原発事故/1kgのCs-137の放射能 のバックアップソース(No.2)

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[[公開メモ]]

#contents

* Cs-137 が 1 kg あったらどれほどの放射能を持つか? [#g4766079]

勉強のために、ちょこっと計算してみました。
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SIZE(30){COLOR(RED){以下、どこかで間違っている可能性もあります。}}

SIZE(30){COLOR(RED){鵜呑みにしないで!}}
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始めに結果をまとめておくと、
- Cs-137 を 1 kg 集めて、1 m のところで測ると 250 Sv/h 程度の線量率が計測されそう
- I-131 を 1 kg 集めて、1 m のところで測ると 270 kSv/h 程度の線量率が計測されそう
-- 4 kg だと 1 MSv/h を超えますね(だから何だと…
- 飯舘村の土壌で検出された Cs-137 濃度から、おおよそ正しい環境線量率を計算できたような

計算にあまり自信がないので歯切れが悪くて済みません。

思った以上に大変で、思った以上に勉強になりました。

** 1 kg に含まれる原子数 [#r0a60cfd]

Cs-137 と書くときの 137 を [[質量数>Wikipedia:質量数]] と呼びます。

この質量数の定義は、質量数 137 の原子 (ここでは Cs-137) を [[アボガドロ数>Wikipedia:アボガドロ数]] &math(N_A = 6.0 \times 10^{23}); 個 集めると &math(137\,\mathrm{g}); になる、というものです。
つまり、

(原子1個あたりの重さ) &math(\times N_A); = (質量数) &math(\times 1\,\mathrm{g});

という関係が成り立ちます。


言い換えると、&math(137\,\mathrm{g}); の Cs-137 に &math(N_A); 個の原子が含まれることになります。

&math(1\,\mathrm{kg}); あるなら、その中には

&math(N=\frac{1\,\mathrm{kg}}{137\,\mathrm{g}}N_A=4.4\times 10^{24});個

の原子が含まれます。

** 原子の崩壊過程 [#v4fcc099]

Cs-137 の半減期は 30年 なので、30年経つまでに半数の原子 &math(N/2); が崩壊して放射線を発します。

これをもう少しちゃんと書くと、時間が &math(t); だけ経った後に崩壊せず残っている原子数は

&math(N(t)=2^\frac{-t}{30\,\mathrm{year}}N_0);

となる。ここで、&math(N_0); は &math(t=0); の時の原子数です。

&math(N(0)=2^0N_0=1\times N_0=N_0);

&math(N(30\,\mathrm{year})=2^{-\frac{30\,\mathrm{year}}{30\,\mathrm{year}}}N_0=2^{-1}N_0=N_0/2);

を計算してみると、それらしい値が出てくることを確認できます。

グラフにしてみると、以下のようになり、始め凄い勢いで減るけれど、徐々に減り具合が緩やかになっていきます。

[[http://chart.apis.google.com/chart?chs=400x250&chtt=Decay+of+Cs-137&chxt=x%2cy%2cx%2cy&cht=lc&chd=t%3a100%2c79.3701%2c62.9961%2c50%2c39.685%2c31.498%2c25%2c19.8425%2c15.749%2c12.5%2c9.92126%2c7.87451%2c6.25%2c4.96063%2c3.93725%2c3.125%2c2.48031%2c1.96863%2c1.5625%2c1.24016%2c0.984313%2c0.78125%2c0.620079%2c0.492157%2c0.390625%2c0.310039%2c0.246078%2c0.195312%2c0.15502%2c0.123039&chxl=0%3a%7c0%7c60%7c120%7c180%7c240%7c300%7c1%3a%7c0%7c0.2%7c0.4%7c0.6%7c0.8%7c1%7c2%3a%7c%7cYear%7c%7c3%3a%7c%7cCs-137%7c&dummy=.png]]

元々あった量を1として、
- 30年後に 1/2
- 60年後に 1/4
- 120年後に 1/8
- ...
- 300年後に 約1/1000

になります。

** 1 秒あたりに崩壊する原子数 [#k56a9a44]

上の式から1秒間あたりに崩壊する原子数を求めるには、普通微分を使うのですが、

簡単には、上の式を使って
- 1秒後に残っている数を計算し、
- はじめの数から引く

ことで、はじめの1秒間に壊れる原子の数を求められます。

上の式に 1秒 を代入すると、1秒後に残っている数は、

&math(N(1\,\mathrm{s})=2^{-\frac{1\,\mathrm{s}}{30\,\mathrm{year}}}N_0);

です。中に出てくる分数の分母を秒に直すと計算を進められて、

&math(\frac{1\,\mathrm{s}}{30\,\mathrm{year}}=\frac{1\,\mathrm{s}}{30\,\mathrm{year}\times 365.25\,\mathrm{day/year}\times 24\,\mathrm{h/day}\times 60\,\mathrm{min/h}\times 60\,\mathrm{s/min}}=1.056\times 10^{-9});

より、

&math(N(1\,\mathrm{s})=2^{-1.056\times 10^{-9}}N_0);

となります。

2の &math(-1.056\times 10^{-9}); 乗って何?と思うかもしれないけど、
精度の良い計算機に入れればちゃんと答えが出て、

&math(N(1\,\mathrm{s})=0.999999999268N_0);

です。

元の原子数が &math(N_0);個 なので、そのうち 0.0000000732% が1秒間に崩壊するという計算。

数値を入れてみると、1秒間に崩壊する原子数は

&math(N(0)-N(1\,\mathrm{s})=(1-0.999999999268)N_0=0.000000000732N_0=3.2\times 10^{15});個/s

となります。

元あるうちのほんのちょっとしか崩壊しないけれど、元の数がものすごく大きいので、
一秒間に崩壊する数も、ものすごく大きくなります。

** 放射能(ベクレル) [#k242d6ed]

放射性物質は崩壊するときに放射線を出すので、

崩壊数 = 放射線の放出回数

という関係があります。

そこで、

1秒あたりの崩壊数 = 1秒あたりの放射線放出回数 = ベクレル(Bq)

として、放射性物質の放射能をベクレルという単位で数えます。

上の計算から、

&math(1\,\mathrm{kg}); の Cs-137 の放射能は 

&math(3.2\times 10^{15}\,\mathrm{Bq}=3.2\,\mathrm{PBq});

となります。&math(1\,\mathrm{PBq}); は ペタ(P)ベクレルで、&math(10^{15}\,\mathrm{Bq}); を表します。

|ペタ|テラ|ギガ|メガ|キロ|
|P|T|G|M|k|
|&math(10^{15});|&math(10^{12});|&math(10^{9});|&math(10^{6});|&math(10^{3});|

** 体への影響 (シーベルト Sv) [#w43bb263]

非常に強い放射線源があっても、距離が離れるに従って体への影響は小さくなります。

また、放射線の種類やエネルギーによって放射線が体を「素通りする」確率が異なるので、
どのくらい体に吸収されるか(ぶつかるか)、が重要なパラメータになります。
(X線で体を透かしてみられるのは、X線が体にぶつかる確率が非常に小さいからです)

Wikipedia の [[Cs-137 の生体に対する影響>http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0137#.E7.94.9F.E4.BD.93.E3.81.AB.E5.AF.BE.E3.81.99.E3.82.8B.E5.BD.B1.E9.9F.BF]] を参考にすると、「100万 Bq の線源から 1 m の距離にいると、ガンマ線によって1日に &math(1.9\,\mathrm{\mu Sv}); の外部被曝を受ける」そうです。

ならば &math(1\,\mathrm{kg}); の Cs-137 から &math(1\,\mathrm{m}); の距離にいると、

&math(\frac{3.2\times 10^{15}\,\mathrm{Bq}}{100\times 10^4\,\mathrm{Bq}}\times 1.9\,\mathrm{\mu Sv/day}\times \frac{1}{24\,\mathrm{h/day}});

&math(=2.5\times 10^2\,\mathrm{Sv/h}=250\,\mathrm{Sv/h});

の線量率を受けることになります。

距離依存性は、
- &math(10\,\mathrm{cm}); まで寄ると、&math(25\,\mathrm{kSv/h});
- &math(10\,\mathrm{m}); まで離れると、&math(2.5\,\mathrm{Sv/h});
- &math(100\,\mathrm{m}); まで離れると、&math(250\,\mathrm{mSv/h});
- &math(1\,\mathrm{km}); まで離れると、&math(250\,\mathrm{\mu Sv/h});
- &math(10\,\mathrm{km}); まで離れると、&math(2.5\,\mathrm{\mu Sv/h});
- &math(30\,\mathrm{km}); まで離れると、&math(0.28\,\mathrm{\mu Sv/h});

となります。

もし万一、近くにセシウムの固まりが落ちていて、
10 m 程度の所を歩いてしまうと 1000 mSv/h 以上の線量を浴びることになってしまうと。

* ベクレルからグレイ、さらにシーベルトへの換算の詳細 [#qe91f2fa]

以下、ちょっと計算が難しくなるかもしれません。

ベクレルの値から、グレイやシーベルトに換算する計算をちゃんとやるとどうなるかを調べてみました。

放射性物質の種類および分布と、そこからの距離、受ける側の物質などに依存するため、
計算はかなりややこしいです。

** 点状の放射線源の場合 [#p02e5f96]

サイズの小さな放射能(単位時間あたりの崩壊数) &math(A); 
を中心に半径 &math(R); の球面を考えて、
面上での放射線エネルギー密度を求めます。

表面積は &math(4\pi R^2); より、放射線密度は &math(A/4\pi R^2); で、
放射線1粒子あたりのエネルギーが &math(\varepsilon); ならば、
放射線のエネルギー密度は &math(\varepsilon A/4\pi R^2); となります。

&math(3.2\,\mathrm{PBq}); の Cs-137 が線源の場合、ガンマ線のエネルギーは
&math(1.176\,\mathrm{MeV}=1.9\times 10^{-13}\,\mathrm{J}); なので、
1 m 離れた位置でのエネルギー密度は &math(48\,\mathrm{W/m^2}); となる。

グレイ(Gy)は、人体 1 kg あたりに吸収される放射線エネルギーなので、
この放射エネルギーの何分の1が吸収されるかという係数を使って
換算することになります。この係数は物質によって異なるので、
本来は骨や筋肉などにそれぞれ異なる値を使わなければなりません。

それはかなりややこしいので、
http://okwave.jp/qa/q3421228.html を参考に、人体をすべて水として近似して http://physics.nist.gov/PhysRefData/XrayMassCoef/ComTab/water.html のデータから Cs-137 のガンマ線のエネルギー &math(1.2\,\mathrm{MeV}); あたりを読み、以下の計算を続けます。

&math(\mu/\rho);&math(=6.5\times 10^{-2}\,\mathrm{cm^2/g});&math(=6.5\times 10^{-3}\,\mathrm{m^2/kg}); 

面積 &math(S);、厚さ &math(\Delta t); の領域に &math(S\times 48\,\mathrm{W/m^2}); のエネルギーが流れ込み、&math((1-e^{-\mu \Delta t})S\times 48\,\mathrm{W/m^2}); が吸収される。

そこには質量 &math(\rho S\Delta t); の水があるから、質量あたりの吸収エネルギーは、

&math(\frac{(1-e^{-\mu \Delta t})S\times 48\,\mathrm{W/m^2}}{\rho S\Delta t});

&math(=(\mu/\rho) \times 48\,\mathrm{W/m^2});

&math(=6.5\times 10^{-3}\,\mathrm{m^2/kg} \times 48\,\mathrm{W/m^2});

&math(=0.247\,\mathrm{W/kg}=0.247\,\mathrm{Gy/s}=890\,\mathrm{Gy/h});

ガンマ線ではグレイ(Gy)とシーベルト(Sv)は 1:1 で換算されるので、
これはそのまま

&math(0.247\,\mathrm{Sv/s}=890\,\mathrm{Sv/h});

となって ・・・ Wikipedia の値を元にした上記の計算とオーダーは合っている物の、
3〜4倍大きくなってしまいました。人体をすべて水としてしまったところが悪いのかもしれませんし、あるいは、リンク先の NIST の文献をちゃんと読んでないため、どこかで何かの係数を忘れているのかもしれません。

まあ、だいたいあってるので良しとします(?!)

** 平面状の放射線源の場合 [#ef723aa8]

1 kg の Cs-137 が広い範囲の地表にばらまかれた場合を考えます。

Wikipedia の [[Cs-137 のページ>http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0137#.E7.92.B0.E5.A2.83.E4.B8.AD.E3.81.AE.E6.94.BE.E5.B0.84.E6.80.A7.E3.82.BB.E3.82.B7.E3.82.A6.E3.83.A0]] にあるように &math(1\,\mathrm{mg/km^2}); の密度で &math(1,000 \times 1,000\,\mathrm{km^2}); の範囲にばらまかれたとしてみます。

放射線は地下へ向かってと、空へ向かってと、同じだけ照射されるので、
全放射率を面積 &math(2 \times 1,000 \times 1,000\,\mathrm{km^2});
&math(=2\times 10^{12}\,\mathrm{m^2}); で割ると密度が出ます。

ここからエネルギー密度は &math(3\times 10^{-10}\,\mathrm{W/m^2}); 。

これに&math(\mu/\rho=6.5\times 10^{-3}\,\mathrm{m^2/kg}); を掛けると、

&math(2\times 10^{-12}\,\mathrm{Sv/s}=70\,\mathrm{nSv/h});

となって、自然放射能と比較可能なレベルになる?

こういう計算はどこかで答え合わせができないと、
まったく自信が持てないなあ・・・

*** 補足 [#x5e576f9]

上の計算だと、&math(3.2\,\mathrm{PBq}); を面積 &math(10^{12}\,\mathrm{m^2}); に蒔いているので &math(3200\,\mathrm{Bq/m^2}); に相当する。

福島県飯舘村南部で 200万&math(\mathrm{Bq/m^2}); 以上が検出されたとなっているが、
http://sankei.jp.msn.com/science/news/110407/scn11040711100001-n1.htm
これは、上の計算の600倍とかそれ以上。

そのまま計算すると、値は &math(45\,\mathrm{\mu Sv/h}); とかなるけど・・・
上記の通り水として計算したせいとか、地表から地下に染みこんでいるせいとかで、
実際の値はもう少し小さくなって &math(10\sim 20\,\mathrm{\mu Sv/h}); だとすると、
実測とだいたい合ってるみたい?

* I-131 だと [#i31a21bc]

原子の個数は 137:131 なのでほぼ変わりませんが、
半減期が 30年:8日 で 1370 倍も違うため、
放射能も 1000 倍以上大きくなります。

上記の通りの計算で、1 kg の I-131 では 4600 PBq で、1 m 離れた位置に 270 kSv/h を与えます。

http://www.cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/11.html 
の数値と合っていることを確認できました。

* コメント [#q5ae0f8d]

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