三次元空間での散乱現象 のバックアップ差分(No.12)

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* 概要 [#p54b4c9c]

#contents

* 三次元空間での散乱現象 [#u8667d1b]

静止した粒子に別の粒子が高速で衝突する過程((加速器などによる素粒子物理学や、放射線による健康被害などに現れる物理現象である))を理論的に扱うには、
重心座標を用いて2粒子の相対運動を記述するのが常套手段となる。
なぜなら静止していた粒子も反跳により動き出すためである。

しかしここではそのような問題を単純化して、___静的で局所的な___ポテンシャル &math(V(\bm r)); 
に粒子が入射し、散乱される現象を考える。
これは、非常に軽い粒子が、非常に重い粒子の作るポテンシャルに散乱される場合の近似となる。
→ 反跳を無視するということ

ポテンシャルが局所的と見なせるとき、遠く離れた位置において粒子は自由である。
入射粒子はそのような遠方において運動量が確定しており、すなわち平面波で表されるとしよう。

 &math(\varphi_I(\bm r)=e^{i\bm k_0\cdot\bm r});

1粒子問題では散乱波の振幅は入射波の振幅に比例するから、
入射波の振幅を1として計算し、必要に応じて後から振幅をかければよい。

1次元の散乱では、散乱結果について反射波と透過波のみを考えれば良かったが、

~

&attachref(scattering_1d.png,,25%);

~

3次元の散乱では、散乱波は標的から3次元的に広がる。

&attachref(scattering_3d.png,,25%);

波動関数を入射波と散乱波とに分けて書くことにして、後者を &math(g(\bm r)); と置けば、

 &math(\varphi(\bm r)=\varphi_I(\bm r)+g(\bm r));

検出器の位置での &math(|g(\bm r)|^2); の値が散乱実験における検出強度に対応すると考えられる。
数学的には入射波は全空間に広がっているから検出器の位置でも振幅を持つが、
実験的には入射波はビーム状になっており、&math(V(\bm r)); の広がりのスケールでは平面波と見なせるものの、検出器位置での振幅はゼロと見なせるためである。

定常的な粒子の流れが実現している状況では確率分布が時間によらないから、

 &math(\left\{-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(\bm r)\right\}\varphi(\bm r)=\varepsilon\varphi(\bm r));

を解いて &math(g(\bm r)); を求めることになる。

散乱波は散乱体から四方八方に広がるため、散乱体から十分に離れた箇所では &math(g(\bm r)\to 0); となることが予想される。そのような箇所では波動関数は上記平面波のみで表されるが、この平面波がシュレーディンガー方程式の解となるには &math(\varepsilon=\frac{\hbar^2k_0^2}{2m}); でなければならない。したがって、シュレーディンガー方程式は以下のように変形できる。

 &math(
\frac{\hbar^2}{2m}\Big(\nabla^2+k_0^2\Big)\varphi(\bm r)=V(\bm r)\varphi(\bm r)
);

* ボルン近似 [#p81b7a92]

ボルン近似では散乱ポテンシャル &math(V(\bm r)); が小さく、
そのため散乱波 &math(g(\bm r)); も小さいものとして、
右辺に現れる積 &math(V(\bm r)g(\bm r)); を無視する。
当然得られる解は不正確になるが、問題が解きやすくなる。

 &math(
\frac{\hbar^2}{2m}\Big(\nabla^2+k_0^2\Big)
\big\{\underbrace{e^{i\bm k_0\cdot\bm r}\rule[-4pt]{0pt}{0pt}}_{消える}+g(\bm r)\big\}=V(\bm r)e^{i\bm k_0\cdot\bm r}
);

左辺の &math(e^{i\bm k_0\cdot\bm r}); に対して &math(\nabla^2=-k_0^2); であるからこの項も消えて、

 &math(
\frac{\hbar^2}{2m}\Big(\nabla^2+k_0^2\Big)g(\bm r)=V(\bm r)e^{i\bm k_0\cdot\bm r}
);

左辺の &math(g(\bm r)); が求めるべき未知の関数、
右辺は既知の関数である。

* グリーン関数 [#i189bfd3]

上記のような方程式を解くための便利な方法として、グリーン関数を用いる方法がある。

一般に、ある線形演算子 &math(\hat L); と既知の関数 &math(f(\bm r)); に対して
次式を満たす &math(g(\bm r)); を求める問題において、

 &math(\hat L g(\bm r)=f(\bm r));

代わりに次式を満たす「グリーン関数」((George Green は19世紀のイギリスの物理学・数学者の名前 → [[Wikipedia:ジョージ・グリーン]])) &math(G(\bm r)); を___適切な境界条件のもとで___求められれば、

 &math(\hat L G(\bm r)=\delta^3(\bm r)=\delta(x)\delta(y)\delta(z));

元の方程式の解 &math(g(\bm r)); は、

 &math(g(\bm r)=\iiint f(\bm r')G(\bm r-\bm r') d\bm r');

として、任意の &math(f(\bm r)); に対して積分のみで求められる。

この &math(g(\bm r)); が元の方程式を満たすことは、

 &math(
\hat L g(\bm r)&=\iiint f(\bm r')\hat LG(\bm r-\bm r') d\bm r'\\
&=\iiint f(\bm r')\delta^3(\bm r-\bm r') d\bm r'\\
&=f(\bm r)
);

として確かめられる。&math(\hat L); は &math(\bm r); の関数に作用する演算子であるため、&math(\hat L); 
に対して &math(\bm r'); は定数と見なせることに注意せよ。

* 散乱現象のグリーン関数 [#vef9ba03]

 &math(G(\bm r)=-\frac{1}{4\pi}\frac{e^{ik_0 r}}{r}\hspace{1.5cm}\left(e^{i k_0 r}\ne e^{i\bm k_0\cdot\bm r}に注意せよ\right));

と置けば、この関数が

 &math(
\left(\nabla^2+k_0^2\right)G(\bm r)=\delta^3(\bm r)
);

を満たすことを以下で確かめる。

 &math(
\nabla^2\frac{e^{ik_0r}}{r}&=\left(\frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}\cancel r+\cancel{\frac{1}{r^2}\hat\Lambda}\right)\frac{e^{ik_0r}}{\cancel r}
&=-k_0^2\,\frac{e^{ik_0r}}{r}
);

したがって、&math(\frac{e^{ik_0r}}{r}); が微分可能な点において、すなわち原点以外において、

 &math(
\left(\nabla^2+k_0^2\right)G(\bm r)=0
);

であり、この関数がデルタ関数であることと矛盾しない。

後は積分値が正しければ良くて、

 &math(
&\iiint\left(\nabla^2+k_0^2\right)\frac{e^{ik_0r}}{r}d\bm r\\
&=\lim_{\delta\to +0}\int_0^\delta 4\pi r^2\left(\nabla^2+k_0^2\right)\frac{e^{ik_0r}}{r}dr\hspace{2cm}(被積分関数は原点以外でゼロ)\\
&=\lim_{\delta\to +0}\int_0^\delta 4\pi r^2\left(\nabla^2+k_0^2\right)\frac{1}{r}dr
\hspace{2.5cm}(r\to 0 で e^{ik_0r}\to 1)\\
);~
 &math(
&=\iiint_V \bm\nabla\cdot\Big(\bm\nabla\frac{1}{r}\Big)d\bm r
+\underbrace{\lim_{\delta\to +0}\int_0^\delta 4\pi k_0^2r\,dr}_{=0}
\hspace{0.5cm}(Vは原点中心の微小球内部)\\[-4mm]
&=\int_S \Big(\bm\nabla\frac{1}{r}\Big)\cdot\bm n\,dS
\hspace{4.7cm}(Sは原点中心の微小球面)\\
);~
 &math(
&=\int_S -\frac{1}{r^2}\,dS
\hspace{5.7cm}(\mathrm{gradient} のr方向成分)\\
&=-\frac{1}{r^2}\cdot 4\pi r^2\\
&=-4\pi
);

したがって、

 &math(
\left(\nabla^2+k_0^2\right)G(\bm r)=\delta^3(\bm r)
);

が確かめられた。

この &math(G(\bm r)); を用いれば、

 &math(
g(\bm r)=-\frac{1}{4\pi}\frac{2m}{\hbar^2}\iiint\frac{e^{ik_0|\bm r-\bm r'|}}{|\bm r-\bm r'|}V(\bm r')e^{i\bm k_0\cdot\bm r'}d\bm r'
);

と表せる。

* 散乱源から遠い位置における振幅 [#n42a9aab]

&math(V(\bm r)); が原点から近くにしか値を持たず、
その散乱源から遠い個所での振幅を求める場合には、
&math(r'\ll r); を仮定してよいから、

 &math(
|\bm r-\bm r'|=&\sqrt{(\bm r-\bm r')\cdot(\bm r-\bm r')}\\
=&\,\sqrt{r^2-2\bm r\cdot\bm r'+r'^2}\\
=&\,r\sqrt{1-\frac{2\bm r\cdot\bm r'}{r^2}-\cancel{\frac{r'^2}{r^2}}}\\
\simeq&\,r\left(1-\frac{\bm r\cdot\bm r'}{r^2}\right)\\
);

 &math(
\frac{1}{|\bm r-\bm r'|}\simeq \frac{1}{r}\left(1+\frac{\bm r\cdot\bm r'}{r^2}\right)\simeq\frac{1}{r}\\
);

として、

 &math(
g(\bm r)=&-\frac{1}{4\pi}\frac{2m}{\hbar^2}\iiint\frac{e^{ik_0\{r-(\bm r/r)\cdot\bm r'\}}}{r}V(\bm r')e^{i\bm k_0\cdot\bm r'}d\bm r'\\
=&-\frac{1}{4\pi}\frac{2m}{\hbar^2}\frac{e^{ik_0 r}}{r}\underbrace{\iiint V(\bm r')e^{ik_0(\bm k_0/k_0-\bm r/r)\cdot\bm r'}d\bm r'}_{\bm rの方向\bm r/rのみに依存する関数}
);

のように、&math(\bm r); の大きさ &math(r); に依存する部分と方向 &math(\bm r/r); に依存する部分とを分離できる。

#ref(scattering_direction.png,right,around,15%);

散乱問題では入射波方向 &math(\bm k_0); を軸に、散乱方向 &math(\bm r); 
を球座標を用いて表すと、&math(\theta,\phi); がそのまま散乱角を表すため便利である。

このとき、

 &math(
g(\bm r)=g(r,\theta,\phi)=&\frac{e^{ik_0 r}}{r}f(\theta,\phi)
);

と書けることになる。

* 散乱断面積 [#o36d97c5]

&math(
\frac{e^{ik_0 r}}{r}
); は原点から &math(1/r); で減衰しながら___等方的に___広がる球面波である。

&math(f(\theta,\phi)); は散乱波の振幅・位相の___散乱角依存性___を表している。

位置 &math(r,\theta,\phi); における単位面積・単位時間あたりの流量(= ベクトル量である)の 
&math(r); 方向成分は、

 &math(
S_{g,r}
&=\mathrm{Re}\left[g^*(r,\theta,\phi)\frac{\hbar}{im}\frac{\PD}{\PD r}g(r,\theta,\phi)\right]\\
&=\mathrm{Re}\left[\frac{\hbar}{im}\frac{1}{r}\left(-\cancel{\frac{1}{r^2}}+\frac{ik_0}{r}\right)|f(\theta,\phi)|^2\right]\\
&=\frac{\hbar k_0}{mr^2}|f(\theta,\phi)|^2\\
&=\frac{S_I}{r^2}|f(\theta,\phi)|^2\hspace{2cm}(S_I は入射波の流量)\\
);

である。これが位置 &math(r,\theta,\phi); に置かれた検出器で検出される単位時間あたりの粒子の検出確率に相当する。((波動関数は入射波と散乱波の重ね合わせであるため、数学的には入射波も検出器に入ってしまうが、実際の系では検出器は入射平面波の当たらない箇所に置かれる))

この流量を半径 &math(r); の球面 &math(S); 上で積分すると、

 &math(
I_g
&=\int_S \bm S_g\cdot\bm n \,dS\\
&=\int_S S_{g,r} \,dS\\
&=\iint\frac{S_I}{\cancel{r^2}}|f(\theta,\phi)|^2\cdot\cancel{r^2}\sin\theta\,d\phi\,d\theta\\
&=S_I\cdot \underbrace{\iint|f(\theta,\phi)|^2\sin\theta\,d\phi\,d\theta}_{\sigma^\mathrm{total}}\\
);

のように &math(r); によらない定数となり、
これが散乱波全体の___単位時間あたりの流量___である。

&math(S_I); は入射波の___単位時間、単位面積あたりの流量___であるから、
&math(\sigma^\mathrm{total}); は面積の次元を持ち、「散乱断面積」と呼ばれる。

入射波のうち、この面積に当たった分に相当する流量だけが散乱波となったと解釈するのである。

また、&math(\sigma^\mathrm{total}); の被積分関数

 &math(
\sigma(\theta,\phi)=|f(\theta,\phi)|^2
=\left(\frac{m}{2\pi\hbar^2}\right)^2\left|\iiint V(\bm r')e^{ik_0(\bm k_0/k_0-\bm r/r)\cdot\bm r'}d\bm r'\right|^2
);

は「微分散乱断面積」あるいは単に「微分断面積」と呼ばれる。

* 確率密度の保存は? [#ob8bedd1]

1次元の散乱問題では反射波と透過波の流量を加えると入射波の流量と等しかった。

3次元の散乱問題では確率密度の保存はどのようになっているか。
3次元の散乱問題では入射波は全空間に広がっており、そのまま透過波となる。
すなわち、入射波がすべて透過するにもかかわらず散乱波が生じる・・・

ボルン近似を行う前の段階では、散乱による入射波の減衰は &math(g(\bm r)); に含まれていた。
- 散乱波はどこから来たのか?
- 散乱により入射波は減衰しないのか?

ボルン近似後も &math(\bm r\parallel \bm k_0); のとき、
実のところ、散乱による入射波の減衰は &math(g(\bm r)); に含まれている。

 &math(
g(\bm r\parallel \bm k_0)=&-\frac{e^{ik_0 r}}{r}\cdot \frac{1}{4\pi}\iiint \frac{2m}{\hbar^2}V(\bm r')\,d\bm r'
);
すなわち、&math(g(\bm r)); はいわゆる散乱波を表すだけでなく、
散乱を生じたことによる入射波の変化分も含んでいるのである。

となるから、「透過方向への散乱波」&math(g(\bm r\parallel \bm k_0)); は入射波 
&math(e^{i\bm k_0\cdot\bm r}); と打ち消し合うことが分かる。
上では原点を中心とする球面上で &math(g(\bm r)); のわき出し量を計算したが、
&math(\phi(\bm r)=\phi_I(\bm r)+g(\bm r)); について同様の計算を行えば、
その結果はゼロとなる。これが3次元の散乱問題における確率密度の保存である。

正確には &math(\varphi(\bm r)=e^{ik_0 r}+g(\bm r)); 
に対して原点を中心とした大きな球面への流入量と流出量が等しいことを確かめればよいのだが、
簡単には求められそうにない???
とはいえこの積分は実行が難しい。また、ボルン近似前であれば確率の保存が厳密に成り立つことは
シュレーディンガー方程式から保証されているが、ボルン近似後の解について確率が厳密に
保存されるかどうかについて、個人的には未確認なので、今後調べたい。

ボルン近似で求めた波動関数は確率密度を厳密には保存しないのではないかと思いますが、
個人的に未確認です。

* ラザフォード散乱 [#r8efcf05]

重原子によるα線(ヘリウム原子核 &math(Z=2);)の散乱

原子核同士の相互作用=クーロン相互作用

 &math(V(\bm r)=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{qq'}{r});

実際には原子の荷電子により遮蔽されるためより早く減衰して、

 &math(V(\bm r)=C\frac{e^{-ar}}{r});

と近似できる。(&math(a=0); とすればクーロン相互作用も表せる)

上の式に代入して積分すると、

 &math(f(\theta,\phi)&=-\frac{2mC}{\hbar^2a^2}\frac{1}{1+(2k_0/a)^2\sin^2\theta/2}\\
&\propto \frac{1}{1+A^2\sin^2\theta/2}
);

&attachref(ratherford.png,,25%); 
&attachref(ratherford2.png,,25%);

&math(\sigma(\theta,\phi)=|f(\theta,\phi)|^2); は &math(A); の増加に伴ってより早くつぶれるものの、
その形状はあまり変わらない。

- &math(\theta=0); では &math(f=\frac{-2mC}{\hbar^2a^2}=f_0);
- &math(\theta=\pi); では &math(f=\frac{f_0}{1+A^2});
- &math(k_0\gg a); ではほとんどが &math(\theta\sim 0); への散乱
-- 符号が負であるため入射波を打ち消す
-- これは後ろや横への小さな散乱による入射波の減衰を表す
- &math(k_0\ll a); では等方的な散乱が生じる


&attachref(cross-section.png,,50%);

上で議論したとおり、&math(C>0); の場合には &math(g(\bm r)); 
により入射波の減衰が表されていることが確認できた。

一方で、&math(C<0); の場合には前方散乱により透過波はむしろ入射波よりも強められることになる。
これは、下図のように理解できて、散乱されたからと言って &math(\theta=0); 方向への透過波が
必ずしも減衰せず、むしろ強められることがある。

&attachref(cross-section2.png,,50%);


* 質問・コメント [#xf504836]

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