復習:連立方程式と逆行列

(203d) 更新


線形代数II

内容

  • 連立一次方程式 ( A\bm x=\bm b ) は次の3つのケースに分類できる
    • 解なし
    • ただ1つの解を持つ
    • 1つ以上のパラメータを用いて表される無数の解を持つ
  • 掃き出し法を使うとこれらの3つの分類のどれになるかを簡単に見分けられる
    • 解なし
       0 = 1 の行が現れる
    • ただ1つの解を持つ
      • すべての列を掃き出せる
    • 1つ以上のパラメータを用いて表される無数の解を持つ
      • 掃き出せなかった列の数が解に含まれるパラメータの数となる
      • パラメータの数は係数行列のみにより決まる(定数項によらない)
  • 階数(rank)との関係
    • 掃き出せた列の数 = rank
    • 解なし
       $\mathrm{rank} A<\mathrm{rank} \big(\,A\ \bm b\,\big)$
    • ただ1つの解
       $\mathrm{rank} A=\text{(Aの列数)}$
    • パラメータを用いて表される無数の解
       $\text{(パラメータ数)}=\text{(Aの列数)}-\mathrm{rank} A$
  • 逆行列の求め方

演習

(1) 次の連立方程式について、

$$ \begin{cases} ax+by=c\\ dx+ey=f \end{cases} $$

 (a) ただ1つの解を持つように $a,b,c,d,e,f$ を定めよ
 (b) 複数の解を持つように $a,b,c,d,e,f$ を定めよ
 (c) 1つも解が存在しないように $a,b,c,d,e,f$ を定めよ

(2) 次の連立方程式を掃き出し法(ガウスの消去法)を用いて解け。

$$ \begin{cases} 2x+4y-2z=6\\ x-y+3z=2 \end{cases} $$

(3) 連立方程式 $A\bm x=\bm b$ の一般解に任意パラメータが含まれるとき、 パラメータの数は $\text{(Aの列数)}-\mathrm{rank}\, A$ に等しいことを説明せよ。

(4) 次の行列の逆行列を求めよ。 $A=\begin{pmatrix} 3&2&3\\ 2&1&2\\ 3&2&2 \end{pmatrix}$

解答

(1)

適当に係数を選べばほとんどの場合に解は1つに定まる。

(b) や (c) のようになるのは例外的である(係数行列が非正則になる)。

(a)

例えば $a=1,\ b=0,\ c=1,\ d=0,\ e=1,\ f=2$ とすれば、

$ \begin{cases} x+0y=1\\ 0x+y=2 \end{cases} $

であるから、明らかに $x=1,\ y=2$ だけが解となる。

(b)

2つの式が独立な条件になっていないとき、解は無数に存在する。

たとえば、$a=b=c=d=e=f=1$ とすれば、

$ \begin{cases} x+y=1\\ x+y=1 \end{cases} $

これは2つの変数に対して1つの条件式しか与えられていないのと同じことになる。

$y=s$ と置けば、任意のパラメータ $s$ に対して $\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=s\begin{pmatrix}-1\\1\end{pmatrix}+ \begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}$ が解となる。

あるいは、$a=b=c=d=e=f=0$ と置けば、実質的には条件式は何もないことになり、 任意の $x,y$ が方程式の解となる。

(c)

絶対に成り立たない方程式を作ればいいから、

例えば $a=b=0,\ c=1$ と置けば、

$ \begin{cases} 0x+0y=1\\ dx+ey=f \end{cases} $

となって、$d,e,f$ によらず第1式すなわち $\ 0=1\ $ を満たす $x,y$ は存在しない。 解なし、である。

あるいは、$a=b=c=d=e=1,\ f=2$ と置けば、

$ \begin{cases} x+y=1\\ x+y=2 \end{cases} $

となって、やはりこれらを同時に満たす $x,y$ は存在しない。

(2)

拡大係数行列に「行に対する基本変形」を適用し掃き出しを行うことで、 最終的に「階段行列」の形にする。

行に対する基本変形 とは以下の3つの操作のことである。

  • ある行に他の行の定数倍を加える
  • ある行に定数をかける
  • 2つの行を入れ替える

この変形は行列の表す条件式を同値に保つ。 この授業では条件式としての同値性を表すのに記号 $\sim$ を用いる。 行列として等しいわけではないため $=$ は使えないことに注意せよ。

$ \begin{pmatrix} 2&4&-2&6\\ 1&-1&5&0 \end{pmatrix}\sim \begin{pmatrix} 1&2&-1&3\\ 1&-1&5&0 \end{pmatrix}\sim \begin{pmatrix} 1&2&-1&3\\ 0&-3&6&-3 \end{pmatrix}\sim \begin{pmatrix} 1&2&-1&3\\ 0&1&-2&1 \end{pmatrix}\sim \begin{pmatrix} 1&0&3&1\\ 0&1&-2&1 \end{pmatrix} $

より、与式は

$ \begin{cases} x+3z=1\\ y-2z=1 \end{cases}$

と同値である。

掃き出しの行えなかった列があれば、その列に対応する変数をパラメータに置けば 答えが求まる。

ここでは $z=s$ とすれば求める解は任意パラメータ $s$ を用いて

$ \begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}= s\begin{pmatrix}-3\\2\\1\end{pmatrix}+ \begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix} $

と表せることが分かる。

このように $A\bm x=\bm b$ の形に表せる連立方程式の解が任意パラメータ $c_1,c_2,\dots,c_r$ を用いて
$\bm x=\bm x_0+c_1\bm x_1+c_2\bm x_2+\dots+c_r\bm x_r$ の形に表せるとき、

$$\begin{cases} A\bm x_0=\bm b\\ A\bm x_1=\bm 0\\ A\bm x_2=\bm 0\\ \hspace{1cm}\vdots\\ A\bm x_r=\bm 0\\ \end{cases}$$

であり、

この一般解は非斉次方程式 ($A\bm x=\bm b$) の特殊解 $\bm x_0$ に、
斉次方程式 ($A\bm x=\bm 0$) の解 $\bm x_1,\bm x_2,\dots$ を加えた形になっていることが分かる。

線形代数で学ぶ「掃き出し法」は、「効率の良い問題の解き方」を学ぶためのものではなく、 どんな問題もこの方法で解けることと、解いた結果がどのような形になるかを分類できること、 を理解するのが重要なので、「別にこの方法でも解けるし、」などと考えず、 しっかり手順を身に着ける必要がある。

「掃き出しの行えなかった列の数」が「任意パラメータの数」となることも理解しておくように。

(3)

$\mathrm{rank}\, A$ は掃き出し後の階段行列の行数として定義されるが、 これは「掃き出しが行えた列の数」に等しい。

一方、(上でも見た通り)一般解に含まれる任意パラメータの個数は掃き出しの行えなかった列の数に等しい。

したがって、任意パラメータの個数は $(Aの列数)-\mathrm{rank}\, A$ と表せることになる。

以上が解答例。さらに解説を加えると、

掃き出せた回数 $\mathrm{rank}\, A$ が $A$ の列数を超えることはないから $(Aの列数)-\mathrm{rank}\, A\ge 0$ である。

$(Aの列数)-\mathrm{rank}\, A>0$ なら一般解はパラメータを含み、無数の解を見つけられる。

$(Aの列数)-\mathrm{rank}\, A=0$ はすべての列が掃き出せたことを表す。掃き出せた回数が $A$ の行数を超えることもないので、$A$ はこのとき正方行列か、あるいは縦長の行列である。

$A$ が正方行列なら掃き出し後は単位行列になり、解は1つに定まる。

$A$ が縦長のとき、掃き出し後にゼロのみを含む行が現れる。

$$(A\ \bm b)\sim\begin{pmatrix} 1&0&0&0&*\\ 0&1&0&0&*\\ 0&0&1&0&*\\ 0&0&0&1&*\\ 0&0&0&0&?\\ 0&0&0&0&?\\\end{pmatrix}\begin{matrix}\\\\ \\ \\\leftarrow\text{ここ}\\\leftarrow\text{ここ}\end{matrix}$$

その行の定数部分(上の $?$ の部分)がゼロでなければ $0=1$ のような条件が現れ解なしとなる。 定数部分もゼロなら $0=0$ であるから実質的には何もないのと同じであり、$A$ が正方行列の時と同様に解は1つに定まる。

(4)

$A$ と単位行列 $E$ とを並べて掃き出し、 左半分が単位行列になったとき、右に残ったのが $A^{-1}$ である。 詳しくは 逆行列の求め方 を参照。

途中で掃き出しができなくなれば、$A$ は非正則(逆行列を持たない)。

$$ \begin{aligned} &\Big(\,A\ E\,\Big)= \begin{pmatrix} 3&2&3&1&0&0\\ 2&1&2&0&1&0\\ 3&2&2&0&0&1 \end{pmatrix}\sim \begin{pmatrix} 1&1&1&1&-1&0\\ 2&1&2&0&1&0\\ 3&2&2&0&0&1 \end{pmatrix}\sim \begin{pmatrix} 1&1&1&1&-1&0\\ 0&-1&0&-2&3&0\\ 0&-1&-1&-3&3&1 \end{pmatrix}\sim\\ &\begin{pmatrix} 1&1&1&1&-1&0\\ 0&1&0&2&-3&0\\ 0&-1&-1&-3&3&1 \end{pmatrix}\sim \begin{pmatrix} 1&0&1&-1&2&0\\ 0&1&0&2&-3&0\\ 0&0&-1&-1&0&1 \end{pmatrix}\sim \begin{pmatrix} 1&0&0&-2&2&1\\ 0&1&0&2&-3&0\\ 0&0&1&1&0&-1 \end{pmatrix}=\Big(\,E\ A^{-1}\,\Big) \end{aligned} $$

したがって、

$ A^{-1}=\begin{pmatrix} {}-2&2&1\\ 2&-3&0\\ 1&0&-1 \end{pmatrix} $

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