量子力学Ⅰ/波動関数の解釈 のバックアップソース(No.2)

更新

[[量子力学I]]

#contents

* 波動関数の物理的な意味は何か? [#e131650a]

シュレーディンガー方程式より、定常状態にある水素原子中の電子の取り得る飛び飛びのエネルギー値
(エネルギー準位と呼ぶ)が &math(\hat H); の固有値として求まった。

このとき固有値に対応して固有関数も求まるのであるが、この固有関数=波動関数の物理的意味は何であろうか?

** 話の進み方が奇妙? [#fd91a38a]

近代の物理学ではこのように、「正しそうな方程式が先に求まって、後からその意味するところを考える」
という手順を踏むことがしばしばある。

これまで学んできた古典的な物理ではありえないスタンスで、始めは戸惑うかもしれない。
これまでであれば直感的に納得のいく方程式が基礎方程式となっていたから、それを学ぶことに疑問はなかった。
量子力学のように極限的な状況でのみその真価が現れるようなつ物理学を進める場合、
そういった状況に置ける物理現象に対して我々の直感の働かないため、
直感を廃したこういうややこしい手順を踏むしかない、と考えて納得して欲しい。
実際、量子力学が役に立つような分野では、我々の直感とはかけ離れたような物理現象がしばしば観測される。

+ 観測された物理現象を説明できそうで、かつ論理的に矛盾のない基礎方程式を適当にでっち上げる
+ その方程式から何が予測されるかを考えて、新たな測定結果と突き合わせる
+ 矛盾が生じれば理論に修正が必要となる
+ 矛盾無く測定結果を説明できている限り、それが正しい理論である

このような意味で現在受け入れられているのが、
先に %%求めた%% でっち上げた シュレーディンガー方程式である。

* 測定される物理現象 [#j6d4afe8]

電子の波動関数を理解する上で最も分かりやすい実験結果の1つに、
二重スリットを通る電子についての測定が挙げられる。

二重スリットの実験は光学でもよく知られており、ホイヘンスの原理によれば、
スリット後の状況は2つのスリットの位置にそれぞれ点光源があるのと同じであり、
それらの光の干渉によりスクリーン上に干渉縞が現れる。
当然、片方のスリットを閉じれば干渉縞は消失する。

&attachref(double-slit.png,,25%);    
&attachref(double-slit.gif,,50%);

電子に対しても同様の実験を行うことができて、その結果、光と同様に干渉縞が現れる。

#ref(Double-slit_experiment_results_Tonomura_Preview.jpg,right,around);

電子が古典的な粒子であればスリットを通った電子は単に直進するのみであるから、
もう一方のスリットが空いていようが閉じていようが
1つのスリットを通った電子がスクリーン上に到達する位置は変わらないはずで、
二重スリットの結果は単一スリットの結果の足し算になるはずである。

それにもかかわらず干渉縞が現れることは、確かに電子が波の性質を持っていることを表わしてる。

それでは電子に粒子としての性質が無いのかといえばそんなことはない。
高感度のスクリーンを用いることで、
1つ1つの電子がスクリーン上に到達した位置を記録することができる。
干渉縞が現れる場合にも、1つの電子は1つの点に到達する。
すなわち、電子は確かに粒子なのである。

有名な外村による二重スリットの測定結果は右図のようになり、
1つ1つの電子がスクリーン上に到達する位置はランダムに見える物の、
その確率が波動関数の干渉により波打っていることから、
多数の電子に対して観測を繰り返すことにより干渉縞が現れてくる。(from [[Electron double-slit experiment (dr. Tonomura, Hitachi Research) - ATLAS@CERN>http://www.learningwithatlas-portal.eu/en/node/93624]])

* コペンハーゲン解釈 [#of5d8123]

現在受け入れられている波動関数の解釈は以下のような物である。コペンハーゲンにあるボーア研究所で構築されたため、コペンハーゲン解釈と呼ばれる。

- 電子の時間発展はシュレーディンガー方程式を満たす波動関数 &math(\psi(\bm x,t)); で記述される
- 波動関数は空間的に広がりを持ち、また、干渉や回折などの波に特有な性質を現す
- 電子の位置を実験的に観測した場合には電子はある一点に見出される
- 電子の発見される確率は &math(|\psi(\bm x,t)|^2); に比例する

二重スリットの実験に当てはめれば、

- 二重スリットを通る電子の波動関数は、2つのスリットのそれぞれを通る経路の間で干渉を起こす
- その結果、波動関数の絶対値の二乗 &math(|\psi(\bm x,t)|^2); に干渉縞が現れる
- 電子がスクリーンに当たり、その位置が記録されることが「観測」にあたる
- 観測される電子位置は常に1点だけに定まり、広がりを持たない
- &math(|\psi(\bm x,t)|^2); の大きな箇所でより多くの電子が発見されるため、
多くの電子について観測を繰り返すことによりスクリーン上に干渉縞が現れる

空間的に広がりを持つ電子が観測により1点に見出される様子は「波動関数の収束」と呼ばれる。

現在の量子力学はなぜ観測により波動関数が収束を起こすのか、
観測しないときに電子は度の位置にあるのか、といった問いには答えない。
「観測によって検証できない内容」は物理の範疇ではないというスタンスである。

そのかわり、「観測により確かめられる内容」については量子力学は完璧な予想を与える。
(対応するシュレーディンガー方程式が数学的に解ける範囲にある限り)

#clear

* 確率密度関数について [#q2585cd6]

確率・統計の需要を取った学生には学習済みの内容であるが、
確率密度関数についてここで復習しておく。

** 確率密度関数の定義 [#x546ffd8]

#ref(はじめての誤差論/probability_density_function.png,right,around,50%);

「確率変数 &math(x); が確率密度関数 &math(f(x)); に従う」という意味は、

測定毎に異なる値を取る変数 &math(x); があり、1回測定したときに &math(x); が &math(x_a<x<x_b); の範囲に入る確率を

 &math(P\{x_a<x<x_b\}=\int_{x_a}^{x_b}f(x)dx);

として求められる、ということである。

右図で分かるとおり、上式の右辺の積分は &math(f(x)); と 
&math(x); 軸に挟まれる部分の面積に相当するため、
&math(x); は &math(f(x)); が大きな範囲の値を取りやすく、
&math(f(x)); が小さな範囲の値は滅多に取らない。

当然、すべての &math(x); に対して &math(f(x)\ge 0); であり、
また、測定を行えば必ず何らかの値が得られることから、&math(f(x)); を全範囲にわたって積分した値は常に1になる。

 &math(\int_{-\infty}^{\infty}f(x)dx=1);

** 期待値 [#hd633e60]

確率変数 &math(x); の測定を仮想的に無限回行った場合に得られる平均値を
&math(x); の期待値という。

例えば、サイコロを1回振った際に出る目の期待値は、

 &math(1\cdot\frac{1}{6}+2\cdot\frac{1}{6}+3\cdot\frac{1}{6}+4\cdot\frac{1}{6}+5\cdot\frac{1}{6}+6\cdot\frac{1}{6}=3.5);

のように、サイコロの目の値に、個々の目の出る確率を掛けて得られる。

すなわち、離散的な値を取る確率変数 &math(x); の期待値 &math(\overline x); は、

 &math(\overline{x}=\sum_{k} x_k p(x_k));

として与えられる。ここで &math(p(x)); は &math(x=x_k); となる確率である。

いま考えている &math(x); が連続値を取る場合にも、これと同様に

 &math(\overline{x}=\int_{-\infty}^\infty xf(x)\,dx);

により期待値が求まる。測定値が範囲 &math([x,x+dx]); に入る確率を &math(f(x)dx); と表せることに注意せよ。

** 標準偏差 [#f028b0d1]

標準偏差は確率変数 &math(x); がその期待値からどれほど大きなバラツキを持つかを表わす指標である。

統計学的には、&math(n); 回の測定値 &math(x_1,x_2,\dots,x_n); の標準偏差は、

 &math(\sigma_x=\sqrt{\frac{1}{n}\sum_{k=1}^n (x_k-\overline x)^2});

として定義される。

これに対して確率変数 &math(x); を仮想的に無限回観測した際の標準偏差の期待値は

 &math(\sigma_x=\sqrt{\int_{-\infty}^\infty (x-\overline x)^2f(x)\,dx});

として求められる。これを確率密度関数 &math(f(x)); の標準偏差という。

** 任意の関数の期待値 [#zebdd06f]

標準偏差の場合と同様に、確率変数 &math(x); の関数として表わされる任意の値 &math(g(x)); の期待値を、

 &math(\overline{g(x)}=\int_{-\infty}^\infty g(x)\,f(x)\,dx);

として求められる。&math(g(x)); が線型である場合を除き、

 &math(\overline{g(x)}\ne g(\overline x));

であることに注意せよ。

#clear

* 波動関数から各種物性値を取り出すには [#z663cace]

** 波動関数の規格化 [#i56b385a]

シュレーディンガー方程式は線型な方程式だから、
ある関数 &math(\psi_1(\bm x,t)); が解であれば、
任意の定数 &math(A); に対して &math(A\psi_1(\bm x,t)); も解である。

一方、波動関数が確率密度関数となるためには、

&math(\iiint\psi(\bm x,t)\,dx\,dy\,dz=1);

でなければならない。

任意のシュレーディンガー方程式の解 &math(\psi_1(\bm x,t)); に対して、

&math(\psi(\bm x,1)=\left\{\iiint\psi_1(\bm x,t)\,dx\,dy\,dz\right\}^{-1}\psi_1(\bm x,t));

として、確率密度関数を得る手順を波動関数の規格化と呼ぶ。

** 座標について [#r1e087ba]

時刻 &math(t); において電子が &math(\bm x); に見出される確率が
波動関数 &math(\psi(\bm x,t)); によって &math(|\psi(\bm x,t)|^2); により表わされるとすれば、
この電子の位置の &math(x); 座標の期待値 &math(\overline x); は

 &math(\overline x(t)=\iiint x|\psi(\bm x,t)|^2\,dx\,dy\,dz=\int x|\psi(\bm x,t)|^2\,d^3x);

として求められる。

二重スリットの実験のように電子の存在確率が広範囲に広がってしまっている場合には
この期待値にあまり意味はない。一方、ポテンシャルにより束縛された電子や、
波束として空間中を飛ぶ電子ではこれがそのまま電子の位置の時間変化を表わすことになる。

もちろんその場合にも波動関数は広がりを持つから、任意の時刻の波動関数の広がりを評価するために 
&math(x); 座標の標準偏差の期待値を求めるようなことも意味を持つ。

 &math(\sigma_x(t)=\sqrt{\int (x-\overline x)^2|\psi(\bm x,t)|^2\,d^3x});

このように一旦波動関数が求まれば、座標の関数として表わされる任意の関数について、
その期待値を求めることが可能である。

** 運動量について [#o650902c]

量子力学に依れば、
電子の位置が確率的にしか決定されないのと同様に、
その運動量も確率的にしか決定されない。

波動関数は位置の確率密度関数を与えるが、
運動量の確率密度関数はどのようなものになるだろうか?

シュレーディンガー方程式をでっち上げた際に、平面波に対して
&math(\bm p=\hbar\bm k); および &math(\nabla \psi(\bm x,t)=i\bm k\psi(\bm x,t)); 
が成り立つことを利用した。

実は、平面波でない場合にも運動量 &math(\bm p); の期待値を、

&math(
\overline{\bm p}(t)=\int \psi(\bm x,t)^* \left\{\frac{\hbar}{i}\nabla\right\} \psi(\bm x,t)\,d^3x
=\int \psi(\bm x,t)^* (-i\hbar\nabla) \psi(\bm x,t)\,d^3x
);

として求めることができる(こうして求めると実験と合う)。
左から &math(\psi(\bm x,t)^*); がかかっているのは、&math(|\psi|=\psi^*\psi); 
であることに対応している。

同様に、&math(p); の関数で与えられる任意の物性値 &math(g(\bm p)); の期待値は、
&math(g); の中の &math(\bm p); を &math(-i\hbar\nabla); で置き換えて、

&math(
\overline{g(\bm p)}=\int \psi(\bm x,t)^* g(-i\hbar\nabla) \psi(\bm x,t)\,d^3x
);

とすれば求められる。

** 一般の場合 [#tfcb6813]

解析力学の授業において、1つの粒子の運動は座標と運動量によって完全に記述されることを学んだ。

すなわち電子の運動を表わす任意の物性値は座標と運動量の関数として 
&math(g(\bm x,\bm p)); の形に書ける。波動関数からこのような物性値の期待値を求めるには、
&math(\bm p); を &math(-\hbar\nabla); で置き換えて、

&math(
\overline{g(\bm x,\bm p)}=\int \psi(\bm x,t)^* g(\bm x,-i\hbar\nabla) \psi(\bm x,t)\,d^3x
);

とすればよい。

* メモ [#if68c58e]

上記干渉のアニメーションを求めるための Mathematica コード:

 LANG:mathematica
 anim = Table[
    Plot3D[(Re[
         Exp[I (Sqrt[(x - d)^2 + y^2] - t)]/((x - d)^2 + y^2) + 
          Exp[I (Sqrt[(x + d)^2 + y^2] - t)]/((x + d)^2 + y^2)]^2)^(1/
         4) /. {d -> 20.25`}, {x, -30, 30}, {y, 0, 60}, Mesh -> None, 
     Mesh -> Automatic, ViewPoint -> 1.4` {1.2`, 1, 1}, 
     PlotPoints -> 401, ImageSize -> Large, 
     PlotRange -> {{-30, 30}, {0, 60}, {0, 0.25}}], {t, 0, 2 Pi, 
     2 Pi/40}];
 Export["double-slit.gif", anim, "GIF"]

計算にはかなり時間がかかります。

* 質問・コメント [#j43557b0]

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