量子力学Ⅰ/一次元の散乱現象 のバックアップソース(No.5)

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* 障壁よりもエネルギーが高い場合の散乱 [#rfcec45a]

先に行った一次元の箱形ポテンシャルによるトンネル現象で行った計算は、
障壁よりも粒子のエネルギーが高い場合にもそのまま適用できる。

&attachref(scatter-wall.png,,25%); 
&attachref(scatter-well.png,,25%);

障壁よりも粒子のエネルギーが高い場合、
障壁内部の波動関数は外と同様に振動的になるが、
ポテンシャルエネルギーの分だけ運動エネルギーが減り、波長は長くなる。

同様に、障壁が負のエネルギーを持つ場合、
すなわち井戸になっている場合の評価もそのまま行える。
この場合にはポテンシャルエネルギーの分だけ運動エネルギーは増え、
井戸内の波長は外部に比べて短くなる。

計算上は &math(\kappa=\sqrt{\frac{2m}{\hbar^2}(V_0-\varepsilon)}); とした部分が虚数となるから、

 &math(\kappa\to ik');

 &math(\sinh\kappa a\to -i\sin k'a);

 &math(\cosh\kappa a\to \cos k'a);

などと書き換えると理解しやすい。

このとき、

 &math(|T|^2=\frac{1}{1+Y^2});

 &math(Y^2=\frac{V_0^2}{4\epsilon|V_0-\epsilon|}\sin^2 k'a);

であるから、&math(\sin k'a=0); すなわち

 &math(\sqrt{\frac{2m}{\hbar^2}(\varepsilon-V_0)}a=n\pi); &math(n=0,1,2,\dots);

のとき &math(|T|=1); すなわち 100% 透過する。

この条件の意味は、

 &math(k'\cdot 2a=2n\pi);

と書きなおすと良くわかる。
この条件は障壁中を往復するだけの距離進むと位相が元に戻る条件になっている。
このとき起きる現象は &math(V_0>0); の場合と &math(V_0<0); の場合とで少し異なる。

- &math(V_0>0); の障壁の場合には
++ 井戸の内部を進む波が右端で反射する際には位相が反転する
++ 井戸の内部を戻る波は左端で元の波と反対の位相を持つ
++ 入射波が井戸の左端で反射する際には位相は反転しない
++ ii. の波と iii. の波が打ち消しあう 

- &math(V_0<0); の井戸の場合には
++ 井戸の内部を進む波が右端で反射する際には位相は変化しない
++ 井戸の内部を戻る波は左端で元の波と同じ位相を持つ
++ 入射波が井戸の左端で反射する際に位相が反転する
++ ii. の波と iii. の波が打ち消しあう

&attachref(scatter-vs-v0.gif);

~
&attachref(scatter-vs-v0.png,,75%);

* 演習:ポテンシャルエネルギーの異なる領域へ入射する正弦波 [#i2ece0cb]

&math(x=0); にて変化するポテンシャルによる散乱問題を考える。

 &math(V(x)=\begin{cases}
0&(x<0)\\
V_0&(0\le x)
\end{cases});

ただし図のように、入射波を &math(\varphi_I(x));、反射波を &math(\varphi_R(x));、透過波を &math(\varphi_T(x)); と置く。

&attachref(scatter1.png,,33%);

(1) 1次元の時間によらないシュレーディンガー方程式を書き下せ。ただし波動関数を &math(\varphi(x)); で表し、系のエネルギーは &math(\varepsilon); (&math(\varepsilon>V_0);) とせよ。

(2) &math(\varphi(x)=e^{\pm ikx}); ただし &math(k=\sqrt{2m\varepsilon/\hbar^2}); が &math(x<0); の領域での解となることを示せ。

(3) &math(\varphi(x)=e^{\pm ik'x});  ただし &math(k'=\sqrt{2m(\varepsilon-V_0)/\hbar^2}); が &math(0\ge x); の領域での解となることを示せ。

(4) &math(x=0); における境界条件を &math(\varphi_I(x));、&math(\varphi_R(x));、&math(\varphi_T(x));  を用いて書き下せ。

(5) &math(\varphi_I(x)=e^{ikx},\ \varphi_R(x)=Re^{-ikx},\ \varphi_T(x)=Te^{ik'x}); 
と置き、(4)の方程式から &math(R, T); を &math(k,k'); で表せ。

(6) (5)の結果が &math(k|R|^2+k'|T|^2=k); を満たすことを確かめよ。

(7) &math(V_0=\frac{3}{4}\varepsilon); のときの &math(R,T); を求め、(6)の関係が成り立つことを確かめよ。

(8) &math(V_0<0); すなわち波長が短くなる領域に入射する条件では、界面において反射波の位相が入射波と &math(\pi); だけ異なることを確かめよ。

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** 解説 [#d69061e5]

(6) の結果は、単位時間、単位面積あたりの反射波および透過波の確率密度の流れを加えると、入射波の確率密度の流れと等しくなることに対応している。単位時間、単位面積あたりの確率密度の流量が、&math(S=\mathrm{Re}\left[\varphi^*(x)\frac{\hbar}{im}\frac{\PD}{\PD x}\varphi(x)\right]);  と表せることを思い出せ。

(8) の結果は屈折率の大きな領域へ入射する光の反射と同様の結果である。

* 質問・コメント [#r0c87eb6]

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