線形代数II/代数学的構造 のバックアップの現在との差分(No.2)

更新


  • 追加された行はこの色です。
  • 削除された行はこの色です。
[[線形代数Ⅱ]]
前の単元 <<<
               [[線形代数II]]
               [[>>> 次の単元>線形代数II/抽象線形空間]]

* 目次 [#ld7da76d]

#contents

* 代数学とは [#zb5eb4b1]
&katex();

この授業は「線形代数」だ。
この授業は「線形代数」という名前だけれど、この言葉の意味を知っているだろうか?

これまでに「線形」の意味は教わった。
* 線形とは [#jbdfb5e4]

>&math(f(\bm x)); が線形とは: &math(f(a \bm x+b \bm y)=a f(\bm x)+b f(\bm y)); が成り立つこと
ある写像(関数)が「線形」であるかどうかは、

では「代数学」とは?
>$f(\bm x)$ が線形とは: $f(\bm x+\bm y)=f(\bm x)+f(\bm y)$ および $f(a \bm x)=a f(\bm x)$ が成り立つこと

これまで様々な「数」を学んできた。
あるいは、

- &math(\mathbb N); 自然数 = 加算・乗算について閉じている &math(a+b, a\times b);
- &math(\mathbb Z); 整数  = 減算についても閉じている &math(a-b);
- &math(\mathbb Q); 有理数 = 除算についても「ほぼ」閉じている &math(a/b);(ゼロは例外)
- &math(\mathbb R); 実数  = 収束する有理数列の極限演算についても閉じている &math(\lim_{n\rightarrow\infty}a_n);
- &math(\mathbb C); 複素数 = 負数の開根操作についても閉じている &math(\sqrt{-1});
>$f(\bm x)$ が線形とは: $f(a \bm x+b \bm y)=a f(\bm x)+b f(\bm y)$ が成り立つこと

&math(\mathbb N \subset \mathbb Z \subset \mathbb Q \subset \mathbb R \subset \mathbb C);
と定義される。

すなわち関数がベクトルの和とスカラー倍に対して透過的((関数適用前に演算を行っても、適用後に行っても結果が変わらない))であることを言う。

通常の1変数関数であれば、

$$
f(x)=f(x\cdot 1)=x\,\underbrace{f(1)}_{=A}=Ax
$$

となるから、$A$ を何らかの定数として $f(x)=Ax$ と表せる関数のみが線形である。

そのような関数のグラフを考えれば原点を通る___直線___となり、これが「線形(linear)」の語源である。

* 代数学とは [#zb5eb4b1]

では「代数学(algebra)」は?

これまで様々な「数の集合」を学んできた。

- $\mathbb N$ 自然数 = 加算・乗算について「閉じている」 → $a,b\in \mathbb N$ ならば $a+b, a\times b\in \mathbb N$
- $\mathbb Z$ 整数  = 減算についても閉じている $a-b$
- $\mathbb Q$ 有理数 = 除算についても「ほぼ」閉じている $a/b$(ゼロでの除算は例外)
- $\mathbb R$ 実数  = 収束する有理数列の極限演算についても閉じている $\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}a_n$
- $\mathbb C$ 複素数 = 負数の開根操作についても閉じている $\sqrt{-1}$

$\mathbb N \subset \mathbb Z \subset \mathbb Q \subset \mathbb R \subset \mathbb C$
であり、新しい「演算」の導入により「数の集合」を拡大してきた。

- 解析学は主に &math(\mathbb R); または &math(\mathbb C); の上、
あるいは &math(\mathbb R^n); や &math(\mathbb C^n); の上で、極限や微積分を扱う数学である
「解析学」はこの最上位の $\mathbb R$ または $\mathbb C$ 
(あるいは $\mathbb R^n$ や $\mathbb C^n$ )の上で、極限や微積分を扱う学問だった
($\mathbb R^n$、 $\mathbb C^n$ は $n$ 次元実数ベクトル、$n$ 次元複素数ベクトルの集合)

代数学は &math(\mathbb N, \mathbb Z, \mathbb Q, \mathbb R, \mathbb C); の系列から外れて、~
「代数学」は $\mathbb N, \mathbb Z, \mathbb Q, \mathbb R, \mathbb C$ の系列から外れて、~
例えば、

>乗算は定義されるが加算は定義されない数の集合
>加算は定義されないが、乗算だけが定義される数の集合

などというように、「何らかの演算」が定義された「数の集合」を定め、
などというように、「何らかの演算」と、「その演算に対して%%%閉じた%%%数の集合」を定め、
そこに現れる「構造」を研究する。

これから学ぶ「ベクトル」も上でいう「数」の一員である。
線形代数学で主役となる「ベクトル」もそのような意味での「数」の一員である。

* 代数学的構造の例: 群 [#i1c86368]
* (発展)代数学的構造の例: 群 [#i1c86368]

ある集合 &math(\mathbb U); にある演算 &math(*); が定義され、
&math(\mathbb U); は &math(*); について「閉じている」とする。~
(すなわち &math(\forall x,\forall y \in \mathbb U); について &math(x*y\in \mathbb U);)
ある集合 $U$ の2つの元の間に ある演算 $*$ が定義され、
$U$ は $*$ について「閉じている」とする。~

( 「&math(\forall x\in \mathbb U); について」 は、「%%%任意の%%% &math(\mathbb U); の元 &math(x); について」 という意味 )
>集合 $U$ が演算 $*$ について「閉じている」とは、演算の結果が必ず $U$ に含まれること。
>
>すなわち $\forall x,\forall y \in U$ について $x*y\in U$
>
>>「$\forall x\in U$ について」 は、「%%%任意の%%% $U$ の元 $x$ について」 という意味
>
>閉じていない例: $1,2\in \mathbb N$ しかし、$1/2 \not\in \mathbb N$ なので、
自然数は除算について閉じていない。


さらにこの演算が次の公理を満たすものとする。
+ &math(\forall a,\forall b,\forall c\in \mathbb U); に対して結合法則 &math((a*b)*c=a*(b*c)); が成り立つ
+ &math(\forall x \in \mathbb U); に対して &math(e*x=x*e=x); を満たすような特別な元(単位元) &math(e\in \mathbb U); が存在する
+ &math(\forall x \in \mathbb U); に対して、&math(x*y=y*x=e); を満たすような元(逆元)
&math(y\in \mathbb U); が存在する
+ $\forall x,\forall y,\forall z\in U$ に対して___結合法則___ $(x*y)*z=x*(y*z)$ が成り立つ
+ 特別な元 $e\in U$ が存在し、$\forall x \in U$ に対して $e*x=x*e=x$ を満たす(___単位元の存在___)
+ $\forall x \in U$ それぞれに対して、$x*y=y*x=e$ を満たすような元
$y\in U$ を(最低限1つずつ)見つけられる(___逆元の存在___)

このとき、「&math(\mathbb U); は演算 &math(*); について群である」 という。
このとき、「$U$ は演算 $*$ に対して群である」 という。

上記の条件は、for all 記号 $\forall$、exists 記号 $\exists$ を使えば次のようになる。

0. $\forall x, \forall y\in U, x*y\in U$~
1. $\forall x,\forall y,\forall z\in U, (x*y)*z=x*(y*z)$~
2. $\exists e\in U, \forall x\in U, x*e=e*x=x$~
3. $\forall x\in U,\exists y\in U, x*y=y*x=e$~

** 群の例 [#we500591]

一見すると、&math(\mathbb U); を有理数 &math(\mathbb Q);、&math(*); を通常の乗算 &math(\times); 
と考えれば群の公理を満たしそうに思えるが、&math(0\in \mathbb Q); が逆元を持たないため、
有理数 &math(\mathbb Q); は乗算 &math(\times); について群とはならない。
一見すると、$U$ を有理数 $\mathbb Q$、$*$ を通常の乗算 $\times$ 
と考えれば群の公理を満たしそうに思えるが、$0\in \mathbb Q$ が逆元を持たないため、
有理数 $\mathbb Q$ は乗算 $\times$ について群とはならない。

&math(\mathbb U); を有理数 &math(\mathbb Q); からゼロを除いた集合とすれば、この集合は群となる。
$U$ を有理数 $\mathbb Q$ からゼロを除いた集合 $\mathbb Q-\set{0}$ とすれば、この集合は乗算 $\times$ に対して群となる。

&math(\mathbb U); を整数 &math(\mathbb Z);、&math(*); を通常の加算 &math(+);、単位元を &math(0); と考えると公理を満たすから、&math(\mathbb Z); は加算について群である。(%%%加算の単位元%%%は &math(0); であることに注意)
$U$ を整数 $\mathbb Z$、$*$ を通常の加算 $+$、単位元を $0$ と考えると公理を満たすから、$\mathbb Z$ は加算について群である。(%%%加算の単位元は 0 である%%%)

&math(\mathbb U); を &math(k); の倍数 &math(\set{nk|n\in \mathbb Z});、&math(*); を通常の加算 &math(+);、単位元を &math(0); と考えると、これも群を為す。
$U$ を $k$ の倍数 $\set{nk|n\in \mathbb Z}$、$*$ を通常の加算 $+$、単位元を $0$ と考えると、これも群を為す。

群の要素数が有限である場合もある。

自明な群: &math(\mathbb U={1}); に対して、&math(1*1=1); と定義すれば、&math(\mathbb U); は群である。
自明な群: 1つしか要素を持たない集合 $U=\set{e}$ に対して、$e*e=e$ と定義すれば、$U$ は群である。

&math(\mathbb U={a,b,c}); に対して、演算 &math(*); を
|*|~a|~b|~c|
|~a|a|b|c|
|~b|b|c|a|
|~c|c|a|b|
と定義すれば、&math(\mathbb U); は群である。~
ただしこの表は、&math((左に書かれた数)*(上に書かれた数)); の演算結果を示した物である。~
$U={a,b,c}$ に対して、演算 $*$ を
| * |~ a |~ b |~ c |
|~ a| a| b| c|
|~ b| b| c| a|
|~ c| c| a| b|
と定義すれば、$U$ は群である。~
ただしこの表は、$(左に書かれた数)*(上に書かれた数)$ の演算結果を示した物である。~

元の数が有限の場合、「演算」はこのように表を作ることで任意に定義できる。
代数学で扱う「演算」は、このように表を作ることで任意に定義できる。

ただし、例えばこの表を、
|*|~a|~b|~c|
|~a|a|b|c|
|~b|b|c|b|
|~c|c|b|a|
とすると、&math((c*b)*b=b*b=c\ne c*(b*c)=c*b=b); となって結合法則を満たさなくなり、
&math(\mathbb U); は群ではなくなる。
例えばこの表を、
| $\odot$ |~ a |~ b |~ c |
|~ a| a| b| c|
|~ b| b| c| b|
|~ c| c| b| a|
とすると別の演算 $\odot$ を定義できるが、$(c\odot b)\odot b=b\odot b=c\ne c\odot (b\odot c)=c\odot b=b$ となって $\odot$ は結合法則を満たさず、
$U$ は $\odot$ に対して群ではない。

「群」の公理は上のように単純なものであるが、
その数学的構造は非常に奥深く、群論だけで数学の1分野となる。~
その数学的構造は非常に奥深く、「群論」だけで数学の1分野となる。~

応用理工の数学カリキュラムでは群論の詳細には立ち入らないが、
結晶学や分子振動における点群や、
ゲージ理論などにおける対称性に関する議論に重要な応用があるため
どこかでまた学ぶことになるかもしれない。

* その他の代数的構造 [#udbe5ccb]
* (発展)その他の代数的構造 [#udbe5ccb]

- 半群 = 群の公理から 2., 3. を除いて 1. のみを公理とする
- 群 = 上記
- 可換群 = 群の公理に交換律 &math(a*b=b*a); を加える
- 体 = 2つの演算 &math(+,*); を持ち、&math(+); に対して可換群、0 を除いて &math(*); に対しても可換群であり、さらに分配法則 &math(a*(b+c)=a*b+a*c); が成立する(つまり、四則演算ができる)
- 可換群 = 群の公理に交換法則 $a*b=b*a$ を加える
- 体 = 2つの演算 $+,*$ を持ち、$+$ に対して可換群、$+$ の単位元である 0 を除いて $*$ に対しても可換群であり、さらに分配法則 $a*(b+c)=a*b+a*c$ が成立する(つまり「四則演算」ができる集合のこと)

有理数 &math(\mathbb Q); や実数 &math(\mathbb R);、複素数 &math(\mathbb C); は
自由に四則演算の行える構造を持ち、「体」である。
有理数 $\mathbb Q$ や実数 $\mathbb R$、複素数 $\mathbb C$ は
自由に四則演算の行える構造を持ち、「体」である。~
そこでしばしば 有理体、実数体、複素数体 などとも呼ばれる。

これ以外にも様々な代数的構造が研究されている。
これ以外にも様々な代数的構造が研究されている。→ [[Wikipedia:代数的構造]]&qr(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%A3%E6%95%B0%E7%9A%84%E6%A7%8B%E9%80%A0);

* 代数的構造の意味 [#i732e7d6]

「代数的構造」の優れた点は数学的に類似の構造を持つ対象を抜き出して、
それらをまとめて議論できる点にある。

異なる対称の「類似点」を公理の形で記し、公理のみを基に定理を導くことにより、
個々の対象に依存せず、すべての対象に適用可能な結論を導くことができる。
異なる対象の「類似点」を公理の形で記し、公理のみを基に定理を導くことにより、
個々の対象に依存せず、すべての対象に適用可能な結論を導くことができるのである。

~

前の単元 <<<
               [[線形代数II]]
               [[>>> 次の単元>線形代数II/抽象線形空間]]

* 質問・コメント [#ra2fb135]

#article_kcaptcha
**細かいですが、間違いを見つけました。 [#l50c9472]
>[[工学システム学類の変な男]] (&timetag(2015-04-06T23:56:45+09:00, 2015-04-07 (火) 08:56:45);)~
~
「代数学的構造の例: 群 」 のfor all とexistsの使用例の3ですがx と a が混在しています。~
~
最近、このサイトをみつけました。教科書よりも読み易く、面白い読み物として利用させて頂いています。~

//
- 指摘をありがとうございます。早速訂正しました。ぜひ役立ててもらえればこちらもうれしいです。 -- [[武内(管理人)]] &new{2015-04-09 (木) 23:13:57};

#comment_kcaptcha


Counter: 19944 (from 2010/06/03), today: 1, yesterday: 0