量子力学Ⅰ/箱の中の自由粒子 のバックアップ差分(No.20)

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* 目次 [#y7f69072]

[[量子力学Ⅰ]]
#contents

* 概要 [#a6588189]

シュレーディンガー方程式を解くという問題は数学的に難しく、
解析的な関数として解が得られるような問題は非常に限られている(それ以外は数値的に、あるいは近似的に解くが、それでも精度の高い計算には困難を伴う)。

この授業では、最も簡単ないくつかの例について時間に依存しないシュレーディンガー方程式を解き、
定常的な解を求めながら、%%%波動関数の一般的性質%%% について学ぶ。

** 復習 [#v9eee0b1]

時間に依らないシュレーディンガー方程式:

 &math(
\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(\bm r)\right)\varphi(\bm r)=\varepsilon\varphi(\bm r)
);

確率密度が時間によって変化しない解:

 &math(\psi(\bm r,t)=e^{-i\varepsilon_kt/\hbar}\varphi_k(\bm r));

ただし &math(\varepsilon_k); は上記方程式の固有値、&math(\varphi_k(\bm r)); はそれに対応する固有関数。
* 演習:1次元の箱の中の自由粒子 [#kde8bf85]

&math(a); を正の定数として、&math(0<x<a); の領域に閉じ込められた電子の定常状態を考える。

このような状況は、上記の範囲内で &math(V(x)=0);、範囲外で &math(V(x)=+\infty);
と仮定することで実現され、井戸型ポテンシャルの問題とも呼ばれる。

&attachref(infinity-well.png,,25%);

(1) 箱の中の領域での、時間に依存しない一次元シュレーディンガー方程式を書け。
(一次元なので &math(\bm r\to x);、&math(\bm\nabla\to d/dx); とすればよい。
また、上記の通り箱の中では &math(V(x)=0); である。)

(2) &math(\varphi(\bm r)=Ae^{ikx}+Be^{-ikx}); の形の波動関数が (1) の解となることを確かめ、
&math(k); の値を定めよ。
この式は2つの任意パラメータを含むから、(1)の2次微分方程式に対する一般解である。

(3) 箱の外では &math(\varphi(x)=0); となる。その理由を答えよ。

(4) 波動関数の連続性より、箱の内側でも壁面において &math(\varphi(x)=0); でなければならない。
この境界条件を満たすために &math(k); に課される条件を
任意の自然数を表わす変数 &math(n); を用いて書け。
((通常は &math(\varphi); の1次微分 &math(d\varphi/dx); も連続となるが、ここではポテンシャルの無限大の不連続性を反映して微係数は不連続になる))

以下、&math(n); で指定される &math(k); を &math(k_n);、
対応する波動関数を &math(\varphi_n(x));、
対応するエネルギー固有値を &math(\varepsilon_n); と書く。
このように離散化した固有値や固有関数を指定する指標 &math(n); は
''量子数''と呼ばれる。

(5) &math(\varepsilon_n); を求めよ。

(6) &math(\varphi_n(x)); を求めよ。ただし、規格化すること。

(7) &math(\varphi_n(x)); に対応する、
時間に依存するシュレーディンガー方程式の解 &math(\psi_n(x,t)); を求めよ。

(8) この系ではポテンシャルエネルギーがゼロであるから、(5) 
で求めたエネルギーはすべて運動エネルギーである。
(5) の結果から、状態 &math(\psi_n(x,t)); にある電子の平均的な運動量の大きさ 
&math(|p|); を求めよ。

(9) &math(\psi_n(x,t)); に対して、&math(\overline x,\sigma_x,\overline p,\sigma_p); を求めよ。

** 解説 [#y2411480]

*** 固有値の離散化 [#m8ac25af]

上の問題を顧みると、

境界条件を課したことにより解の一般形に含まれるパラメータが
''量子数''を含む形で書かれ、その結果としてエネルギー固有値が''離散化''した。
離散化したエネルギー固有値を''エネルギー準位''あるいは''エネルギーレベル''などと呼ぶ。

一般に、''束縛された電子''では境界条件により''離散化した固有値''が現れる。

一方で、''束縛されていない場合''にはそのような境界条件が存在せず、
''連続的な固有値''が現れる。例えば全空間で自由な場合の平面波には波数の制限はなく、
エネルギー(運動エネルギー)も任意の値を取りうる。

上の例でも箱をどんどん大きくしていくと、離散化したエネルギー準位の間隔は徐々に狭まるから、
箱がある程度以上大きくなればエネルギーや波数が実質的に連続値を取れるようになることに注意せよ。

*** 波動関数の形 [#c32b83e0]

下のグラフは &math(\varphi_n(x)); と &math(|\varphi_n(x)|^2); を表わしており、
&math(n=1,2,3); の場合を示している。

&ref(infinity-well1.png,,50%);  
&ref(infinity-well2.png,,50%);

&math(n); 番目の固有関数は &math(n); 個のピークと &math(n-1); 個の&ruby(ふし){節};を持つ。

ポテンシャル井戸の中心を基準とすれば、&math(n); が奇数の時は偶関数、偶数の時は奇関数となっている。
実は &math(x=0); に対して対称なポテンシャルに対するエネルギーの固有関数は
必ず偶関数または奇関数の形になることを証明可能である。→ 
[[詳しくは [箱の中の自由粒子/メモ]>量子力学Ⅰ/箱の中の自由粒子/メモ#p955dbba]]

*** 波動関数のエネルギー [#o3488d46]

&math(n); が大きいほどエネルギーが高くなるが、ここでは &math(V(x)=0); であるから、
そのエネルギーはすべて運動エネルギーである。
古典論では「エネルギー障壁」は弾性壁となり、電子は壁の間を一定速度で往復運動する。

(8) で得た &math(|p|); と (9) で得た &math(\sigma_p); が一致していることがこれを表わしており、
この粒子の運動量を測定すれば、それぞれ1/2の確立で &math(+n\pi\hbar/a); または &math(-n\pi\hbar/a); のどちらかの値が得られる。
&math(\overline p=0); はそれらの平均がゼロであることを表わしている。

一方、量子力学では上で求めたエネルギー固有関数は有限の運動エネルギーを持つにもかかわらず「定常状態」
を表わしており、確率密度の空間分布は時間によらない。

&math(n=1); は最低エネルギーの状態を表わしており、そのような状態は''基底状態''と呼ばれる。
これに対して、&math(n>1); は''励起状態''と呼ばれる。

興味深いことに、&math(n=1); の基底状態においても系は有限の運動エネルギーを持っている。

 &math(\varepsilon_1=\frac{\hbar^2 \pi^2}{2ma^2});

基底状態における運動を''ゼロ点運動''あるいは''ゼロ点振動''、エネルギーを''ゼロ点エネルギー''と呼ぶ。

&math(\varepsilon\propto 1/a^2); のように、
電子を ''狭い場所に閉じ込めると運動エネルギーが大きくなる'' ことも覚えておくように。

* 非定常状態の解 [#k2381f9a]

#ref(time-dependent.png,around,right,50%);

非定常状態の例として、&math(t=0); における波動関数を

 &math(\psi(x,0)=C\sum_{k=1}^\infty \frac{1}{k!}\varphi_k(x));

と置いてみる。右図は &math(a=1); の時の &math(|\psi(x,0)|^2); を表わしており、
中心から左に寄った位置にピークを持つ確率分布になることが分かる。
係数 &math(C=1/\sqrt{\big(I_0(2)-1\big)}); は規格化因子で、
&math(I_n(z)); は第1種変形ベッセル関数である。

&math(\sum); の中に現れるそれぞれの &math(\varphi_k(x)); の時間発展は上で見たとおり

 &math(\psi_k(x,t)=e^{i\varepsilon_k t/\hbar}\varphi_k(x));

であり、シュレーディンガー方程式は線型であるから、上の初期条件で与えられる波動関数の時間発展は

 &math(\psi(x,t)=C\sum_{k=1}^\infty \frac{1}{k!}\psi_k(x)=C\sum_{k=1}^\infty \frac{e^{i\varepsilon_k t/\hbar}}{k!}\varphi_k(x));

で与えられる。

&math(|\psi(x,t)|^2); の時間変化をグラフに示せば、

&attachref(time-dependent.gif,,50%);  
&attachref(time-dependent2.png,,50%);

右は縦軸を時間軸として表示したもので、確率密度を色で示した。
赤線は &math(x); 座標の期待値を表わす。

 &math(\overline{x}(t)=\int x |\psi(x,t)|^2dx);

電子が2つの壁にはね返り、振動する様子が見て取れる。

このように、シュレーディンガー方程式を満たす既知の関数群 &math(\psi_k(x,t)); 
の一次結合で初期状態を表わせるならば、その時間発展は容易に求められる。


** 定常状態はいつ実現する? [#zae68355]

上記の解は &math(t\to\infty); で振動を続け、いつまで経っても定常状態には落ち着かない。

実際の系では電荷が振動することにより光子が放出され、
電子はエネルギーを失って基底状態に落ち着く。
電子はエネルギーを失っていき、基底状態あるいはいずれかの定常状態に落ち着く。

そのような過程を記述するには、上で学んだシュレーディンガー方程式に
電子の持つ電荷と、周囲の電磁場との相互作用を入れてやる必要がある。
教科書では「量子力学(II)」の13章で扱われている。

* 1次元の箱の中の自由粒子(有限ポテンシャル) [#d98e5d2d]

次に、有限のポテンシャル障壁 &math(V); に挟まれた一次元の箱の中の自由粒子を考える。
粒子の持つエネルギーが &math(\varepsilon<V); であるとすれば、粒子は古典論的には一切箱の外には出られないが、量子論では状況が変化する。

無限のポテンシャル障壁では壁面で &math(\varphi=0); となることが境界条件となったが、
有限のポテンシャル障壁では壁面から外へ波動関数がしみ出すため境界条件が変化する。
この様子を見ていこう。

箱の中の解は上と同様に

#ref(finite-barrier.png,right,around,25%);

 &math(\frac{d^2}{dx^2}\varphi=-\frac{2m\varepsilon}{\hbar^2}\varphi);

より、

 &math(\varphi_m(x)=Ae^{ikx}+Be^{-ikx}); (&math(0<x<a);)

のように振動解が得られる。ただし &math(k=\sqrt{2m\varepsilon}/\hbar);

一方、箱の外では障壁高さを &math(V); として、

 &math(\left(-\frac{\hbar}{2m}\frac{d^2}{dx^2}+V\right)\varphi=\varepsilon\varphi);

 &math(\frac{d^2}{dx^2}\varphi=\frac{2m(V-\varepsilon)}{\hbar^2}\varphi);

#ref(continuous.png,right,around,25%);

より、

 &math(\varphi(x)=Ce^{k'x}+De^{-k'x});

のように、指数関数的な一般解が得られる。ただし、&math(k'=\sqrt{2m(V-\varepsilon)}/\hbar);。
そこで、箱の左側と右側を、

 &math(\varphi_l(x)=C_le^{k'x}+D_le^{-k'x}); (&math(x<0);)~
 &math(\varphi_r(x)=C_re^{k'x}+D_re^{-k'x}); (&math(a<x);)

と置く。

すなわち、

+ 箱の中では &math(\varepsilon>V(x)); のため右辺の係数が負になり振動解となった
+ 箱の外では &math(\varepsilon<V(x)); のため右辺の係数が正になり減衰あるいは発散を表わす通常の指数関数解となった
+ 粒子は箱に閉じ込められている(束縛されている)ため、
&math(x\to\pm\infty); で &math(|\varphi|\to 0); となるべきである~
→ したがって &math(D_l=0);、&math(C_r=0);
+ ポテンシャルエネルギーに有限の不連続があっても波動関数 &math(\varphi(x)); 
およびその一次微分 &math(\varphi'(x)); は連続になる。
すなわち箱内外の波動関数は図のように滑らかに繋がる((波動関数が滑らかに繋がることの証明 → [[量子力学Ⅰ/箱の中の自由粒子/メモ#l1fcae51]]))~
→ この境界条件から &math(A,B,C_l,D_r); を決定できる

上記のように解を定めると、箱の中心を基準として &math(\cos); 的な解と、&math(\sin); 
的な解の2種類が現れる。((ここでもポテンシャルの対称性を反映して、解は偶関数あるいは奇関数となる))

それぞれに対する &math(k); についての条件は

 &math((ka/2)^2(1+\tan^2(ka/2))=mVa^2/2\hbar); ただし &math(\tan(ka/2)>0);

および

 &math((ka/2)^2(1+\cot^2(ka/2))=mVa^2/2\hbar); ただし &math(\tan(ka/2)<0);

となる。(→ [[詳しい導出過程>量子力学Ⅰ/箱の中の自由粒子/メモ#eb7f9871]])

下図に &math((ka/2)^2(1+\tan^2(ka/2))); と &math((ka/2)^2(1+\cot^2(ka/2))); をグラフに表わした。
井戸の幅や深さを &math(mVa^2/2\hbar); に代入すれば、&math(\tan); や &math(\cot); 
の周期性を反映して一般に &math(k); についての複数の解が得られる。

&attachref(finite-well-energy-levels.png,,75%);

グラフの右下の影のかかった部分では &math(\varepsilon>V); となり、
このときは箱の外でも''振動的な解''が得られる。
その場合無限遠における位相に境界条件が課されないため &math(k); は ''連続値をとれる'' が、
粒子はポテンシャルに束縛されず無限遠まで広がってしまい、
確率密度として規格化された解を得ることはできない。

縦軸の &math(mVa^2/2\hbar); の値によって &math(ka/2); には &math(\varepsilon<V); 
の範囲に有限個の解が得られ、それらが離散化した波数、ひいては離散化したエネルギー固有値を与える。
グラフから &math(V); が大きくなるほど解の個数が増えていくことが分かる。

&math(mVa^2/2\hbar\to+\infty); のときは &math(ka/2=n\pi/2); がすべて解になる。
これらの解は &math(V=+\infty); の場合に求めた &math(k_n=\pi/a); に一致する。

例えば &math(mVa^2/2\hbar=50); においては &math(ka/2); は &math(\varepsilon<V); 
の範囲に5つの解を持ち、その形状は次のようになる。

&attachref(leaking-well-levels.png,,50%);  
&attachref(noleak-well-levels.png,,50%);

対比のため、&math(V=\infty); の場合も合わせて示した。
波動関数は、そのエネルギー期待値だけ上方にオフセットして表示してある。

ポテンシャルが無限の場合と比べると、
ポテンシャルが有限の場合には障壁から左右に染み出す分だけ箱内部の &math(k); の値が小さくなり、
エネルギーも低下する。((狭い範囲に束縛するほどエネルギーが増加したことを思い出せ))
しかし両者で波動関数の特徴は一致しており、
特に障壁エネルギーよりもずっと小さなエネルギーに対応する波動関数では差が小さい。

上記の計算は例えば金属中に閉じ込められた電子のモデルと考えることができる。
金属中には結晶の周期でイオン核が存在するにも関わらず、
電子は自由に運動できることを固体物理学で学ぶ。
金属中に比べて真空中は電子の感じるエネルギーが高いため、
金属の端面を上で見たポテンシャル障壁と見なすことができる。

ただし金属物体の端面は必ずしも平面的でないし、急峻でもないため、
そのようなポテンシャル形状に対する境界条件は複雑な物になる。
ただ上でも見たとおり、一般に「境界条件」はシュレーディンガー方程式の解を定量的に変えるのみで、
定性的には変化させしない。そこで、不定形の金属の境界条件を箱形であると仮定したり、
あるいは周期的であると仮定したり(箱の一方の端がもう一方と繋がっていることを仮定)して
問題を解いたとしても、端面近傍や極端にエネルギーの高い解の性質を除いて得られる結果は現実の物と
変わらない。そのようにして問題を易しくして解くことが良く行われる。

* 3次元の箱の中の自由粒子 [#x7f96fce]

#ref(box.png,right,around,33%);

&math(a,b,c); を正の定数として、&math(0<x<a); かつ &math(0<y<b); かつ &math(0<z<c); 
の領域に閉じ込められた電子の定常状態を考える。
箱の中ではポテンシャルをゼロ、外ではポテンシャルを無限大とする。

今の場合 &math(x,y,z); 座標に相関はないから

 &math(\varphi(\bm r)=X(x)Y(y)Z(z));

のように変数分離できることを仮定して、

 &math(
&-\frac{\hbar^2}{2m}\left(
  \frac{\PD^2}{\PD x^2}+\frac{\PD^2}{\PD y^2}+\frac{\PD^2}{\PD z^2}\right)\Big[X(x)Y(y)Z(z)\Big]\\
&=-\frac{\hbar^2}{2m}\left[
  \left(\frac{d^2}{dx^2}X(x)\right)Y(y)Z(z) + 
  X(x)\left(\frac{d^2}{dy^2}Y(y)\right)Z(z) +
  X(x)Y(y)\left(\frac{d^2}{dz^2}Z(z)\right)
\right]\\
&=\varepsilon X(x)Y(y)Z(z)
);

 &math(
\left(\frac{d^2}{dx^2}X(x)\right)\frac{1}{X(x)} + 
\left(\frac{d^2}{dy^2}Y(y)\right)\frac{1}{Y(y)} +
\left(\frac{d^2}{dz^2}Z(z)\right)\frac{1}{Z(z)}
=\frac{-2m\varepsilon}{\hbar^2}
);

左辺の各項はそれぞれ &math(x,y,z); のみの関数であり、右辺は定数である。
任意の &math(x,y,z); に対してこの式が成り立つためには、左辺の各項が定数でなければならない。

すなわち、

 &math(
&\left(\frac{d^2}{dx^2}X(x)\right)\frac{1}{X(x)} = \frac{-2m\varepsilon_x}{\hbar^2}\\
&\left(\frac{d^2}{dy^2}Y(y)\right)\frac{1}{Y(y)} = \frac{-2m\varepsilon_y}{\hbar^2}\\
&\left(\frac{d^2}{dz^2}Z(z)\right)\frac{1}{Z(z)} = \frac{-2m\varepsilon_z}{\hbar^2}\\
&\varepsilon_x+\varepsilon_y+\varepsilon_z=\varepsilon
);

&math(X(x),Y(y),Z(z)); に対する方程式は1次元の箱形ポテンシャルの問題に帰着して、

 &math(X_{n_x}(x)=\sqrt{\frac{2}{a}}\sin\left(\frac{n_x\pi}{a} x\right));

 &math(\varepsilon_{x,n_x}=\frac{\hbar^2 \pi^2}{2ma^2}n_x^2);

等の解を得る。&math(\varphi(\bm r)); の解は量子数 &math(n_x,n_y,n_z); により指定できて、

 &math(\varphi_{n_x,n_y,n_z}(\bm r)=\sqrt{\frac{8}{abc}}\sin(n_x\pi x/a)\sin(n_y\pi y/b)\sin(n_z\pi z/c));

 &math(\varepsilon_{n_x,n_y,n_z}=\sqrt{\hbar^2 \pi^2}{2ma^2}(n_x^2+n_y^2+n_z^2));

となる。

例えば電子(&math(m=9.11\times 10^{-31}\,\mathrm{kg});) を &math(a=b=c=1\,\mathrm{nm}); 
に閉じ込めれば、ゼロ点エネルギーは &math(11.3\,\mathrm{eV}); となる。

次の準位は &math(\varepsilon_{211}=\varepsilon_{121}=\varepsilon_{112}=22.6\,\mathrm{eV}); である。

このように異なる量子数に対応する波動関数のエネルギーが等しいとき、
それらの準位は''縮退している''と言う。この様子を示したのが下図左である。

&math(a=b\ne c); では &math(x,y,z); 方向の''対称性が崩れる''ため、
このうちいくつかの''縮退が解けて''、''準位の分裂''が生じる。
&math(a=b=c/1.1); としたときのエネルギー準位と、分裂前の縮退した準位との関係を下図右に示した。

&attachref(3d-box.png,,25%);

** まとめ [#s3ced6e5]

ここで見た下記の特徴は定常状態を扱う他の問題でも同様に現れるため良く理解しておくこと。

- 「井戸の中」では &math(\varepsilon>V(x)); となるため、波数 &math(k=\frac{\sqrt{2m(\varepsilon-V)}}{\hbar}); で振動する
- 「壁にめり込んだ部分」では &math(\varepsilon<V(x)); となるため、減衰係数 &math(k'=\frac{\sqrt{2m(V-\varepsilon)}}{\hbar}); で指数関数的に減衰する
- 定常状態 &math(\varphi(\bm r)); は実数関数として書き表せる((定常状態 &math(\varphi(\bm r)); を実数関数として書き表せる証明は [[量子力学Ⅰ/箱の中の自由粒子/メモ#t5b8d7c3]]))
- 時間的には &math(e^{-i\varepsilon t/\hbar}); で位相が回転する
- 1次元の解は縮退しないが((1次元の解は縮退しないことの証明は [[量子力学Ⅰ/箱の中の自由粒子/メモ#e976c7dd]]))、3次元の解は空間に等方性があればそれに応じて縮退する
- 定常状態の基底状態でさえも''運動エネルギーはゼロにならない''
- 基底状態・励起状態とも、''狭い領域に閉じ込めることで運動エネルギーが上昇する''

* 質問・コメント [#habf08f6]

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