球座標を用いた変数分離 のバックアップ(No.18)

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目次

量子力学Ⅰ

球座標における微分演算子(まとめ)

導出方法はこちら

球座標:

 &math( \begin{cases} x=r\sin\theta\cos\phi\\ y=r\sin\theta\sin\phi\\ z=r\cos\theta \end{cases} );

ラプラシアン:

  \nabla^2=\frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda

 &math(\hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2});

角運動量の大きさの2乗:

 &math( \hat{\bm l}^2=-\hbar^2\hat\Lambda );

ラプラシアンの 1/r^2 の項の係数は、 角運動量の大きさの2乗の演算子 \hat l^2 -\hbar^2 の係数を除いて等しい。

z 軸まわりの運動量:

 &math( \hat l_z=-i\hbar\frac{\PD}{\PD\phi} );

角運動量の上昇・下降演算子(意味は後ほど):

  \hat l_\pm=\hat l_x\pm i\hat l_y=\hbar e^{\pm i\phi}\Big(\pm\frac{\PD}{\PD\theta}+\frac{i}{\tan\theta}\frac{\PD}{\PD\phi}\Big)

演習:シュレーディンガー方程式の変数分離

球座標表示におけるラプラシアンは、

  \nabla^2=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r}\frac{\PD}{\PD r}+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda

 &math(\hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2});

以下の問いに従って、中心力場 V(\bm r)=V(r) の中での粒子の運動について考えよ。

(1) \frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r}\frac{\PD}{\PD r} を示せ。

(2) 与えられたラプラシアンの表式と (1) の結果を用いて、 球座標表示における時間によらないシュレーディンガー方程式を書き下せ。 解答には \hat\Lambda を用いて良い。

(3) 波動関数を \varphi(r,\theta,\phi)=R(r)Y(\theta,\phi) と置き、 (2) の方程式を変数分離することにより、以下の方程式を導け。 ただし共通の定数を l(l+1) と置いた。

 &math( &-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\PD^2}{\PD r^2}rR(r)+\left\{V(r)+\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}\right\}rR(r)=\varepsilon\,rR(r) );

 &math( \hat\Lambda Y(\theta,\phi)=-l(l+1)Y(\theta,\phi) );

(4) (3) の方程式を解いて得られる Y(\theta,\phi) および \varphi が角運動量の大きさの2乗 \hat l^2 の固有関数であり、その固有値が \hbar^2l(l+1) となることを確かめよ。

(5) 古典論において、質量 m の粒子が原点から r の距離を角速度 \omega で回転するときの角運動量は L=mr^2\omega であり、遠心力は f_c=mr\omega^2 で与えられる。
ここから遠心力に対するポテンシャルエネルギーが V_c(r)=\frac{L^2}{2mr^2} と書けることを示し、(3) で得た R(r) の方程式に現れる \frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2} の項が遠心力の寄与を表わすことを理解せよ。中心力場内では角運動量が保存量となるため、 遠心力とポテンシャルエネルギーとの関係は L 一定の元で \frac{\PD V_c}{\PD r}=-f_c であることに注意せよ。

(6) Y(\theta,\phi)=\Theta(\theta)\Phi(\phi) と置いて (3) の第2式を変数分離すると以下の式が得られることを確かめよ。

 &math(\left\{\sin\theta \frac{\PD}{\PD \theta}\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+ l(l+1)\sin^2\theta-m^2\right\}\Theta(\theta)=0);

  \frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\Phi(\phi)=-m^2\Phi(\phi)

ただし、共通の定数を -m^2 と置いた(質量 m と紛らわしいが慣例に従った)。

(7) \Phi に対する方程式を解き、 \Phi(2\pi)=\Phi(0) を満たすためには m が整数値を取らなければならないことを確かめよ。

(8) (6), (3) を解いて得られた \Phi(\phi) および \varphi(r,\theta,\phi) \hat l_z の固有関数であり、その固有値が \hbar m であることを確かめよ。 *1符号をどう取るかに任意性が残るため、少し曖昧な書き方になっている

●解答はこちら

解説

上で見たように、中心力場内のシュレーディンガー方程式は、球座標を用いることにより \varphi(r,\theta,\phi)=R(r)\Theta(\theta)\Phi(\phi) の形に変数分離して解くことが可能である。

\Theta(\theta),\Phi(\phi) についての方程式には V(r) が含まれないため、 ポテンシャルの形状によらず解くことができる。

その解は

  l=0,1,2,\dots
  m=-l,-(l-1),\dots,l-1,l

の2つの整数からなる量子数を用いて

  Y_l{}^m(\theta,\phi)=\Theta_l{}^m(\theta)\Phi_m(\phi)

のようにラベル付けされる。

l,m は物理的にはそれぞれ角運動量の大きさの2乗 \hat l^2 および z 軸周りの角運動量 \hat l_z に関連する量子数であり、

  \hat l^2\,Y_l{}^m=\hbar^2l(l+1)\,Y_l{}^m
  \hat l_z\,Y_l{}^m=\hbar m\,Y_l{}^m

の関係がある。すなわち \,Y_l{}^m \hat l^2 \hat l_z の同時固有関数である。

角運動量の大きさ |\bm l| は、 \sqrt{\hbar^2l(l+1)} であるが、慣例として「角運動量の大きさが \hbar l の時」などという。 角運動量の大きさが \hbar l のときその z 成分が -\hbar l\le \hbar m\le\hbar l となるのは当然と思えるはず。 m=\pm l のときも、不確定性により l_x, l_y は完全にゼロにはならないため、 \hat l^2=\hbar^2 l^2 ではなく \hat l^2=\hbar^2 l(l+1) となる。

rR(r) についての方程式には V(r) の他に角運動量の大きさの2乗 \hbar^2l(l+1) を含む項 \frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2} が現れ、 これは遠心力に対するポテンシャルを表わす(遠心力は角運動量の大きさの2乗に比例する)。

一般に、 R(r) についての方程式を解く際にもう1つの量子数 n が現れるため、 全体としての解は l,m,n の3つの量子数により、

  \varphi_{nml}=R_n{}^l(r)\Theta_l{}^m(\theta)\Phi_m(\phi)

のようにラベル付けされる。

n を主量子数、 l を方位量子数、 m を磁気量子数、と呼ぶ。

原子の軌道を表す場合には、 R(r) に関する解を R_2{}^1(r) などと書く代わりに s,p,d,f,g,\dots のアルファベットを用いて、 R_{2p}(r) などと書くことの方が一般的である。 l とアルファベットの対応は以下の通り。原子の軌道を考える際には多くの場合 f 軌道までで十分である。現在知られている最も重い原子でも、基底状態では g, h などの電子軌道に電子が入ることはない。

  l  0 1  2  3  4  5  … 
文字 s  p  d  f  g  h  … 

波動関数の正規直交性

正しく規格化することにより、上記の \varphi_{lmn} は正規直交性を示す。

  \iiint\varphi_{lmn}^*\varphi_{l'm'n'}d\bm r=\delta_{ll'}\delta_{mm'}\delta_{nn'}

左辺の積分を球座標で書けば、

 &math(= \int_0^\infty dr\int_0^{\pi}rd\theta\int_0^{2\pi}r\sin\theta d\phi\ \varphi_{lmn}^*\varphi_{l'm'n'});

 &math( =\underbrace{ \int_0^{\pi}\Theta_l{}^m(\theta)^*\Theta_{l'}{}^{m'}(\theta)\,\sin\theta d\theta}_{\delta_{ll'}}\

\underbrace{ \int_0^{2\pi}\Phi_m(\phi)^*\Phi_{m'}(\phi) \,d\phi}_{\delta_{mm'}}\ 
\underbrace{ \int_0^\infty R_n{}^l(r)^*R_{n'}{}^{l'}(r)\,r^2dr}_{\delta_{nn'}}

);

となって、 R(r),\Theta(\theta),\Phi(\phi) に対する正規直交条件は、

  \int_0^\infty R_n{}^l(r)^*R_{n'}{}^{l'}(r)\,r^2dr=\delta_{nn'}
  \int_0^{\pi}\Theta_l{}^m(\theta)^*\Theta_{l'}{}^{m'}(\theta)\,\sin\theta d\theta=\delta_{ll'}
  \int_0^{2\pi}\Phi_m(\phi)^*\Phi_{m'}(\phi) \,d\phi=\delta_{mm'}

となる。

R(r) に対する積分に r^2 \Theta(\theta) に対する積分に \sin\theta の重みが それぞれかかることに注意せよ。


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*1 符号をどう取るかに任意性が残るため、少し曖昧な書き方になっている

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