量子力学Ⅰ/球面調和関数 のバックアップ(No.22)

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目次

量子力学Ⅰ

球面調和関数 $Y^m_l(\theta,\phi)$:角運動量の固有関数

球面調和関数(球関数)が全角運動量および z 方向の角運動量の固有関数となることと、その性質について学ぶ。

\Theta の方程式

 &math(\Big[\sin\theta \frac{\PD}{\PD \theta} \Big(\sin\theta\frac{\PD}{\PD \theta}\Big)+l(l+1) \sin^2\theta\Big]\Theta(\theta)=m^2\Theta(\theta));

は、 l,m

  l=0,1,2,3,\dots

  m=-l,-(l-1),\dots,(l-1),l

の範囲の整数になるときのみ解を持ち、その固有関数はルジャンドルの陪関数を用いて表わせる。

zeta.png

  P_l^{|m|}(\zeta)=(1-\zeta^2)^{|m|/2}\frac{d^{|m|}}{d\zeta^{|m|}}P_l(\zeta)

ただし、 P_l(\zeta) ルジャンドルの多項式で、

  P_l(\zeta)=\frac{1}{\,2^l\,l!\,}\,\frac{d^l}{\,d\zeta^l\,}(\zeta^2-1)^l

によって与えられる。これらを用いた

 &math( Y_l^m(\theta,\phi)= \underbrace{\rule[-15pt]{0pt}{0pt}(-1)^{(m+|m|)/2}\sqrt{\frac{2l+1}{2}\frac{(l-|m|)!}{(l+|m|)!}}P_l^{|m|}(\cos\theta)}_{\displaystyle \Theta_l{}^m(\theta)} \underbrace{\rule[-15pt]{0pt}{0pt}\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{im\phi}}_{\displaystyle\Phi_m(\phi)} );

は、

 &math( \int_0^\pi \Theta_l^m(\theta)^*\Theta_{l'}^m(\theta)\,\sin\theta d\theta=\delta_{ll'} );

 &math( \int_0^{2\pi}\Phi_m(\phi)^*\Phi_{m'}(\phi) d\phi=\delta_{mm'} );

を満たす正規直交完全な固有関数となり、この関数を 球面調和関数 と呼ぶ。*1ここでは符号を \Theta に含めたが、符号を \Phi に含めても、両者で分け合っても、正規直交条件を満たすことはできる

Y_0^0=\frac{1}{2 \sqrt{\pi }}

Y_1^0=\frac{1}{2} \sqrt{\frac{3}{\pi }} \cos (\theta )

Y_1^{\pm 1}=\pm\frac{1}{2} \sqrt{\frac{3}{2 \pi }} e^{\pm i \phi } \sin (\theta )

Y_2^0=\frac{1}{4} \sqrt{\frac{5}{\pi }} \left(3 \cos ^2(\theta )-1\right)

Y_2^{\pm 1}=\pm\frac{1}{2} \sqrt{\frac{15}{2 \pi }} e^{\pm i \phi } \sin (\theta ) \cos (\theta )

Y_2^{\pm 2}=\frac{1}{4} \sqrt{\frac{15}{2 \pi }} e^{\pm 2 i \phi } \sin ^2(\theta )

Y_3^0=\frac{1}{4} \sqrt{\frac{7}{\pi }} \left(5 \cos ^3(\theta )-3 \cos (\theta )\right)

Y_3^{\pm 1}=\pm\frac{1}{8} \sqrt{\frac{21}{\pi }} e^{\pm i \phi } \sin (\theta ) \left(5 \cos ^2(\theta )-1\right)

Y_3^{\pm 2}=\frac{1}{4} \sqrt{\frac{105}{2 \pi }} e^{\pm 2 i \phi } \sin ^2(\theta ) \cos (\theta )

Y_3^{\pm 3}=\pm\frac{1}{8} \sqrt{\frac{35}{\pi }} e^{\pm 3 i \phi } \sin ^3(\theta )

・・・

特徴

  • \sin\theta \cos\theta l 次同次関数になっている ( 3\cos^2\theta-1=2\cos^2\theta-\sin^2\theta などとなることに注意せよ)
  • &math( (-1)^{(m-|m|)/2}=\begin{cases}
  1. 1\hspace{0.5cm}&m\,が偶数\\ \mathrm{sgn}(m)\hspace{0.5cm}&m\,が奇数 \end{cases} );

形状

\theta,\phi 方向別に原点から |Y_l^m(\theta,\phi)| の距離の点を結ぶ曲面をプロットした。 色は位相を表しており、黄色が+1、青が-1に対応する。

File not found: "spherical-harmonic-y1.png" at page "量子力学Ⅰ/球面調和関数"[添付] 

  • \Theta は実数関数である
  • \Phi は位相を回転させるだけで大きさを変えない
  • そのため絶対値のプロットは z 軸を中心とする回転体となり、また、 Y_l^m Y_l^{-m} は同じ形になる
  • 位相は \phi が一周する間に m 回だけ回転する
  • 位相は Y_l^m Y_l^{-m} とで xz 平面に対して対称になる
  • \theta 方向は隣り合う突出部で符号が反転することから、位相も反転する
  • Y_0^0 は球形
  • l>0 では Y_l^l はドーナツ型。 l が大きいほど扁平で、半径も大きい。 全角運動量が大きくなるため原点から遠ざかり、 l\sim l_z つまり l_x,l_y 成分がほぼゼロであるために扁平になると解釈できる。
  • \theta 方向には l-m+1 個の突出部が見られる

より分かりやすい表示

(Y_l^m\pm Y_l^{-m})/\sqrt{2} をプロットすると、さらに球面調和関数の意味を理解しやすい。*2http://www.sccj.net/CSSJ/jcs/v... を参考にした

spherical-harmonic-y2.png

  • \Psi_l^m \phi の回転面内に 2m 本の突起を持つ
  • \Psi_l^m \Psi_l^{-m} は半周期だけ \phi の位相がずれている
  • \theta 方向には l-m+1 方向に分岐する
  • 隣り合う突出部では波動関数の符号が反転している(節をまたぐと符号が反転する理由は下図参照)
wave-function-polarity.png

$z$ が特殊なわけではない

上のグラフを見るとあたかも z が特殊な方向であるかのように錯覚するがそんなことはない。

  \Psi_1{}^1=\frac{1}{\sqrt{2}}\big(Y_1^{-1}(\theta,\phi)+Y_1^{1}(\theta,\phi)\big)

  \Psi_1{}^{-1}=\frac{1}{\sqrt{2}}\big(Y_1^{-1}(\theta,\phi)-Y_1^{1}(\theta,\phi)\big)

は、 Y_1^{0}(\theta,\phi) とそっくり同じ形で、それぞれ x,y 方向を向いた関数となる。

これらの関数は高校でも p_x, p_y, p_z 軌道として学んだ。

Y1-0z.jpg  Y1-0x.jpg  Y1-0y.jpg 

ある量子数 l に対して m の異なる 2l+1 個の固有関数が縮退している。 それらの任意の線形結合はすべて同じ固有値 l に属する固有関数となる。 z 軸を特殊な方向として取る球座標を使って変数分離したことにより、 これらの線形結合の中から、同時に \hat l_z の固有関数でもある物が Y_l^m として現れたのである。

\hat l_z の固有関数であるから z が特殊な方向になったというだけのことである。

同じ l に属する固有関数の確率密度をすべて足し合わせてしまえば、 次のように球対称な定数関数が得られる。

  \sum_{m=-1}^l|Y_l^m(\theta,\phi)|^2=\frac{2l+1}{4\pi}

$x,y,z$ との関係

p 状態

 &math(\begin{array}{lll} (Y_1{}^{1}-Y_1{}^{-1}) &\propto x/r\\ i(Y_1{}^{1}+Y_1{}^{-1})&\propto y/r\\ Y_1{}^0 &\propto z/r\\ \end{array} );

であるから、これらの軌道は p_x,p_y,p_z と呼ばれる。

d 状態

 &math( \begin{array}{lll} i(Y_2{}^{2}-Y_2{}^{-2})&\propto xy/r^2\\ i(Y_2{}^{1}+Y_2{}^{-1})&\propto yz/r^2\\ (Y_2{}^{1}-Y_2{}^{-1}) &\propto zx/r^2\\ (Y_2{}^{2}+Y_2{}^{-2}) &\propto (x^2-y^2)/r^2\\ Y_2{}^{0} &\propto 3z^2/r^2-1 \end{array} );

であるから、これらの軌道は d_{xy},d_{yz},d_{zx},d_{x^2-y^2},d_{3z^2-r^2} などと呼ばれる。

逆に、

  \varphi_{px}\propto x/r

あるいは、

  Y_1{}^{1}\propto (x-iy)/r

などと表すこともできる。

演習:$m$ に関する漸化式

  \Phi_m(\phi)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{im\phi}  より、 e^{\pm i\phi}\Phi_m(\phi)=\Phi_{m\pm 1}(\phi)

一方、 Y_l{}^m(\theta,\phi)=\Theta_l{}^m(\theta)\Phi_m(\phi) Y_l{}^{m\pm 1}(\theta,\phi)=\Theta_l{}^{m\pm 1}(\theta)\Phi_{m\pm 1}(\phi) に変換するには、先に導入した演算子

  \hat l_\pm=\hat l_x\pm i\hat l_y

が役に立つ。 具体的には m に対する次の漸化式が成り立つ。

 &math( \begin{cases} \,\hat l_+\,Y_l{}^{m}(\theta,\phi)=\hbar\sqrt{(l-m)(l+m+1)}\,Y_l{}^{m+1}(\theta,\phi)\\ \,\hat l_-\,Y_l{}^{m}(\theta,\phi)=\hbar\sqrt{(l+m)(l-m+1)}\,Y_l{}^{m-1}(\theta,\phi)\\ \end{cases} );

すなわち、 \hat l_\pm は量子数 m を1だけ増やす/減らす演算子になっている。

(1) Y_l{}^m の  m -l\le m\le l の範囲に入らなければならなかった。 m=\pm l のとき、さらに1だけ m を増やそう/減らそうとすると何が起きるか? 上記の漸化式を元に確かめよ。

(2) Y_l{}^m \hat l_x,\hat l_y の固有関数でも、 \hat l_+,\hat l_- の固有関数でもないが、 \hat l_+\hat l_- \hat l_-\hat l_+ の固有関数になっている。 その固有値を求めよ。

(3) \frac{1}{2}\left( \hat l_+\hat l_-+\hat l_-\hat l_+\right)=\hat l_x^2+\hat l_y^2 となることを確かめよ

(4) (2),(3) の結果を用いて \left(\hat l_x^2+\hat l_y^2\right)Y_l{}^m=\hbar^2(l^2-m^2+l)Y_l{}^m を示せ。

●解答はこちら

解説

(4) より、 Y_l{}^m \hbar l^2 および \hat l_z の固有関数であると共に、 \hat l_x^2+\hat l_y^2 の固有関数でもある。(ただし、 \hat l_x^2 \hat l_y^2 の固有関数ではない)

このことは、次のように書き表してみると明らかである。

 &math( \underbrace{\hat l^2}_{\hbar^2l(l+1)}Y_l{}^m= (\underbrace{\hat l_x^2+\hat l_y^2}_{\hbar^2(l^2+l-m^2)}+ \underbrace{\hat l_z^2}_{\hbar^2m^2})Y_l{}^m );

すなわち、上記 (4) の結果は \hat l^2Y_l{}^m=\hbar^2l(l+1)Y_l{}^m \hat l_zY_l{}^m=\hbar mY_l{}^m とから直接導けるものである。

この関係を図形的に理解しよう。

たとえば l=5 に対応する f 状態では \hat l^2=\hbar^2 5(5+1) であるから、 対応する角運動量ベクトル \bm l は半径 |\bm l|=\hbar \sqrt{30} の球面上にある。

この状態に対してある方向の角運動量成分 l_z |\bm l|^2 と同時に確定値を取ることができて、その値は m=-l,\dots,l に対応する 2l+1 個の値を取りうる。

例えば l=5,m=5 の状態に対しては \hat l^2=\hbar^2 l(l+1), \hat l_z=5 \hbar であり、 球面調和関数の一般系から \langle l_x\rangle=\langle l_y\rangle=0 を導ける。 このとき、 {\sigma_{l_x}}^2+{\sigma_{l_y}}^2=\hat l_x^2+\hat l_y^2=\hat l^2-\hat l_z^2=\hbar^2 5\cdot 6-\hbar^2 5^2)=5\hbar^2 であるから、 \hat l_x,\hat l_y についてはその二乗の和が分かるだけであり、それぞれの値は完全に不定である。

すなわち、 l は左図に示した紫の円錐上にあることになる。

spherical-harmonics-angular-momentum.png

他の m についてもそのような円錐を考えることができ、その方向は中図に示したようになる。

これは角運動量ベクトルの成分を確定した方向(ここでは z 軸)と、 実際に角運動量ベクトルが向く方向との間の角度、 すなわち方位が 2l+1 通りに決まると言ってもよい。 そこで l 方位量子数あるいは(軌道)角運動量量子数と呼ばれる。

一方、 m はある方向への磁化を決める量であるため、(軌道)磁気量子数と呼ばれる(荷電粒子である電子の磁気モーメントは角運動量に比例するため)。


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質問・コメント





*1 ここでは符号を \Theta に含めたが、符号を \Phi に含めても、両者で分け合っても、正規直交条件を満たすことはできる
*2 http://www.sccj.net/CSSJ/jcs/v3n1/a5/textj.html を参考にした
*3 球面調和関数に符号が含まれるため、ここでも符号に注意して足し合わせる必要があり、正確には \Psi_l^m=\begin{cases}\Big(Y_l^{|m|}-(-1)^{m}Y_l^{-|m|}\Big)/i\sqrt 2\hspace{5mm}&(m<0)\hspace{5mm}\propto\sin m\phi\\\hspace{1cm}Y_l^0&(m=0)\hspace{5mm}\propto 1\\\Big(Y_l^{|m|}+(-1)^{m}Y_l^{-|m|}\Big)/\sqrt 2&(m>0)\hspace{5mm}\propto\cos m\phi\end{cases}

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