正弦波の複素指数関数表現とインピーダンス のバックアップ(No.2)

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目次:

オームの法則

抵抗に掛かる電圧を $V(t)$、流れる電流を $I(t)$ とすると $V(t)$ と $I(t)$ は比例します。

その係数が抵抗値 $R$ であり、

$$V(t)=R I(t)$$

これをオームの法則と呼びます。

抵抗 $R$ は $\text{Ω}=\text{V/A}$ の単位で計られます。 $\Omega$ は「オーム」と読みます。

抵抗とコンダクタンス

同じ関係式を、

$$I(t)=\underbrace{(1/R)}_G V(t)=G V(t)$$

と書いた時の $G=1/R$ をコンダクタンスと呼びます。

コンダクタンス $G$ は $\text{S}=1/\Omega=\text{A/V}$ の単位で計られます。 $\text{S}$ はジーメンスと読みます。

コンデンサとコイルの特性

静電容量(キャパシタンス)$C$ を持つコンデンサ(キャパシタ)では、蓄えられた電荷 $Q(t)$ と両端電圧 $V(t)$ とが比例し、その比例係数が $C$ となります。

$$ Q(t)=CV(t) $$

電流が流れることで電荷量が変化するとき、$Q(0)=0$ を仮定すると

$$ \int_0^t I(t')\,dt'=Q(t) $$

あるいは、これを微分して、

$$ I(t)=\frac{d}{dt}Q(t) $$

の関係があるため、

$$ I(t)=\frac{d}{dt}Q(t)=C\,\frac{d}{dt}V(t) $$

あるいは、

$$ V(t)=(1/C)\int\,dt\, I(t) $$

が成り立ちます。

インダクタンス $L$ を持つコイル(インダクタ)では、電流の変化速度に比例する電圧が生じます。

$$ V(t)=L\frac{d}{dt}I(t) $$

このように、コンデンサやコイルについては電圧と電流の関係は抵抗とは異なり単なる比例ではなく、微分や積分を含む「面倒な」関係になっています。

とはいえ次のように並べて書くと、

$$ \begin{cases} V(t)=R I(t)&(\text{抵抗})\\ V(t)=(1/C)\int\,dt\,I(t)&(\text{コンデンサ})\\ V(t)=L\frac{d}{dt}I(t)&(\text{コイル})\\ \end{cases} $$

線形演算子である $(1/C)\int\,dt$ や $L\frac{d}{dt}$ が抵抗 $R$ と同じ働きをする、 と見ることができるところが実は重要になってきます。

微分や積分で形の変わらない関数 = 指数関数

電圧や電流が、微分や積分で形の変わらない関数である指数関数で表せるとき、コンデンサやコイルの特性がどのように書けるか見てみます。

$$ \begin{aligned} V(t)=V_0\,e^{st}\\ I(t)=I_0\,e^{st} \end{aligned} $$

のとき、抵抗の特性は普通にオームの法則で、

$$ V_0\,e^{st}=RI_0\,e^{st} $$

となるのに対して、コンデンサーの特性は、

$$ I_0\,e^{st}=C\,\frac{d}{dt}\Big[V_0\,e^{st}\Big] $$ $$ I_0\,e^{st}=sCV_0\,e^{st} $$

コイルの特性は、

$$ V_0\,e^{st}=L\,\frac{d}{dt}\Big[I_0\,e^{st}\Big] $$ $$ V_0\,e^{st}=sLI_0\,e^{st} $$

となります。

これらの関係を並べてみると、

$$ \begin{cases} V(t)=\ \ \ \ R\ \ \ \ \ \ I(t)&(\text{抵抗})\\ V(t)=(1/sC)\,I(t)&(\text{コンデンサ})\\ V(t)=\ \ (sL)\ \ \,I(t)&(\text{コイル})\\ \end{cases} $$

となって、電圧・電流が指数関数的に変化する場合には、電圧と電流はコンデンサやコイルの場合にも比例関係にあり、コンデンサの場合には $1/sC$ が、コイルの場合には $sL$ が、「抵抗と同じ役割を持つ比例係数」になっていることを確認できます。

これは指数関数が、線形演算子である微分演算子や積分演算子の固有関数になっていて、指数関数に作用させる場合に限っては微分演算子や積分演算子をその固有値である $s$ や $1/s$ と置き換えて良いことが理由になっています。

$$ \underbrace{\frac{d}{dt}}_{\text{線形演算子}}\hspace{-3mm}e^{st}=\underbrace{s\rule[-2.4mm]{0mm}{5mm}}_\text{固有値}e^{st} $$

$$ \underbrace{\int dt\,}_{\text{線形演算子}}\hspace{-1mm}e^{st}=\underbrace{\frac 1s\rule[-3.2mm]{0mm}{5mm}}_\text{固有値}e^{st} $$

→ $\underbrace{A}_\text{行列}\bm x=\underbrace{\lambda}_\text{固有値}\bm x$ と同じ形です。

正弦波も形が変わらない = 指数関数で表せるため

実は正弦波についても、微分や積分を行っても形が変わりません(位相は変わってしまうのですが)。

$$ \frac{d}{dt}\cos\omega t=-\omega\sin\omega t=\omega\cos(\omega t+\pi/2) $$

これは正弦波を指数関数で書けることによります。

$$ \frac d{dt}\cos\omega t=\frac d{dt}\Big[\frac{e^{i\omega t}+e^{-i\omega t}}2\Big]=i\omega\cdot \frac{e^{i\omega t}-e^{-i\omega t}}2 =-\omega\cdot \frac{e^{i\omega t}-e^{-i\omega t}}{2i}=-\omega\sin\omega t $$

ただ微分や積分で位相が変化してしまうので、指数関数ほど便利な感じになりません。

正弦波を簡易的に複素指数関数で表す

上で述べた指数関数の有用性と、今後も見ていく正弦波の有用性との両方を生かすために、

$$ \cos(\omega t+\theta)=\operatorname{Re}\big[e^{i(\omega t+\theta)}\big] $$

であることを念頭に置きつつ、

  • 微分や積分を含む線形な演算を行う間はずっと $\cos(\omega t+\theta)$ の代わりに $e^{i\omega t+\theta}$ を使って計算を進める
  • 最後に実際の波形を得たくなったらおもむろに $\operatorname{Re}$ を取る

というのが非常に便利なやり方になります。

この記法では、

  • $\cos\omega t=\operatorname{Re}\big[e^{i\omega t}\big]$
  • $\sin\omega t=\operatorname{Re}\big[-ie^{i\omega t}\big]$

のように $\sin$ と $\cos$ は係数が違うだけの同じ形の関数で表せますし、 例えば、

$$ \cos\omega t+\sin\omega t=\sqrt2\Big(\cos(-\pi/4)\cos\omega t-\sin(-\pi/4)\sin\omega t\Big)=\sqrt2\cos(\omega t-\pi/4) $$

などという計算を、

$$ \begin{aligned} &\operatorname{Re}\big[e^{i\omega t}\big]+\operatorname{Re}\big[-ie^{i\omega t}\big] =\operatorname{Re}\big[e^{i\omega t}-ie^{i\omega t}\big] =\operatorname{Re}\big[(1-i)e^{i\omega t}\big]\\ &=\sqrt2\operatorname{Re}\big[\frac{1-i}{\sqrt 2}e^{i\omega t}\big]=\sqrt2\operatorname{Re}\big[e^{-i\pi/4}e^{i\omega t}\big]=\sqrt2\cos(\omega t-\pi/4) \end{aligned} $$

のように進めることができます。

「$\operatorname{Re}$ を取る」という操作は線形であるばかりでなく微分や積分と可換であるため、すべての計算が済んでから一度だけ$\operatorname{Re}$ を取ればよいのが非常に便利なところです。

回路学や信号処理では 「$V(t)=e^{i\omega t}$ のとき」 みたいな記述がしょっちゅう出てきますが、 これは「$V(t)=\cos\omega t$ のとき」と書いてあるのと同じである、と瞬時に変換できるようになりましょう。

インピーダンスとアドミタンス

上の指数関数の結果を使うと、 電圧と電流が角周波数 $\omega$ の正弦波であるとき、

$$ \begin{aligned} V(t)=V_0e^{i\omega t}\\ I(t)=I_0e^{i\omega t} \end{aligned} $$

抵抗、コンデンサ、コイルの特性を、

$$ \begin{cases} V(t)=\ \ \ \ R\ \ \ \ \ \ I(t)&(\text{抵抗})\\ V(t)=(1/i\omega C)\,I(t)&(\text{コンデンサ})\\ V(t)=\ \ (i\omega L)\ \ \,I(t)&(\text{コイル})\\ \end{cases} $$

と書けることが分かります。

そこで、抵抗、コンデンサ、コイルの「インピーダンス」をそれぞれ $Z_R=R,Z_C=1/i\omega C,Z_L=i\omega L$ と定義すれば、 いずれの場合にも「拡張版オームの法則」

$$ V(t)=Z I(t) $$

が成り立つことになります。

すなわち、インピーダンスとは「正弦波信号を複素表示した場合の 拡張版オームの法則で『抵抗』にあたる量」ということになります。

当然、インピーダンスは抵抗と同じ次元を持ち、$\Omega$ の単位で計られます。

インピーダンスの逆数 $Y=1/Z$ はアドミタンスと呼ばれ、$S$ ジーメンスで計られます。

インピーダンスは複素数なので、その実部、虚部、絶対値、偏角などが様々な場面で意味を持ってきます。

抵抗、コンデンサ、コイルでできた回路を微分・積分を使わずに表せる

良く知られた抵抗の合成則として、

抵抗 $R_1$ と抵抗 $R_2$ とを直列につないだ場合の合成抵抗は $R_1+R_2$ になります。

抵抗 $R_1$ と抵抗 $R_2$ とを並列につないだ場合の合成抵抗は $(1/R_1+1/R_2)^{-1}\equiv R_1//R_2$ になります。

がありますが、インピーダンスに対しても全く同様の合成則が成り立ちます。

インピーダンス $Z_1, Z_2$ を直列につないだ場合の合成回路のインピーダンスは $Z_1+Z_2$ になります。

なぜなら電流を $I$ とすれば、2つのインピーダンスに生じる電圧は $V_1=Z_1I, V_2Z_2I$ で、 合成回路に生じる電圧はこれらの和で $V=V_1+V_2=(Z_1+Z_2)I$ であるため。

インピーダンス $Z_1, Z_2$ を並列につないだ場合の合成回路のインピーダンスは $(1/Z_1+1/Z_2)^{-1}\equiv Z_1//Z_2$ になります。

なぜなら電圧を $V$ とすれば、2つのインピーダンスに流れる電流は $I_1=V/Z_1, I_2=V/Z_2$ で、 合成回路に流れる電流はこれらの和で $I=I_1+I_2=(1/Z_1+/1Z_2)V$ であるため。

より複雑な回路についても、インピーダンスを使えば正弦波に対する回路特性を四則演算のみで求めることができ、非常に便利になります。

現実の信号を複数の正弦波の重ね合わせとして表すと便利

ただ上記はあくまで正弦波に対する回路の応答を考えた場合の話になります。

入出力信号が正弦波でない場合にはちょっと話がややこしくなります。

ただこの場合にも、線形な回路は和に対して透過的になる(重ね合わせの原理が働く)ため、 例えば、インピーダンス $Z(\omega)$ を持つ素子に非正弦波的な電流

$$ I(t)=I_1e^{i\omega_1t}+I_2e^{i\omega_2t} $$

を流した場合に発生する電圧は、

$$ V(t)=Z(\omega_1)I_1e^{i\omega_1t}+Z(\omega_1)I_2e^{i\omega_2t} $$

として求められます。

より一般に、正弦波の和として表される任意の電流波形をインピーダンス $Z$ に流せば、

$$ I(t)=\sum_n I_ne^{i\omega_nt} $$

発生する電圧は、

$$ V(t)=\sum_n Z(\omega_n)I_ne^{i\omega_nt} $$

となるわけです。

これは微分や積分を含む線形演算子 $\hat \mathcal Z$ で表される電流・電圧特性を持つ素子

$$ V(t)=\hat \mathcal Z I(t) $$

があったとき、$\hat \mathcal Z$ の固有関数である $e^{i\omega_n t}$ に対する固有値がインピーダンス $Z(\omega_n)$ であり、

$$ V(t)=\sum_n Z(\omega_n)I_ne^{i\omega_nt} $$

という式は $\hat \mathcal Z$ のスペクトル分解にあたる表現になっているのですが・・・ そのあたりはまた後で見ていくことにします。


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