線形代数II/前半の復習 のバックアップソース(No.3)

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* 前半の復習と後半の展望 [#gbcd5aa0]

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** 線形代数とは? [#qe8a5346]

「演算 $f(\cdot)$ が線形である」とは、

$$
f(ax+by)=af(x)+bf(y)
$$

を満たすことを言うのだった。これは、和とスカラー倍とに分けて

$$
\begin{cases}
f(x+y)=f(x)+f(y)\\
f(ax)=af(x)\\
\end{cases}
$$

と書いても同じこと。

例えば $n$ 次元実数ベクトルを与えると、そこに $n$ 行 $m$ 列の実行列 $A$ をかけて返す演算 $f:\bm x\mapsto A\bm x$ は $f:R^n\to R^m$ なる写像を定義する。任意の $\bm x,\bm y\in R^n$ および定数 $a,b\in R$ に対して 

$$
A(a\bm x+b\bm y)=aA\bm x+bA\bm y
$$

より、

$$
f(a\bm x+b\bm y)=af(\bm x)+bf(\bm y)
$$

が成り立つから $f(\cdot)$ は線形な演算(線形写像)である。

一方、$f(x)=Ax^2$ に対しては、

$$
f(ax+by)=A(ax+by)^2\ne af(x)+bf(y)=aAx^2+bAy^2
$$

「線形な演算」について考えるのが「線形代数」である。

** 線形空間・線形写像と数ベクトル・行列 [#t760edec]

「線形」を定義するには引数として与える $x$ や $y$ に「和」と「スカラー倍」が定義されてなければならないことに気づくだろうか? これが「線形空間」を考える理由である。線形空間とは「和とスカラー倍に対して閉じた集合」のことであった。

「線形写像」は「線形な演算」を線形代数の枠組みで定義したものである。「線形変換」は線形写像のうち、変換元と変換先の集合が同じもののこと、変換元と変換先が異なるときを考える場合に線形写像と呼ぶのであった。($f:V\to V$ のようなもの。$f:V\to W$ は「変換」と呼ばない)
#ref(linear_approximation.png,around,right,20%);
「線形な演算」は物理学や情報理論などのいたるところに顔を出す。実のところ物理学では「非線形な演算」もたくさん出てくるが、たいていのケースで非線形な物理学は複雑になりすぎて解くのがとても難しい。そこで、ある点(よくあるのは平衡点)からの微小な変位を考えて、一次近似で理論を建てる。するとそこにはやはり「線形」な理論が現れて、線形代数の出番となる。

線形代数Aで学んだように、任意の $n$ 次元線形空間(和とスカラー倍が定義された集合)は $n$ 次元数ベクトル空間と「同型」であり、「基底」を使って成分表示してやることにより、数ベクトルや行列の演算に落とし込むことができるのであった。(無限次元空間については少し注意が必要)

>$K$ 上の $n$ 次元線形空間 $V$ に基底 $A=\{\bm a_1, \bm a_2,\dots,\bm a_n\}$ を定義する。
>$\bm x\in V$ の基底 $A$ に対する表現 $\bm x_A\in K^n$ は、
>$$\bm x=(\bm a_1, \bm a_2,\dots,\bm a_n)\bm x_A=\sum_{i=1}^n x_{Ai}\bm a_i$$
>を満たす $n$ 次元縦ベクトルである。同様に、
> $\bm y\in V$ の表現を $\bm y_A$
> $k\bm x\in V$ の表現を $(k\bm x)_A$  $(k\in K)$
> $\bm x+\bm y\in V$ の表現を $(\bm x+\bm y)_A$ 
>などとすると、
>$$(k\bm x)_A=k\bm x_A$$
>$$(\bm x+\bm y)_A=\bm x_A+\bm y_A$$
>が成り立つ。線形空間 $V$ と $K^n$ とは「同型」なのである。
>
>線形空間 $V'$ を同じく $K$ 上の $m$ 次元線形空間とし、線形写像 $T:V\to V'$ を考えると、線形性により
>$$T\bm x=T\Big\{\sum_{i=1}^n x_{Ai}\bm a_i\Big\}=\sum_{i=1}^n x_{Ai}\,T\bm a_i$$
>と表せる。$V'$ に基底 $B=\{\bm b_1,\bm b_2,\dots,\bm b_m\}$ を取れば $T\bm a_i\in V'$ の基底 $B$ に対する表現 $\big(T\bm a_i\big)_B\in K^m$ は
>$$T\bm a_i=\sum_{j=1}^m\big(T\bm a_i\big)_{Bj}\bm b_j$$
>を満たす。上式に代入すると、
#ref(線形代数II/線形写像の行列表現と階数/写像の表現行列.png,around,right,33%);
>$$T\bm x=T\Big\{\sum_{i=1}^n x_{Ai}\bm a_i\Big\}=\sum_{j=1}^m\underbrace{\sum_{i=1}^n x_{Ai}\big(T\bm a_i\big)_{Bj}}_{(T\bm x)_{Bj}}\bm b_j$$
>したがって $T\bm x$ の表現 $(T\bm x)_B$ は、
>$$(T\bm x)_{Bj}=\sum_{i=1}^n \big(T\bm a_i\big)_{Bj}x_{Ai} $$
>を満たす。そこで、$n\times m$ 行列 $T_{BA}$ の $(i,j)$ 成分を、
>$$\big(T_{BA}\big)_{ij}=\big(T\bm a_i\big)_{Bj}$$
>と置けば、
>$$(T\bm x)_{B}=T_{BA}\bm x_A$$
>と書け、任意の線形写像の適用を行列の掛け算として表現できることが分かる。
>この $T_{BA}$ を線形写像 $T$ の行列表現と呼ぶ。

つまり、数ベクトルや行列について学んだことで任意の線形空間と線形写像についてその性質を学べたことになるわけだ。

** 一般内積と標準内積 [#qe05cdcd]

内積についても同じである。「内積」としての性質を持つ演算 $(x,y)$ を持つ $n$ 次元線形空間(計量線形空間)に「正規直交基底」を取って成分表示すると、内積は対応する $n$ 次元数ベクトル空間における標準内積として表されることになる。

>$K$ 上の $n$ 次元計量空間 $V$ に正規直交基底 $A=\{\bm a_1, \bm a_2,\dots,\bm a_n\}$ を取る。
>$$(\bm a_i,\bm a_j)=\delta_{ij}\hspace{1cm}\text{ただし、}\delta_{ij}=\begin{cases}1&i=j\\0&i\ne j\end{cases}$$
>$\bm x,\bm y\in V$ の $A$ に対する表現を $\bm x_A,\bm y_A\in K^n$ とすると、
>$$\begin{aligned}(\bm x,\bm y)&=\Big(\sum_{i=1}^n x_{Ai}\bm a_i\ ,\ \sum_{j=1}^n y_{Aj}\bm a_j\Big)\\&=\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n x^*_{Ai}\,y_{Aj}\ (\bm a_i,\bm a_j)\\&=\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n x^*_{Ai}\,y_{Aj}\,\delta_{ij}\\&=\sum_{i=1}^n x^*_{Ai}\,y_{Ai}\\&=(\bm x_A,\bm y_A)\\\end{aligned}$$
>最終行の $(\cdot,\cdot)$ は $K^n$ の標準内積である。

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