量子力学Ⅰ/3次元調和振動子 のバックアップ差分(No.10)

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#mathjax

* 3次元調和振動子 [#a46a099a]

原点からの距離に比例する大きさの、原点方向に引き戻す力を受ける粒子の運動を考える。

 &math(\bm F=-K\bm r);

 &math(V(r)=\frac{1}{2}Kr^2);

であるから、

 (1) &math(V(x,y,z)=\frac{1}{2}K(x^2+y^2+z^2));

 (2) &math(V(r,\theta,\phi)=\frac{1}{2}Kr^2);

と書ける。

以前、3次元調和振動子について学んだ際には、(1) の表式から
&math(x,y,z); について変数分離をして、1次元の調和振動子の積として解けることを見た。

 &math(\phi(x,y,z)=X(x)Y(y)Z(z));

ただし、&math(X(x),Y(y),Z(z)); はそれぞれエルミート多項式 &math(H_n); を使って、

 &math(H_n(\xi)e^{-\xi^2/2});

の形に書けるから、

 &math(\phi_{n_xn_yn_z}(x,y,z)=H_{n_x}(x/r_0)H_{n_y}(y/r_0)H_{n_z}(z/r_0)e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}});

ただし、&math(r_0=\sqrt{\frac{\hbar}{m\omega}}); と表される。このとき、

 &math(
\varepsilon_N&=\varepsilon_{n_x}+\varepsilon_{n_y}+\varepsilon_{n_z}\\
&=\hbar\omega(n_x+n_y+n_z+3/2)\\
&=\hbar\omega(N+3/2)\\
);

ただし、&math(N=n_x+n_y+n_z); と置いた。

一方、3次元調和振動子は上の &math(V(r)); 
の形を見ても明らかな通り球対称な中心力中における運動であるから、
これを球座標で展開して解くことにより、

 &math(\phi_{nlm}'(r,\theta,\phi)=R_n{}^l(r)Y_l{}^m(\theta,\phi));

と表せるはずである。ただしこのとき、

 &math(\varepsilon=\varepsilon_n{}^l);

と書き表せ、エネルギーは &math(m); の値によらない。

* $x,y,z$ 座標形で求めた解と球座標解との対応 [#r859e16f]

3次元調和振動子を &math(x,y,z); 座標で説いた結果得られた解をエネルギーの低いものから並べれば、

|CENTER:|LEFT:|CENTER:|c
|&math(N=n_x+n_y+n_z);|     &math((n_xn_yn_z));     |縮退度|
|0|(0 0 0)|1|
|1|(1 0 0), (0 1 0), (0 0 1)|3|
|2|(2 0 0), (0 2 0), (0 0 2)|6|
|~|(1 1 0), (1 0 1), (0 1 1)|~|
|3|(3 0 0), (0 3 0), (0 0 3)|10|
|~|(2 1 0), (0 2 1), (1 0 2)|~|
|~|(1 2 0), (0 1 2), (2 0 1)|~|
|~|(1 1 1)                  |~|

などとなる。

すなわち、&math(N=0,1,2,3,\dots); のそれぞれに対して
独立な解が &math(1,3,6,10,\dots); 個存在することになる。

一方、同じ系を球座標で解けばその角度依存性は先に見たとおり球面調和関数で表され、

|CENTER:60|CENTER:60|CENTER:200|CENTER:60|c
|状態|l|m|縮退度|
|s|0|0|1|
|p|1|-1, 0, +1|3|
|d|2|-2, -1, 0, 1, 2|5|
|f|3|-3, -2, -1, 0, 1, 2, 3|7|

のように、&math(l=0); の解は縮退がなく、&math(l=1); の解は3重に、&math(l=2); は5重に縮退するはずである。
また、水素原子のところでも見たとおり、ポテンシャルの形状によっては &math(m); 
に対する縮退以外にも、異なる &math(l); を持つ状態が縮退することがある。

これはどういうことだろう?

- 縮退のない &math(n=0); は s 状態であるべき
-- もし p 状態なら縮退した3つの独立な解があるはず!
- 3重に縮退した &math(n=1); は3重に縮退した p 状態であるか、あるいは3つの s 状態が縮退した状態である(今の場合前者が正解)
- 6重に縮退した &math(n=2); は縮退のない s 状態と5重に縮退した d 状態が縮退した状態、あるいは3重に縮退した p 状態が2つ縮退した状態である(今の場合前者が正解)
- 10重に縮退した &math(n=3); は3重に縮退した p 状態と7重に縮退した f 状態が縮退した状態、あるいは・・・

にそれぞれ対応していることが期待され、以下に見るように確かにそのようになっている。

* $n=0$ の解 [#d4bfce50]

 &math(
\varphi_{000}(\bm r)
&=\left(\frac{4\pi}{r_0}\right)^{3/4}e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}
&\propto e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}
);

は &math(\theta,\phi); に依存しない。

一方、&math(Y_0{}^0=1/\sqrt{4\pi}); も &math(\theta,\phi); に依存していないので、

 &math(
\varphi_{000}(\bm r)
&\propto e^{-\frac{r^2}{r_0^2}}\,Y_0{}^0\\
);

と書ける。

すなわち &math(n=0); の解は s 状態であり、&math(\varphi_{000}); に対して &math(\hat l^2=0,\hbar l_z=0); であることが分かる。

* $n=1$ の解 [#zc579fdf]

 &math(
\varphi_{100}(\bm r)\propto\frac{x}{r_0}e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}
=\sin\theta\cos\phi e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}
);

 &math(
\varphi_{010}(\bm r)\propto\frac{y}{r_0}e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}
=\sin\theta\sin\phi e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}
);

 &math(
\varphi_{001}(\bm r)\propto\frac{z}{r_0}e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}
=\cos\theta e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}
);

ここで、

 &math(
\begin{cases}
x=r\sin\theta\cos\phi\\
y=r\sin\theta\sin\phi\\
z=r\cos\theta
\end{cases}
);

でることに注意せよ。

一方、

 &math(Y_1{}^0\propto \cos\theta);

 &math(Y_1{}^{\pm 1}\propto \pm e^{i\phi}\sin\theta);

であったから、

 &math(
\varphi_{100}(\bm r)\propto \frac{r}{r_0}e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}\,(Y_1{}^1-Y_1{}^{-1})/2
);

 &math(
\varphi_{010}(\bm r)\propto i\frac{r}{r_0}e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}\,(Y_1{}^1+Y_1{}^{-1})/2i
);

 &math(
\varphi_{001}(\bm r)\propto \frac{r}{r_0}e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}\,Y_1{}^0
);

すなわち、&math(N=1); に対応する &math(\varphi_{n_xn_yn_z}); はすべて、

 &math(\frac{r}{r_0}e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}\,Y_1{}^m(\theta,\phi));

の形の関数の線形結合で表されることが分かる。

同じ固有値に属する固有関数の線形結合は、やはり同じ固有値に属する固有関数になるから、
&math(\hat l^2); に対する &math(l=1); の固有関数の線形結合として表されるこれらの関数は、
やはり &math(l=1); の固有関数になる。すなわち p 状態である。

&math(\varphi_{001}); はそのまま &math(\hat l_z); の &math(m=0); に対する固有関数でもある。

&math(\varphi_{100},\varphi_{010}); はそのままでは &math(\hat l_z); の固有関数ではないが、

 &math(\varphi_{100}+i\varphi_{010}\propto Y_1{}^1);

 &math(\varphi_{100}-i\varphi_{010}\propto Y_1{}^{-1});

とすることにより &math(\hat l_z); のそれぞれ &math(m=1,-1); の固有関数となる。

物理的には、&math(z); 方向に振動する &math(\varphi_{001}); については &math(z); 
軸周りの角運動量はゼロであり、&math(x,y); 方向に振動する &math(\varphi_{100},\varphi_{010}); 
についてもそれら単独ではやはり &math(z); 軸周りの角運動量の期待値はゼロである。

しかし、&math(x); 方向に振動しつつ同時に &math(y); 方向にも振動する場合、
それらの位相によっては &math(z); 軸周りの各運動量が生じることになる。

ここでは &math(\pm i=e^{\pm \pi/2}); をかけて足しており、
これは物理的には &math(x); 方向の振動に対して &math(y); 方向の振動の位相が &math(\pm \pi/2); 
だけずれており、なおかつ両方向の振幅が等しいことに対応する。
すなわち、&math(x); が &math(\sin\omega t); 的な振動をするとき
&math(y); が &math(\pm\cos\omega t); 的に振動することになり、
これはすなわち &math(z); 軸の周りの左回り/右回りの円運動に他ならない。

* $n=2$ および $n=3$ の解 [#d984bf3e]

上では、

 &math(\begin{array}{lll}
r (Y_1{}^{1}-Y_1{}^{-1})&=r\phi_{px}&\propto x\\
r i(Y_1{}^{1}+Y_1{}^{-1})&=r\phi_{py}&\propto y\\
r Y_1{}^0&=r\phi_{pz}&\propto z\\
 &math(
\begin{array}{llll}
r (Y_1{}^{1}-Y_1{}^{-1})&\propto x&\to&\varphi_{px}=\frac{1}{\sqrt{2}}(Y_1{}^{1}-Y_1{}^{-1})\\
r i(Y_1{}^{1}+Y_1{}^{-1})&\propto y&\to&\varphi_{py}=\frac{-i}{\sqrt{2}}(Y_1{}^{1}+Y_1{}^{-1})\\
r Y_1{}^0&\propto z&\to&\varphi_{pz}=Y_1{}^0\\
\end{array}
);

を用いて式変形を行ったが、これと同様に、

 &math(
\begin{array}{lll}
r^2\, i(Y_2{}^{2}-Y_2{}^{-2}) &=r^2\varphi_{dxy}        &\propto xy\\
r^2\, i(Y_2{}^{1}+Y_2{}^{-1})&=r^2\varphi_{dyz}        &\propto yz\\
r^2\, (Y_2{}^{1}-Y_2{}^{-1}) &=r^2\varphi_{dzx}        &\propto zx\\
r^2\, (Y_2{}^{2}+Y_2{}^{-2})&=r^2\varphi_{d(x^2-y^2)} &\propto x^2-y^2\\
r^2\, Y_2{}^{0}              &=r^2\varphi_{d(3z^2-r^2)}&\propto 3z^2-r^2
\begin{array}{lllll}
r^2\, i(Y_2{}^{2}-Y_2{}^{-2})        &\propto xy&\to&\varphi_{dxy}&=\frac{-i}{\sqrt 2}(Y_2{}^{2}-Y_2{}^{-2})\\
r^2\, i(Y_2{}^{1}+Y_2{}^{-1})        &\propto yz&\to&\varphi_{dyz}&=\frac{-i}{\sqrt 2}(Y_2{}^{1}+Y_2{}^{-1})\\
r^2\, (Y_2{}^{1}-Y_2{}^{-1})        &\propto zx &\to&\varphi_{dzx}&=\frac{1}{\sqrt 2}(Y_2{}^{1}-Y_2{}^{-1})\\
r^2\, (Y_2{}^{2}+Y_2{}^{-2})&\propto x^2-y^2&\to&\varphi_{d(x^2-y^2)}&=\frac{1}{\sqrt 2}(Y_2{}^{2}+Y_2{}^{-2})\\
r^2\, Y_2{}^{0}              &\propto 3z^2-r^2&\to&\varphi_{d(3z^2-r^2)}&=Y_2{}^{0}
\end{array}
);

などの関係を用いることにより、

- 6重に縮退した &math(N=2); は s 状態と d 状態が1つずつ縮退した状態

- 10重に縮退した &math(N=3); は p 状態と f 状態の縮退した状態

になっていることを確かめられる。具体的には、

&math(N=2); の解は、

 &math(\left(-1+\frac{2}{3}\frac{r^2}{r_0^2}\right)e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}\,Y_{0}^{0});
 と、
 &math(\frac{r^2}{r_0^2}e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}\,Y_{2}^{m});

の線形結合で、

&math(N=3); の解は、

 &math(\left(1-\frac{2}{5}\frac{r^2}{r_0^2}\right)\frac{r}{r_0}e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}\,Y_1^m);
 と、
 &math(\frac{r^3}{r_0^3}e^{-\frac{r^2}{2r_0^2}}\,Y_3^m);

の線形結合で、それぞれ表せる。[[詳しい計算はこちら>@量子力学Ⅰ/3次元調和振動子/メモ]]

* 演習:3次元調和振動子の動径方向の方程式 [#jd93721a]

上で出てきた動径方向の関数が、対応する &math(l); 
の値に対して3次元調和振動子の方程式の解になっていることと、
その固有値が与えられた &math(n); から予想されるエネルギー値に等しいことを確かめたい。

(1) 3次元調和振動子に対する動径方向の方程式は、
&math(r/r_0=\xi); と書き換え、&math(rR(r)=X(\xi)); と置けば、

&math(
-\frac{X''(\xi)}{X(\xi)}+\xi^2+\frac{l(l+1)}{\xi^2}=\frac{2\varepsilon}{\hbar\omega}\\
);

となることを示せ。(&math(l=0); のとき、この式は1次元調和振動子の式と一致する)

(2) &math(-\frac{d^2}{d\xi^2}\left(\xi^n e^{-\xi^2/2}\right)=\left(-\xi^2+(2n+1)-\frac{(n-1)n}{\xi^2}\right)\xi^n e^{-\xi^2/2}); となることを確かめよ。

(3) &math(X(\xi)=\xi^{l+1} e^{-\frac{\xi^2}{2}}); が
&math(\varepsilon=\left(l+\frac{3}{2}\right)\hbar\omega); に対する固有関数となることを示せ。

(4) &math(X(\xi)=\left\{\xi^{l+1}-\frac{2}{2(l+1)+1}\xi^{l+3}\right\}e^{-\xi^2/2});
が &math(\varepsilon=\left(l+\frac{7}{2}\right)\hbar\omega);
に対する固有関数となることを示せ。

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* 質問・コメント [#r449b67e]

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