球座標を用いた変数分離 のバックアップ差分(No.21)

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* 目次 [#ibe32ff7]

[[量子力学Ⅰ]]

#contents
&mathjax();

* 中心力場の中での運動 [#c3853c5e]

球対称なポテンシャル &math(V(\bm r)=V(r)); の中での運動を考える。

このとき、&math(x,y,z); の直交座標ではなく、
&math(r,\theta,\phi); を用いた球座標を用いると都合がよい。

* 球座標における微分演算子(まとめ) [#xcdb86c0]

[[導出方法はこちら>@量子力学Ⅰ/球座標における微分演算子]]

球座標:

 &math(
\begin{cases}
x=r\sin\theta\cos\phi\\
y=r\sin\theta\sin\phi\\
z=r\cos\theta
\end{cases}
);

ラプラシアン:

 &math(\nabla^2=\frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda);

 &math(\hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta}
\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2});

角運動量の大きさの2乗:

 &math(
\hat{\bm l}^2=-\hbar^2\hat\Lambda
);

ラプラシアンの &math(1/r^2); の項の係数は、
角運動量の大きさの2乗の演算子 &math(\hat l^2); と &math(-\hbar^2); の係数を除いて等しい。

&math(z); 軸まわりの運動量:

 &math(
\hat l_z=-i\hbar\frac{\PD}{\PD\phi}
);

角運動量の上昇・下降演算子(意味は後ほど):

 &math(\hat l_\pm=\hat l_x\pm i\hat l_y=\hbar e^{\pm i\phi}\Big(\pm\frac{\PD}{\PD\theta}+\frac{i}{\tan\theta}\frac{\PD}{\PD\phi}\Big));


* 演習:シュレーディンガー方程式の変数分離 [#mfb957f5]

球座標表示におけるラプラシアンは以下のように表される。

 &math(\nabla^2=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r}\frac{\PD}{\PD r}+\frac{1}{r^2}\hat\Lambda);

 &math(\hat\Lambda=\frac{1}{\sin\theta} \frac{\PD}{\PD \theta}
\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+\frac{1}{\sin^2\theta} \frac{\PD^2}{\PD \phi^2});

以下の問いに従って、中心力場 &math(V(\bm r)=V(r)); の中での粒子の運動について考えよ。

(1) &math(\frac{1}{r}\frac{\PD^2}{\PD r^2}r=\frac{\PD^2}{\PD r^2}+\frac{2}{r}\frac{\PD}{\PD r}); を示せ。

(2) 与えられたラプラシアンの表式と (1) の結果を用いて、
球座標表示における時間を含まないシュレーディンガー方程式を書き下せ。
解答には &math(\hat\Lambda); を用いて良い。

(3) 波動関数を &math(\varphi(r,\theta,\phi)=R(r)Y(\theta,\phi)); と置き、
(2) の方程式を変数分離することにより、以下の方程式を導け。
ただし共通の定数を &math(l(l+1)); と置いた。

 &math(
&-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\PD^2}{\PD r^2}rR(r)+\left\{V(r)+\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}\right\}rR(r)=\varepsilon\,rR(r)
);

 &math(
\hat\Lambda Y(\theta,\phi)=-l(l+1)Y(\theta,\phi)
);

(4) (3) の方程式を解いて得られる &math(Y(\theta,\phi)); および &math(\varphi); 
が角運動量の大きさの2乗 &math(\hat l^2); の固有関数であり、その固有値が &math(\hbar^2l(l+1)); 
となることを確かめよ。

(5) 古典論において、質量 &math(m); の粒子が原点から &math(r); の距離を角速度 &math(\omega); 
で回転するときの角運動量は &math(L=mr^2\omega); であり、遠心力は &math(f_c=mr\omega^2); 
で与えられる。~
ここから遠心力に対するポテンシャルエネルギーが &math(V_c(r)=\frac{L^2}{2mr^2});
と書けることを示し、(3) で得た &math(R(r)); の方程式に現れる &math(\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}); 
の項が遠心力の寄与を表わすことを理解せよ。中心力場内では角運動量が保存量となるため、
遠心力とポテンシャルエネルギーとの関係は &math(L); 一定の元で &math(\frac{\PD V_c}{\PD r}=-f_c); 
であることに注意せよ。

(6) &math(Y(\theta,\phi)=\Theta(\theta)\Phi(\phi)); と置いて (3) の第2式を変数分離すると以下の式が得られることを確かめよ。

 &math(\left\{\sin\theta \frac{\PD}{\PD \theta}\Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+
l(l+1)\sin^2\theta-m^2\right\}\Theta(\theta)=0);

 &math(\frac{\PD^2}{\PD \phi^2}\Phi(\phi)=-m^2\Phi(\phi));

ただし、共通の定数を &math(-m^2); と置いた(質量 &math(m); と紛らわしいが慣例に従った)。

(7) &math(\Phi); に対する方程式を解き、&math(\Phi(2\pi)=\Phi(0)); を満たすためには 
&math(m); が整数値を取らなければならないことを確かめよ。

(8) (6), (3) を解いて得られた &math(\Phi(\phi)); および &math(\varphi(r,\theta,\phi)); は
&math(\hat l_z); の固有関数であり、その固有値が &math(\hbar m); であることを確かめよ。
((符号をどう取るかに任意性が残るため、少し曖昧な書き方になっている))

[[●解答はこちら>@量子力学Ⅰ/球座標を用いた変数分離/メモ#cabc7bba]]

** 解説 [#zf4c1722]

上で見たように、中心力場の時間を含まないシュレーディンガー方程式は、球座標を用いることにより&math(\varphi(r,\theta,\phi)=R(r)\Theta(\theta)\Phi(\phi)); の形に変数分離して解くことが可能である。
球対称ポテンシャル &math(V(\bm r)=V(r)); に対する時間を含まないシュレーディンガー方程式:

&math(\Theta(\theta),\Phi(\phi)); についての方程式には &math(V(r)); が含まれないため、
ポテンシャルの形状によらず解くことができる。
 &math(\hat H\varphi(\bm r)=\varepsilon \varphi(\bm r));

その解は
は球座標

 &math(l=0,1,2,\dots);~
 &math(m=-l,-(l-1),\dots,l-1,l);
 &math(
\begin{cases}
x=r\sin\theta\cos\phi\\
y=r\sin\theta\sin\phi\\
z=r\cos\theta
\end{cases}
);

の2つの整数からなる量子数を用いて
を用いて、

 &math(Y_l{}^m(\theta,\phi)=\Theta_l{}^m(\theta)\Phi_m(\phi)); 
 &math(
\begin{cases}
&\displaystyle\underbrace{\left[\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dr^2}+\left\{V(r)+\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}\right\}\right]}_{\textstyle \hat H^l}\Big\{rR_n{}^l(r)\Big\}=\varepsilon_n{}^l\Big\{rR_n{}^l(r)\Big\}\\[12mm]
&\hat {\bm l}^2 \,Y_l(\theta,\phi)=\hbar^2l(l+1)\,Y_l(\theta,\phi)
\end{cases}
);

のようにラベル付けされる。
のように変数分離できる。これらはそれぞれ、

&math(l,m); は物理的にはそれぞれ角運動量の大きさの2乗 &math(\hat l^2); および &math(z); 軸周りの角運動量 &math(\hat l_z); に関連する量子数であり、
- 遠心力に対するポテンシャル &math(\hbar^2l(l+1)/2mr^2); を含む1次元ハミルトニアン &math(\hat H^l);
- 全角運動量の2乗 &math(\hat{\bm l}^2); 

 &math(\hat l^2\,Y_l{}^m=\hbar^2l(l+1)\,Y_l{}^m);~
 &math(\hat l_z\,Y_l{}^m=\hbar m\,Y_l{}^m);~
に対する固有方程式となっている。

の関係がある。すなわち &math(\,Y_l{}^m); は &math(\hat l^2); と &math(\hat l_z); の同時固有関数である。
&math(\hat{\bm l}^2); に関する固有値問題は &math(V(r)); には依らない形で解くことができ、
固有値 &math(\hbar^2l(l+1)); に対する固有空間は &math(2l+1); 次元になる。
そして、この固有空間に角運動量の &math(z); 成分を表す演算子 &math(\hat l_z); に対する 
&math(2l+1); 個の独立な固有関数を取ったのが球面調和関数 
&math(Y_l{}^m(\theta, \phi)=\Theta_l{}^m(\theta)\Phi_m(\phi)); である。

角運動量の大きさ &math(|\bm l|); は、&math(\sqrt{\hbar^2l(l+1)}); であるが、慣例として「角運動量の大きさが &math(\hbar l); の時」などという。
角運動量の大きさが &math(\hbar l); のときその &math(z); 成分が &math(-\hbar l\le \hbar m\le\hbar l); となるのは当然と思えるはず。
&math(m=\pm l); のときも、不確定性により &math(l_x, l_y); は完全にゼロにはならないため、
&math(\hat l^2=\hbar^2 l^2); ではなく &math(\hat l^2=\hbar^2 l(l+1)); となる。
 &math(\hat{\bm l}^2Y_l{}^m(\theta, \phi)=\hbar^2l(l+1) Y_l{}^m(\theta, \phi));

&math(rR(r)); についての方程式には &math(V(r)); の他に角運動量の大きさの2乗 &math(\hbar^2l(l+1)); を含む項 &math(\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}); が現れ、
これは遠心力に対するポテンシャルを表わす(遠心力は角運動量の大きさの2乗に比例する)。
 &math(l_zY_l{}^m(\theta, \phi)=\hbar m Y_l{}^m(\theta, \phi));

一般に、&math(R(r)); についての方程式を解く際にもう1つの量子数 &math(n); が現れるため、
全体としての解は &math(l,m,n); の3つの量子数により、
ただし、

 &math(\varphi_{nml}=R_n{}^l(r)\Theta_l{}^m(\theta)\Phi_m(\phi));
 &math(l=0,1,2,\dots); 

のようにラベル付けされる。
 &math(m=-l,-l+1,\dots,-1,0,1,\dots,l-1,l); 

後に見るように球面調和関数は具体的には次の形を取る。

 &math(
Y_l^m(\theta,\phi)=
\underbrace{(-1)^{(m+|m|)/2}\sqrt{\frac{2l+1}{2}\frac{(l-|m|)!}{(l+|m|)!}}P_l^{|m|}(\cos\theta)}_{\Theta(\theta)}
\underbrace{\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{im\phi}}_{\Phi(\phi)}
);

一方で、&math(\hat H^l); に関する固有値問題は左辺に &math(l); に依存する項が含まれるため、
&math(l); の値のそれぞれに対して量子数 &math(n); でラベル付けされる複数のエネルギー固有値 &math(\varepsilon_n{}^l); および、対応する固有関数 &math(rR_n{}^l(r)); が得られる。

結果的に3次元の固有関数は3つの量子数 &math(l,m,n); でラベル付けされ、

 &math(\phi_{lmn}(r,\theta,\phi)=R_n^l(r)Y_l^m(\theta,\phi)=R_n^l(r)\Theta_l^m(\theta)\Phi_m(\phi));

 &math(\hat H\phi_{lmn}(r,\theta,\phi)=\varepsilon_n{}^l\phi_{lmn}(r,\theta,\phi));

すなわち、この系のエネルギー固有値は2つの量子数 &math(l,n); により指定される。

&math(n); を主量子数、&math(l); を方位量子数、&math(m); を磁気量子数、と呼ぶ。

原子の軌道を表す場合には、
&math(R(r)); に関する解を &math(R_2{}^1(r)); などと書く代わりに &math(s,p,d,f,g,\dots); のアルファベットを用いて、&math(R_{2p}(r)); などと書くことの方が一般的である。&math(l); とアルファベットの対応は以下の通り。原子の軌道を考える際には多くの場合 f 軌道までで十分である。現在知られている最も重い原子でも、基底状態では g, h などの電子軌道に電子が入ることはない。
原子の軌道を表す場合には、量子数 &math(l); をそのまま用いる代わりに &math(s,p,d,f,g,\dots); のアルファベットを用いる方が一般的である。&math(l); とアルファベットの対応は以下の通り。原子の軌道を考える際には多くの場合 f 軌道までで十分である。現在知られている最も重い原子でも、基底状態では g, h などの電子軌道に電子が入ることはない。

|~ &math(l);   | 0  | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | … |
|~文字          | s | p | d | f | g | h | … |

* 波動関数の正規直交性 [#za1cce48]
&math(\phi_{lmn}); に対して &math(\hat l^2 \phi_{lmn}= \hbar^2l(l+1)\phi_{lmn}); 
であるから、この関数の角運動量の大きさ &math(|\bm l|); は &math(\hbar\sqrt{l(l+1)}); であるが、
慣例として「角運動量の大きさが &math(\hbar l); のとき」などという。

正しく規格化することにより、上記の &math(\varphi_{lmn}); は正規直交性を示す。
角運動量の大きさが &math(\hbar l); であるとき、その &math(z); 成分 &math(l_z); が 
&math(-\hbar l\le \hbar m\le \hbar l); を満たすのは当然と思えるはずである。
&math(m=\pm l); のときも、不確定性により &math(l_x,l_y); は完全にはゼロとならず、
&math(l_x^2+l_y^2=\hbar^2 l); となる。これが &math(|\bm l|^2=\hbar^2l^2); とはならず、
&math(|\bm l|^2=\hbar^2l(l+1)); となる理由である。

 &math(\iiint\varphi_{lmn}^*\varphi_{l'm'n'}d\bm r=\delta_{ll'}\delta_{mm'}\delta_{nn'});
波動関数 &math(\varphi_{nml}(\bm r)=R_n{}^l(r)Y_l{}^m(\theta,\phi)); 
を全空間で積分すれば1になることから、&math(R(r),\Theta(\theta),\Phi(\phi)); はそれぞれ、

左辺の積分を球座標で書けば、
 &math(
&\iiint|\varphi(\bm r)|^2d^3r=\\
&\int_0^\infty dr\int_0^\pi r\sin\theta\,d\theta\int_0^{2\pi}r\,d\phi\ |\varphi(\bm r)|^2=\\
&\underbrace{\int_0^\infty r^2{R_n{}^l}(r)|^2dr}_{\displaystyle=1}\ 
\underbrace{\int_0^\pi \sin\theta|\Theta(\theta)|^2 d\theta}_{\displaystyle=1}\ 
\underbrace{\int_0^{2\pi}|\Phi(\phi)|^2 d\phi}_{\displaystyle=1}=1
);

 &math(= \int_0^\infty dr\int_0^{\pi}rd\theta\int_0^{2\pi}r\sin\theta d\phi\ 
\varphi_{lmn}^*\varphi_{l'm'n'});
となるように正規化されている。

それぞれの正規直交性は、

 &math(
=\underbrace{ \int_0^{\pi}\Theta_l{}^m(\theta)^*\Theta_{l'}{}^{m'}(\theta)\,\sin\theta d\theta}_{\delta_{ll'}}\ 
 \underbrace{ \int_0^{2\pi}\Phi_m(\phi)^*\Phi_{m'}(\phi) \,d\phi}_{\delta_{mm'}}\ 
 \underbrace{ \int_0^\infty R_n{}^l(r)^*R_{n'}{}^{l'}(r)\,r^2dr}_{\delta_{nn'}}
\int_0^\infty \big\{rR_n{}^l(r)\big\}^*\big\{rR_{n'}{}^l(r)\big\}\,dr=\delta_{nn'}
);

となって、&math(R(r),\Theta(\theta),\Phi(\phi)); に対する正規直交条件は、
 &math(
\int_0^\pi \sin\theta\ \Theta_l^m(\theta)^*\Theta_{l'}^m(\theta) d\theta=\delta_{ll'}
);

 &math(\int_0^\infty R_n{}^l(r)^*R_{n'}{}^{l'}(r)\,r^2dr=\delta_{nn'});~
 &math(\int_0^{\pi}\Theta_l{}^m(\theta)^*\Theta_{l'}{}^{m'}(\theta)\,\sin\theta d\theta=\delta_{ll'});~
 &math(\int_0^{2\pi}\Phi_m(\phi)^*\Phi_{m'}(\phi) \,d\phi=\delta_{mm'});
 &math(
\int_0^{2\pi}\Phi_m(\phi)^*\Phi_{m'}(\phi) d\phi=\delta_{mm'}
);

となる。

である。
&math(R(r)); に対する積分に &math(r^2);、
&math(\Theta(\theta)); に対する積分に &math(\sin\theta); の重みが
それぞれかかることに注意せよ。

~
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* 質問・コメント [#q69076f4]

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