量子力学/変分法 のバックアップ差分(No.7)

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[[量子力学Ⅰ]]

* 変分法の原理 [#eb06345a]

あるハミルトニアンに対して「時間に依らないシュレーディンガー方程式の基底状態を求める問題」は、そのハミルトニアンに対して「最低のエネルギー期待値を与える関数を求める問題」と同値である。というのが変分法の原理である。

どういうことか?

** すべての関数のうちで最低のエネルギー期待値を与える関数が基底状態である [#lc366dfe]

まず、あるハミルトニアン演算子が与えられたならば、任意の波動関数 &math(\varphi(\bm x)); 
に対してエネルギー期待値が求められることを思いだそう。

 &math(E_\varphi=\int\varphi^*(\bm x)\hat H\varphi(\bm x)d\bm x);

問題設定に応じた境界条件など特定の付加条件を満たす関数空間
(その中でハミルトニアン演算子がエルミートであるとする)の中から、
このエネルギー期待値を最低にするような波動関数を見つけたならば、
その波動関数が基底状態の波動関数である、というのが上記の主張の内容だ。

この空間においてハミルトニアンの固有関数からなる正規直交完全系を &math(\{\phi_n\}); &math((n=0,1,2,\dots));、基底状態を &math(\phi_0); とする。

 &math(
\begin{aligned}
\ &\hat H\phi_n=\varepsilon_n\phi_n\\
&\varepsilon_n>\varepsilon_0\hspace{15mm} (n\ge 1)\\
&(\phi_m,\phi_n)=\delta_{mn}
\end{aligned}
);

であるから、すべての ''固有関数'' のうちで最低のエネルギー期待値を与えるのが基底関数なのは明らかであるが、固有関数以外の関数を含めた任意の関数 &math(f(x)); に対しても、これを &math(\{\phi_n\}); で展開し、

 &math(
f(x)=\sum_{n=0}^\infty f_n\phi_n(x)
);

 &math(
f_n=(\phi_n, f)
);

 &math(
\|f\|^2=\sum_{n=0}^\infty |f_n|^2=1
);

&math(f(x)); に対するエネルギー期待値を評価すると、

 &math(
\begin{aligned}
\langle H\rangle_{f}
&=(f,\hat H f)\\
&=\sum_{m=0}^\infty \sum_{n=0}^\infty (f_m\phi_m,\varepsilon_n f_n\phi_n)\\
&=\sum_{m=0}^\infty \sum_{n=0}^\infty \varepsilon_n f_m^* f_n(\phi_m,\phi_n)\\
&=\sum_{m=0}^\infty \sum_{n=0}^\infty \varepsilon_n f_m^* f_n\delta_{mn}\\
&=\sum_{n=0}^\infty \varepsilon_n |f_n|^2\\
&\ge\sum_{n=0}^\infty \varepsilon_0 |f_n|^2\\
&=\varepsilon_0\sum_{n=0}^\infty |f_n|^2\\
&=\varepsilon_0\\
\end{aligned}
);

となって、明らかに基底状態のエネルギー期待値を下回ることはない。

すなわち、基底状態は任意の関数のうち最も小さいエネルギー固有値を与える波動関数である。

** エネルギー期待値をラグランジュの未定係数法で最小化する [#t3a2af7d]

波動関数 &math(\phi); に対してそのエネルギー期待値を返す汎関数:

 &math(
\mathcal E[\phi]=(\phi,\hat H\phi)
);

を、規格化条件

 &math(
(\phi,\phi)=1
);

の下で最小化するという問題を考える。

これは条件付きの最適化問題であるから
[[ラグランジュの未定係数>量子力学Ⅰ/ラグランジュの未定係数法]] を &math(E); として、

 &math(
\begin{aligned}
\mathcal L[\phi]&=\mathcal E[\phi]-E\{(\phi,\phi)-1\}\\
&=(\phi,\hat H\phi)-E\{(\phi,\phi)-1\}\\
\end{aligned}
);

を定義し、この &math(\mathcal L); を &math(\phi); で微分してゼロと置けば、最小値を与える 
&math(\phi); に対する条件が得られる。
&math(\phi\to\phi+\delta\phi); と変化させた際の &math(\mathcal L); の変化は、

 &math(
\begin{aligned}
\delta\mathcal L
&=(\delta\phi,\hat H\phi)+(\phi,\hat H\delta\phi)-E(\delta\phi,\phi)-E(\phi,\delta\phi)\\
&=\bigl(\delta\phi,(\hat H-E)\phi\bigr)+\bigl((\hat H-E)\phi,\delta\phi\bigr)\\
&=\bigl(\delta\phi,(\hat H-E)\phi\bigr)+\bigl(\delta\phi,(\hat H-E)\phi\bigr)^*\\
&=2\mathrm{Real}\big[\,\bigl(\delta\phi,(\hat H-E)\phi\bigr)\,\big]\\
&=0
\end{aligned}
);

であるから、これが任意の &math(\delta\phi); に対して成り立つためにはいたる所で、

 &math(
(\hat H-E)\phi=0
);

が成り立つことが必要で、これは時間に依らないシュレーディンガー方程式に他ならない。

すなわち「時間に依らないシュレーディンガー方程式」は「エネルギー期待値の停留点となるような波動関数を求める方程式」と見なせるのである。

** 探索範囲に厳密解が含まれない場合 [#j0f92ce1]

上の議論から、すべての関数のうちでエネルギー期待値を最小化する関数を探せばそれが基底状態であることが分かり、またそのような関数はシュレーディンガー方程式を満たすことが分かった。

ただ、実際の問題ではそのような厳密解を求めることは数学的にも、数値計算的にも難しすぎる場合が多い。

そこでしばしば、「すべての関数のうちで」最小化するかわりに、「何らかの分かりやすい形で表せる関数の集合の中で」最小のエネルギー期待値を与えるものを見つける、という手法が採られる。

そのようにして見つかった関数は「その集合の中での最良の近似解」とみなして良いだろう、ということである。

このような方法を「変分法」と呼ぶ。

「探索範囲」の設定が悪ければまともな解が得られない場合もあるため注意が必要であるものの、変分法は多くの現実的問題に対して良い近似解を得るためのほぼ唯一の有用な指針となっている。
「探索範囲」の設定が悪ければまともな解が得られない場合もあるため注意が必要であるものの、「エネルギー固有値に対する変分法」は多くの現実的問題に対して良い近似解を得るためのほぼ唯一の有用な指針となっている。

* 励起状態に対する変分法 [#i0e86782]

正確な基底状態がすでに求まっているとき、「基底状態と直交する関数」のうちでエネルギー期待値が最小のものを探すことにより、第一励起状態が得られる。また、それらと直交する関数から探せば第二励起状態が得られる。

一方で、ある範囲の関数の集合から「近似的な基底状態」を求めた後、それに直交する関数のうちでエネルギー期待値が最小のものを探したとして、それが第一励起状態の良い近似を与えるかというと、、、基底状態の近似の精度によるとしか言えない?

* ちょっと疑問 [#wab66131]

上記の解説は、「ハミルトニアンの固有値に最小値が存在すること」を前提としているが、ハミルトニアンの固有値に「最大値」が存在しないことを考えると、この前提が常に成立することを別途証明しなければならないはず。これは任意の現実的なハミルトニアンに恒等変換の定数倍を加えて正定値な演算子にできるということと同義だが・・・ここでは深入りしないことにする。


* 参考文献 [#g92a96f0]

- http://phys.sci.hokudai.ac.jp/~kita/QuantumMechanicsIII/QuantumMechanicsIII(variation).pdf

* コメント・質問 [#pf0520df]

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