電磁ポテンシャルの導入 の履歴ソース(No.26)

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[[電磁気学]]

* 目次 [#xfa8d2ec]

#contents

* 電荷密度と電流密度を与えて Maxwell 方程式を解く問題を考える [#c9b93e5b]

Maxwell 方程式

  &math(
\left\{\begin{array}{c@{\ }l@{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }l}
\displaystyle {\rm rot}\bm E+\frac{\partial \bm B}{\partial t}&=\bm 0&\MARU{1}\vspace{2mm}\\
{\rm div} \bm B &= 0&\MARU{2}\vspace{2mm}\\
\displaystyle\frac{1}{\mu_0}{\rm rot} \bm B-\varepsilon_0 \frac{\partial \bm E}{\partial t} &= \bm i&\MARU{3}\vspace{2mm}\\
\varepsilon_0{\rm div} \bm E &= \rho&\MARU{4}\\
\end{array}\right .
);

に、

- 電荷密度 &math(\rho(\bm x,t));
- 電流密度 &math(\bm i(\bm x,t));

を与えて解き、

- 電場 &math(\bm E(\bm x,t));
- 磁束密度 &math(\bm B(\bm x,t));

を求める問題を考える。

電磁気学の典型的な問題の1つである

* 方程式が多すぎる? [#rcf08c0d]

ベクトルの &math(x,\, y,\,z); 成分を1つ1つ独立変数と考えれば

- 求める変数は6個 … &math(E_x,E_y,E_z,B_x,B_y,B_z);
- 与えられた式は8個 … &math(3+1+3+1=8);

条件が多すぎて解がないのでは?

→ 実は &math(\MARU{2}); と &math(\MARU{4}); は独立の条件になっていないため大丈夫

** ② は ① に含まれている [#tbdb1b7e]

&math(\MARU{1}); の div を取る

  &math({\rm div}\,{\rm rot}\bm E+{\rm div}\frac{\partial}{\partial t}\bm B={\rm div} \bm \,0);

ベクトル解析の公式より、任意の &math(\bm E); に対して &math({\rm div}\,{\rm rot}\bm E=0); が成り立つから、

  &math(\frac{\partial}{\partial t}\big({\rm div}\bm B\big)=0);

すなわち、&math({\rm div}\bm B); の値が時間によって変化しないことが &math(\MARU{1}); により保証される。

したがって、ある時刻、例えば &math(t=0); において &math({\rm div}\bm B(\bm x,0)=0); が成り立っていれば、&math(\MARU{2}); は無くても &math(\MARU{1}); のみから任意の時刻 &math(t); において &math({\rm div}\bm B(\bm x,t)=0); が保証される。

すなわち、&math({\rm div}\bm B(\bm x,0)=0); となる「境界条件」を与える限り、&math(\MARU{2}); は &math(\MARU{1}); に含まれており、''独立な条件にはならない''。微分方程式は適切な境界条件を与えて始めて解けることを思いだそう。

** ④ は ③ に含まれている [#tbdb1b7e]

同様に &math(\MARU{3}); の div を取る

  &math(\frac{1}{\mu_0}{\rm div}\,{\rm rot} \bm B-\varepsilon_0{\rm div}\frac{\partial \bm E}{\partial t} = {\rm div}\bm i);

  &math(-\frac{\partial}{\partial t}\varepsilon_0{\rm div}\bm E = {\rm div}\bm i);

ここで、条件として与える &math(\rho,\,\bm i); は電荷保存則を満たしていなければならないため、

  &math({\rm div}\bm i=-\frac{\partial}{\partial t}\rho);

となっているはずである。すると、

  &math(\frac{\partial}{\partial t}\varepsilon_0{\rm div}\bm E=\frac{\partial}{\partial t}\rho);

  &math(\frac{\partial}{\partial t}\big(\varepsilon_0{\rm div}\bm E-\rho\big)=0);

すなわち、&math(\varepsilon_0{\rm div}\bm E-\rho); は時間によって変化しない。

したがって、ある時刻、例えば &math(t=0); において &math(\varepsilon_0{\rm div}\bm E(\bm x,0)=\rho(\bm x,0)); が成り立っていれば、&math(\MARU{4}); は無くても &math(\MARU{3}); のみから任意の時刻 &math(t); において &math(\varepsilon_0{\rm div}\bm E(\bm x,t)=\rho(\bm x,t)); が保証される。

すなわち、&math(\varepsilon_0{\rm div}\bm E(\bm x,0)=\rho(\bm x,0)); となる「境界条件」と、電荷保存則を満たす &math(\rho,\bm i); を与える限り、&math(\MARU{4}); は &math(\MARU{3}); に含まれており、''独立な条件にはならない''。

** 独立な条件の数 [#y6577d4e]

&math(\MARU{1}\sim\MARU{4}); のうち、&math(\MARU{2}, \MARU{4}); を除くと、独立な条件は &math(\MARU{1}, \MARU{3}); のみとなり、成分で考えれば

- 求める変数は6個 … &math(E_x,E_y,E_z,B_x,B_y,B_z);
- 与えられた式は6個 … &math(3+3=6);

で、ちょうど解ける計算になる。

→ 実は、本当の自由度はこれよりさらに少ない~
そもそも自由パラメータが &math(i_x,i_y,i_z,\rho); の4つで、
さらにこれらは電荷の保存 &math(\PD \rho/\PD t=-\DIV \bm i); の制約を負っているため、
与えるパラメータの自由度が3しかないことに注意せよ

詳細を以下で見る
* 電磁ポテンシャルとは [#b08b2f1b]

&math(\MARU{1}, \MARU{3}); の式は

&math(\left\{\begin{array}{c@{\ }l@{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }l}\displaystyle {\rm rot}\bm E+\frac{\partial \bm B}{\partial t}&=\bm 0&\MARU{1}\vspace{2mm}\\\displaystyle\frac{1}{\mu_0}{\rm rot} \bm B-\varepsilon_0 \frac{\partial \bm E}{\partial t} &= \bm i&\MARU{3}\vspace{2mm}\end{array}\right .);

のように &math(\bm E, \bm B); の各成分が複雑に入り組んでいるため、解くのが難しい。

「電磁ポテンシャル」を導入することで問題を見通しの良い形に直せる。

ここで、「電磁ポテンシャル」と「静電ポテンシャル」の2つの用語を使い分けていることに注意せよ。

- 電磁ポテンシャル … 電磁場が時間に依存して変化する時に使用する
-- ベクトルポテンシャル
-- スカラーポテンシャル
- 静電ポテンシャル=電位 … 電磁場が時間に依存しない時に使用する~
(電磁ポテンシャルのスカラーポテンシャルから時間に依存する項を除いた形)

* 静電ポテンシャルの復習 [#y4833a49]

時間に依存しない電場 = 静電場 を考えるとき、「静電ポテンシャル」つまり「電位」を使うことで問題を簡単に解くことができた。

  電位:&math(\phi(\bm x));

2点 &math(A, B); が与えられたとき、2点間の電位差(電場を &math(AB); 間で線積分した値)は点 &math(A, B); における &math(\phi(\bm x)); の値のみを使って、

  &math(\phi(\bm x_B)-\phi(\bm x_A)=-\int_{\bm x_A}^{\bm x_B}\bm E\cdot d\bm r);

と書ける。あるいは同じ意味であるが、

  &math(\bm E(\bm x)=-{\rm grad} \phi(\bm x));

と書ける。

すなわち電場 &math(\bm E); は電位 &math(\phi); の傾きである。

というのが静電ポテンシャルの定義であった。

#ref(静電ポテンシャル.png,right,around,33%);

このようにして電位を定義可能できることは、
上記 Maxwell 方程式の &math(\MARU{1}); から時間に依存する項を除いた

  &math({\rm rot}\bm E(\bm x)=0);

という式から導かれる。

2点 &math(A, B); 間に2つの経路 &math(R_1, R_2); を考える。

&math(R_1); を行って &math(R_2); を帰る閉曲線を &math(C=R_1-R_2);、&math(C); に囲まれる面積を &math(S); とすると、

  &math(\int_{R_1}\bm E\cdot d\bm r-\int_{R_2}\bm E\cdot d\bm r=\oint_{C}\bm E\cdot d\bm r=\int_S{\rm rot}\bm E\cdot\bm n dS=0);

となり、''任意の経路に沿った線積分が同じ値を取ることが分かる''。これがポテンシャルの定義可能性を示す。

逆に、&math(\frac{\PD\bm B}{\PD t}\ne \bm 0); のとき、''いわゆる「電位」は定義されない''

** 静電ポテンシャルを用いて時間に依存しない Maxwell 方程式を書き直す [#n140b745]

&math(\bm E(\bm x)=-{\rm grad} \phi(\bm x)); を &math(\MARU 4); へ代入すれば、

  &math(-{\rm div}\,{\rm grad}\phi(\bm x)=-\bigtriangleup\phi(\bm x)=\rho(\bm x)/\varepsilon_0);

この形の方程式を Poisson (ポアソン) 方程式と呼ぶ。(右辺がゼロなら Laplace (ラプラス) 方程式)

  &math(\bigtriangleup\equiv{\rm div}\,{\rm grad}=\frac{\PD^2}{\PD x^2}+\frac{\PD^2}{\PD y^2}+\frac{\PD^2}{\PD z^2}); 

を Laplacian (ラプラシアン) と呼ぶ。

以上、静電ポテンシャル &math(\rho); を導入することにより、

  &math({\rm rot}\bm E(\bm x)=0);~
  &math({\rm div}\bm E(\bm x)=\rho(\bm x)/\varepsilon_0);

の複雑な連立方程式から &math(\bm E(\bm x)); を決める難しい問題が、

  &math(-\bigtriangleup\phi(\bm x)=\rho(\bm x)/\varepsilon_0);

を解いて

  &math(\bm E(\bm x)=-{\rm grad} \phi(\bm x));

へ代入する、易しい問題に書き換えられたことに注目せよ。

* 電磁ポテンシャルの導入 [#q3201fd3]

上で見たとおり、動電場においては電場の線積分により電位(静電ポテンシャル)を定義することはできない。

時間に依存する電磁場を考えるときは、静電ポテンシャルのかわりに電磁ポテンシャルを使うことになる。

** ベクトルポテンシャル [#m5bb4434]

まず、&math(\MARU{2}); よりベクトルポテンシャル &math(\bm A(\bm x,t)); を導入し、これを用いて磁束密度を

  &math(\bm B(\bm x,t)={\rm rot} \bm A(\bm x,t)\hspace{2cm}\MARU{5});

と書き表す。これにより &math(\MARU{2}); は自動的に満たされる。

  &math({\rm div}\,{\rm rot} \bm A=0);

なぜ &math(\MARU{2}); からベクトルポテンシャルを導入できるかというと ・・・
実は静電場において &math(\MARU{2}); から電位の存在を導いた時のようには簡単に説明できない。以下に参考文献を挙げるにとどめる。

- 「ヘルムホルツの定理」からベクトルポテンシャルの存在を証明できる((このあたりを調べていると出会う「ヘルムホルツの分解定理は間違っている」という記事への的を射た反論はこちら → http://wf7137.tumblr.com/post/111268638208/%E3%83%98%E3%83%AB%E3%83%A0%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%84%E3%81%AE%E5%88%86%E8%A7%A3%E5%AE%9A%E7%90%86%E3%81%AF%E9%96%93%E9%81%95%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%AE%E8%AA%A4%E8%AC%AC))~
-- 岡部先生の[[電磁気学テキスト>http://www.moge.org/okabe/temp/elemag.pdf]]の「第6章 ポテンシャル」&qr(http://www.moge.org/okabe/temp/elemag.pdf);

** ベクトルポテンシャルの意味 [#r35960b0]

#ref(ベクトルポテンシャル.png,around,right,33%);

静電ポテンシャルが2点間の電場の線積分から得られたのと比較しながら理解しよう。

閉曲線 &math(C); を考える。&math(C); を縁とする2つの曲面 &math(S_1, S_2); を取り、それらを合わせてできる閉曲面を &math(S=S_1-S_2);、&math(S); に囲まれる体積を &math(V); とする。

&math(S_1, S_2); を貫く磁束を比較すると、

  &math(\int_{S_1}\bm B\cdot\bm ndS-\int_{S_2}\bm B\cdot\bm ndS=\int_{S}\bm B\cdot\bm ndS=\int_{V}{\rm div}\bm Bd^3x=0);

となるから、閉曲線 &math(C); を貫く磁束 &math(N_C); は面の取り方によらず一意に定義される。

  &math(N_C=\int_{S_\mathrm{any}}\bm B\cdot\bm ndS);

ここに &math(\bm B(\bm x,t)={\rm rot} \bm A(\bm x,t)); を代入すると、

  &math(N_C=\int_{S}{\rm rot}\bm A\cdot\bm ndS=\oint_{C}\bm A\cdot d\bm r);

となり、&math(N_C); を &math(C); 上の &math(\bm A); の値のみを含む式で表せることになる。

2点 &math(A,B); 間の電位差 &math(\phi_\mathrm{AB}); が、2点 &math(A,B); の上での静電ポテンシャル &math(\phi); の値のみを使って &math(\phi_\mathrm{AB}=\phi(\bm x_B)-\phi(\bm x_A)); と表せたのと、

閉曲線 &math(C); 内部の磁束 &math(N_C); が、閉曲線 &math(C); 上でのベクトルポテンシャル &math(\bm A); の値のみを使って &math(N_C=\oint_{C}\bm A\cdot d\bm r); と表せたのと、

を対比させて理解したい。

*** 演習 [#z6f1e330]

次のベクトルポテンシャルに対応する磁場を求めよ。

(1) &math(\bm A(\bm x)=\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix});  
(2) &math(\bm A(\bm x)=\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix});  
(3) &math(\bm A(\bm x)=\begin{pmatrix}y\\0\\0\end{pmatrix});  

(4) &math(\bm A(\bm x)=\begin{pmatrix}0\\-x\\0\end{pmatrix});  
(5) &math(\bm A(\bm x)=\begin{pmatrix}y^2\\0\\0\end{pmatrix});  
(6) &math(\bm A(\bm x)=\begin{pmatrix}0\\0\\\log(x^2+y^2)\end{pmatrix}); 

特に (6) について &math(x,y); 平面上の磁場の様子(電気力線)を図示せよ。

- ベクトルポテンシャルが空間的に変化しても、磁場が存在しないことがある
- 異なるベクトルポテンシャルが同じ磁場を与える場合がある

ことに注意せよ。
** スカラーポテンシャル [#da84e85b]

&math(\MARU{1}); に &math(\bm B(\bm x,t)={\rm rot} \bm A(\bm x,t)); を代入すると、

  &math({\rm rot}\bm E+\frac{\partial}{\partial t}{\rm rot}\bm A=\bm 0);

  &math(\ROT\left(\bm E+\frac{\partial}{\partial t}\bm A\right)=\bm 0);

したがって、静電ポテンシャルの時の議論と同様に、

  &math(\bm E+\frac{\partial}{\partial t}\bm A=-\GRAD\phi);

と置けて、

  &math(\bm E=-\GRAD\phi-\frac{\partial}{\partial t}\bm A\hspace{2cm}\MARU{6});

を得る。これにより &math(\MARU{1}); は自動的に満たされる。

第2項がなければ静電ポテンシャルの式と同じであるが、動的な場では電磁誘導の項である第2項が現れる事に注意せよ。

すなわち、

  &math(
\phi(\bm x_B)-\phi(\bm x_A)=
-\int_{\bm x_A}^{\bm x_B}\left(\bm E+\frac{\partial}{\partial t}\bm A\right)\cdot d\bm r
);


** 電荷と電流に対するポテンシャル [#k13bd197]

電磁ポテンシャルの物理的意味:

- スカラーポテンシャルは電荷に対するポテンシャルである
-- &math(e\phi); が位置エネルギーになる
- ベクトルポテンシャルは電流に対するポテンシャル(のようなもの)である((前野昌弘先生の「ベクトルポテンシャルとは何ぞや?」を参考にさせていただきました。http://www.phys.u-ryukyu.ac.jp/~maeno/cgi-bin/pukiwiki/index.php?%A5%D9%A5%AF%A5%C8%A5%EB%A5%DD%A5%C6%A5%F3%A5%B7%A5%E3%A5%EB%A4%C8%A4%CF%B2%BF%A4%BE%A4%E4%A1%A9))
-- &math(-e\bm v\cdot\bm A); が位置エネルギーになる

運動方程式から始めて上記を理解しよう。(ここでは解析力学的な書式を用いる)

  &math(
\frac{d}{dt}(m\dot{\bm x})&=\bm f\\
&=e\bm E+e\dot{\bm x}\times\bm B\\
&=e\left(-\grad\phi-\frac{\PD}{\PD t}\bm A\right)+e\dot{\bm x}\times\left(\rot\bm A\right)\\
&=-e\grad\phi-e\frac{\PD}{\PD t}\bm A+\grad(e\dot{\bm x}\cdot\bm A)-(e\dot{\bm x}\cdot\bm\nabla)\bm A\\
&=-\grad\Big(e\phi-e\dot{\bm x}\cdot\bm A\Big)-e\left(\frac{\PD}{\PD t}-\dot{\bm x}\cdot\bm\nabla\right)\bm A(\bm x(t),t)\\
&=-\frac{\PD}{\PD \bm x}\Big(e\phi-e\dot{\bm x}\cdot\bm A\Big)-e\frac{d}{dt}\bm A(\bm x(t),t)\\
);

ここで用いた式変形のうち、

  &math(e\dot{\bm x}\times\left(\rot\bm A\right)=
\grad(e\dot{\bm x}\cdot\bm A)-(e\dot{\bm x}\cdot\bm\nabla)\bm A);

はベクトル解析の公式、

  &math(\frac{d}{dt}\bm A(\bm x(t),t)=
\left(\frac{\PD}{\PD t}-\dot{\bm x}\cdot\bm\nabla\right)\bm A(\bm x(t),t));

は、左辺の &math(\bm A(\bm x(t),t)); の中の &math(\bm x(t)); に対する時間微分を
右辺であらわに書いた形、

  &math(\grad=\frac{\PD}{\PD \bm x});

の右辺は解析力学などでよく使われる記法、になっている。
(右辺分母の &math(\bm x); が太字=ベクトルであることに注意)

上記のようにして得た

  &math(
\frac{d}{dt}(m\dot{\bm x}+e\bm A)
&=-\frac{\PD}{\PD\bm x}\Big(e\phi-e\dot{\bm x}\cdot\bm A\Big)\\
);

とラグランジュの運動方程式

  &math(
\frac{d}{dt}\left(\frac{\PD L}{\PD \dot{\bm x}}\right)=\frac{\PD L}{\PD \bm x}
);

とを比べると、電場・磁場の存在する場合のラグランジアンを、

  &math(
L=\frac{1}{2}m\dot{\bm x}^2-\underbrace{\left(e\phi-e\dot{\bm x}\cdot\bm A\right)}_{\displaystyle =U}
);

と書けることが分かる。&math(U); の部分がポテンシャルに相当し、上記の通り電荷に対するポテンシャル &math(\phi); と、電流に対するポテンシャル &math(-\bm A); とで表される。

このとき、正準運動量(一般化運動量、力学的運動量とも呼ばれる)は

  &math(\bm p=\frac{\PD L}{\PD\dot{\bm x}}=m\dot{\bm x}+e\bm A);

となり、通常の運動量(運動学的運動量) &math(m\dot{\bm x}); と &math(e\bm A); との和として表される。

ルジャンドル変換をしてハミルトニアンを求めれば、

  &math(
H&=\bm p\cdot\dot{\bm x}-L\\
&=(m\dot{\bm x}+\cancel{e \bm A})\cdot \dot{\bm x}-\left(\frac{1}{2}m\dot{\bm x}^2-e\phi+\cancel{e\dot{\bm x}\cdot\bm A}\right)\\
&=\frac{1}{2}m\dot{\bm x}^2+e\phi\\
);

まだ途中であるが、系のエネルギーを表すハミルトニアンが、
- 運動エネルギー &math(\frac{1}{2}m\dot{\bm x}^2);
- スカラーポテンシャルに由来するポテンシャルエネルギー &math(e\phi); 

の和で表されていることに注意せよ。

よく知られるように磁場と電荷との相互作用は常に電荷の進行方向と垂直方向に力を生むため電荷に対して仕事をしない。すなわち系のエネルギーに影響を及ぼさない。このことが系のエネルギーに &math(\bm A); が含まれないことと対応している。

上記で電流に対するポテンシャル___(のようなもの)___と書いた意味がこれである。ベクトルポテンシャルは電流に力を及ぼすという意味ではポテンシャルのように働くが、仕事をしないことから系のエネルギーには含まれない。

ハミルトニアンは「系のエネルギーを正準座標と正準運動量とで表したもの」であるから、上の式を &math(m\dot{\bm x}=\bm p-e\bm A); の関係を使って書き換え、

  &math(
H&=\frac{1}{2m}(\underbrace{\bm p-e\bm A\vphantom{\Bigr(}}_{m\dot{\bm x}})^2+e\phi\\
);

を得る。この形は今後も量子力学等で見ることになる。

* 電磁ポテンシャルを用いて Maxwell 方程式を書き直す [#c1c983bc]

電磁ポテンシャルを導入したことで、&math(\MARU{1}, \MARU{2}); は自動的に満たされるため、&math(\MARU{3}, \MARU{4}); を &math(\bm A, \phi); の式に直すと次式を得る(詳細は省く)。

  &math(
\left\{\begin{array}{rl@{\ \ \ \ \ \ \ \ }l}
\displaystyle 
\grad\left(\DIV \bm A+\frac{1}{c^2}\frac{\partial\phi}{\partial t}\right)
-\left(\bigtriangleup-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}\right)\bm A
&=\mu_0\bm i&\MARU{3}^\prime\\
\displaystyle
-\frac{\partial}{\partial t}\bigg( {\rm div} \bm A \ \,{\color{blue}+\frac{1}{c^2}\frac{\partial \phi}{\partial t}}\bigg)
-\left(\bigtriangleup\ \,{\color{blue}-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}}\right)\,\phi
&\displaystyle=\frac{1}{\varepsilon_0}\rho&\MARU{4}^\prime\end{array}\right .
);

ここで &math(\begin{cases}\displaystyle\bigtriangleup=\DIV\GRAD=\frac{\PD^2}{\PD x^2}+\frac{\PD^2}{\PD y^2}+\frac{\PD^2}{\PD z^2}\\\displaystyle\frac{1}{c^2}=\mu_0\varepsilon_0\end{cases}); であり、
&math(\bigtriangleup\bm A=\begin{pmatrix}\bigtriangleup A_x\\\bigtriangleup A_y\\\bigtriangleup A_z\end{pmatrix}); である。

青で色を付けた部分は普通に式変形しただけでは出てこない項であるが、
互いに打ち消し合って消えるため、式の対称性を高める目的で追加した。

&math(\MARU{3}^\prime); の &math(x); 成分を取りだしてみると

  &math(
\frac{\PD}{\PD x}\left(\DIV \bm A+\frac{1}{c^2}\frac{\partial\phi}{\partial t}\right)
-\left(\bigtriangleup-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}\right)A_x
&=\mu_0i_x
);

のようになり、&math(\MARU{4}^\prime); と非常に似ていることを再確認できる。

6つの関数を6本のバラバラな方程式から決定する問題を、~
4つの関数を4本の対称性の良い方程式から決定する問題に変形できた~
ことになる。

しかしこの形はまだ &math(\bm A); と &math(\phi); の各成分が複雑に混じり合った難しい問題になっている。

* ゲージ変換 [#fde7eaa7]

電磁ポテンシャルの定義は次のようであった:

  &math(\bm B=\ROT \bm A\hspace{4cm}\MARU{5});~
  &math(\bm E=-\GRAD\phi-\frac{\PD}{\PD t}\bm A\hspace{2cm}\MARU{6});

したがって、&math(\bm A, \phi); を決めれば &math(\bm E, \bm B); は一意に定まる。

しかし、その逆は真ではない。~
すなわち、同じ &math(\bm E, \bm B); を与える &math(\bm A, \phi); は多数存在する。

簡単に思いつくのは、&math(\bm A_0,\phi_0); を定数として

  &math(\bm A'(\bm x,t)=\bm A(\bm x,t)+\bm A_0);~
  &math(\phi'(\bm x,t)=\phi(\bm x,t)+\phi_0);~

→ 定数を加える他にもたくさんある

微分して消えるような項が足されていても同じ &math(\bm E,\bm B); を与えるのであるから、
任意の &math(\chi(\bm x,t)); に対して &math(\ROT\GRAD\chi=0); を考慮すれば、

  &math(\bm A'(\bm x,t)=\bm A(\bm x,t)+\GRAD\chi(\bm x,t)); 

は &math(\bm A); と同じ &math(\bm B); を与える。そして、

  &math(\bm E=-\GRAD\phi'-\frac{\PD}{\PD t}\bm A');~
   &math(=-\GRAD\phi'-\frac{\PD}{\PD t}\bm A-\frac{\PD}{\PD t}\GRAD\chi);~
   &math(=-\GRAD(\phi'+\frac{\PD}{\PD t}\chi)-\frac{\PD}{\PD t}\bm A);~

より、

  &math(\bm A'(\bm x,t)=\bm A(\bm x,t)+\GRAD\chi(\bm x,t));~
  &math(\phi'(\bm x,t)=\phi(\bm x,t)-\frac{\PD}{\PD t}\chi(\bm x,t));

は、&math(\bm A,\phi); と同じ &math(\bm E,\bm B); を与える。

&math(\bm A',\phi'); と &math(\bm A,\phi); は同じ物理現象に対して異なるポテンシャルの「測り方」をしたもの(場所ごと、時間ごとにポテンシャルの原点をずらしたという雰囲気か)。同じ物の大きさを、異なる物差し(ゲージ)で測定した結果のようなものと考えられる。

そこで、&math(\bm A,\phi); と &math(\bm A',\phi'); とは「ゲージが異なる」と言い、
両者の間の変換を「ゲージ変換」と言う。

当然、&math(\bm A,\phi); が Maxwell 方程式 &math(\MARU 3',\MARU 4'); の解であれば、
それをゲージ変換した &math(\bm A',\phi'); も同じ方程式の解になる。
(元が &math(\bm E,\bm B); の式だったのだから当然!と思えるか?)

解こうとする問題に合わせて特別にゲージを選ぶことで、多少なりとも問題を解きやすくすることができる場合がある。

4つの自由度を持つように見える電磁ポテンシャルであるが、そのうちの1つの自由度はゲージ変換により物理的に意味を持たず、実質的な自由度は3となるにも注意が必要である。分かりやすい話を紹介すると、任意の &math(\bm A,\phi); を適切にゲージすることで &math(A_x,A_y,A_z,\phi); のうち1つをゼロにすることが常に可能である。つまり、どんな物理的状況であっても、&math(A_x,A_y,A_z,\phi); のうち3つだけを使って正確に記述できるのである。

* Lorenz ゲージ [#zdf59729]

解をゲージ変換して別の解が得られることから分かるとおり、Maxwell 方程式を解いても、
ただ1つの &math(\bm A,\phi); が求まるわけではない。
方程式は無数の解を含む「解の集合」を与えるに過ぎない。

そのような Maxwell 方程式の解の集合の中には、次の条件も同時に満たす解が必ず存在することを証明可能である。

  &math(\DIV \bm A+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi}{\PD t}=0\hspace{1cm}\MARU{7});

この条件は Lorenz 条件と呼ばれる。

そのような解を「Lorenz ゲージにおける解」と呼び、しばしば &math(\bm A_L, \phi_L); と書く。

Maxwell 方程式を解くに当たり、物理的には何ら意味を持たない &math(\MARU{7}); 
の条件を加え、見つけるべき解の集合を限定することにより、数学的にはむしろ解きやすくなる、
というのがトリックだ。
Lorenz 条件はゲージ(ポテンシャルの測り方)を制限するだけの条件であり、
何ら物理的な意味を持たないことはしっかり理解するように。

 (Maxwell 方程式&math(\MARU{3}',\MARU{4}');の解) ⊇ (Lorenz ゲージにおける解)

という関係になる。

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Lorenz条件やLorenzゲージの[[Lorenz>https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%92%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%84]]と、Lorentz力やLorentz変換、Lorentz分布の[[Lorentz>https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%84]]と、は別人で、綴りも少々違うにもかかわらず広く一般に混同されているため注意が必要です(私も長いこと混同していました)。Lorenz曲線の[[Lorenz>https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%84%E6%9B%B2%E7%B7%9A]]はまた別人とかもうややこしすぎるのですが、LorenzとLorentzを区別するために、日本語ではLorenzをローレンス、Lorentzをローレンツと発音しようという向きもあるそうです。http://eman-physics.net/relativity/loren.html

** Lorenz ゲージにおける解の存在 [#c0066b71]

&math(\bm A,\phi); が Maxwell 方程式の解であるとき、

  &math(\bigtriangleup\chi-\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2\chi}{\PD t^2}=-\left(\DIV \bm A+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi}{\PD t}\right));

の解 &math(\chi_L); は必ず存在する。この &math(\chi_L); を用いて &math(\bm A,\phi\leftarrow\bm A_L,\phi_L); の変換を行えば、

  &math(\DIV \bm A_L+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi_L}{\PD t}=\DIV\bm A+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi}{\PD t}+\bigtriangleup\chi_L-\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2}\chi_L=0);~

となって、Lorenz ゲージにおける解を生成できる。

** Lorenz ゲージにおける Maxwell 方程式 [#sa3f7ffa]

Lorenz ゲージにおいて、Maxwell 方程式は次の形となる。

&math(\left\{\begin{array}{rl@{\ \ \ \ \ \ \ \ }l}
\displaystyle-\left(\bigtriangleup-\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2}\right)\bm A_L&=\mu_0\bm i&\MARU{3}''\\
\displaystyle-\left(\bigtriangleup-\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2}\right)\phi_L&\displaystyle=\frac{1}{\varepsilon_0}\rho&\MARU{4}''\\
\displaystyle\DIV \bm A_L+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi_L}{\PD t}&=0&\MARU{7}\\
\displaystyle\bm E&\displaystyle=-\GRAD\phi_L-\frac{\PD\bm A}{\PD t}&\MARU{6}\\
\bm B&=\ROT \bm A_L&\MARU{5}\\
\end{array}\right .);

この式は、&ruby(ラプラシアン){Laplacian};の4次元版である&ruby(ダランベール){d'Alembert};の演算子(&ruby(ダランベルシアン){d'Alembertian};)を~
&math(\square=\left(\bigtriangleup-\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2}\right)); として導入して、

&math(\left\{\begin{array}{rl@{\ \ \ \ \ \ \ \ }l}
\displaystyle-\square\bm A&=\mu_0\bm i&\MARU{3}''\\
\displaystyle-\square\phi&\displaystyle=\frac{1}{\varepsilon_0}\rho&\MARU{4}''\\
\end{array}\right .);

と書くこともできる。((Laplacian &math(\bigtriangleup); が &math(x,y,z); による二次微分を加えたものであるのに対して、d'Alembertian &math(\square); は &math(x,y,z,t); による二次微分を加えたものであり、Laplacian の4次元版になっている。(そのため記号も三角が四角になっている)))

この形は &math(x,y,z); 成分に分けて考えても非常に対称性がよく、数学的にも解きやすい。

&math(\square=\frac{\PD^2}{\PD x^2}+\frac{\PD^2}{\PD y^2}+\frac{\PD^2}{\PD z^2}-\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2});

&math(\DIV \bm A+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi}{\PD t}=\frac{\PD A_x}{\PD x}+\frac{\PD A_y}{\PD y}+\frac{\PD A_z}{\PD z}+\frac{1}{c^2}\frac{\PD\phi}{\PD t});

** Lorenz ゲージにおける解の任意性 [#q9ba8749]

[[Lorenz ゲージにおける解の存在>#c0066b71]] での議論から、Lorenz ゲージの解 &math(\bm A_L,\phi_L); を、斉次方程式

  &math(\bigtriangleup\chi_0-\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2}\chi_0=0);  (d'Alembertian を使えば &math(\square \chi_0=0);)

の解 &math(\chi_0); を用いてゲージ変換しても、やはり Lorenz 条件を満たすことが容易に分かる。

すなわち、Lorenz ゲージにおける解には &math(\chi_0); を用いたゲージ変換に相当する自由度が存在するため、やはり解は一意には決まらない。

物理的な問題を解く上では、無数に存在する解のうち1つが見つかれば十分である。

* Coulombゲージ [#xd2e95c5]

Lorenz ゲージと並んで有用なゲージとして Coulomb ゲージと呼ばれるものがある。

このとき Lorenz 条件の代わりに次のゲージ条件を満たすようにゲージを取る。

 &math(\mathrm{div}\,\bm A=0);

このゲージにおいて Maxwell 方程式は、

 &math(
\left\{\begin{array}{rl@{\ \ \ \ \ \ \ \ }l}
\displaystyle
-\bigtriangleup\phi
&\displaystyle=\frac{1}{\varepsilon_0}\rho\\
\displaystyle 
-\left(\bigtriangleup-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}\right)\bm A
&\displaystyle=\mu_0\bm i-\grad\left(\frac{1}{c^2}\frac{\partial\phi}{\partial t}\right)\\[4mm]
\mathrm{div}\,\bm A&=0
\end{array}\right .
);

の形になる。

この形で特徴的なのは第一式が静電ポテンシャルにおいて電位決定するポアソン方程式と同じ形をしていることであり、&math(\bm i); や &math(\bm A); とは独立に &math(\rho); のみの情報から(比較的)容易に決定できることである。

求めた &math(\phi); を第2式に代入し、第3式と共に解くことになる。

* 質問・コメント [#o6f781da]

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