}{im}\frac{\partial}{\partial x}\varphi_R(x)\right]
=-\frac{\hbar k}{m}|R|^2$  反射率:$|S_R/S_I|=|R|^2$

 &math(
B_-=\frac{(1+i\lambda)e^{\kappa a}}{X}
);
透過流量:$S_T=\mathrm{Re}\left[\varphi_T^*(x)\frac{\hbar}{im}\frac{\partial}{\partial x}\varphi_T(x)\right]
=\frac{\hbar k}{m}|T|^2$   透過率:$|S_T/S_I|=|T|^2$

より、
であるから、$|R|^2+|T|^2=1$ は $S_R+S_T=S_I$ を表している。
反射した量と透過した量を加えると入射した量に等しくなるのは期待通りと言える。

 &math(
R&=B_-+B_+-1\\
&=\frac{2i\lambda\cosh\kappa a+2\sinh\kappa a}{X}-1\\
&=\frac{(1+\lambda^2)\sinh\kappa a}{X}
);
** 透過確率 [#hc04ba3a]

 &math(
T&=\frac{(1+i\lambda)-(1-i\lambda)}{X}=\frac{i2\lambda}{X}
);
$$
\begin{aligned}
Y^2&=\left(\frac{1+\lambda^2}{2\lambda}\right)^2\sinh^2\kappa a\\
&=\frac{k^2+\kappa^2}{4k^2\kappa^2}\sinh^2\kappa a\\
&=\frac{V_0^2}{4\varepsilon(V_0-\varepsilon)}\sinh^2\kappa a\\
\end{aligned}
$$

ここから、
$\sinh \kappa a$ は $\kappa a$ に対する単調増加関数であり、
$\kappa a\gg 1$ では、

 &math(
|X|^2&=4\lambda^2\cosh^2\kappa a+(1-\lambda^2)^2\sinh\kappa a\\
&=4\lambda^2(1+\sinh^2\kappa a)+(1-\lambda^2)^2\sinh\kappa a\\
&=4\lambda^2+\underbrace{(1+\lambda^2)^2\sinh^2\kappa a}_{4\lambda^2Y^2}\\
&=4\lambda^2(1+Y^2)
);
$$\sinh \kappa a=\frac{e^{\kappa a}-e^{-\kappa a}}2\sim e^{\kappa a}/2\gg 1$$

 &math(
|R|^2&=\frac{Y^2}{1+Y^2}\\
);
このとき、

 &math(
|T|^2=\frac{1}{1+Y^2}
);
$$|T|^2\sim Y^{-2}=\frac{4\epsilon(V_0-\epsilon)}{V_0^2}\exp\left[-2a\sqrt{\frac{2m}{\hbar^2}(V_0-\varepsilon)}\right]$$

となり、&math(|R|^2+|T|^2=1); を確かめられる。
  電子の質量: $9.10938291 \times 10^{-31}\,\mathrm{kg}$ ~
  素電荷: $1.60217657\times 10^{-19}\,\mathrm{C}$ ~
  ボルツマン定数: $6.62606957 \times 10^{-34}\,\text{m}^2\text{ kg / s}$ ~

これは入射電子の振幅が 1 であることと対応している。
反射した量と透過した量を加えると入射した量に等しくなるのは期待通りと言える。
を入れれば、自身のエネルギーよりも $1\,\mathrm{eV}$ だけ高い障壁に対して、

 &math(
Y^2&=\left(\frac{1+\lambda^2}{2\lambda}\right)^2\sinh^2\kappa a\\
&=\frac{k^2+\kappa^2}{4k^2\kappa^2}\sinh^2\kappa a\\
&=\frac{V_0^2}{4\epsilon(V_0-\epsilon)}\sinh^2\kappa a\\
);
$$|T|^2\propto e^{-a/A}$$

* グラフ [#ra980378]
ただし、$A=0.39\,\mathrm{nm}$ あるいは、

波動関数の実部をグラフにした結果は下記の通りになる。
ここでは &math(\hbar=1,\frac{\hbar^2}{2m}=1,k_I=1); とした上で、
&math(\epsilon=1,V_0=1.1,a=5); と置いた。
$$|T|^2\propto 10^{-a/B}$$

ただし、$B=0.90\,\mathrm{nm}$ を得る。

すなわち、障壁厚さが $0.9\,\mathrm{nm}$ 増えると、透過確率が 1/10 になる。

* 波形 [#ra980378]

波動関数の実部 $\mathrm{Re}[\varphi(x)]$ をグラフにした結果は下記の通りになる。
ここでは $\hbar=1,\frac{\hbar^2}{2m}=1,k_I=1$ とした上で、
$\varepsilon=1,V_0=1.1,a=5$ と置いた。

&attachref(tunnel.gif); &qr(http://dora.bk.tsukuba.ac.jp/~takeuchi/?plugin=attach&refer=%E9%87%8F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%AD%A6%E2%85%A0%2F%E4%B8%80%E6%AC%A1%E5%85%83%E7%AE%B1%E5%BD%A2%E9%9A%9C%E5%A3%81%E3%81%AE%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB&openfile=tunnel.gif);

- &math(x<0); では進行波と反射波とが干渉し、定在波が立っている
- 障壁内部と外部との波動関数はなめらかにつながる
- $x<0$ では進行波(赤)と反射波(青)とが干渉し、定在波が立っている
- 障壁内部と外部の波動関数はなめらかにつながる
- 障壁内部では振幅が急激に減衰する
- 透過波は入射波と同じ波数、同じ周期を持つが、位相がずれている
- 透過波は入射波と同じ波数、同じ周期を持つが、振幅が減少し位相がずれている

波動関数の絶対値の二乗は以下のようになる。
波動関数の振幅の二乗 $|\varphi(x)|^2$ は以下のようになる。障壁の左側では進行波と反射波の干渉を反映して振幅が波打つ。
障壁内では振幅が急速に減少し、右端で残った成分が透過波となる。

&attachref(tunnel.png);

波長よりも厚い障壁に対しては、透過率は障壁厚さに対して指数関数的に減少する。
$1/\kappa$ よりも厚い障壁に対しては、透過率は障壁厚さに対して指数関数的に減少する。

 &math(|T|^2=\frac{1}{1+Y^2}\simeq \frac{1}{Y^2}\propto \sinh^2\kappa a\simeq (\exp 2\kappa a)/2);

&attachref(transmission-vs-width.png);

* 電子波の干渉と定在波 [#vbe9a453]

上では障壁の入射側に、入射波と反射波とが干渉して生じる定在波が生成されることを見た。

これと同様の原理で生じる電子密度の定在波は実際に顕微鏡で観測されている。

&attachref(corral_top.gif);

上の画像は "IBM Image Gallery" に掲載されていた走査トンネル顕微鏡画像である。

彼らは原子レベルで平坦に磨き上げた銅の表面に鉄原子をばらまいて、
それを針でつついて動かすことにより直径 12.4 nm の「囲い」を作成した。
この「囲い」は銅の表面近傍の電子に対して「エネルギー障壁」のように働くため、
囲いに入射する電子波は反射波と干渉し、その近傍で電子密度の定在波を生じる。

走査トンネル顕微鏡は電子の存在確率密度を可視化できるため、
上のような画像が得られるのである。

~
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* 質問・コメント [#f3f5be4b]

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**質問 [#q9fc23a9]
>[[匿名希望]] (&timetag(2019-10-19T11:30:57+09:00, 2019-10-19 (土) 20:30:57);)~
~
質問が2つあります。~
一つ目は、入射波、反射波、透過波のエネルギーについての質問です。~
subsection{エネルギー}の本文中に、「シュレディンガー方程式を満たすとき、入射波、反射波、透過波のエネルギーが等しくならなければならない。」とあります。これはなぜでしょうか?~
また、この部分のシュレディンガー方程式ですが、プランク定数が抜けていないでしょうか?~
2つ目は、運動量演算子に関する質問です。~
先日、量子力学の教科書を読んでいて、感じた疑問なのですが、運動量演算子には$\frac{\hbar\nabla}{i}$と、$-\frac{\hbar\nabla}{i}$の定義があるのですか?~

//
- 質問ありがとうございます。このページは書き直したいと思いつつそのままになっている部分があり、わかりにくくてすみません。 -- [[武内(管理人)]] &new{2019-10-21 (月) 15:03:10};
- 「シュレディンガー方程式を満たすとき、入射波、反射波、透過波のエネルギーが等しくならなければならない。」については、(1) 全波動関数は「流れのある定常状態」の解と見なせますので、あるエネルギーに対する固有関数になります。(2) いずれも等しいエネルギーの固有関数である入射波、反射波、透過波の重ね合わせとして全波動関数を表せるとき、波動方程式の線形性から全波動関数もそのエネルギーに対する固有関数となるため、そのようにして境界条件を満たす全波動関数を求めようというのが上での方針です。 -- [[武内(管理人)]] &new{2019-10-21 (月) 15:03:25};
- シュレディンガー方程式にプランク定数が抜けていたのはご指摘の通りでした。 -- [[武内(管理人)]] &new{2019-10-21 (月) 15:04:22};
- 運動量演算子については、波動関数を $e^{i(\bm k\cdot \bm x-\omega t)}$ と置いたときに $\hbar\bm k$ が出てくるよう、$\hat{\bm p}=\hbar\bm\nabla/i$ と置くことが多いと思います。 -- [[武内(管理人)]] &new{2019-10-21 (月) 15:04:41};

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**質問 [#c742fd9c]
>[[領域a]] (&timetag(2019-03-18T15:53:04+09:00, 2019-03-19 (火) 00:53:04);)~
~
トンネル効果の問題で確率密度の話が出てきますが、電子の存在確率が反射するとはどういうことでしょうか?~
壁から染み出すと波形が小さくなるとのことですが、透過した粒子は透過する前(元の粒子)と同じと言えるんですか?~

//
- 「電子の存在確率が反射する」について:「存在確率が反射」ではなく「存在確率密度の流れが反射」と言った方が良いかもしれませんね。光の反射を思い浮かべれば理解しやすいと思います。平面波の入射波は例えば「平均すると1秒間に10^^10^^個の電子がやってくる(電流にすると約1.6 nA)」というような状況を表していて、例えばそのうち 1/10 にあたる 0.16 nA 分の電流が透過した先で、9/10 にあたる約 1.4 nA が反射した先で電流として検出される、というような意味になります。「存在確率密度」は、ただそこにあっても我々からは見えず、同様の状況を何回も作りだし、繰り返し測定して始めて実測された確率と比較することができます。どのように測定したときにどういう結果が現れるか、という視点で考えると良いのではないでしょうか。 -- [[武内(管理人)]] &new{2019-03-19 (火) 09:35:41};
- 「同じと言えるかどうか」について:我々の日常の感覚からすると至極もっともな疑問ではあるのですが、「ある電子に印を付けておいて、後に検出された電子と同じであるかどうかを検証する」というような実験は不可能ですので、[[「実験事実により検証できない内容については議論しない」>量子力学Ⅰ/波動関数の解釈#fd91a38a]] という原則からすると「同じであるか」という問いは科学的ではないということになってしまいます。 [[多粒子系の量子力学>量子力学Ⅰ/多粒子系の波動関数とボゾン・フェルミオン]] の単元でしっかりと学ぶことになりますが、現在の量子力学は 「同種粒子の不可弁別性(個々の電子を区別できない)」 を内包していると解釈されています。 -- [[武内(管理人)]] &new{2019-03-19 (火) 09:36:37};
- もう少し感覚的な話をすると、実験事実として「障壁の左側に電子源があり、電子源から電子を送り込んだときのみ障壁の裏側で電子が観測される」という現象が見られたときに、電子源から出た電子が障壁をすり抜けて右側へ到達した、と解釈するか、電子源から出た電子がどこかで消えて、別の電子が右側で発生した、と解釈するか、の違いになりますね。「トンネル現象」という名前が受け入れられている事実からすると、多くの人は左から入ったのと同じ粒子が右側で観測されているのだろう、という意識を持っているのでしょうけれど、実際にそれを確かめる手段はありませんので、どちらが正しいかを議論しても仕方がありませんよ。という話になります。 -- [[武内(管理人)]] &new{2019-03-19 (火) 09:37:02};

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**周期的ポテンシャル障壁の高調波の振る舞い [#v6823582]
>[[伴 公伸]] (&timetag(2018-11-02T08:45:04+09:00, 2018-11-02 (金) 17:45:04);)~
~
ごく薄い壁の厚さしかない周期的ポテンシャル障壁において高調波の透過とそれら高調波の位相が各界面でどのようになるか、興味があります。~
教えてください。masanobuban@m.ieice.org~

//
- 申し訳ないのですがご質問はこの量子力学の授業の範囲を超えていて、すぐに適切な答えを用意できません。想定されている状況はどちらかというと固体物理学で扱われる内容に近いように思います。[[「クローニッヒ・ペニーの模型」>https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%83%E3%83%92%E3%83%BB%E3%83%9A%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%81%AE%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB]] の設定を少し変えることでそのような状況を適切に記述できそうに思います。ネット上にもいろいろと解説があるようですので参考になれば良いのですが。。。 -- [[武内(管理人)]] &new{2018-11-02 (金) 18:52:42};

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