線形代数I/要点/1章 のバックアップ差分(No.15)

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* ベクトル空間 [#qdd30274]

「集合 &math(V); が &math(\bm{K}); 上のベクトル空間である」というのは
以下の2つの条件を満たすことである。

1.任意に選んだ &math(V); の元 &math(\bm{x}, \bm{y}); とそれ自身が体で
ある &math(\bm{K}); (&math(\bm{K}); の中で四則演算が可能という意味) の
元 &math(a); に対して、加法:&math(\bm{x}+\bm{y}); と数乗法 &math(a\bm{x}); 
が定義され、それぞれの演算結果と等しい要素が &math(V); の中に必ず存在する
(加法と数乗法とが &math(V); に閉じている)。

(A) 加法が&math(V);に閉じている

&math(\bm{x},\bm{y} \in V \to \bm{x}+\bm{y} \in V); 

(B) 数乗法が&math(V);に閉じている

&math(\bm{x} \in V \and \bm{k} \in \bm{K} \to k\bm{x} \in V); 

2.加法と数乗法が次の8つの公理を満たす

(1) 加法の交換法則

任意の &math(\bm{x}, \bm{y} \in V); について~
&math(\bm{x}+\bm{y}=\bm{y}+\bm{x});

(2) 加法の結合法則

任意の &math(\bm{x}, \bm{y}, \bm{z} \in V); について~
&math((\bm{x}+\bm{y})+\bm{z}=\bm{y}+(\bm{x}+\bm{z}));

(3) ゼロ元の存在

任意の &math(\bm{x} \in V); について~
&math(\bm{x}+\bm{o}=\bm{x});~
となる元 &math(\bm{o} \in V); が存在する。

(4) 加法の逆元の存在

任意の &math(\bm{x} \in V); について~
&math(\bm{x}+\bm{y}=\bm{o});~
となる元 &math(\bm{y} \in V); が存在する。

(5) 1倍

任意の &math(\bm{x} \in V); について~
&math(1\cdot \bm{x}=\bm{x});

(6) 数乗法の結合法則

任意の &math(\bm{x} \in V); および &math(a,b \in \bm{K}); について~
&math(a \cdot (b \cdot \bm{x})=(a \cdot b) \cdot \bm{x});

(7) 数乗法の分配法則1

任意の &math(\bm{x} \in V); および &math(a,b \in \bm{K}); について~
&math((a + b) \cdot \bm{x}=a \cdot \bm{x} + b \cdot \bm{x});

(8) 数乗法の分配法則2

任意の &math(\bm{x},\bm{y} \in V); および &math(a \in \bm{K}); について~
&math(a \cdot (\bm{x}+\bm{y})=a \cdot \bm{x} + a \cdot \bm{y});

* ベクトル [#a22d26c9]

ベクトル空間の要素をベクトルと呼ぶ。

* スカラー体 [#yc9440f2]

「〜上のベクトル空間」という際の「〜」にあたる集合をスカラー体と呼ぶ。

スカラーはベクトルの数乗法のときに掛ける値のこと。

通常は実数か複素数かのどちらかを考える。

実数全体の集合は real の頭文字をとって &math(\bm{R}); と書き、同様に、
複素数の集合を complex の頭文字で &math(\bm{C}); と書くので、
「&math(\bm{R}); 上のベクトル空間」などという書き方が良くされる。

* 体 [#sb75c20a]

スカラーとしては実数や複素数を考えることが普通であるが、もっと一般に
四則演算について閉じた集合(ただしゼロでの割り算を除く)であれば
それをスカラーとしてベクトル空間を定義することができる。

ここでは詳しく書かないが、このような4則演算について閉じた集合のことを「体」と呼ぶ。

「体」を英語で field と呼ぶので、体を &math(\bm{F}); と書くこともある。

が、教科書ではドイツ語の Körper から取って &math(\bm{K}); と書いている。

* 代数 [#ecc0db34]

「ベクトル空間」や「体」のように集合内部で可能な演算によって集合の性質を
調べていく数学の一分野を「代数学」と呼ぶ。

Wikipedia で「[[代数学>Wikipedia:代数学]]」「[[群>Wikipedia:群論]]」「[[環>Wikipedia:環論]]」「[[体>Wikipedia:体 (数学)]]」「[[ベクトル空間>Wikipedia:ベクトル空間]]」などについて調べてみるといい。

* 数ベクトル [#vc25d678]

高校で習ったような、実数や複素数を幾つか並べてつくったベクトルを数ベクトルと呼ぶ。

&math(n); 次元の実数ベクトルの集合を &math(\bm{R}^n);、~
&math(n); 次元の複素数ベクトルの集合を &math(\bm{C}^n);、~
&math(n); 次元の数ベクトル(実数か複素数かを問わない)の集合を &math(\bm{K}^n); と書く。

これらの数ベクトルが高校で習ったのと同じ加法・数乗法に対してベクトル空間と
なることを簡単に確かめられる。

* 行ベクトル、列ベクトル [#n47a94e3]

縦ベクトルとか横ベクトルという呼び名は覚えやすいけど、行と列はどうなのか。

これは「横書き文化」から来たものだと覚えると簡単。

つまり、行ベクトルは横書きの一行として &math((a\ b\ c\ d)); のように書いたもので、
列ベクトルは &math(\left(\begin{array}{c}a\\b\\c\\d\end{array}\right)); のようなもの。

* ベクトルの線形結合 [#z7df8c5c]

ベクトル &math(\bm{x}, \bm{y} \in V); に対して、係数 &math(a, b \in K); を掛けて足し合わせた、

&math(a\bm{x}+b\bm{y}); ・・・ ①

のようなものを &math(\bm{x}, \bm{y}); の線形結合と呼ぶ。

言葉の使い方としては、「&math(\bm{z} \in V); は &math(\bm{x}, \bm{y}); の線形結合として
表すことができる/できない」などというのが一番多い。

ある特定の &math(\bm{x}, \bm{y}); に対して &math(a, b); をいろいろ変えると①の値は
さまざまに変化する

そこで、ある特定の &math(a, b); に対して &math(\bm{z}=a\bm{x}+b\bm{y}); となることがあるか、
無いかということを考える分けである

あるベクトル &math(\bm{x}); を、与えられた n個のベクトル &math(\bm{a}_1,\bm{a}_2,\bm{a}_3,\dots,\bm{a}_n); の線形結合として表すことができるかどうかを確かめるには、

&math(\bm{z}=c_1\bm{a}_1+c_2\bm{a}_2+\dots+c_n\bm{a}_n);

という式を &math(c_1, c_2, \dots, c_n); について解き、解が存在するかどうかを調べればよい。

* 張る [#m843d902]

n個のベクトル &math(\bm{a}_1,\bm{a}_2,\bm{a}_3,\dots,\bm{a}_n); の線形結合として表す
ことのできるベクトルの集合を &math(E); としよう。

このとき「&math(E); は &math(\bm{a}_1,\bm{a}_2,\bm{a}_3,\dots,\bm{a}_n); によって
張られるベクトルの集合である」と言い、&math(E=[\bm{a}_1,\bm{a}_2,\bm{a}_3,\dots,\bm{a}_n]); 
と書く。

ある一組のベクトル &math(\bm{a}_1,\bm{a}_2,\bm{a}_3,\dots,\bm{a}_n); が、集合 &math(E); を
張ることを証明するには、&math(E); の任意の元 &math(\bm{x} \in E); を 
&math(\bm{a}_1,\bm{a}_2,\bm{a}_3,\dots,\bm{a}_n); の線形結合で表すことができることを
確かめればよい。

「任意個数のベクトルにより張られる集合」は、以下で示すとおりそれ自身がベクトル空間となっている。

* 部分ベクトル空間 [#o9e9e945]

元となるベクトル空間の部分集合がそれ自身ベクトル空間である場合、それを部分ベクトル空間と言う。

ある集合が部分ベクトル空間であるということと、加法、数乗法がその集合の中で閉じていることは
同値である。
なぜなら、そこで定義される加法、数乗法は教科書p2〜3に示された交換法則などの公理をすでに
満たしていることが分かっているためである。

では上の命題「任意個数のベクトルにより張られる集合は、以下で示すとおりそれ自身がベクトル
空間となる」の証明に入ろう。

&math(E=[\bm{a}_1,\bm{a}_2,\bm{a}_3,\dots,\bm{a}_n]); に対して
&math(\bm{x_1}, \bm{x_2} \in E); とする。

すると「張られる」の定義から、

&math(\bm{x_1}= c_1 \bm{a}_1 + c_2 \bm{a}_2 + \dots + c_n \bm{a}_n); 

&math(\bm{x_2}= d_1 \bm{a}_1 + d_2 \bm{a}_2 + \dots + d_n \bm{a}_n); 

となるような &math(\{c_k\}); と &math(\{d_k\}); が存在する。

このとき、

&math(\bm{x_1}+\bm{x_2}= (c_1+d_1) \bm{a}_1 + (c_2+d_2) \bm{a}_2 + \dots + (c_n+d_n) \bm{a}_n); 

&math(\lambda\bm{x_1}= (\lambda c_1) \bm{a}_1 + (\lambda  c_2) \bm{a}_2 + \dots + (\lambda c_n) \bm{a}_n); 

と書け、加法と数乗法が &math(E); に閉じていることを示すことができる。

* 特殊な部分ベクトル空間 [#xa0ff735]

ゼロベクトルだけを含む空間 &math(\{\bm{o}\}); は部分ベクトル空間である。

ベクトル空間 &math(V); に対して &math(V); 自身も部分ベクトル空間である。

* ベクトルで張られる集合の「形」 [#hed741f5]

&math(\bm{a}_1,\bm{a}_2,\bm{a}_3,\dots,\bm{a}_n); を3次元の位置ベクトルと考える。
このときこれらのベクトルで張られる領域はどんな形をしているだろうか?

高校でやったとおり &math(\bm{r}=c_1\bm{a_1}); は &math(c_1); をパラメータと考えると
原点を通り&math(c_1\bm{a_1});に平行な直線を表す。

同様に、&math(\bm{r}=c_1\bm{a_1}+c_2\bm{a_2}); は原点を通り&math(\bm{a_1});、&math(\bm{a_1});を含む平面を表し、~
そして &math(\bm{r}=c_1\bm{a_1}+c_2\bm{a_2}+c_3\bm{a_3}); は全空間を埋め尽くすことになるだろう。

では4つの場合は? &math(\bm{r}=c_1\bm{a_1}+c_2\bm{a_2}+c_3\bm{a_3}+c_4\bm{a_4});

3つだけで全空間を埋め尽くすのだから、さらに自由度が増えてもそれ以上集合が大きくなることはない。

というわけで、基本的にベクトル1つで直線を、2つなら平面を、3つ以上なら立体的な空間全域を張ると考えればよい。

ただ、注意が必要なのは特殊な場合にはそうとも限らないことだ。

たとえばベクトル1個を選ぶときにゼロベクトルを取ってしまうと、ゼロベクトル1つに
よって張られる集合は原点しか含まない。

このように特別扱いしなければならないのはゼロベクトルだけではない。

2つのベクトルを選ぶときに同じ方向のものを選んでしまうと
それらの線形結合で表せる領域は平面とはならず1個の時と同じ直線にしかならない。

このような状況を考えるために次の概念が導入される。

* 一次独立、一次従属 [#u5b27cc9]

あるベクトルの組 

&math(\bm{a}_1,\bm{a}_2,\bm{a}_3,\dots,\bm{a}_n \in V);  ・・・ ②

に対して

&math(c_1\bm{a_1}+c_2\bm{a_2}+c_3\bm{a_3}+c_4\bm{a_4}=\bm{o}); ・・・ ③

という式を作るとこれは &math(c_1, c_2,\dots,c_n ); に関する方程式になる。

この式が 

&math(c_1 = c_2 = \dots = c_n = 0 ); ・・・ ④

のときに成立するのは自明であるが、
ベクトルの選び方によって解がこれだけに限られる場合と、
他にも解がある場合とが考えられる。

③が唯一④を解に持つとき、②のベクトルは「一次独立」であると言う。

逆に他に1つでも解を持つとき②のベクトルは「一次従属」であると言う。

** 特殊な場合 [#w6058d82]

ゼロベクトル &math(\bm{o}); はそれ1つだけで線形従属。

ゼロでないベクトル &math(\bm{x} \ne \bm{o}); はそれ1つだけなら線形独立。

2つのベクトル &math(\bm{a}, \bm{b}); が線形従属であれば &math(\bm{a}=c\bm{b});

線形従属なベクトルの組 &math(\bm{a}_1, \bm{a}_2, \bm{a}_3, \dots, \bm{a}_n); に
任意のベクトル &math(\bm{a}_{n+1}); を加えても線形従属。

* 一次従属の意味 [#t7724703]

&math(\bm{a}_1,\bm{a}_2,\bm{a}_3,\dots,\bm{a}_n \in V); が一次従属であれば~
&math(c_1\bm{a_1}+c_2\bm{a_2}+\dots+c_n\bm{a_n}=\bm{o}); となる &math(c_1, c_2,\dots,c_n ); として、
&math(c_i \ne 0); であるものが存在する。

このとき、

&math(\bm{a_i}=&(1/c_i)(c_1\bm{a_1}+c_2\bm{a_2}+\dots+c_{i-1}\bm{a_{i-1}}+\\&c_{i+1}\bm{a_{i+1}}+\dots+c_n\bm{a_n}));

と書くことができ、&math(\bm{a_i}); が残りのベクトルに張られる空間に含まれていることがわかる。

一次従属なベクトルの組はその中からあるベクトルを取り除いても張られる空間が変化しないような
ベクトルの組であることが分かる。

* 基底 [#r0d55acc]

あるベクトル空間 &math(V); が ''一次独立な'' ベクトルの組 
&math(\bm{a}_1,\bm{a}_2,\bm{a}_3,\dots,\bm{a}_n \in V); に
より張られるとき、「&math(\bm{a}_1,\bm{a}_2,\bm{a}_3,\dots,\bm{a}_n); は &math(V); の基底である」と言う。

「&math(\bm{a}_1,\bm{a}_2,\bm{a}_3,\dots,\bm{a}_n); を基底とする線形空間 &math(V); について〜」とか「&math(V); の基底を1組求めよ」などといった使い方をする。

あるベクトル空間 &math(V); が与えられ、その基底を求めよ、というような問題では、
&math(V); からいくつか適当にベクトルを取り出し(たとえば &math(\bm{a},\bm{b},\bm{c});)、

+ それらが線形独立であること~
つまり &math(s\bm{a}+t\bm{b}+u\bm{c}=\bm{o}); の解が &math((s,t,u)=(0,0,0)); に限られること
+ それらで &math(V); が張られること~
つまり任意の &math(\bm{x} \in V); に対して &math(\bm{x}=s\bm{a}+t\bm{b}+u\bm{c}=\bm{o}); の解が
存在すること

を示せばよい。

* 次元 [#v76df21f]

あるベクトル空間 &math(V); が与えられたとき、その基底の取り方はいくつも
考えられる。

現段階では証明を省くが、どのように基底を取ったとしても、それを構成するベクトルの数は
ベクトルに固有の値であり、つねに同じ数になる。

この、「基底を構成するベクトルの数」をベクトル空間の次元と呼ぶ。

たとえば「ベクトル空間 &math(V); の次元を求めよ」という問題では、
適当な基底を作って見せ、その数を答えることになる。

* 張られる空間の「形」再び [#a8c9de9b]

上でベクトルにより張られる空間の「形」について考えた。

基本的にはいくつのベクトルで張られるかによって直線、平面、空間などの特定の
形になるが、特殊な場合には張るベクトルの数と空間の形とが1対1に対応しない
のであった。

空間を張るベクトルの組が一次独立である場合にはこのような不確定性は無く、
-線形独立な1つの3次元位置ベクトルで張られる空間:原点を通る直線
-線形独立な2つの3次元位置ベクトルで張られる空間:原点を含む平面
-線形独立な3つの3次元位置ベクトルで張られる空間:空間全体

と言う事ができる。

これが「基底」や「次元」の概念が生まれた背景と言える。

ここで、ゼロベクトルを含むベクトルの組(それ1つだけのときも)は常に
一次従属であることに注意しよう。

* コメント [#ebb99e87]

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