解析力学/速習:解析力学 の履歴(No.1)

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解析力学

目次

解析力学とは

今まで、ニュートン方程式を基礎方程式として力学を学んできた。 解析力学ではそれと同等の力学を、大きく見た目の異なる基礎方程式を使って記述する。

以下では

  • ラグランジュ力学
  • ハミルトン力学

の2つを学ぶ。

ハミルトン力学で中心的な役割を果たす「ハミルトニアン」は、量子力学でも中心的な役割を果たすため、 ちゃんと量子力学をやるにはある程度の解析力学の知識があった方が良い。

ラグランジアンとラグランジュの運動方程式

力学系の運動エネルギーを $T$、ポテンシャルエネルギーを $U$ とするとき、 ラグランジアン $L$ を、

$$ L=T-U $$

として定義すると、ラグランジュの運動方程式

$$ \frac{d}{dt}\bigg\{\frac{\partial L}{\partial \dot q_k}\bigg\}-\frac{\partial L}{\partial q_k}=0 $$

がニュートンの運動方程式と同等の運動方程式を与える。

ただし $q_k$ は系の座標で、例えば $x,y,z$ とか。$\dot x$ のように上に点が付いてるのは時間微分で、$\dot x=\frac d{dt}x,\ \ \ddot x=\frac{d^2}{dt^2}x$ を意味する。

やってみよう。

$$L=\frac12|\dot{\bm x}|^2-U(\bm x)$$

とすると、運動方程式は

$$ \frac{d}{dt}\bigg\{\frac{\partial L}{\partial \dot{\bm x}}\bigg\}-\frac{\partial L}{\partial \dot{\bm x}}=0 $$

$$ \frac{d}{dt}\underbrace{\bigg\{m\dot{\bm x}\bigg\}}_\text{運動量}=\underbrace{-\frac{\partial U}{\partial \bm x}}_\text{力} $$

となって、確かにニュートン方程式が出てくる。

ここで、$\frac{\partial U}{\partial \bm x}$ は $\bm \nabla U$ の意味で、 解析力学ではしばしばこういう書き方が使われる。

ポテンシャルエネルギーの勾配が力を与えることを思いだそう。

なぜ上のような変な形の式が出てくるのかについては [最小作用の原理] を見よ。

ラグランジュの運動方程式の共変性

ニュートン方程式が出てくるだけなら新たにラグランジアンを学ぶ理由はなに? となるわけだけれど、実はラグランジュの運動方程式は座標変換に対して形を変えないところにメリットがある。

質量 $m$、長さ $r$ の振り子の運動を考えよう。鉛直下向きからの振れ角を $\theta$ とすると、重りの速度は $r\dot\theta$、支点を基準に測った重りの高さは $r\cos\theta$ だから、

$$T=\frac12m(r\dot\theta)^2,\ \ \ U=mgr\cos\theta$$

$$L=\frac12m(r\dot\theta)^2-mgr\cos\theta$$

このラグランジアンに対して $\theta$ を変数としてラグランジュの運動方程式を求めると、

$$ \frac{d}{dt}\bigg\{\frac{\partial L}{\partial \dot\theta}\bigg\}-\frac{\partial L}{\partial \theta}=0 $$

$$ \frac{d}{dt}\underbrace{\bigg\{mr^2\dot\theta\bigg\}}_\text{運動量?}=\underbrace{-mgr\sin\theta}_\text{力?} $$

これを整理して、

$$ \theta=-\frac gr\sin\theta $$

はこの系の $\theta$ に対する正しい方程式を与える。

ラグランジュ形式の力学は座標の取り方にかかわらず基礎方程式が同じ形になるという点で、 ニュートン方程式よりも優れている。

一般化運動量

$\theta$ を位置座標に取った場合、ラグランジュの運動方程式に出てくる $\displaystyle \frac{\partial L}{\partial \dot\theta}$ は運動量そのものではないし、 $\displaystyle \frac{\partial L}{\partial \theta}$ は力そのものではないのだが、 運動量や力の概念を拡張して、任意の座標 $q_k$ に対して、

  • $\displaystyle p_k=\frac{\partial L}{\partial \dot q_k}$ を 一般化運動量
  • $\displaystyle f_k=\frac{\partial L}{\partial q_k}$ を 一般化力

と呼ぶ。このときラグランジュの運動方程式は、

$$ \dot p_k=\frac{\partial L}{\partial q_k} $$

ただし、

$$ p_k=\frac{\partial L}{\partial \dot q_k} $$

と表される。

ラグランジアンの全微分

$L$ は一般に座標と速度、そして時間の関数として $L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n,t)$ と書けるが、その全微分は上記の定義を用いて、

$$ \begin{aligned} dL&=\sum_{i=1}^n\Big[\frac{\partial L}{\partial \dot q_k}d\dot q_k+\frac{\partial L}{\partial q_k}dq_k\Big]+\frac{\partial L}{\partial t}dt\\ &=\sum_{i=1}^n\Big[p_k\,d\dot q_k+\dot p_k\,dq_k\Big]+\frac{\partial L}{\partial t}dt\\ \begin{end} $$

ハミルトニアンとエネルギー保存

任意の $L$ に対して上記の変分から $\dot L$ は、

$$ \begin{aligned} \dot L=\frac{dL}{dt} &=\sum_{i=1}^n\Big[p_k\,\ddot q_k+\dot p_k\,\dot q_k\Big]+\frac{\partial L}{\partial t}\\ &=\frac{d}{dt}\sum_{i=1}^np_k\,\dot q_k+\frac{\partial L}{\partial t}\\ \begin{end} $$

と表せるから、

$$ \frac{d}{dt}\Big[\underbrace{\sum_{i=1}^np_k\,d\dot q_k-L}_{=\,H\,\text{と置く}}\Big]=-\frac{\partial L}{\partial t} $$

となって、$\displaystyle \frac{\partial L}{\partial t}=0$ すなわちポテンシャルエネルギー $U$ が時間に依存しない孤立系では $\dot H=0$ となって $H$ は時間に対して変化しない「保存量」となる。

この $H$ はハミルトニアンと呼ばれ、実は系のエネルギーに相当する。

$$L=\frac12|\dot{\bm x}|^2-U(\bm x)$$

なら、

$$ \begin{aligned} H&=\underbrace{m\dot{\bm x}}_{\bm p}\cdot\dot{\bm x}-\Big[\frac12|\dot{\bm x}|^2-U(\bm x)\Big]\\ &=\frac12|\dot{\bm x}|^2+U(\bm x)=T+U\\ \end{aligned} $$

ハミルトニアンの全微分とハミルトンの運動方程式

$$ dH&=\sum_{i=1}^n\Big[dp_k\,\dot q_k+p_k\,d\dot q_k\Big]-\underbrace{\Big\{\sum_{i=1}^n\Big[p_k\,d\dot q_k+\dot p_k\,dq_k\Big]+\overbrace{\frac{\partial L}{\partial t}}^{=-\,\partial H/\partial t}dt\Big\}}_{dL}\\ &=\sum_{i=1}^n\Big[\dot q_k\,dp_k-\dot p_k\,dq_k\Big]+\frac{\partial H}{\partial t}\\ $$

であるから、ハミルトニアンを位置と運動量の関数として $H(q_1,q_2,\dots,q_n,p_1,p_2,\dots,p_n)$ のように書くと、

$$ \dot q_k=\frac{\partial H}{\partial p_k} $$

$$ \dot p_k=-\frac{\partial H}{\partial q_k} $$

が成り立ち、上の式が運動量 $p_k$ の定義を、下の式が運動方程式を与えることになる。

上の例であれば、

$$H(\bm x,\bm p)=\frac12|\dot{\bm x}|^2+U(\bm x)=\frac1{2m}|\bm p|^2+U(\bm x)$$

のように $\bm x,\bm p$ の関数に直して代入すると、

$$ \dot{\bm x}=\frac{\partial H}{\partial \bm p}=\frac1m\bm p $$ $$ \dot{\bm p}=-\frac{\partial H}{\partial \bm x}=-\frac{\partial U}{\partial \bm x} $$

となって、確かにうまく行っている。

ハミルトニアンの優位性

ラグランジュの力学は座標系 $q_1,q_2,\dots,q_n$ から別の座標系 $Q_1,Q_2,\dots,Q_n$ への

$$ Q_i=Q_i(q_1,q_2,\dots,q_n)\hspace{1cm}(i=1,2,\dots,n) $$

に対して共変性を持つのだが、ハミルトン力学では $p_i,q_i$ を独立な変数と見なして、

$$ Q_i=Q_i(q_1,q_2,\dots,q_n,p_1,p_2,\dots,p_n)\hspace{1cm}(i=1,2,\dots,n) $$

のように入り交じった変換(正準変換という)を行ったとしても共変になるため、 さらに広範な応用を持つ。

ポアソン括弧式

任意の力学変数 $F(q_1,q_2,\dots,q_n,p_1,p_2,\dots,p_n,t)$ に対して、

$$ \begin{aligned} \dot F &=\sum_{i=1}^n \Big[\frac{\partial F}{\partial q_i}\dot q_i+\frac{\partial F}{\partial p_i}\dot p_i\Big]+\frac{\partial F}{\partial t}\\ &=\sum_{i=1}^n \Big[\frac{\partial F}{\partial q_i}\frac{\partial H}{\partial p_i}-\frac{\partial F}{\partial p_i}\frac{\partial H}{\partial q_i}\Big]+\frac{\partial F}{\partial t}\\ \end{aligned} $$

が成り立つ。そこで、

$$ \sum_{i=1}^n \Big[\frac{\partial F}{\partial q_i}\frac{\partial H}{\partial p_i}-\frac{\partial F}{\partial p_i}\frac{\partial H}{\partial q_i}\Big]=\big\{F,H\big\} $$

と書き、この演算をポアソン括弧式と呼ぶ。

ポアソン括弧式を用いれば、

$$ \begin{aligned} \dot F=\big\{F,H\big\}+\frac{\partial F}{\partial t} \end{aligned} $$

と書ける。

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