解析力学/速習:解析力学 の履歴(No.2)
更新目次†
解析力学とは†
今まで、力学の授業ではニュートン方程式を基礎方程式として学んできた。 解析力学ではそれと同等の力学を、大きく見た目の異なる基礎方程式を使って記述する。
以下では
- ラグランジュ力学
- ハミルトン力学
の2つを学ぶ。
ハミルトン力学で中心的な役割を果たす「ハミルトニアン」は、量子力学でも中心的な役割を果たすため、 量子力学を学び始めるにあたり解析力学の知識があった方が良い。
以下では量子力学の初歩を学ぶことを念頭に、解析力学のほんの一端を紹介した。 もう少しだけ詳しい説明が 解析力学 のページにある。
ラグランジアンとラグランジュの運動方程式†
力学系の運動エネルギーを $T$、ポテンシャルエネルギーを $U$ とするとき、 ラグランジアン $L$ を、
$$ L=T-U $$
として定義すると、ラグランジュの運動方程式
$$ \frac{d}{dt}\bigg\{\frac{\partial L}{\partial \dot q_k}\bigg\}=\frac{\partial L}{\partial q_k} $$
がニュートンの運動方程式と同等の運動方程式を与える。
ただし $q_k$ は系の座標で、例えば $q_1=x,q_2=y,q_3=z$ などというように対応する。
$\dot x$ のように上に点が付いてるのは時間微分で、$\displaystyle\dot x=\frac {dx}{dt},\ \ \ddot x=\frac{d^2x}{dt^2}$ を意味する。
本当にそうなるか、やってみよう。
$$L=\frac12m|\dot{\bm x}|^2-U(\bm x)$$
とすると、運動方程式は
$$ \frac{d}{dt}\bigg\{\frac{\partial L}{\partial \dot{\bm x}}\bigg\}=\frac{\partial L}{\partial{\bm x}} $$
$$ \frac{d}{dt}\underbrace{\big(m\dot{\bm x}\big)}_\text{運動量}=\underbrace{-\frac{\partial U}{\partial \bm x}}_\text{力} $$
となって、確かにニュートン方程式が出てくる。
ここで、$\displaystyle\frac{\partial U}{\partial \bm x}$ は $\bm \nabla U$ の意味で(分母の $\bm x$ が太文字になっていることに注意せよ)、 解析力学ではしばしばこういう書き方が使われる。
ポテンシャルエネルギーの勾配が力を与えることを思いだそう。
ラグランジュの運動方程式の共変性†
ニュートン方程式が出てくるだけなら新たにラグランジアンを学ぶ理由はなに? となるわけだけれど、実はラグランジュの運動方程式は座標変換に対して形を変えない(共変性を持つ)ところにメリットがある。
質量 $m$、長さ $r$ の振り子の運動を考えよう。鉛直下向きからの振れ角を $\theta$ とすると、重りの速度は $r\dot\theta$、支点を基準に測った重りの高さは $r\cos\theta$ だから、
$$L=\underbrace{\frac12m(r\dot\theta)^2}_T-\underbrace{mg\,r\cos\theta\rule[-2.4mm]{0mm}{0mm}}_U$$
このラグランジアンに対して $\theta$ を変数としてラグランジュの運動方程式を求めると、
$$ \frac{d}{dt}\bigg\{\frac{\partial L}{\partial \dot\theta}\bigg\}=\frac{\partial L}{\partial \theta} $$
$$ \frac{d}{dt}\underbrace{\big(mr^2\dot\theta\big)}_\text{運動量?}=\underbrace{-mgr\sin\theta\rule[-1.2mm]{0mm}{0mm}}_\text{力?} $$
これを整理して、
$$ \theta=-\frac gr\sin\theta $$
は $\theta$ に対する正しい運動方程式になっている。
ラグランジュ力学は「座標の取り方にかかわらず基礎方程式が同じ形になる」という点で、 ニュートン方程式よりも優れている。
一般化運動量†
$\theta$ を位置座標に取った場合、ラグランジュの運動方程式に出てくる $\displaystyle \frac{\partial L}{\partial \dot\theta}$ は運動量そのものではないし、 $\displaystyle \frac{\partial L}{\partial \theta}$ は力そのものではないのだが、 運動量の概念を拡張して、任意の座標 $q_k$ に対して、
$$p_k=\frac{\partial L}{\partial \dot q_k}$$
を 一般化運動量(あるいは正準運動量)と呼ぶ。このとき運動方程式は、
$$ \dot p_k=\frac{\partial L}{\partial q_k} $$
と表される。
ラグランジアンの全微分†
$L$ は一般に座標と速度、そして時間の関数として $L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n,t)$ と書けるが、その全微分は一般化運動量を用いて、
$$ \begin{aligned} dL&=\sum_{i=1}^n\Big(\frac{\partial L}{\partial \dot q_k}d\dot q_k+\frac{\partial L}{\partial q_k}dq_k\Big)+\frac{\partial L}{\partial t}dt\\ &=\sum_{i=1}^n\Big(p_k\,d\dot q_k+\dot p_k\,dq_k\Big)+\frac{\partial L}{\partial t}dt\\ \end{aligned} $$
と書き表せる。
ハミルトニアンとエネルギー保存†
上の式を形式的に $dt$ で割れば、任意の $L$ に対して
$$ \begin{aligned} \frac{dL}{dt} &=\sum_{i=1}^n\big(p_k\,\ddot q_k+\dot p_k\,\dot q_k\big)+\frac{\partial L}{\partial t}\\ &=\frac{d}{dt}\Big(\sum_{i=1}^np_k\,\dot q_k\Big)+\frac{\partial L}{\partial t}\\ \end{aligned} $$
が成り立つから、
$$ \frac{d}{dt}\Big(\underbrace{\sum_{i=1}^np_k\,d\dot q_k-L}_{=\,H\,\text{と置く}}\Big)=-\frac{\partial L}{\partial t} $$
を得る。
この式は、$\displaystyle \frac{\partial L}{\partial t}=0$ すなわちポテンシャルエネルギー $U$ が時間に依存しない「孤立系」では $\dot H=0$ となることを表しており、このとき $H$ は時間に対して変化しない「保存量」となる。
この $H$ はハミルトニアンと呼ばれ、実は系のエネルギーに相当する。
確かめよう。
$$L=\frac12|\dot{\bm x}|^2-U(\bm x)$$
のとき、
$$ \begin{aligned} H&=\underbrace{\bm p}_{m\dot{\bm x}}\cdot\dot{\bm x}-\Big[\frac12m|\dot{\bm x}|^2-U(\bm x)\Big]\\[5mm] &=\frac12|\dot{\bm x}|^2+U(\bm x)=T+U\\ \end{aligned} $$
たしかにエネルギーが出てくる。そして、孤立系でエネルギーが保存するのは当然でもある。
ハミルトンの運動方程式†
$\displaystyle \frac{\partial H}{\partial t}=-\frac{\partial L}{\partial t}=-\frac{\partial U}{\partial t}$ に注意してハミルトニアンの全微分を求めると、
$$ \begin{aligned} dH&=\sum_{i=1}^n\Big(dp_k\,\dot q_k+\cancel{p_k\,d\dot q_k}\Big)-\underbrace{\Big\{\sum_{i=1}^n\Big(\cancel{p_k\,d\dot q_k}+\dot p_k\,dq_k\Big)+\frac{\partial L}{\partial t}dt\Big\}}_{dL}\\ &=\sum_{i=1}^n\Big(\dot q_k\,dp_k-\dot p_k\,dq_k\Big)+\frac{\partial H}{\partial t}\\ \end{aligned} $$
であるから、ハミルトニアンを位置と運動量と時刻の関数として $H(q_1,q_2,\dots,q_n,p_1,p_2,\dots,p_n,t)$ と書けば、
$$ \dot q_k=\frac{\partial H}{\partial p_k} $$
$$ \dot p_k=-\frac{\partial H}{\partial q_k} $$
が成り立ち、この関係はハミルトンの正準方程式(運動方程式)と呼ばれる。 上の式が運動量 $p_k$ の定義を、下の式が運動方程式を与えることになる。
ここでの $\displaystyle \frac{\partial}{\partial q_k}$ は $p_k$ を固定した偏微分となっており、 ラグランジュの運動方程式での $\displaystyle \frac{\partial}{\partial q_k}$ が $\dot q_k$ を固定した偏微分であったのと異なることに注意が必要である。 偏微分では、何で微分するかと同じくらい、何を固定して微分するか重要となる。
上の例で確かめよう。まずハミルトニアンを$\bm x,\bm p$ の関数に直して
$$H(\bm x,\bm p)=\frac12|\dot{\bm x}|^2+U(\bm x)=\frac1{2m}|\bm p|^2+U(\bm x)$$
正準方程式に代入すると、
$$ \dot{\bm x}=\frac{\partial H}{\partial \bm p}=\frac1m\bm p $$ $$ \dot{\bm p}=-\frac{\partial H}{\partial \bm x}=-\frac{\partial U}{\partial \bm x} $$
となって、確かに期待通りの結果が得られる。
ハミルトニアンの優位性†
ラグランジュの力学は座標系 $q_1,q_2,\dots,q_n$ から別の座標系 $Q_1,Q_2,\dots,Q_n$ への座標変換
$$ Q_i=Q_i(q_1,q_2,\dots,q_n)\hspace{1cm}(i=1,2,\dots,n) $$
に対して共変性を持つのだが、ハミルトン力学では $p_i,q_i$ を独立な変数と見なして、
$$ Q_i=Q_i(q_1,q_2,\dots,q_n,p_1,p_2,\dots,p_n)\hspace{1cm}(i=1,2,\dots,n) $$
のように入り交じった変換(正準変換という)を行ったとしても共変になるため、 さらに広範な応用を持つ。
ポアソン括弧式†
任意の力学変数 $F(q_1,q_2,\dots,q_n,p_1,p_2,\dots,p_n,t)$ に対して、
$$ \begin{aligned} \dot F &=\sum_{i=1}^n \Big(\frac{\partial F}{\partial q_i}\dot q_i+\frac{\partial F}{\partial p_i}\dot p_i\Big)+\frac{\partial F}{\partial t}\\ &=\sum_{i=1}^n \Big(\frac{\partial F}{\partial q_i}\frac{\partial H}{\partial p_i}-\frac{\partial F}{\partial p_i}\frac{\partial H}{\partial q_i}\Big)+\frac{\partial F}{\partial t}\\ \end{aligned} $$
が成り立つ。そこで、任意の $A,B$ に対して
$$ \sum_{i=1}^n \Big(\frac{\partial A}{\partial q_i}\frac{\partial B}{\partial p_i}-\frac{\partial A}{\partial p_i}\frac{\partial B}{\partial q_i}\Big)=\big\{A,B\big\} $$
と書くことにして、この演算をポアソン括弧式と呼ぶ。
ポアソン括弧式を用いれば、
$$ \dot F=\big\{F,H\big\}+\frac{\partial F}{\partial t} $$
と書ける。
繰り返しになるが†
ここでは量子力学の初歩を学ぶことを念頭に、解析力学のほんの一端を紹介したに過ぎない。 もう少しだけ詳しい説明が 解析力学 のページにある。