5-1 磁壁解のまわりのゆらぎ †
磁壁解 (4.43) は静止解であるが、その安定性について議論するには解から少しずれた時の運動を調べる必要がある。
「粒子的なゆらぎモード」を与える「ずれ」を定義するため、複素変数
を次のように定義する。
(5.1)
このとき、
(5.2)
さらに、
を確認できる。これを用いれば、(4.3), (4.5) のラグランジアンは
(5.3)
のように
のみの関数として表せる。教科書の
の2乗は単なるミス、
最終項の
は、(4.3) で
であるはずの部分を
と取り違えた物と思われる?
念のため確認:
- 第1項は
由来
- 第2項は
由来
- 第3項は
由来
定常解 †
(4.43) の静止磁壁解は、以下に示すように
として与えられる。
定常解からのズレ †
今、系がこの定常解から各点で
倍だけずれたとする。
(5.4)
このとき、
をまとめて、
(5.5)
2012/4/3: 教科書はδ関数の前の符号が間違っていると本多先生より指摘があった。
また、実際には
である(?)
ズレの成分を実部と虚部に分けて
と書くと、
と表せる。
の2次まで展開した表式
(5.7)
を使うと、(5.3) は
(5.8)
途中で
を用い、また
に比例する項は、ラグランジアンの時間積分(作用)に定数項しか与えないため落とした。(
が時間に依らないことに注意)
(5.30) などと同様に
方向の系の長さを
、それに垂直な太さを
とした。
(
とすれば、その他の部分で系の長さを無限大と考えていることと
大きく矛盾することはない・・・はず)
教科書の展開で
の項まで残した意味がよく分からない。
上では、青で示した項以外をすべて捨てており、結果的に
-
は
の1次まで
-
は0次まで
しか使っていない。
時間微分や空間微分された
と合わせれば2次までが残っているので、
そういうことなのかもしれない?
(5.8) の定数項について †
最終的に残った定数項のうち、
は、磁壁が存在しなくても現れる基底状態のエネルギーである。
具体的には (4.3) において至る所
の時に第2項から現れる。
教科書ではこの項が落ちてしまっている。
((4.3) で J の符号を間違え、さらに (5.3) で cos と sin を間違えると、
この項が落ちて符号が反転するだけの結果を得そう)
また、
は磁壁の生成エネルギー。
突然出てきた
は磁壁部分 (厚さ
) に含まれるスピン数で、
教科書では (5.19) の直後に定義されている。
念のため (4.3) に1次元磁壁解の方程式 (4.42) を入れれば、
となって、第1項が磁壁が無い時に現れるエネルギー、第2項が磁壁の生成エネルギー。
ちゃんと同じ物が出てくる。
磁壁の生成エネルギーは
ではなく
で書かれそうな物だけれど、
ここでは
の効果は
に含まれている。
(5.8) の定数項以外の部分 †
そういう意味では、定数項以外に
が顕わに現れない
(
であることに注意)のは不思議な感じがする。
容易軸の効果は揺らぎに影響しない???
上記式変形では (4.3) の
の項から現れる揺らぎの項は、
の項の一部と打ち消し合って消えてしまっている。(
の部分)
最終的な式の中では
に含まれる
経由で容易軸の効果も
間接的に入ってきているのだと思うけれど、はあ、そういうものなのか、という感じ。
スピン波 †
の部分が数学的に美しくないので何とかしたいが、
の係数があるために部分積分が使えず手に負えない。
そこで、新たな変数
を導入する。
(5.9)
これを使うと、
(5.10)
(
)
であるから、ラグランジアンは
(5.11)
と書き換えられる。
教科書では「時間に対する部分積分により」対称化したと書いてあるが、
ここでは時間積分は現れないのでちょっと用語がおかしい。
上で落とした項はラグランジアンの時間積分を考えたとき、
の端点のみで決まる定数項を与えるので落とした
と言うのが正しいのではないか。
(5.8) と比べると
に対して「素性の良い」形になった???
これは、
が「良い素性の励起モード」であることを表す(?)
これを「スピン波」と呼ぶ。
(5.8) では
の2次項に重み
が掛かっていることを
問題視していたが、(5.11) に現れる
は問題ないのだろうか?
「素性の良い」の意味がまだ分かっていない。
注意点 †
上でも述べたとおり、
(5.8) では顕わに
に比例する項は含まれていなかったが (
)、
(5.11) には
に含まれる 「
の
依存性の成分を打ち消すために」
に比例する項が現れている。
言葉で言い表すのが難しいのでもう一度言い方を変えて書くと、
(5.11) の
からは
に比例する成分が現れるが、その成分は (5.8) には存在しなかった。
(5.11) でこの
を打ち消しているのが
に比例する最終項である。
それにもかかわらず、この項は (5.11)
の中で唯一媒質の非等方性を含む項であり、
磁壁運動の本質に関わる項でもある。
やはり (5.8) では
依存性は
の中に隠れていたと言うことなのかな?