ラグランジュの未定係数法 のバックアップ(No.4)

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量子力学Ⅰ

解きたい問題

f(x_1,x_2,\dots,x_n) を、

m 個の拘束条件

  g_1(x_1,x_2,\dots,x_n)=0
  g_2(x_1,x_2,\dots,x_n)=0
  \ \ \ \vdots
  g_m(x_1,x_2,\dots,x_n)=0

の下で最大化・最小化したい (ただし (m<n) )。

実際には拘束条件の下で f 停留点 を探すことになる。

このような問題は ラグランジュの未定係数法 と呼ばれる手法を使うと簡単に解ける。

キモ

「拘束条件下での停留点」とは、

\bm x=(x_1,x_2,\dots,x_n) n 次元空間のベクトルにおいて 拘束条件を満たす点として、

\Delta\bm x を拘束条件を破らない方向に取る限り」

f の一次の変位量がゼロとなる:
  \Delta f=\bm\nabla f\cdot\Delta\bm x=0

という意味である。

拘束条件を破るような方向へ動かしたときに \Delta f\ne 0 となっても構わないところが 拘束条件付き停留点探しのキモである。

ラグランジュの未定係数法

未定係数 \lambda_i を用いて

  L(x_1,x_2,\dots,x_n)=f(x_1,x_2,\dots,x_n)-\sum_i \lambda_i g_i(x_1,x_2,\dots,x_n)

という関数を構成し、

  \frac{\partial L}{\partial x_1}=\frac{\partial L}{\partial x_2}=\dots=\frac{\partial L}{\partial x_n}=0

  \frac{\partial L}{\partial \lambda_1}=\frac{\partial L}{\partial \lambda_2}=\dots=\frac{\partial L}{\partial \lambda_m}=0

のすべての条件式を満たす点 \bm x およびその点における係数 \lambda_i を見つければ、 その点が停留点となる。

また逆に、全ての停留点に対して上記の条件式を満足する係数 \lambda_i が存在する。

すなわち、上の条件式は停留点であるための必要十分条件になっている。

条件式の意味

\lambda_i での微分からは元の拘束条件が現れるのみであるのに対して、

x_j での微分は、

  \frac{\partial L}{\partial x_j}=\frac{\partial f}{\partial x_j}-\sum_i \lambda_i\frac{\partial g}{\partial x_j}=0

となるから、 n 本の条件をすべてまとめてベクトル形式とすれば、

  \bm \nabla L=\bm \nabla f-\sum_i \lambda_i \bm \nabla g_i=\bm 0

と書ける。これを変形すると、

  \bm \nabla f=\sum_i \lambda_i \bm \nabla g_i

となり、すなわち

  \bm \nabla f \bm \nabla g_i の一次結合で表せるような点が停留点である

と読める。

停留点の十分条件となっていること

ラグランジュの未定係数法の条件式を満たす点 \bm x が必ず停留点となることは、 以下のように簡単に理解できる。

\bm x は拘束条件を満たすから、 \Delta \bm x をすべての g_i の値を変化させない方向に取った時のみ、変位後の点も拘束条件を満たすことになる。

そのような \Delta \bm x に対しては、すべての i に対して \Delta g_i=\bm\nabla g_i\cdot \Delta\bm x=0 が成り立つ。

このことと条件式より、

&math( \Delta f=\bm\nabla f\cdot\Delta\bm x=\sum_i \lambda_i\underbrace{\bm\nabla g_i\cdot\Delta\bm x}_{=\,0}=0 );

となり、実際に停留点となっていることを確認できる。

停留点の必要条件となっていること

逆に、停留点であれば必ずラグランジュの未定係数法の条件式を満たす \lambda_i が存在するだろうか?

条件式:  \bm\nabla f=-\sum_i\lambda_i\bm\nabla g_i

これは、停留点において \bm\nabla f \bm\nabla g_i の張る空間の元となっていることを主張している。

以下にこの意味を考えよう。

拘束条件の下での停留点を考え、そこからの変位を \Delta\bm x とする。

何も考えなければ \Delta\bm x n 次元ベクトル空間 K^n から任意のベクトルを選ぶことができる。

この部分空間として、 m 本のベクトル \{\bm\nabla g_i\} が張る部分空間 V_\mathrm{break} を考える。

また、すべての \bm\nabla g_i と直交するようなベクトルの集合 V_\mathrm{meet} を考えればこれも部分空間となる。

定義より、これら2つの空間は互いに直交補空間となっている。

すなわち、 K^n V_\mathrm{break} V_\mathrm{meet} との直交直和である。

K^n=V_\mathrm{break}\oplus V_\mathrm{meet}  

任意の \Delta\bm x\in V_\mathrm{meet} はすべての \bm\nabla g_i と直交するから、すなわちすべての i に対して \Delta g_i=0 となり、 V_\mathrm{meet} は「制約条件を満たす変位」が作る線形空間となる。

今考えている点は拘束条件の下で停留点であると仮定したから、 制約条件を満たす任意の \Delta\bm x に対して \Delta f=\bm\nabla f\cdot\Delta\bm x=0 が成り立つ。

これは、 \bm\nabla f V_\mathrm{meet} の任意の元に直交することを意味しており、 すなわち \bm\nabla f V_\mathrm{meet} の直交補空間 V_\mathrm{break} の元であることを示している。

上の仮定から \{\bm\nabla g_i\} V_\mathrm{break} を張るから、 \bm\nabla f \{\bm\nabla g_i\} の一次結合で表すことが可能。

その係数が \lambda_i なわけである。


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