線形代数II/抽象線形空間/メモ の履歴の現在との差分(No.2)

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[[線形代数II/抽象線形空間]]

* 演習 [#ub6c451d]

&math(x);の2次以下の実係数多項式の集合 &math(P^2[x]); が線形空間の公理を満たすことを確かめよ。
&math(x);の2次以下の実係数多項式の集合 &math(P^2[x]); が「実数上の線形空間」の公理を満たすことを確かめよ。

厳密には、「ある集合」と「和とスカラー倍の定義」とを合わせたのが「線形空間」なので、
「和とスカラー倍をどのように定義するか」を与えられなければ答えられない問題なのだが、
和やスカラー倍の定義が明記されていないときは「自然な和とスカラー倍」について答えれば良い。

この問題であれば、和は多項式同士の和であり、スカラー倍は多項式の実数倍である。

* 解答例 [#m0f4f62c]

&math(\bm x\in P^2[x]); であれば、&math(s,t,u\in \mathbb R); を用いて &math(\bm x=sx^2+tx+u); の形に表せる。

さらに &math(\bm y=s'x^2+t'x+u',);&math(\bm z=s''x^2+t''x+u''); ただし &math(s',t',u',s'',t'',u''\in \mathbb R);、
&math(a,b\in \mathbb R); とすると、
逆に、&math(s,t,u\in \mathbb R); に対して 
&math(\bm x=sx^2+tx+u); の形に表せるなら 
&math(\bm x\in P^2[x]); である。

&math(\bm y=s'x^2+t'x+u',\ ); &math(\bm z=s''x^2+t''x+u''); 
ただし &math(s',t',u',s'',t'',u''\in \mathbb R);、&math(a,b\in \mathbb R); とすると、

まず、
任意の &math(\bm x,\bm y \in P^2[x], a\in \mathbb R); に対して、

  &math(\bm x+\bm y=(sx^2+tx+u)+(s'x^2+t'x+u')=(s+s')x^2+(t+t')x+(u+u'));

であり、&math(s+s', t+t', u+u'\in \mathbb R); であるから、&math(\bm x+\bm y\in P^2[x]); 
つまり &math(P^2[x]); は和について閉じている。

また、

  &math(a\bm x=a(sx^2+tx+u)=(as)x^2+(at)x+(au));

であり、&math(as, at, au\in \mathbb R); であるから、&math(a\bm x\in P^2[x]); 
つまり &math(P^2[x]); はスカラー倍について閉じている。

そして、

1. ベクトル和の交換則

>&math(\bm x+\bm y&=(sx^2+tx+u)+(s'x^2+t'x+u')\\
&=(s'x^2+t'x+u')+(sx^2+tx+u)=\bm y+\bm x);

2. ベクトル和の結合則

>&math(
&(\bm x+\bm y)+\bm z\\
&=\big\{(sx^2+tx+u)+(s'x^2+t'x+u')\big\}+(s''x^2+t''x+u'')\\
&=(sx^2+tx+u)+\big\{(s'x^2+t'x+u')+(s''x^2+t''x+u'')\big\}\\
&=\bm x+(\bm y+\bm z));

3. ゼロ元の存在

>&math(\bm 0=0=0x^2+0x+x=\in P^2[x]); と置けば、
>&math(\bm 0=0=0x^2+0x+0\in P^2[x]); と置けば、
任意の &math(\bm x=sx^2+tx+u); に対して~
&math(\bm 0+\bm x=0+sx^2+tx+u=sx^2+tx+u=\bm x);~
&math(\bm x+\bm 0=sx^2+tx+u+0=sx^2+tx+u=\bm x);

4. スカラーの単位元

>&math(1\in\mathbb R); に対して、任意の &math(\bm x=sx^2+tx+u); に対して
&math(1\bm x=1(sx^2+tx+u)=sx^2+tx+u=\bm x);

5. 逆元の存在

>&math(-\bm x=-sx^2-tx-u\in P^2[x]); に対して &math(\bm x+(-\bm x)=sx^2+tx+u-sx^2-tx-u=0=\bm 0);

6. 分配法則(1)

>&math(
&(a+b)\bm x=(a+b)(sx^2+tx+u)\\
&=a(sx^2+tx+u)+b(sx^2+tx+u)\\
&=a\bm x+b\bm x);

7. 分配法則(2)

>&math(
&a(\bm x+\bm y)\\
&=a\big\{(sx^2+tx+u)+(s'x^2+t'x+u')\big\}\\
&=a(sx^2+tx+u)+a(s'x^2+t'x+u')\\
&=a\bm x+a\bm y);

8. スカラー倍の結合法則

>&math(a(b\bm x)=a\big\{b(sx^2+tx+u)\big\}=(ab)(sx^2+tx+u)=(ab)\bm x);

したがって、&math(P^2[x]); は実数上の線形空間をなす。

ベクトルの和やスカラー倍に要求される性質が、実数の和や積の公理(交換法則や結合法則、分配法則など)により保証されていることを実感せよ。



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