8-10 不純物散乱のもとでの Green 関数 †
(8.113) の Fourier 変換表示を求める †
(8.116)
を不純物散乱ポテンシャルの Fourier 変換と定義する。
この定義は (8.74) 等に与えられた
の Fourier
変換とは
の配置や
の符号などが異なるので注意が必要。
これに対応するハミルトニアンは、
(8.116)
となる。
今考えているようなポテンシャルでは電子の振動数が変わらないため、単一の
によって表せる。これは以下で自然に導出される。また実際には「不純物平均」により
も変わらないという結果になる。
これらは 8-7 で見た
と同じ性質である。
→ 単一の
や
で表せるという結果は実時間・実空間で見れば
系の運動が絶対的な時刻や座標に依存せず、相対値のみで記述できることに対応する。
(8.117)
係数を正しく付けるために次元について確認:
-
は (8.76) によれば
で無次元、
で無次元、
が残って (時間/エネルギー) の次元を持つ
-
は
が外に出るので、(1/エネルギー) の次元を持つ
-
は (8.116) によれば
と同じ次元で、(8.106) によればこれはポテンシャルではなく (エネルギー) の次元を持つ
(8.47)〜(8.77) および (8.116)
に与えられたフーリエ係数の定義は係数の付け方などが数学の授業とは異なるので、
慎重に計算していかないと正しい答えが得られない。実際に計算を進めるとかなり大変。
4つ目の等号は、
と表し、
、
と変換することで、
と表せるが、9/26 のセミナーで植田先生、佐野先生に、上記の変数変換に加えて
、
の変換も行った方が物理的に見通しが良くなることを教えていただいた。
この置き換えにより、
となるから・・・
(後でさらに追記予定)
したがって、
このように見直してみると、
(8.74)〜(8.76) や (8.116) のフーリエ変換の定義で係数はいろいろ工夫してあった。
を埋め込む場所が
と
で異なったり、
数学的には意味のない
が埋め込まれていたり。
これらの工夫は上式で余計な係数が出てこないようにするための、
細心の注意を払った定義であったことがここへ来て始めて分かる。
もう一度次元を確認しておくと、
-
および
は (1/エネルギー) の次元
-
は (エネルギー) の次元を持っている
不純物ポテンシャルの次数で展開する †
右辺の
を (8.117) で繰り返し展開すると、
(8.118)
特徴を見ておくと、
-
次の項には
個の
が現われ、
- その間に
個の
が入っている
- 一番右の
は
関数により
に等しくなるため、
個の
のうち実質的に自由に動かせるのは
個である。
不純物ポテンシャルの位置平均 †
不純物の位置平均を次のように定義する。
つまり、不純物が系の体積
の中のどこにある確率も一定であるという条件である。
(10/3 のセミナー後追記)
佐野先生からこの積分に不純物密度の重み付けを入れることで、
不純物密度に偏りがある場合に対応可能であるとの指摘があった。
この場合、後に出てくる
などと合わせて、
δ関数ではなく不純物密度のフーリエ係数
成分が残ることになる。
不純物存在確率のフーリエ変換はキュムラント母関数などとも深い関係があるとのこと。
追記ここまで。
や
の中に現われる和について不純物散乱の位置平均を取る。
(8.119A)
ここで、
の成分は不純物平均を取る前からゼロなので、
を含む項はすべて消えて、
などとなる・・・というのが教科書の論法だけれど、10/17
のセミナーで佐野先生からこれだと落ちている項があるとの指摘があった。
実際、上の第2式で
と置けば、
左辺は平均を取る前から明らかにゼロであるにも関わらず、
右辺には
が残ってしまう。
ちゃんと計算すると、上記の式には、
など、
の積が残るのが正しい。
これらの項があると、グリーン関数には教科書で説明されている項の他に余計な項が出る。
下の (8-10.4) の結果を先取りすると、
次の主要項が
であったところに、
の項が余計に現われる。
両者の比を考えると、
が成立すれば右辺を無視できるが、
は格子点の数で非常に大きいため、
が発散する点の周辺以外では十分成り立ちそう。
ただ、
の分母が非常に小さくなるときも無視して良いのかどうか、
完全に自信を持って言い切れないところがある?
(10/17 + 10/24 ここまで追記)
次の項では、
個の
のうち、そのすべてが、
どれか他の
と等しくなる項以外は消えることになる。
どの
とどの
とが等しいかを表すために使われているのが
あの不思議な点線の三角形。たとえば
の時の図として、
が与えられれば、
、
、
となることを表している。
これに対応して、δ関数部分は
となる。
また、和を取る際に独立に動かせるのは
の3つだけであり、しかもそれらは互いに等しくなってはいけないため、
その項数は
となる。
のとき、
と見なしてしまって構わない。
したがって、上記の図に対応する因子は
となる。
であれば、
-
→
-
→
-
→
-
→
の4つの場合以外の項は消えて、これらが (8.135)〜(8.139) で評価されている4つの場合に相当する。
運動量の保存 = 波数成分の回復 †
このようにして現われる
関数の部分に注目すると、
たとえば
は
の時以外ゼロとなるため、
この項を評価するに当たっては、
と仮定して良い。
同様に、
次に現われるすべての項で
を仮定できる。
すると (8.118) に見るように、すべての
次の項には
が含まれているため、
これを
と書き換えることができて、
これは、不純物平均により電子の運動量の保存が回復したことに対応している。
(平均により系の並進対称性が回復したと言い換えても良い、らしい)
そこで、
(8.121)
と書けて、
などとなる。
2次の項 †
1次の項は消えるので、2次の項が最低次項になる。
2次の項に現われる
に対する和は、
を新しい変数と考えると独立に評価することができて、
(8.122)
に対する積分を、
に対する積分に置き換えると、
(
は 分散関係)
(8.123)
ここでの
は運動エネルギーではなく、
運動エネルギーからフェルミエネルギーを引いた物であることに注意。
この積分、本当は δ関数の性質
を使うとまともに計算できるんだけど、
まずはしばらく教科書の通りやってみる。
(8.124)
から始めればいいのかな?
などを使った。
(8.125)
は
付近でのみ大きな値を取る。そこで、
どうして教科書で
でなく
になっているのか分からない・・・
→ この疑問への答えは 9-1 で出てくる。
という近似は、
系の温度が低いと仮定し、フェルミ分布関数
をステップ関数と見なす近似に対応している。
うーん、これって説明になっているんだろうか?なんだかよく分からない。
(9.18) あたりでもう少しまじめにやると書いてあるので重複するかもしれないけれど、
δ関数の性質 を使って少しちゃんとやってみる。
→ (9.18) は2次の項だけで、1次の項については出てこなかった
この第一項、実数成分の被積分関数は
の時に
と見なすことができるから、
この積分は発散する。しかし、今は件の積分の虚数成分のみに興味があって、
実数成分は無視してしまって良い・・・と (8.126) の直後の 注11) に書いてある。
しかし、
虚数成分にはやはり
ではなく
が出てくることが確かめられた。が、以降では(低温近似を先取りして)教科書通り
で進めてみる。
(8.127)
ここで、
(8.128)
この
は電子エネルギーのぼやけであることが後に分かる。
そこで、系が金属であるための条件
(8.129)
を先取りして用いていく。
さて、実はここから先は面倒なだけで遠回りかつ不正確な記述が続く、ちゃんと解く方法は この問題、実はとても簡単に解けるのでは? を参照。
ただ、9章を理解するにはやはり以下の内容についてもある程度分かっていないとダメなので、完全に無駄というわけでもない。実際、練習問題と思えば十分に価値がある。
↑ これ、勘違いだったみたい
(10/3 セミナー後の追記)
(8.128) の
を左辺に移すと、
となるが、これとフェルミの黄金律との関係に注目するよう佐野先生から指摘があった。
高次の項 (n>2) †
(8.130)
を計算するに当たり、
- 0次には1つも無いが
- 1次は
を1つ
- 2次は
を2つ
- ・・・
含んでいる。
不純物平均により、複数の
に共通の
がかかり、
が現われる項以外が消えてしまうため、
(8.131), (8.132)
のように、
個の
を必ず2本以上束ねた項だけが残る。
(8.134)
(8.121) の3次の項に出てくる和は、
、
と置けば、
(8.135)
すなわち
の項で、
とすれば、
(8.136)
すなわち
の項で、
(8.137)
すなわち
の項で、
の部分が、
であれば、教科書の通り、
となる。
この計算は (9.18) から (9.22) で解説されていた。
この手の計算はちゃんと複素解析的に考えないとダメみたい(汗
教科書は誤植もあるようなので、この積分のやり方を
δ関数の性質
にまとめた。
恐らく正しくは、
であり、
との近似の下、
となるような?
(8.138)
と置いた。
最後の式の
と
とを入れ替えると教科書の式になる。
入れ替えずに書いておいてくれれば分かりやすいのに。
足のクロスする山の評価について †
この次に出てくる説明はいろいろおかしいと思う。たぶん正しいのは以下。
-
は
付近でのみ大きな値を取る。なぜなら分母
は低温近似で
と見なせることから、
となり、
を満たす
においてピークを持つ。
-
が大きな値を取るのは
となるときのみ
-
について考えると、
- 与えられた
に対して任意の
を選ぶことができるが、
-
は
となる球面上に来るように選ばなければならない
- これは原点を中心とした半径
の球殻と、
を中心とした半径
の球殻との交線上に
が来ることと同義である
- フェルミ面のぼやけを
程度と仮定すると、
-
を完全に自由に取れば
が球殻の体積であるが、
-
のために上記の円弧状の交線に限られると、体積はどれほど減るだろうか?
-
と
とが為す角を
とすると、
- 円弧の半径は
で、円周は
- 円弧の太さ(断面積)は
- したがって、円弧の体積は
-
が動いたことを想定し、
に対して平均を取ると、
- この最終結果は
の結果と(偶然?)一致する。
- したがって、完全に自由に
を取ったときに比べて値は
だけ小さくなる
- フェルミレベル近傍に於いて
を使うと、この比を
と表せる。
- 教科書に現われる
という比はこの値。
ということで、ちょっと意味は無いけれど本文中の誤植のみ指摘:
閑話休題して、
(8.139)
「自由に取った場合」を考えるには、
を数えるときに
が2つ掛かっていることを考慮して (8.137) に帰着する。
4次の項の大小関係に関する物理的解釈 †
10/17 のセミナーで植田先生から教えていただいた内容:
や
に比べて、
が大きい物理的理由は次のように考えると納得できる。
は
と
、
と
の2組の散乱がそれぞれ独立して生じたという項であるのに対して、
や
は
と
の散乱が終わる前に
の散乱が起きたと見なせる。
散乱頻度が低いときには、複数の散乱が同時に起きる確率は
それらが独立に起きる確率に比べて十分低い。
散乱頻度(
に相当)が大きくなると、
そのような確率も無視できなくなるが、それを判別する条件が
である。
ν(0) の大きさ †
各項の大きさを評価する前に、
の大きさを評価しておく。
がフェルミエネルギーであることから(実際にはこの分を引いてあるため
フェルミレベルは 0 である)
の関係が成り立つ。
すなわち、フェルミレベル以下の状態数が電子の粒子数に等しい。
現在の所、「格子点数
」と「電子の粒子数
」との関係を
良く理解できていないのだけれど、これらがおよそ等しい
とすれば、
を得る。
したがって、
で、教科書にあるとおり
を得る。
金属であるためには、
が必要である。
と書き直せば、これは不純物のポテンシャルがフェルミエネルギーに比べて小さく、
さらに不純物密度が高すぎないことを示している。
(8.136) ではこれに加えて、
すなわち
が要求されている。
(以下 10/24 追記)
を考えるとこれは
を表しており、上記と比べると
のファクターだけ厳しい条件になっている。
すなわち、
であるから、
が成立するならば
は当然成立する。
金属である条件として与えられている 1/εFτ << 1 について †
2章に与えられている値を参照すると(P17 表2.1)、
| | |
Fe | | |
Ni | | |
Au | | |
Fe81Ni19 | | |
注)Fe81Ni19 はパーマロイ
となって、それほど極端に小さいわけでもないことには注意が必要。
となると・・・
より、
ここで
あたりなので、
は、とてもじゃないけど成り立ちそうにないけれど?!
N 〜 Nelectrons について †
が成り立つ意味は何だろうか?
まず、
空間における格子点の密度は (8.77) あたりの式にも出てくるように、
であり、これは1粒子の波動関数が体積
を持つ系の大きさに
対応する境界条件から、取り得る
の値が離散化することに対応している。
この式には
も
も現われないことに注意が必要。
すなわち、
の表す「格子点数」と
空間の「格子点数」とは関係がない。
では
とは何だったか?
は (8.106) で始めて現われた体積で、
本来δ関数状の不純物散乱ポテンシャルを
にならしたときの高さとして
を定義したのであった。この段階では
には物理的意味が与えられておらず、
を一定に保つ限り
の取り方には任意性が残っていた。
教科書ではその後、(8.121) にて
として
を導入し、
これを「全格子点数」と呼んでいる。つまり、
は実空間における結晶格子の基本単位胞体積を考えていたことが読み取れる。
さかのぼって考えると、
は不純物散乱の強さを基本単位胞体積にならしたときの
平均高さとして定義される。この点は
と
との大きさを比べる際に重要となりそう。
すなわち、
の定義は「実空間において系に金属の単位胞がいくつ含まれるか」である。
すると例えば
価の面心立方金属であれば単位胞当たり
個の自由電子を生じ、
である。体心であれば
である。実際の数は考える金属の価数と結晶構造に依るけれど、オーダー的には
と見なせることが分かる。
(追記ここまで)
どの項が支配的か †
上記を仮定すると、
(8.140)
の [ ] の中は1を残して消し去ることができる。
同様にして、高次項を評価すれば2次の項やそれ以降にも小さな項が付け加わるが、
上記の2つの条件下ではやはり無視できて、
(8.141)
となる。
本文中で
などと書いてあるが、
これは
の間違いか?
結局、元々の偶数次項から出てくる「2次の寄与と同様な物が繰り返される項」、
すなわち
となる項が支配的な寄与を及ぼし、他の項は無視できることになる。
支配的とされる項に赤丸を付けつつ、6次の途中まで列挙してみた。
6次はまだまだたくさんあり、7次も非常にたくさん出てくるが、
次の支配項は8次の項になる。
以下、6次の項がまだまだ続く・・・
(8.142)
不純物散乱がない場合には
のために非常に急峻に変化する
関数であったが、不純物散乱によってピーク幅が広がっている、
すなわちフェルミレベルがぼやけている、ということになる。
自己エネルギー †
「自己エネルギー」についてはここだけ読んでも物理的意味がよく分からないので後で勉強が必要。
(8.143)
と置いて、これらを自己エネルギーと呼べば、
(8.144)
の部分が虚数であることが一目で分からないので注意が必要。
計算時には、
ただし、
という表示が分かりやすい。
10/31 のセミナーで「自己エネルギー」という言葉の意味について教えていただいた。
の形を見ると、自由な場合の Green 関数と比べて
とした形になっている。
すなわち、不純物散乱の効果を取り込むことによって系のエネルギーが
だけ増加しており、これを系が自ら持つエネルギーという意味で
自己エネルギーと呼んでいるのだと思う。
ここで用いた近似の意味 †
上で用いた近似の意味を考えてみる。
(この項は 2011/10/17 まで間違えた内容を書いてあったのを、
植田先生に指摘していただいて直している最中です)
(8.117) を変形していく。
(8-10.8)
この式の
について、
の部分と
の部分とでそれぞれ別々に不純物平均を取れるとすると、
ゴールが見えてきた。
(8-10.9)
が得られる。
このことは、(8-10.8) の途中の式で右辺の
に対してく繰り返し左辺を代入することで、
(8-10.10)
となって、確かに教科書で扱った支配項のみをすべて含んでいることからも確認できる。
んー、つまり・・・あんまり面白い話にはならなかった感じ?
高次の項を考える場合 †
以下は 11/7 のゼミで出た話
近似を上のようにとらえると、2次までではなく高次の項を入れた近似について考えることも容易になる・・・かと思いきや、そんなこともないみたい???
すなわち、
上記では (8.117) 2次まで展開した後、「不純物平均の分割」という近似を用いた。
そこで同様に、3次や4次まで展開した後に近似を用いれば、より高次の項を取り込むことができる・・・と思ったのだけれど、やってみるとそうはうまく行かない。
たとえば4次まで取り込んだ場合:
(8-10.11)
これを (8-10.10) と同様に順次展開すると、
- 0次
- 2次
- 3次
- 4次
- 4+2次
- 4+3次
- 4+4次
- 4+4+2次
- 4+4+3次
- 4+4+4次
- ・・・
といった項が現われるが、2+3次 や 3+2次 など、非常に多くの項を取りこぼしてしまうことになる。
うーん、やはり植田先生のおっしゃった通り、
この形で理解しようとしても、一筋縄ではいかないみたいだ。。。
4次以下の単山からなる項をすべて取り込むには、上記ではなく、
(8-10.12)
の形が真っ先に思い浮かぶが、これだと数え落としはない物の、今度は数えすぎが生じる。
なぜなら (8.135) で扱った 2+2 の形の 4次 の項は、
文字通り 2次 の項を2回重ねることでも生じるため、
このような項を取り込みすぎてしまうことになる。
したがって正しく求めるには、4次 の形から 2+2次 を抜いておく必要がある。
(8-10.13)
4次の項が2つの2次の項からなるのは
、
の時なので、これを除くために
という係数を導入した。
不純物平均から出てくるδ関数により右辺の
などはすべて
に等しくなるため、
(8-10.14)
したがって、
(8-10.15)
ただし、
(8-10.16)
となる(んじゃないかな)
この右辺のうち第一項は2次までを取り入れた際の自己エネルギーそのものであり、
第二項、第三項がそれぞれ3次および4次を取り入れたことによる修正項になっている。
すなわち高次の項を取り入れたとしても、自己エネルギーの値が少し(?)変わるだけで
Green 関数の関数形そのものは変化しない。(どこかに発散する項がない限り)
もともと自己エネルギーの値は正確な値の不明な
なる値に依存しており、
また実数成分はフェルミエネルギーの値に吸収されてしまうこともあり、
上で疑問に思った「近似の精度」についてはそれほど目くじらを立てる必要も無いのかもしれない?
→ んー、
や
、
などの相対的な大きさは重要なので、やはりそう雑には扱えない。
どこまでで打ち切るにせよ、「一貫性のある近似」になっていないとダメだ。
8-11 で見るように、
を2次で打ち切ったり、
4次で打ち切ったりした結果を上記のような手法で求めると、
「一貫性を持った近似」を得られるようだ。