量子力学Ⅰ/調和振動子 のバックアップ差分(No.2)

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[[量子力学I]]

* 1次元の調和振動子 [#l80144e9]
#contents

調和振動子のポテンシャルは &math(V(x)=\frac{1}{2}kx^2); であるから、時間に依存しないシュレーディンガー方程式は
* 概要 [#sc09b458]

 &math(
\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}+\frac{k}{2}x^2\right)\psi(x)=E\psi(x)
);
#ref(spring+mass.png,right,around,25%);

このような方程式を解く場合には、変数を無次元化するのが常套手段である。
''調和振動子''とは、理想ばねのように変位に比例する力 &math(f=-kx); 
により束縛された粒子の系である。ポテンシャルエネルギーは &math(V(x)=kx^2/2); となる。
ただしここではばねの自然長位置を &math(x=0); としている。

粒子の質量を &math(m); とすれば、古典論では角振動数 &math(\omega=\sqrt{k/m}); の単振動

 &math(x=x_0\cos(\omega t+\delta)); 

が解であり、エネルギーは &math(E=kx_0^2/2); と表せる。

#ref(palabora.png,right,around,33%);

量子力学的なスケールでそのようなばねを思い浮かべることは難しいが、
一般に任意の滑らかで束縛的なポテンシャルの底を2次関数で近似すれば、
そこでの微小振動は調和振動子と見なせる。

さらに電磁波も、無数の調和振動子の集まりとして表わせることを後に学ぶ。
* 演習:1次元の調和振動子 [#l80144e9]

#ref(xi.png,right,around,33%);

(1) 調和振動子のポテンシャルは &math(V(x)=\frac{1}{2}kx^2); である。
時間に依存しないシュレーディンガー方程式を書け。

(2) このような方程式を解く場合には、変数を無次元化するのが常套手段である。
すなわち、長さの次元を持つ自由変数 &math(x); を変数変換して、無次元の量 &math(\xi); で記述する。
ここでは、
((&math(\xi); の書き方は http://kscalar.kj.yamagata-u.ac.jp/~endo/greek/zeta_xi.html を参考にした))

ここでは、古典論から得られる角振動数を &math(\omega=\sqrt{\frac{k}{m}}); として、

 &math(\xi=\sqrt{\frac{m\omega}{\hbar}}x);, &math(\lambda=\frac{2E}{\hbar\omega});

と置くと良い。ただし、&math(\omega=\sqrt{\frac{k}{m}}); は古典論から得られる角振動数である。
すると与式は、
と置くと良い。このとき(1)の式が

 &math(
\left(-\frac{d^2}{d\xi^2}+\xi^2-\lambda\right)\psi(\xi)=0
);

となる。&math(\xi); の大きなところでは &math(\lambda\ll \xi^2); となるから、
となることを示せ。

(3) &math(\xi); の大きなところでは &math(\xi^2\gg\lambda); となるから、
そこでは &math(\psi); は近似的に次の方程式を満たす。

 &math(
\frac{d^2}{d\xi^2}\psi(\xi)=\xi^2\psi(\xi)
);

ここから予想されるのは、
ここから予想される

 &math(
\psi(\xi)=H(\xi)e^{\pm\xi^2/2}
\psi(\xi)=X(\xi)e^{\pm\xi^2/2}
);

という解の形である。系が &math(x=0); 付近に束縛されていることから、
複号は負を取る。
を上式に代入し、&math(X(\xi)); に対する条件

 &math(
&-\frac{d^2}{d\xi^2}\big[H(\xi)e^{-\xi^2/2}\big]+\xi^2H(\xi)e^{-\xi^2/2}-\lambda H(\xi)e^{-\xi^2/2}\\
&=-\frac{d}{d\xi}\big[H'(\xi)e^{-\xi^2/2}-\xi H(\xi)e^{-\xi^2/2}\big]+\xi^2H(\xi)e^{-\xi^2/2}-\lambda H(\xi)e^{-\xi^2/2}\\
&=-H''(\xi)e^{-\xi^2/2}+2\xi H'(\xi)e^{-\xi^2/2}+H(\xi)e^{-\xi^2/2}-\lambda H(\xi)e^{-\xi^2/2}\\
&=0\\
X''(\xi)=2\xi X'(\xi)+(1-\lambda) X(\xi)
);

両辺を &math(e^{-\xi^2/2}\ne 0); で割れば、
を導出せよ。(系が &math(x=0); 付近に束縛されていることから、複号は負を取れ)

(4) &math(X(\xi)=\sum_{l=0}^\infty c_l\xi^l); と置いて (3) の式に代入し、
係数 &math(c_l); の漸化式

 &math(c_{l+2}=\frac{2l+1-\lambda}{(l+2)(l+1)}c_l);~

を導け。

#hr

さて、(4) により、&math(c_0); を決めると &math(c_2,c_4,c_6,\dots); が、
&math(c_1); を決めると &math(c_3,c_5,c_7,\dots); が、
それぞれすべて決まる。

&math(c_l); が途中でゼロにならない場合、漸化式より &math(l\to \infty); において

 &math(\frac{c_{l+2}}{c_l}=\frac{2l+1-\lambda}{(l+2)(l+1)}\to \frac{\,2\,}{l});~

が成り立ち、これは 

 &math(2\xi^2 e^{\xi^2}=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{2^n}{(2n-2)!!}\xi^{2n});
 あるいは、
 &math(2\xi e^{\xi^2}=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{2^n}{(2n-2)!!}\xi^{2n-1});

の係数の比と同じである。このようになっていては 
&math(X(\xi)e^{-\xi^2/2}); が &math(\xi\to\pm\infty); 
でゼロに収束する(束縛されている)という境界条件を満たさない。

かといって &math(c_0=c_1=0); では &math(\psi(x)=0); になってしまうから、
&math(c_0\ne 0); あるいは &math(c_1\ne 0); である。

境界条件を満たすのは、ある &math(n\ge 0); において &math(c_n\ne 0); であるものの
&math(2n+1-\lambda=0); が成立することにより、
それ以降の &math(l>n); ですべて &math(c_l=0); となる場合である。
このとき、&math(c_0); あるいは &math(c_1); の片方はゼロでなくて構わないが、
もう一方はゼロでなければならない。

#hr

(5) &math(n\ge 0); を量子数として &math(\lambda_n,E_n); を &math(n,\hbar,\omega); で表わせ。

(6) &math(X_4(\xi)); を求めよ。規格化はしなくて良い。

** エネルギー固有値 [#f5bfa29e]

&math(E_0=\hbar\omega/2); がゼロ点エネルギーとなる。
すなわち、調和振動子は基底状態においても運動エネルギー、ポテンシャルエネルギーがゼロではない。

また、&math(E_{n+1}-E_n=\hbar\omega); より、エネルギー固有値は等間隔に並ぶ。

ここでは示さないが、古典論と同様にポテンシャルエネルギーの期待値は &math(E_n/2); であり、~
運動エネルギーの期待値も &math(E_n/2); であり、両者は等しくなる。

** 固有関数 [#va2f6370]

- &math(n=0); のとき &math(X_0(\xi)=c_0);
- &math(n=1); のとき &math(X_1(\xi)=c_1\xi);
- &math(n=2); のとき &math(X_2(\xi)=c_0\left(1-2\xi^2\right));
- &math(n=3); のとき &math(X_3(\xi)=c_1\left(\xi-\frac{2}{3}\xi^3\right));
- &math(n=4); のとき &math(X_4(\xi)=c_0\left(1-4\xi^2+\frac{4}{3}\xi^4\right));
- ・・・

明らかに &math(X_{2n}(\xi)e^{-\xi^2/2}); は偶関数であり、
&math(X_{2n+1}(\xi)e^{-\xi^2/2}); は奇関数である。

ここでもポテンシャルの対称性を反映してパリティの異なる固有関数が交互に現れる。

** エルミート多項式 [#n6e731ab]

&math(X_n(\xi)); は''エルミート多項式''と呼ばれる一連の多項式 &math(H_n(\xi)); の定数倍になっている。

ただし &math(H_n(\xi)); は、''母関数'' &math(S(\xi,t)); 
をテイラー展開した際に現れる係数として定義される。

 &math(
H''(\xi)=2\xi H'(\xi)+(1-\lambda) H(\xi)
S(\xi,t)=e^{-t^2+2\xi t}=\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{n!}H_n(\xi)t^n
);

を得る。&math(H(\xi)=\sum_{l=0}^\infty c_l\xi^l); と置いて代入すれば、
上の &math(X_n(\xi)); に対する方程式の &math(\lambda); を &math(n); で書き換えれば、
&math(H_n(\xi)); は次の方程式を満たさなければならない。

 &math(\Big(\frac{d^2}{d\xi^2}-2\xi\frac{d}{d\xi}+\underbrace{2n}_{\lambda-1}\Big)H_n(\xi)=0);

&math(H_n(\xi)); がこれを満たすことは、
母関数を &math(\xi); や &math(t); で微分した形を調べることで証明できる。
→ [[詳しくはこちら>量子力学I/調和振動子/メモ#p2faeebd]]

また関数系 &math(H_n(\xi)e^{-\xi^2/2}); の漸化式、

 &math(
\sum_{l=0}^\infty l(l-1)c_l\xi^{l-2}=2\xi \sum_{l=0}^\infty l c_l\xi^{l-1}+(1-\lambda) \sum_{l=0}^\infty c_l\xi^l
H_{n+1}(\xi)e^{-\xi^2/2}=\left(\xi-\frac{d}{d\xi}\right)\left(H_n(\xi)e^{-\xi^2/2}\right)
);

より &math(l\ge 0); において、
 &math(
2nH_{n-1}(\xi)e^{-\xi^2/2}=\left(\xi+\frac{d}{d\xi}\right)\left(H_n(\xi)e^{-\xi^2/2}\right)
);

 &math((l+2)(l+1)c_{l+2}=(2l+1-\lambda)c_l);~
直交性、

 &math(c_{l+2}=\frac{2l+1-\lambda}{(l+2)(l+1)}c_l);~
 &math(\int_{-\infty}^\infty H_n(\xi)e^{-\xi^2/2}H_m(\xi)e^{-\xi^2/2}d\xi=
\left\{\begin{array}{ll}
0&n\ne m\\
2^nn!\sqrt\pi & n=m
\end{array}\right.
);

を得る。この式によれば、&math(c_0); を適当に決めると &math(c_{2n}); が、
&math(c_1); を適当に決めると &math(c_{2n+1}); が、
それぞれすべて決まることになる。
なども母関数を使って証明できる。
→ [[詳しくはこちら>量子力学I/調和振動子/メモ#ae4fed6d]]

&math(c_0=0); あるいは &math(c_1=0); あるいは &math(2l+1-\lambda=0); が成立すれば、
それより大きな &math(l); に対して &math(c_l); がゼロになるが、
そうでない限り &math(c_l); がゼロになることはない。
&math(H_0(\xi)=1); および漸化式を用いれば、

&math(c_l); がゼロにならない場合、&math(l\to \infty); において
- &math(H_0(\xi)=1);
- &math(H_1(\xi)=2\xi);
- &math(H_2(\xi)=-2+4\xi^2);
- &math(H_3(\xi)=-12\xi+8\xi^3);
- &math(H_4(\xi)=12-48xi^2+16\xi^4);
- &math(H_5(\xi)=120\xi-160\xi^3+32\xi^5);
- &math(H_6(\xi)=-120+720\xi^2-480\xi^4+64\xi^6);
- ・・・

 &math(\frac{c_{l+2}}{c_l}=\frac{2l+1-\lambda}{(l+2)(l+1)}\to \frac{2}{l});~
が得られる。

が成り立つ。これは 
** 固有関数の性質 [#s9159dd6]

 &math(f(\xi)=e^{2\xi^2}=frac{1}{0!}+\frac{2}{1!}\xi^2+\frac{2^2}{2!}\xi^4+\frac{2^3}{3!}\xi^6+\dots);
上記エルミート多項式の直交性を表わす式から &math(\psi_n(x)); を正規化できて、

とした時の係数の比と同じであり、このようになっていては 
&math(H(\xi)e^{-\xi^2/2}); が &math(\xi\to\pm\infty); 
でゼロに収束するという境界条件を満たさない。
 &math(\psi_n(x)=\sqrt{\frac{\sqrt\pi}{2^nn!}\sqrt{\frac{\hbar}{m\omega}}}H_n\Big(\sqrt{\frac{m\omega}{\hbar}}x\Big)\exp\Big(-\frac{m\omega}{2\hbar}x^2\Big));

すなわち、&math(c_0); あるいは &math(c_1); のどちらかがゼロであり、
もう一方と同じ偶奇性(パリティ)を持つある &math(l=n); において
&math(\lambda=2l+1); が成立することが境界条件から要求され、
その結果 &math(c_l\ne 0); となる項は有限個となる。
このとき正規直交性は、

- &math(n=0); のとき &math(\lambda=1);, &math(H_0(\xi)=1);
- &math(n=1); のとき &math(\lambda=3);, &math(H_1(\xi)=2\xi);
- &math(n=2); のとき &math(\lambda=5);, &math(H_2(\xi)=4(1-2\xi^2));
- &math(n=3); のとき &math(\lambda=7);, &math(H_3(\xi)=c_1(\xi-\frac{2}{3}\xi^3));
- &math(n=4); のとき &math(\lambda=8);, &math(H_4(\xi)=c_0(1-4\xi^2+\frac{4}{3}\xi^4));
- ・・・
 &math(\int_{-\infty}^\infty\psi_n(x)\psi_m(x)dx=\delta_{nm});

ここで現れた多項式 &math(H_n(\xi)); はエルミートの多項式と呼ばれる。
漸化式は、

 &math(
\sqrt{\frac{m\omega}{2\hbar}}\left(x-\frac{\hbar}{m\omega}\frac{d}{dx}\right)\psi_n(x)=\sqrt{n+1}\,\psi_{n+1}(x)
);

 &math(
\sqrt{\frac{m\omega}{2\hbar}}\left(x+\frac{\hbar}{m\omega}\frac{d}{dx}\right)\psi_n(x)=\sqrt{n}\,\psi_{n-1}(x)
);

となる。

この漸化式は &math(\hat p=\frac{\hbar}{i}\frac{d}{dx}); を用いて、

 &math(\hat a=\sqrt{\frac{m\omega}{2\hbar}}\left(x+\frac{i}{m\omega}\hat p\right));

 &math(\hat a^\dagger=\sqrt{\frac{m\omega}{2\hbar}}\left(x-\frac{i}{m\omega}\hat p\right));

を定義すれば、((教科書では2つ目の式が &math(\hat a^*); として書かれているが、&math(\hat p^*\ne \hat p); なので正しくない。&math(\hat p^\dagger= \hat p);、&math(i^\dagger=-i); なので &math(\hat a^\dagger); と書くのが正しい。))

 &math(\hat a^\dagger\psi_n(x)=\sqrt{n+1}\,\psi_{n+1}(x));

 &math(\hat a\psi_n(x)=\sqrt{n}\,\psi_{n+1}(x));

と書ける。ここから、

 &math(\hat a^\dagger\hat a\psi_n(x)=n\psi_n(x));

 &math(\hat a\hat a^\dagger\psi_n(x)=(n+1)\psi_n(x));

 &math((\hat a\hat a^\dagger-\hat a^\dagger\hat a)\psi_n(x)=\psi_n(x));

 &math(\hbar\omega(\hat a^\dagger\hat a+1/2)\psi_n(x)=\frac{\hbar\omega}{2}(\hat a\hat a^\dagger+\hat a^\dagger\hat a)\psi_n(x)=\hbar\omega(n+1/2)\psi_n(x)=E_n\psi_n(x));

が得られる。これらを

 &math(\hat a^\dagger\hat a=\hat n);

 &math(\hat a\hat a^\dagger-\hat a^\dagger\hat a=\hat 1);

 &math(\hbar\omega(\hat a^\dagger\hat a+1/2)\psi_n(x)=\frac{\hbar\omega}{2}(\hat a\hat a^\dagger+\hat a^\dagger\hat a)=\hat H);

のように書くこともできる。

* 3次元の調和振動子 [#y596d643]


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