解析力学/ハミルトニアン のバックアップ(No.10)

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目次

ハミルトン力学

ラグランジアンによる力学では、座標 $q_i$ と速度 $\dot q_i$ を独立変数とするラグランジアンを使って運動を記述した。

同じ運動を、座標 $q_i$ と運動量 $p_i$ を独立変数とするハミルトニアンを使って記述しようというのがハミルトン力学である。

ここでいう「独立変数」の意味は、ラグラジアン力学では $q_i$ での偏微分は $\dot q_i$ およびすべての $j\ne i$ に対する $q_j,\dot q_j$ を固定して行うのに対して、ハミルトン力学では $q_i$ での偏微分は $p_i$ およびすべての $j\ne i$ に対する $q_j,p_j$ を固定して行う、というようなことを言っている。

ハミルトン力学はラグランジュ力学よりも多様な変数変換に対して共変となるため有用である。

ルジャンドル変換

物理系がある特性関数(ここではラグランジアンを想定している)によって記述されるとする。(記述される = その特性関数のみの情報から系の運動が完全に決定される、という意味)

特性関数をある独立変数(ここでは $\dot q_i$)で偏微分した値(ここでは $p_i=\partial L/\partial\dot q_i$)を新たな独立変数とし、元の変数($\dot q_i$)を消去して新しく別の特性関数を得る変換はルジャンドル変換と呼ばれ、ラグランジアンからハミルトニアンを得る際や、熱力学における各種の特性関数を得る際などに用いられる。

例えば特性関数が変数 $v$ の関数 $f(v)$ であるとして、$v$ から $p=\frac{\partial f}{\partial v}$ への変数変換を考える。このとき、

$$ df=p\,dv $$

であるため、変換後の関数 $g(p)$ を、

$$ g(p)=pv-f(v) $$

と定義すれば、

$$ dg=p\,dv+v\,dp-df=v\,dp $$

の関係が成り立ち、すなわち

$$ \frac{\partial g}{\partial p}=v $$

$$ f(v)=pv-g(p) $$

のように、関数 $g$ の形と1つの $p$ の値がわかれば、関数 $f$ の形と与えられた $p$ に対応する $v$ の値を復元できる。したがって $f,g$ がともに微分可能であるならば、$f(v)$ の持っていた物理系の情報はすべて $g(p)$ に含まれることになり、$g(p)$ を新たな特性関数として利用できる。この $f(v)$ から $g(p)$ への変換がルジャンドル変換である。

ルジャンドル変換が有効なのは元の変数 $v$ と新たな変数 $p$ との間で(ほぼ)1対1の相互変換が可能な場合に限られる*1熱力学では相転移に伴って特性関数に微分不可能な点が現れ、$p$ と $v$ との対応が一対一にならないような場合なども扱うが、ここではそこまで一般化した話は扱わない。興味があれば 東京大学出版会「熱力学の基礎」清水明 著(http://www.utp.or.jp/book/b305...) などを参考にするとよい。。これは $v$ に対して $p=\partial f/\partial v$ が単調増加あるいは単調減少すること($\partial p/\partial v=\partial^2f/\partial v^2>0$ または $\partial p/\partial v=\partial^2f/\partial v^2<0$)と同義であり、$f(v)$ が定義域全域にわたり上に凸あるいは下に凸であることと同義である。

ハミルトニアン

ラグランジアンに対して $\dot q_i$ から $p_i$ へのルジャンドル変換を施した、

$$ H(q_1,q_2,\dots,q_n,p_1,p_2,\dots,p_n)=\sum_{i=1}^n p_i\dot q_i-L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n) $$

をハミルトニアンと呼ぶ。 ラグランジアンが $q_i,\dot q_i$ の関数であるのに対して、 ハミルトニアンが $q_i,p_i$ の関数となっていることに注目せよ。

先に見たように $L=T-U$ と表されるときハミルトニアンは系のエネルギーに相当するため、 「系のエネルギーを座標と運動量で表したものがハミルトニアンである」と言って良い。 ただしここでの「座標」、「運動量」は「一般座標」、「一般運動量」である。

ハミルトニアンの全微分は

$$ \begin{aligned} dH &=\sum_{i=1}^n\big(\dot q_i\,dp_i+\cancel{p_i\,d\dot q_i}\big)-\underbrace{\sum_{i=1}^n\big(\cancel{p_i\,d\dot q_i}+\dot p_i\,d q_i\big)}_{=\,dL}\\ &=\sum_{i=1}^n\big(\dot q_i\,dp_i-\dot p_i\,d q_i\big)\\ \end{aligned} $$

となり、

$$ \dot q_i=\frac{\partial H}{\partial p_i} $$

$$ \dot p_i=-\frac{\partial H}{\partial q_i} $$

が成り立つことが分かる。この方程式はハミルトンの正準方程式と呼ばれる。

ラグランジュの運動方程式に現れた $\partial/\partial q_i$ が $\dot q_i$ を固定した偏微分だったのに対して、ハミルトンの運動方程式(正準方程式)に現れる $\partial/\partial q_i$ が $p_i$ を固定した偏微分になっていることに注意せよ。偏微分を扱う際には、何で微分するかと同じくらい、何を固定した微分であるかに注意を払わなければならない。

上記の計算を逆にたどればラグランジアンの運動方程式 $\dot p_i=\partial L/\partial \dot q_i$ が得られるため、この正準方程式はラグランジアンの運動方程式と同値であり、やはり系の運動方程式を与える。

実際に上の振り子の例で試すと、

$$L=\frac12 mr^2\dot\theta^2-mgr(1-\cos\theta)$$

$$ p_\theta=\frac{\partial L}{\partial \dot \theta}=mr^2\dot\theta $$

より、

$$ \begin{aligned} H &=p_\theta\dot\theta-L\\ &=p_\theta\dot\theta-\big[\frac12 mr^2\dot\theta^2-mgr(1-\cos\theta)\big]\\ &=p_\theta\dot\theta-\big[\frac12 p_\theta\dot\theta-mgr(1-\cos\theta)\big]\\ &=\frac12p_\theta\dot\theta+mgr(1-\cos\theta)\\ &=T+U\\ &=\frac1{2mr^2}p_\theta^2+mgr(1-\cos\theta)\\ \end{aligned} $$

となり、ハミルトニアンが運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和、すなわち系のエネルギーそのものを表すこと、そして、$p_\theta$ が $\dot\theta$ を含むため、これで $\dot\theta$ を消去して $\theta,p_\theta$ のみの関数として表せること、を確かめられる。(一旦ラグランジアンを求めないと、変数 $\theta$ に対応する一般化運動量 $p_\theta$ が何になるかが分からないという点も理解できる)

そしてハミルトンの正準方程式は、

$$ \dot \theta=\frac{\partial H}{\partial p_k}=\frac1{mr^2}p_\theta\ \ \ \to\ \ \ p_\theta=mr^2\dot\theta $$

$$ \dot p_\theta=-\frac{\partial H}{\partial q_k}=-mgr\sin\theta $$

となり、第1式から運動量の定義が、第2式から運動量の時間変化すなわち運動方程式が出る。

ハミルトニアンと最小作用の法則

ラグランジアンによる最小作用の法則では作用を $q_i(t)$ の汎関数とみなして最小値を探した。 $\dot q_i(t)$ はそれに伴い従属的に変化した。

これに対して、
ハミルトニアンによる最小作用の法則は関数 $q_i(t), p_i(t)$ を独立関数とみなし、$q_i(t), p_i(t)$ の両方を自由に動かして最小値を探す問題として定式化される。

このことを以下に見よう。$\delta p_i(t_1)=\delta p_i(t_2)=0$ を固定した上で $\delta p_i(t),\delta q_i(t)$ を自由に選べるとすれば、

$$ \begin{aligned} \delta S&=S[q_i+\delta q_i, p_i+\delta p_i]-S[q_i, p_i]\\ &=\delta\int_{t_1}^{t_2}\Big[\sum_{i=1}^np_i\dot q_i-H\Big]dt\\ &=\sum_{i=1}^n\int_{t_1}^{t_2} \Big[\delta p_i\dot q_i+p_i \delta\dot q_i-\frac{\partial H}{\partial q_i}\delta q_i-\frac{\partial H}{\partial p_i}\delta p_i\bigg]dt\\ &=\cancel{\sum_{i=1}^n\big[p_i\delta q_i\big]_{t_1}^{t_2}}+\sum_{i=1}^n\int_{t_1}^{t_2} \Big[\delta p_i\dot q_i-\dot p_i \delta q_i-\frac{\partial H}{\partial q_i}\delta q_i-\frac{\partial H}{\partial p_i}\delta p_i\bigg]dt\\ &=\sum_{i=1}^n\int_{t_1}^{t_2} \Big[\underbrace{\Big(\dot q_i-\frac{\partial H}{\partial p_i}\Big)}_{\delta S/\delta p_i}\delta p_i\underbrace{-\Big(\dot p_i +\frac{\partial H}{\partial q_i}\Big)}_{\delta S/\delta q_i}\delta q_i\bigg]dt\\ \end{aligned} $$

となる。したがって、作用が極小値を取る条件 $\delta S/\delta q_i=0, \delta S/\delta p_i=0$ は、

$$ \dot q_i=\frac{\partial H}{\partial p_i} $$

$$ \dot p_i =-\frac{\partial H}{\partial q_i} $$

を与え、これはハミルトンの正準方程式に他ならない。


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質問・コメント





*1 熱力学では相転移に伴って特性関数に微分不可能な点が現れ、$p$ と $v$ との対応が一対一にならないような場合なども扱うが、ここではそこまで一般化した話は扱わない。興味があれば 東京大学出版会「熱力学の基礎」清水明 著 などを参考にするとよい。

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