球座標を用いた変数分離 のバックアップ(No.30)

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目次

量子力学Ⅰ

中心力場の中での運動

球対称なポテンシャル V(\bm r)=V(r) の中での運動を考える。

このとき、 x,y,z の直交座標ではなく、 r,\theta,\phi を用いた球座標を用いると都合がよい。

球座標における微分演算子(まとめ)

spherical-coordinate2.svg

導出方法はこちら

球座標:

 &math( \begin{cases} x=r\sin\theta\cos\phi\\ y=r\sin\theta\sin\phi\\ z=r\cos\theta \end{cases} );

ラプラシアン:

 &math(\nabla^2=\Delta=&\frac{\PD^2}{\PD x^2}+\frac{\PD^2}{\PD y^2}+\frac{\PD^2}{\PD z^2}\\ =&\frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda);

 &math(\hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2});

角運動量の大きさの2乗:

 &math( \hat{\bm l}^2=|\bm r\times\hat{\bm p}|^2=-\hbar^2\hat\Lambda );

ラプラシアンの 1/r^2 の項の係数は、 角運動量の大きさの2乗の演算子 \hat l^2 -\hbar^2 の係数を除いて等しい。

z 軸まわりの運動量:

 &math( \hat l_z=(\bm r\times\hat{\bm p})_z=-i\hbar\frac{\PD}{\PD\phi} );

残りの角運動量:

 &math( \hat l_x^2+\hat l_y^2=&\,\hat{\bm l}^2-\hat l_z^2\\ =&-\hbar^2\left[\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\right]+\hbar^2\frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\\ =&-\hbar^2\left[\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\tan^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\right]\\ );

角運動量の上昇・下降演算子(意味は後ほど):

  \hat l_\pm=\hat l_x\pm i\hat l_y=\hbar e^{\pm i\phi}\Big(\pm\frac{\PD}{\PD\theta}+\frac{i}{\tan\theta}\frac{\PD}{\PD\phi}\Big)

演習:シュレーディンガー方程式の変数分離

球座標表示におけるラプラシアンは以下のように表される。

  \nabla^2=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r}\frac{\PD}{\PD r}+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda

 &math(\hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2});

以下の問いに従って、中心力場 V(\bm r)=V(r) の中での粒子の運動について考えよ。

(1) \frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r}\frac{\PD}{\PD r} を示せ。

(2) 与えられたラプラシアンの表式と (1) の結果を用いて、 球座標表示における時間を含まないシュレーディンガー方程式を書き下せ。 解答には \hat\Lambda を用いて良い。

(3) 波動関数を \varphi(r,\theta,\phi)=R(r)Y(\theta,\phi) と置き、 (2) の方程式を変数分離することにより、以下の方程式を導け。 ただし共通の定数を l(l+1) と置いた。

 &math( &-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\PD^2}{\PD r^2}rR(r)+\left\{V(r)+\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}\right\}rR(r)=\varepsilon\,rR(r) );

 &math( \hat\Lambda Y(\theta,\phi)=-l(l+1)Y(\theta,\phi) );

(4) (3) の方程式を解いて得られる Y(\theta,\phi) および \varphi が角運動量の大きさの2乗 \hat l^2 の固有関数であり、その固有値が \hbar^2l(l+1) となることを確かめよ。

(5) 古典論において、質量 m の粒子が原点から r の距離を角速度 \omega で回転するときの角運動量は L=mr^2\omega であり、遠心力は f_c=mr\omega^2 で与えられる。
ここから遠心力に対するポテンシャルエネルギーが V_c(r)=\frac{L^2}{2mr^2} と書けることを示し、(3) で得た R(r) の方程式に現れる \frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2} の項が遠心力の寄与を表わすことを理解せよ。中心力場内では角運動量が保存量となるため、 遠心力とポテンシャルエネルギーとの関係は L 一定の元で \frac{\PD V_c}{\PD r}=-f_c であることに注意せよ。

(6) Y(\theta,\phi)=\Theta(\theta)\Phi(\phi) と置いて (3) の第2式を変数分離すると以下の式が得られることを確かめよ。

 &math(\left\{\sin\theta \frac{\PD}{\PD \theta}\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+ l(l+1)\sin^2\theta-m^2\right\}\Theta(\theta)=0);

  \frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\Phi(\phi)=-m^2\Phi(\phi)

ただし、共通の定数を -m^2 と置いた(質量 m と紛らわしいが慣例に従った)。

(7) \Phi に対する方程式は、 \Phi \frac{\PD}{\PD \phi}\Phi(\phi)=im\Phi(\phi) を満たせば自動的に満たされる。この方程式を解き、連続の条件 \Phi(2\pi)=\Phi(0) を満たすためには m が整数値を取らなければならないことを確かめよ。

(8) (7), (3) を解いて得られた \Phi(\phi) および \varphi(r,\theta,\phi) \hat l_z の固有関数であり、その固有値が \hbar m であることを確かめよ。

●解答はこちら

解説

球対称ポテンシャル V(\bm r)=V(r) に対する時間を含まないシュレーディンガー方程式:

 &math( \hat H\varphi(\bm r)=\left[-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}+V(r)\right]\varphi(\bm r)=\varepsilon \varphi(\bm r) );

は球座標

 &math( \begin{cases} x=r\sin\theta\cos\phi\\ y=r\sin\theta\sin\phi\\ z=r\cos\theta \end{cases} );

を用いて \varphi=R(r)Y(\theta,\phi) のように変数分離できることを仮定すると、

 &math( \hat {\bm l}^2 \,Y_l(\theta,\phi)=\hbar^2l(l+1)\,Y_l(\theta,\phi) );

 &math( \displaystyle\underbrace{\bigg[-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dr^2}+\bigg\{V(r)+\overbrace{\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}}^{遠心力ポテンシャル}\bigg\}\bigg]}_{\textstyle \hat H^l}\Big\{rR_n{}^l(r)\Big\}=\varepsilon_n{}^l\Big\{rR_n{}^l(r)\Big\} );

を得る。

第2式は Y(\theta,\phi) が全角運動量の二乗 \hat{\bm l}^2 の固有関数であることを示しているが、これは波動関数 \varphi 自体が \hat{\bm l}^2 の固有関数ということと同義である。 ( \hat{\bm l}^2 R(r) に作用しないことに注意せよ)

そこで上式は、全角運動量の二乗が \hbar^2l(l+1) と確定した波動関数に対しては、 rR(r) が遠心力に対するポテンシャル \hbar^2l(l+1)/2mr^2 を含めた1次元ハミルトニアン \hat H^l に対するシュレーディンガー方程式の解となる ことを示している。(遠心力が外向きに働くことに対応して、原点から遠ざかる向きにポテンシャルが減少することを確認せよ)

なぜ R(r) でなく rR(r) に対する方程式となるかについては後に見る

全角運動量を決める量子数 l (後にこれがゼロ以上の整数となることを見る) が変わると rR(r) に対する方程式も変化する。 各 l に対して複数の固有値 \varepsilon_n^l と固有関数 R_n^l(r) が見つかるため、エネルギーは2つの量子数 n, l で指定される。

Y に対する方程式は V(r) を含まない。 すなわち中心力でさえあれば、具体的なポテンシャル形状を与えずに解ける。

Y=\Theta(\theta)\Phi(\phi) のように変数分離できることを仮定すると、

 &math( \hat l_z^2\Phi(\phi)=-\hbar^2\frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\Phi(\phi)=\hbar^2m^2\Phi(\phi) );

 &math( &\bigg\{\frac{\hbar^2}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta}\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)

  1. \frac{\hbar^2 m^2}{\sin^2\theta}\bigg\}\Theta(\theta)=\\ &\bigg\{\underbrace{\frac{\hbar^2}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta}\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{\hbar^2m^2}{\tan^2\theta}\rule[-11pt]{0pt}{0pt}}_{\displaystyle l_x^2+l_y^2}+ \underbrace{\hbar^2 m^2\rule[-11pt]{0pt}{0pt}}_{\displaystyle l_z^2}\bigg\}\Theta(\theta)=\underbrace{\hbar^2l(l+1)\rule[-11pt]{0pt}{0pt}}_{\displaystyle l^2}\,\Theta(\theta) );

を得る。

\phi z 軸周りの回転を表すから、 \Phi には \Phi(\phi+2\pi)=\Phi(\phi) の周期性が要求される。 ここから、 m が整数であることが必要となる( m=\dots,-2,-1,0,1,2,\dots )。 このとき、 \Phi(\phi) \hat l_z の固有値 \hbar m の固有関数となる。

\hbar m z 軸周りの角運動量を表し、 \hbar^2l(l+1) が全角運動量の2乗を表すことを考えれば、 第2式の左辺で \hbar^2 m^2 を除いた部分が \hat l_x^2+\hat l_y^2 を表すことが分かる。

第2式は l_z が決定している状況で l^2 の固有値を求める問題になっており、

  l\ge |m|

を満たす整数値 l に対してのみ解を持つことが知られている。

逆に、ある l に対しては -l\le m \le l となるため、

全角運動量 l\sim\hbar l z 軸周り角運動量 l_z=\hbar m 状態
l=0 m=0 s 状態
l=1 m=-1,0,1 p 状態
l=2 m=-2,-1,0,1,2 d 状態
l=3 m=-3,-2,-1,0,1,2,3 f 状態
\vdots \vdots \vdots

原子の軌道を表す場合には、量子数 l をそのまま用いる代わりに s,p,d,f,g,\dots のアルファベットを用いる方が一般的である。 l とアルファベットの対応は以下の通り。原子の軌道を考える際には多くの場合 f 軌道までで十分である。現在知られている最も重い原子でも、基底状態では g, h などの電子軌道に電子が入ることはない。

  l  0 1  2  3  4  5  … 
文字 s  p  d  f  g  h  … 

上記を線形代数的な言葉でまとめるならば、

  \hat{\bm l}^2Y_l{}^m(\theta, \phi)=\hbar^2l(l+1) Y_l{}^m(\theta, \phi)

なる固有値問題において、固有値 \hbar^2l(l+1) に対する Y の固有空間は 2l+1 次元になる。 そして、この固有空間に角運動量の z 成分を表す演算子 \hat l_z に対する 2l+1 個の独立な固有関数を取ったのが Y_l{}^m(\theta, \phi)=\Theta_l{}^m(\theta)\Phi_m(\phi) である。

  l_zY_l{}^m(\theta, \phi)=\hbar m Y_l{}^m(\theta, \phi)

ただし、

  l=0,1,2,\dots

  m=-l,-l+1,\dots,-1,0,1,\dots,l-1,l

この関数は 球面調和関数 と呼ばれ、具体的には次の形を取る。

 &math( Y_l^m(\theta,\phi)= \underbrace{(-1)^{(m+|m|)/2}\sqrt{\frac{2l+1}{2}\frac{(l-|m|)!}{(l+|m|)!}}P_l^{|m|}(\cos\theta)}_{\Theta(\theta)} \underbrace{\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{im\phi}}_{\Phi(\phi)} );

結果的に3次元の固有関数は3つの量子数 l,m,n でラベル付けされ、

  \varphi_{lmn}(r,\theta,\phi)=R_n^l(r)Y_l^m(\theta,\phi)=R_n^l(r)\Theta_l^m(\theta)\Phi_m(\phi)

  \hat H\varphi_{lmn}(r,\theta,\phi)=\varepsilon_n{}^l\varphi_{lmn}(r,\theta,\phi)

すなわち、この系のエネルギー固有値は2つの量子数 l,n により指定される。

n を主量子数、 l を方位量子数、 m を磁気量子数、と呼ぶ。

\varphi_{lmn} に対して \hat l^2 \varphi_{lmn}= \hbar^2l(l+1)\varphi_{lmn} であるから、この関数の角運動量の大きさ |\bm l| \hbar\sqrt{l(l+1)} であるが、 慣例として「角運動量の大きさが \hbar l のとき」などという。

角運動量の大きさが \hbar l であるとき、その z 成分 l_z -\hbar l\le \hbar m\le \hbar l を満たすのは当然と思えるはずである。 m=\pm l のときも、不確定性により l_x,l_y は完全にはゼロとならず、 l_x^2+l_y^2=\hbar^2 l となる。これが |\bm l|^2=\hbar^2l^2 とはならず、 |\bm l|^2=\hbar^2l(l+1) となる理由である。

波動関数 \varphi_{nml}(\bm r)=R_n{}^l(r)Y_l{}^m(\theta,\phi) を全空間で積分した際に1となるよう規格化するためには、 R(r),\Theta(\theta),\Phi(\phi) をそれぞれ、

 &math( &\iiint|\varphi(\bm r)|^2d^3r=\\ &\int_0^\infty dr\int_0^\pi r\sin\theta\,d\theta\int_0^{2\pi}r\,d\phi\ |\varphi(\bm r)|^2=\\ &\underbrace{\int_0^\infty r^2|R(r)|^2dr}_{\displaystyle=1}\ \underbrace{\int_0^\pi \sin\theta|\Theta(\theta)|^2 d\theta}_{\displaystyle=1}\ \underbrace{\int_0^{2\pi}|\Phi(\phi)|^2 d\phi}_{\displaystyle=1}=1 );

となるように規格化すればよい。*1これを 1\times 1\times 1 ではなく 1/4\pi\times 2\times 2\pi となるよう規格化しても構わないのだが、球面調和関数の定義が上記の規格化を採用しているため、ここでもこれに従う

R(r) に対する積分に r^2 \Theta(\theta) に対する積分に \sin\theta の重みが それぞれかかることに注意せよ。

それぞれの正規直交性は、

 &math( \int_0^\infty \big\{rR_n{}^l(r)\big\}^*\big\{rR_{n'}{}^l(r)\big\}\,dr=\delta_{nn'} );

 &math( \int_0^\pi \sin\theta\ \Theta_l^m(\theta)^*\Theta_{l'}^m(\theta) d\theta=\delta_{ll'} );

 &math( \int_0^{2\pi}\Phi_m(\phi)^*\Phi_{m'}(\phi) d\phi=\delta_{mm'} );

であり、このとき

 &math( \iiint\varphi_{lmn}^*(\bm r)\varphi_{l'm'n'}(\bm r)d^3r &=\delta_{ll'}\delta_{mm'}\delta_{nn'}\\ &=\begin{cases} \ 1&(l=l',\, m=m',\, n=n')\\ \ 0&(それ以外)\\ \end{cases} );

が成り立つ。


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質問・コメント




演習問題解説 ミス

ね こ? ()

内容が充実していていつも参考にさせていただいております。

軽微なミスの指摘になりますが、演習問題の解説の
球対称ポテンシャルV=V(r)に対する時間を含まないシュレーディンガー方程式:
の直下の式中で∂^2/∂x^2とありますが、∇^2ではないでしょうか。


*1 これを 1\times 1\times 1 ではなく 1/4\pi\times 2\times 2\pi となるよう規格化しても構わないのだが、球面調和関数の定義が上記の規格化を採用しているため、ここでもこれに従う

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