球座標を用いた変数分離 のバックアップソース(No.16)

更新

* 目次 [#ibe32ff7]

[[量子力学Ⅰ]]

#contents
&mathjax();

* 球座標における微分演算子(まとめ) [#xcdb86c0]

[[導出方法はこちら>@量子力学Ⅰ/球座標における微分演算子]]

球座標:

 &math(
\begin{cases}
x=r\sin\theta\cos\phi\\
y=r\sin\theta\sin\phi\\
z=r\cos\theta
\end{cases}
);

ラプラシアン:

 &math(\nabla^2=\frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda);

 &math(\hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta}
\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2});

全角運動量:

 &math(
\hat{\bm l}^2=-\hbar^2\hat\Lambda
);

ラプラシアンの &math(1/r^2); の項の係数は、
全角運動量の演算子と &math(-\hbar^2); の係数を除いて等しい。

&math(z); 軸まわりの運動量:

 &math(
\hat l_z=-i\hbar\frac{\PD}{\PD\phi}
);

角運動量の上昇・下降演算子(意味は後ほど):

 &math(\hat l_\pm=\hat l_x\pm i\hat l_y=\hbar e^{\pm i\phi}\Big(\pm\frac{\PD}{\PD\theta}+\frac{i}{\tan\theta}\frac{\PD}{\PD\phi}\Big));


* 演習:シュレーディンガー方程式の変数分離 [#mfb957f5]

球座標表示におけるラプラシアンは、

 &math(\nabla^2=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r}\frac{\PD}{\PD r}+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda);

 &math(\hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta}
\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2});

以下の問いに従って、中心力場 &math(V(\bm r)=V(r)); の中での粒子の運動について考えよ。

(1) &math(\frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r}\frac{\PD}{\PD r}); を示せ。

(2) 与えられたラプラシアンの表式と (1) の結果を用いて、
球座標表示における時間によらないシュレーディンガー方程式を書き下せ。
解答には &math(\hat\Lambda); を用いて良い。

(3) 波動関数を &math(\varphi(r,\theta,\phi)=R(r)Y(\theta,\phi)); と置き、
(2) の方程式を変数分離することにより、以下の方程式を導け。
ただし共通の定数を &math(l(l+1)); と置いた。

 &math(
&-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\PD^2}{\PD r^2}rR(r)+\left\{V(r)+\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}\right\}rR(r)=\varepsilon\,rR(r)
);

 &math(
\hat\Lambda Y(\theta,\phi)=-l(l+1)Y(\theta,\phi)
);

(4) (3) の方程式を解いて得られる &math(Y(\theta,\phi)); および &math(\varphi); 
が全角運動量 &math(\hat l^2); の固有関数であり、その固有値が &math(\hbar^2l(l+1)); 
となることを確かめよ。

(5) 古典論において、質量 &math(m); の粒子が原点から &math(r); の距離を角速度 &math(\omega); 
で回転するときの角運動量は &math(L=mr^2\omega); であり、遠心力は &math(f_c=mr\omega^2); 
で与えられる。~
ここから遠心力に対するポテンシャルエネルギーが &math(V_c(r)=\frac{L^2}{2mr^2});
と書けることを示し、(3) で得た &math(R(r)); の方程式に現れる &math(\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}); 
の項が遠心力の寄与を表わすことを理解せよ。中心力場内では角運動量が保存量となるため、
遠心力とポテンシャルエネルギーとの関係は &math(L); 一定の元で &math(\frac{\PD V_c}{\PD r}=-f_c); 
であることに注意せよ。

(6) &math(Y(\theta,\phi)=\Theta(\theta)\Phi(\phi)); と置いて (3) の第2式を変数分離すると以下の式が得られることを確かめよ。

 &math(\left\{\sin\theta \frac{\PD}{\PD \theta}\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+
l(l+1)\sin^2\theta-m^2\right\}\Theta(\theta)=0);

 &math(\frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\Phi(\phi)=-m^2\Phi(\phi));

ただし、共通の定数を &math(-m^2); と置いた(質量 &math(m); と紛らわしいが慣例に従った)。

(7) &math(\Phi); に対する方程式を解き、&math(\Phi(2\pi)=\Phi(0)); を満たすためには 
&math(m); が整数値を取らなければならないことを確かめよ。

(8) (6), (3) を解いて得られた &math(\Phi(\phi)); および &math(\varphi(r,\theta,\phi)); は
&math(\hat l_z); の固有関数であり、その固有値が &math(\hbar m); であることを確かめよ。
((符号をどう取るかに任意性が残るため、少し曖昧な書き方になっている))

[[●解答はこちら>@量子力学Ⅰ/球座標を用いた変数分離/メモ#cabc7bba]]

** 解説 [#zf4c1722]

上で見たように、中心力場内のシュレーディンガー方程式は、球座標を用いることにより&math(\varphi(r,\theta,\phi)=R(r)\Theta(\theta)\Phi(\phi)); の形に変数分離して解くことが可能である。

&math(\Theta(\theta),\Phi(\phi)); についての方程式には &math(V(r)); が含まれないため、
ポテンシャルの形状によらず解くことができる。

その解は

 &math(l=0,1,2,\dots);~
 &math(m=-l,-(l-1),\dots,l-1,l);

の2つの整数からなる量子数を用いて

 &math(Y_l{}^m(\theta,\phi)=\Theta_l{}^m(\theta)\Phi_m(\phi)); 

のようにラベル付けされる。

&math(l,m); は物理的にはそれぞれ全角運動量の二乗 &math(\hat l^2); および &math(z); 軸周りの角運動量 &math(\hat l_z); に関連する量子数であり、

 &math(\hat l^2\,Y_l{}^m=\hbar^2l(l+1)\,Y_l{}^m);~
 &math(\hat l_z\,Y_l{}^m=\hbar m\,Y_l{}^m);~

の関係がある。すなわち &math(\,Y_l{}^m); は &math(\hat l^2); と &math(\hat l_z); の同時固有関数である。

全角運動量 &math(\hat l); の大きさは、&math(\sqrt{\hbar^2l(l+1)}); であるが、慣例として「角運動量が &math(\hbar l); の時」などという。
全角運動量が &math(\hbar l); のとき &math(z); 軸周りの角運動量が &math(-\hbar l\le \hbar m\le\hbar l); となるのは当然と思えるはず。
&math(m=\pm l); のときも、不確定性により &math(l_x, l_y); は完全にゼロにはならないため、
&math(\hat l^2=\hbar^2 l^2); ではなく &math(\hat l^2=\hbar^2 l(l+1)); となる。

&math(rR(r)); についての方程式には &math(V(r)); の他に全角運動量の二乗 &math(\hbar^2l(l+1)); を含む項 &math(\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}); が現れ、
これは遠心力に対するポテンシャルを表わす(遠心力は全角運動量の二乗に比例する)。

一般に、&math(R(r)); についての方程式を解く際にもう1つの量子数 &math(n); が現れるため、
全体としての解は &math(l,m,n); の3つの量子数により、

 &math(\varphi_{nml}=R_n{}^l(r)\Theta_l{}^m(\theta)\Phi_m(\phi));

のようにラベル付けされる。

原子の軌道を表す場合には、
&math(R(r)); に関する解を &math(R_2{}^1(r)); などと書く代わりに &math(s,p,d,f,g,\dots); のアルファベットを用いて、&math(R_{2p}(r)); などと書くことの方が一般的である。&math(l); とアルファベットの対応は以下の通り。原子の軌道を考える際には多くの場合 f 軌道までで十分である。現在知られている最も重い原子でも、基底状態では g, h などの電子軌道に電子が入ることはない。

|~ &math(l);   | 0  | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | … |
|~文字          | s | p | d | f | g | h | … |

* 波動関数の正規直交性 [#za1cce48]

正しく規格化することにより、上記の &math(\varphi_{lmn}); は正規直交性を示す。

 &math(\iiint\varphi_{lmn}^*\varphi_{l'm'n'}d\bm r=\delta_{ll'}\delta_{mm'}\delta_{nn'});

左辺の積分を球座標で書けば、

 &math(= \int_0^\infty dr\int_0^{\pi}rd\theta\int_0^{2\pi}r\sin\theta d\phi\ 
\varphi_{lmn}^*\varphi_{l'm'n'});

 &math(
=\underbrace{ \int_0^{\pi}\Theta_l{}^m(\theta)^*\Theta_{l'}{}^{m'}(\theta)\,\sin\theta d\theta}_{\delta_{ll'}}\ 
 \underbrace{ \int_0^{2\pi}\Phi_m(\phi)^*\Phi_{m'}(\phi) \,d\phi}_{\delta_{mm'}}\ 
 \underbrace{ \int_0^\infty R_n{}^l(r)^*R_{n'}{}^{l'}(r)\,r^2dr}_{\delta_{nn'}}
);

となって、&math(R(r),\Theta(\theta),\Phi(\phi)); に対する正規直交条件は、

 &math(\int_0^\infty R_n{}^l(r)^*R_{n'}{}^{l'}(r)\,r^2dr=\delta_{nn'});~
 &math(\int_0^{\pi}\Theta_l{}^m(\theta)^*\Theta_{l'}{}^{m'}(\theta)\,\sin\theta d\theta=\delta_{ll'});~
 &math(\int_0^{2\pi}\Phi_m(\phi)^*\Phi_{m'}(\phi) \,d\phi=\delta_{mm'});

となる。

&math(R(r)); に対する積分に &math(r^2);、
&math(\Theta(\theta)); に対する積分に &math(\sin\theta); の重みが
それぞれかかることに注意せよ。

* 参考資料 [#q0452a7a]

- http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10105886670

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