量子力学Ⅰ/群速度と波束の崩壊 のバックアップ(No.16)

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目次

位置と運動量の確定した古典粒子に対応する波動関数

ある位置に局在する、特定の運動量を持つ「波」を作りたい。

  • x=x_0 に存在する運動量 p=p_0 の古典粒子

に対応するのは、

  • x=x_0 付近に局在する波数 k=k_0=p_0/\hbar の波動関数

である(波動関数が幅を持たなければ波数を定義できないことに注意せよ)。

このような局在した波動関数を「波束」と呼ぶ。

以下、 x_0=0 として波束を作り、その運動を考えよう。

波数 k=k_0 の波動関数は、

 &math( \varphi_{k_0}(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{ik_0x} );

ガウス関数を掛けて「波束」にする。

 &math( \varphi(x) &=\frac{1}{\sqrt{\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}}}e^{-x^2/4\sigma_{x0}^2}\,e^{ik_0x}\\ );

ここでは空間分布が x=0 を中心とする標準偏差 \sigma_{x0} 正規化されたガウス関数になるよう係数を設定した。

 &math( |\varphi(x)|^2=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}}e^{-x^2/2\sigma_{x0}^2} );

wave-packet-shape.png wave-packet.png

グラフは e^{ik_0x} e^{-x^2/4\sigma_{x0}^2} と共に \varphi(x) の「実部」をプロットしたもの、および、 位相まで含めた \varphi(x) x 軸に対してプロットしたもの、 である。

\varphi(x) の振幅が粒子の存在確率を、 周期(波数)が粒子の運動量を、それぞれ表す。

さて、この関数の波数は k_0 と言って良いだろうか? (波数の固有関数は純粋な平面波になるはずだが・・・)

この関数を様々な波数成分の重ね合わせとして表してみる。

 &math( \varphi(x)=\int_{-\infty}^\infty \underbrace{\varphi(k)}_{係数}\, \underbrace{\left(\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{ikx}\right)}_{波数kの成分}dk );

これは逆フーリエ変換そのものであるから、 波数 k の成分の係数が \varphi(k) は波動関数をフーリエ変換することで得られる。

 &math( \varphi(k)&=\int_{-\infty}^\infty \frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-ikx}\varphi(x)dx\\ &=\frac{1}{\sqrt{2\pi\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}}}\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2/4\sigma_{x0}^2}e^{-i(k-k_0)x}dx\\ &=\sqrt{\frac{2\sigma_{x0}}{\pi\sqrt{2\pi}}}\underbrace{\int_{-\infty}^\infty e^{-\{x/2\sigma_{x0}+i\sigma_{x0}(k-k_0)\}^2}\frac{dx}{2\sigma_{x0}}}_{\sqrt \pi}e^{-\sigma_{x0}^2(k-k_0)^2}\\ &=\sqrt{\frac{2\sigma_{x0}}{\sqrt{2\pi}}}e^{-4\sigma_{x0}^2(k-k_0)^2/4} );

したがって、上記波動関数の運動量を計測した際に p=\hbar k となる確率は、

 &math( |\varphi(k)|^2&=\frac{2\sigma_{x0}}{\sqrt{2\pi}}e^{-4\sigma_{x0}^2(k-k_0)^2/2} );

p の確率分布は \hbar k_0 を中心に、 \hbar \sigma_{k0}=\hbar/2\sigma_{x0} のガウシアンとなる。

「波束」にしたことにより、 k=k_0 の成分だけでなく、 おおよそ k=k_0\pm\sigma_{k0} の成分を含んでしまったことになる。 空間的に狭い範囲に局在した波束ほど、幅広い範囲の波数の重ね合わせになることにも注意せよ。

この関数に対して、

 &math( \sigma_{x}\cdot\sigma_{p}=\sigma_{x}\cdot\hbar\sigma_{k}=\hbar/2 );

となり、次に学ぶ不確定性原理で与えられる最小値をとる。 このような波束は「最小波束」と呼ばれる。

ここでは波束 \varphi(x) の空間分布をガウス関数としたために最小波束が得られたが、 一般の波束に対しては、 \sigma_{x}\cdot\sigma_{p} は必ず \hbar/2 より大きくなる。

自由な波束の運動

自由な粒子では、

  \varepsilon=\frac{p^2}{2m}  に対応して  \hbar\omega_k=\frac{\hbar^2 k^2}{2m}

がその分散関係*1 \omega k の関係を与えるのであった。

したがって、波数 k の成分 \varphi_k(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{ikx} の位相は e^{-i\omega_kt}=e^{-i\hbar^2 k^2t/2m} で回転する。

すなわち、上記最小波束の時間発展は、

 &math( \psi(x,t)&=\int_{-\infty}^{\infty}\varphi(k)\underbrace{\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{ikx}e^{-i\omega_kt}}_{\psi_k(x,t)\,=\,\varphi_k(x)e^{-i\omega_kt}}dk\\ &=\dots\\ &=\sqrt{\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}(1+i\xi t)}}\exp\left[\frac{-x^2/4\sigma_{x0}^2+i(k_0x-\omega_{k0} t)}{1+i\xi t}\right]\\ );

となる(→ 計算の詳細)。 ただし、 \xi=\frac{\hbar}{2m\sigma_{x0}^2} \omega_0=\frac{\hbar k_0^2}{2m}

このとき、

 &math( |\psi(x,t)|^2 &=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma_{x0}\sqrt{1+\xi^2 t^2}} \exp\left[\frac{-\{x-(\hbar k_0/m) t\}^2}{2\sigma_{x0}^2(1+\xi^2t^2)}\right]\\ );

であり、これは

  x=x_0-(\hbar k_0/m) t

を中心とする、標準偏差

  \sigma_x=\sigma_{x0}\sqrt{1+\xi^2 t^2}=\sigma_{x0}\sqrt{1+\left(\frac{\hbar}{2m\sigma_{x0}^2}\right)t^2}

のガウス関数になっている。

すなわちこの関数は古典論で期待されるのと等しい速度 v_G=\hbar k_0/m=p_0/m で進みながら、 徐々に幅が広がり、高さがつぶれていく。

幅の広がる速さは \sigma_{x0} が小さいほど速いことも注目に値する。

分散と波束の崩壊

上記の結果より、

  • 波束の中心は古典的に期待される一定速度で移動する
  • 波束の幅は徐々に広がる

なぜ時間と共に波束が広がるのかを理解するために、 \sigma_{x0}=0.7 , \hbar/2m=1 , k_0=5 とした場合の \psi(x,t) の「実部」を 0\le t\le 2 の範囲でプロットした。

 wave-packet.gif 

注目すべきは広がった後の波束において、 後縁部に比べて前縁部の波数が大きい(波長が短い)ことである。

なぜか?

平面波一般に対して

  \omega_k=kv_k

であることと( e^{ik(x-vt)}=e^{i(kx-\omega t)} を思い出せ)、 自由な電子の分散関係*2 \omega_k k との関係を分散関係と呼ぶが、

  \hbar \omega_k=\frac{\hbar^2k^2}{2m}

であることにより、

  v_k=\frac{\hbar k}{2m}

を得る。

すなわち、自由空間の平面波は「波数の大きな物ほど早く進む」。 これが波束の形状が変化する理由である。

上で見たように波束は「異なる波数を持つ平面波の重ね合わせ」で構成される。 t=0 の最小波束では、 すべての波数成分の位相が位置 x=0 で揃っていた。 その後、波数の小さなものほど遅く、波数の大きなものほど早く移動した結果、 前縁部がより大きな波数を持つ、幅の広がった波束に変化したのである。

\sigma_{k0}=1/2\sigma_{x0} から分かるとおり、 \sigma_{x0} が小さい波束ほど、広い範囲の波数成分を含んでいる。 このため空間的に鋭いパルスほど、速やかに幅が広がる。

このように、異なる波数成分が異なる速度を持つ状況を「分散がある」という。 逆に異なる波数成分がすべて同じ速度を持つ場合を「分散がない」という。

分散がない場合の分散関係は

  \omega\propto k

具体的には上記の通り、

  \omega=vk   (ただし v は定数)

である。

位相速度と群速度

上の波束の平均的な波数は k=k_0 で、その波数成分の伝播速度は

  v_{k_0}=\frac{\hbar k_0}{2m}

である。このことと対応して、波束の中心部において \mathrm{Re}(\psi) がゼロになる点(より一般には「等しい位相を持つ点」)が移動する速度は、

  v_{\phi}=\frac{\hbar k_0}{2m}  (「位相速度 (phase velocity)」と呼ぶ)

となる。一方、「波束の中心」が移動する速度は

  v_G=\frac{\hbar k_0}{m}  (「群速度 (group velocity)」 と呼ぶ)*3波束は異なる波長を持つ波の一群と見なせることを上で見た。その波の一群が全体として持つ速度が群速度である。

であるから、自由な粒子に対しては群速度が位相速度の2倍となる。

この違いは群速度が

  v_G(k_0)=\left .\frac{\PD \omega_k}{\PD k}\right|_{k_0}=\frac{\hbar^2k_0}{m}=2v_{k_0}

で与えられるためである(→ 詳しい導出 結果が上記の計算と一致することを確認せよ)。

したがって、一般に分散がある場合、つまり \omega\not\propto k の場合には、

  v_{k_0}=\frac{\omega_{k_0}}{v_{k_0}}\ne\left .\frac{\PD\omega_k}{\PD k}\right|_{k_0}=v_G

となる。

分散がない場合には位相速度と群速度とは一致するから、 波束の概形が崩れないだけでなく、波束中の搬送波の位相も時間に対して変化しない。

 wave-packet2.gif 

同様に、真空中や大気中を進む光の分散が多くの場合ゼロと見なせるのに対して、 物質中では分散がゼロでないため、フェムト秒(10-15 秒)程度の超短光パルスを発すれば、 パルス幅は物質中で徐々に広がることが知られている。


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質問・コメント





*1 \omega k の関係
*2 \omega_k k との関係を分散関係と呼ぶ
*3 波束は異なる波長を持つ波の一群と見なせることを上で見た。その波の一群が全体として持つ速度が群速度である。

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