静止物体中の Maxwell の方程式 のバックアップの現在との差分(No.23)

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[[電磁気学]]

* 目次 [#j4afa598]

#contents
&katex();
* 静止物体 [#od849161]

物体は非常に多数の荷電粒子(電子および原子核)から構成されるが、
電子と原子核は空間的に重なって存在するため、
通常ほぼすべてが互いに打ち消し合って、遠くから見た際に電荷の存在を無視できる。

そこで、
- 打ち消される電荷を無視し、
- 残った電荷や電流のみを考えたい

例)1kgの鉄球から、1兆個 = &math(10^{12}); 
個に1個の電子を取り出して、もう1つの鉄球に移す。
それら2つの鉄球を1m 離して置くと 1 kg 以上の力で互いに引き合う。~

普段、正の電荷と負の電荷がどれほど精密に打ち消し合っているかが分かる。

* 打ち消されずに残るもの [#a81882b3]

それぞれの定義は後述するとして、
|LEFT:|CENTER:160|CENTER:160|CENTER:160|c
||~原子|~イオン|~自由電子|
|~構成|核+電子|核+(内殻)電子|伝導電子|
|~特徴|動けない&br;中性|動けない&br;電荷|動ける&br;電荷|
|~電荷 &math(\rho);|BGCOLOR(#eee):|>|真電荷 &math(\rho_e);|
|~|>|COLOR(#aaa):分極電荷 &math(\rho_d);|BGCOLOR(#eee):|
|~電流 &math(\bm i);|>|COLOR(#aaa):分極電流 &math(\bm i_d);|伝導電流 &math(\bm i_e);|
|~|>|>|COLOR(#aaa):磁化電流 &math(\bm i_m);|

このように分類すると、
- 全電荷 &math(\rho=\rho_e+\rho_d+);(打ち消されてゼロになるため無視する電荷)
- 全電流 &math(\bm i=\bm i_e+\bm i_d+\bm i_m+);(打ち消されてゼロになるため無視する電流)

と書ける。

本章では、真電荷、伝導電流を主に考える(イオンと自由電子に由来)

打ち消されてゼロになる成分(中性分子、イオンの内殻電子など)は完全に無視する

COLOR(#aaa){薄文字} はほぼ打ち消し合った電荷の消え残った影響~
→ &math(\varepsilon,\mu); を介して間接的に取り扱う。

通常、静止物体中の電磁気学ではこの &math(\rho_e,\bm i_e); を単に &math(\rho,\bm i); と書く。
真空中の電磁気学で出てくる &math(\rho,\bm i); と定義が異なることに注意せよ。

* 分極 [#k9acc51e]

通常、原子の 負電荷(電子雲) &math(-e); の中心は、
正電荷(原子核) &math(+e); の中心と一致している。

ここに外場 &math(\bm E); がかかり、両者の中心が &math(\bm s); だけずれたとしよう。

負電荷の中心を &math(\bm x');、正電荷の中心を &math(\bm x'+\bm s); とする。
すなわち &math(\bm s); は負電荷から正電荷へのベクトル。

~


     &attachref(分極.png,,33%);


~


このとき遠く離れた &math(\bm x); における電位は、

 &math(\phi(\bm x)=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\left(\frac{+e}{|\bm x-(\bm x'+\bm s)|}+\frac{-e}{|\bm x-\bm x'|}\right));

 &math(= \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}e\bm s\cdot\GRAD\!_{\bm x'}\frac{1}{|\bm x-\bm x'|});

電気双極子能率 &math(\bm p\equiv e\bm s); を導入すると、電位分布は $\bm p$ だけで決まり、

 &math(=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\bm p\cdot\GRAD\!_{\bm x'}\frac{1}{|\bm x-\bm x'|});

 &math(=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\bm p\cdot\frac{1}{|\bm x-\bm x'|^2}\frac{\bm x-\bm x'}{|\bm x-\bm x'|});

を得る。このように正電荷と負電荷が近接する極限は「電気双極子」と呼ばれる。

&math(\bm p); は定数で、&math(\frac{1}{|\bm x-\bm x'|^2}\frac{\bm x-\bm x'}{|\bm x-\bm x'|}); 
の部分は $\bm p$ によらない &math(\bm x); の関数。

&math(\bm x'=\bm o); と置けば &math(\frac{1}{r^2}\frac{\bm r}{r}); の形になるから、
この部分は下図のように &math(\bm x'); を中心にして外へ向くベクトル場で、
その大きさは距離の二乗に反比例する。

&attachref(grad 1 over r - 2d.png,,25%); 
&attachref(grad 1 over r - 3d.png,,25%);


実際の電位分布はこれと &math(\bm p); との内積をとった物となる。
例えば &math(\bm s); が &math(+x); 方向であれば上記ベクトル場の 
&math(x); 座標がそのまま電位となるから、左下のようなグラフになる。
右下は電位分布を微分して得られる「電場」。

&attachref(dielectric polarization-1.jpg,,25%,opg); 
&attachref(dielectric polarization-2.png,,25%);

点電荷による電位が距離に反比例して減衰するのに対して、
分極した原子(電気双極子)による電位は距離の二乗に反比例する。

電場の形は [[棒磁石の周りにできる磁力線:http://www.google.co.jp/search?q=%E6%A3%92%E7%A3%81%E7%9F%B3+%E7%A3%81%E5%8A%9B%E7%B7%9A&tbm=isch]] をイメージするとよい。
事実、「非常に小さな棒磁石」は''磁気''双極子そのものとなる。

具体的な形については4章で詳しく見ることになるためここでは割愛する。

Mathematica ソース: &attachref(Mathematica.pdf);

* 分極の連続分布 [#df6b1bbf]

電気双極子能率を持つ分子や原子が空間的に敷き詰められているとき、
微小体積 &math(d^3x); の分極率 &math(d\bm p); は体積に比例するため、
分極密度 &math(\bm P(\bm x)); を用いて

 &math(d\bm p=\bm P(\bm x)d^3x);

と書ける。この分極分布により生じる電位は、

 &math(\phi_d(\bm x)=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int_V \bm P(\bm x')\cdot\GRAD\!_{\bm x'}\frac{1}{|\bm x-\bm x'|}\,d^3x');

次の微分公式を用いて変形すると、

 &math(\DIV\!_{\bm x'}\frac{\bm p(\bm x')}{|\bm x-\bm x'|}=\frac{\DIV\!_{\bm x'}\bm P(\bm x')}{|\bm x-\bm x'|}+\bm P(\bm x')\cdot\GRAD\!_{\bm x'}\frac{1}{|\bm x-\bm x'|});

 &math(\phi_d(\bm x)=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int_V \DIV\!_{\bm x'}\frac{\bm P(\bm x')}{|\bm x-\bm x'|}\,d^3x'-\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int_V \frac{\DIV\!_{\bm x'}\bm P(\bm x')}{|\bm x-\bm x'|}\,d^3x');

 &math(=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int_S \frac{\bm P(\bm x')}{|\bm x-\bm x'|}\cdot\bm n\,dS-\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int_V \frac{\DIV\!_{\bm x'}\bm P(\bm x')}{|\bm x-\bm x'|}\,d^3x');

物質が系の外にはみ出していない限り、系の界面 &math(S); において、&math(\bm P(\bm x')=\bm o); となるから第1項は消えて、

 &math(=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int_V \frac{-\DIV\!_{\bm x'}\bm P(\bm x')}{|\bm x-\bm x'|}\,d^3x');

この式を、真電荷 &math(\rho_e); に対する電位分布の式

 &math(\phi_e(\bm x)=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int_V \frac{\rho_e(\bm x')}{|\bm x-\bm x'|}\,d^3x');

と比較すると、分極により

 &math(\rho_d(\bm x)=-\DIV\bm P(\bm x));

の電荷密度が生じたことが分かる。

電気双極子能率 &math(\bm p); は負電荷から正電荷に向けてのベクトルであるから、
&math(\bm P(\bm x)); に正の沸き出しがあれば、中心部には負電荷が残されるのである。

分極では個々の電荷は原子サイズ以下しか動かないが、
分極に空間的な偏りがある場合大域的な電荷分布を生じることが分かる。

* 分極電流 [#z42cfa9f]

分極が時間と共に変化するとき、分極電荷も &math(\rho_d(\bm x,t)); 
のように時間と共に変化し、それに伴い分極電流 &math(\bm i_d(\bm x,t)); が流れる。

真電荷としてカウントされる伝導電子やホールが、原子からイオンを残して自由に動けるようになった電荷であるのに対して、分極電荷を生じる電荷は原子核と電子が強固に結びついている。

分極電荷を生じる荷電粒子がイオン化して真電荷となったり、その逆の過程が起きない限り、
真電荷の総量と、分極電荷の総量とは独立に保存する。すなわち、

- &math(\DIV\bm i_e+\frac{\PD\rho_e}{\PD t}=0);
- &math(\DIV\bm i_d+\frac{\PD\rho_d}{\PD t}=0);

第2式は、

 &math(\DIV\bm i_d-\frac{\PD\DIV\bm P(\bm x)}{\PD t}=0);

 &math(\DIV\left(\bm i_d-\frac{\PD\bm P(\bm x)}{\PD t}\right)=0);

と書けるから、分極電流は

 &math(\bm i_d=\frac{\PD\bm P}{\PD t});

であると考えるのが自然である。

分極 &math(\bm P); を大きくするには電荷を &math(\bm P); 方向に移動させる必要があるから、
その方向に電流が流れるという結果が得られたのは自然なことである。

この電流は、強固に結びついた原子核と電子とが、その場所を大きく動かずに運ぶ電流であることを理解せよ。

* 磁化電流 [#yf1865f1]

上記の他に、

 &math(\DIV\bm i_m=0);

を満たす電流が流れたとしても、そのような電流は電荷保存則に影響しない。
湧き出し、吸い込みのない電流は常にループ状に流れ、電荷分布を変化させないためだ。

そのような電流は、&math(\DIV \bm B=0); である磁束密度をベクトルポテンシャルを用いて
&math(\bm B=\ROT\bm A); と書けたのと同様に、磁化ベクトルと呼ばれるベクトル場 
&math(\bm M(\bm x)); を用いて、

 &math(\bm i_m=\ROT\bm M);

と書ける。

繰り返しになるが、自由に動ける電子が運ぶ伝導電流 &math(\bm i_e); は別に考えているため、
ここで考える磁化電流 &math(\bm i_m); とは、空間的に移動しない電荷が運ぶ電流である。

「移動しない電荷」が作るこの電流は、
電荷が局所領域で回転運動(公転=軌道角運動、自転=スピン角運動)することにより生じる。そ
のような電流は微少な磁気双極子を形成する。

そのような電荷の回転が空間のある領域に一定密度で分布するとき、
内部を流れる電流の影響は互いに打ち消し合うが、
領域の縁を流れる電流は打ち消されず残る。
結果的に、個々の電荷は大きく移動しないにもかかわらず、
あたかも領域の縁を一周する電流が流れているかのような磁場を発生させる。

磁化ベクトル &math(\bm M); を用いると、
局所体積あたりの磁気双極子能を &math(\bm M d^3x); と書き表せる。

我々が生活の中で目にする磁石などでは主に電子の自転(スピン)が
「局所的にループを描く電流」の源になっており、それらが同じ向きに揃うとき、
大局的に大きな磁化電流が流れ、大きな磁場が発生する。

* 物質中の Maxwell 方程式 [#gbca3ea3]

真空中の Maxwell 方程式の電荷および電流を
- 全電荷 &math(\rho=\rho_e+\rho_d+);(打ち消されてゼロになるため無視する電荷)
- 全電流 &math(\bm i=\bm i_e+\bm i_d+\bm i_m+);(打ち消されてゼロになるため無視する電流)

と書き直し括弧内を無視することにより、

 &math(\ROT\bm E(\bm x,t)+\frac{\PD\bm B(\bm x,t)}{\PD t}=\bm o);

 &math(\DIV\bm B(\bm x,t)=0);

 &math(\frac{1}{\mu_0}\ROT\bm B(\bm x,t)-\varepsilon_0\frac{\PD\bm E(\bm x,t)}{\PD t}=\bm i_e+\bm i_d+\bm i_m);

 &math(\varepsilon_0\DIV\bm E(\bm x,t)=\rho_e+\rho_d);

を得る。さらに、&math(\rho_d,\bm i_d,\bm i_m); に具体的な表式を代入すれば第3、4式は、

 &math(\ROT\left\{\frac{1}{\mu_0}\bm B(\bm x,t)-\bm M(\bm x,t)\right\}-\frac{\PD}{\PD t}\left\{\varepsilon_0\bm E(\bm x,t)+\bm P(\bm x,t)\right\}=\bm i_e);

 &math(\DIV\{\varepsilon_0\bm E(\bm x,t)+\bm P(\bm x,t)\}=\rho_e);

と変形できる。

そこで、

電束密度:&math(\bm D(\bm x,t)=\varepsilon_0\bm E(\bm x,t)+\bm P(\bm x,t));

磁場の強さ:&math(\bm H(\bm x,t)=\frac{1}{\mu_0}\bm B(\bm x,t)-\bm M(\bm x,t));

と書けば、物質中での Maxwell 方程式として次式を得る。

 &math(\ROT\bm E(\bm x,t)+\frac{\PD\bm B(\bm x,t)}{\PD t}=\bm o);

 &math(\DIV\bm B(\bm x,t)=0);

 &math(\ROT\bm H(\bm x,t)-\frac{\PD\bm D(\bm x,t)}{\PD t}=\bm i_e);

 &math(\DIV\bm D(\bm x,t)=\rho_e);

通常、&math(\bm i_e, \rho_e); は単に &math(\bm i,\rho); と書かれる。
この形は、真空の Maxwell 方程式と非常に似ているものの、実際には大きく異なる。

- &math(\bm i, \rho); の定義が真空の時とは異なる。
- &math(\bm E, \bm B); の定義は真空の時と同じ。
- &math(\bm D); は &math(\bm E); から分極による影響を取り除いたもの
-- &math(\bm D); は見た目の電荷量(真電荷 &math(\rho_e);)のみから予想される電場に相当する
-- すなわち電束密度は真電荷のないところでは途切れず、また、任意の閉曲面からの電束密度の湧き出しは誘電率の分布によらず内部の「真電荷」の総量のみによって決まる
-- ただし誘電率が場所によって異なる場合には空間の等方性や均質性が失われるため、電束密度の分布は真空中のそれとは一致しない
- &math(\bm H); は &math(\bm B); から磁化電流による影響を取り除いたもの
-- &math(\bm H); は見た目の電流量(伝導電流 &math(\bm i_e); と、真電荷 &math(\rho_e); の作る電場 &math(\bm D); による変位電流)のみから予想される磁束密度に相当する
-- すなわち、任意の閉曲線に沿った磁場の強さの周回積分は、閉曲線を貫く(伝導電流+電束密度の時間変動による変位電流)に等しい
-- ただし透磁率が場所によって異なる場合には空間の等方性や均質性が失われることおよび、&math(\DIV \bm H\ne 0); となりうることから、磁場の強さの分布は真空中のそれとは一致しない
-- 分極電荷由来の変位電流 &math(\tfrac{\partial}{\partial t}(\bm E-\bm D));は分極電流 &math(\bm i_d); と相殺するため磁束密度に寄与しない

一般には &math(\bm E(\bm x,t)); と &math(\bm D(\bm x,t));、&math(\bm B(\bm x,t)); と &math(\bm H(\bm x,t)); は完全に独立な物理量で、大きさはもちろん方向も異なる。

したがって、&math(\rho_e); や &math(\bm i_e); が与えられただけでは変数が多すぎて解を求められない。
この方程式を解くには Maxwell 方程式に加えて、
外場に対して物質の分極や磁化がどのように応答するかに関する物性的な知識が必要である。

* 素直な系では [#m1f387ba]

実験によると、強誘電体や強磁性体、あるいは非等方性物質を除き、多くの系において
微弱な電場、磁場の元で次のような簡単な関係が成り立つことが認められる。

電束密度:&math(\bm D(\bm x,t)=\varepsilon\bm E(\bm x,t));

磁場の強さ:&math(\bm H(\bm x,t)=\frac{1}{\mu}\bm B(\bm x,t));

&math(\varepsilon,\mu); は単なる比例定数であるから、このとき &math(\bm D//\bm E);、&math(\bm H//\bm B); である。
&math(\varepsilon,\mu); は単なる比例定数であるから、このとき &math(\bm D/\!/\bm E);、&math(\bm H/\!/\bm B); である。

特に真空では &math(\varepsilon=\varepsilon_0);、&math(\mu=\mu_0); であるから、

 &math(\varepsilon=\varepsilon^*\varepsilon_0);

 &math(\mu=\mu^*\mu_0);

のように、無次元量である比誘電率 &math(\varepsilon^*);、比透磁率 &math(\mu^*); を抜き出すこともしばしば行われる。

上で示した &math(\bm D,\bm E); および &math(\bm H,\bm B); の関係は、物性論から得られる物であり、電磁気学からの帰結ではないことに注意せよ。

比誘電率 &math(\varepsilon^*); は物質により &math(1\sim 10); 程度で1より大きな値を取る。一般には外場の周波数や強度にも依存する。

比透磁率 &math(\mu^*); は物質により1より大きくも、小さくもなる。常磁性体では &math(\mu^*-1= 10^{-6}\sim 10^{-4}); である。反磁性体では &math(\mu^*=10^{-5}); 程度まで小さくなる。

* 質問・コメント [#ieccf8da]

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**静止物体中のマクスウェルの方程式 [#q10f84c8]
>[[辻 峰男]] (&timetag(2021-10-26T03:42:56+09:00, 2021-10-26 (火) 12:42:56);)~
~
 この章で質問するのは少し気が引けるのですが、E,D,B,Hで表した4つのマクスウェルの方程式は、運動物体中では成立しないのでしょうか?例えば、磁界中を銅板が動く場合のようなケースです。全ての変数は静止座標系からからみた量とすると、マクスウェルの方程式は変わらず、物質の構成方程式だけが変化すると思っていますがどうでしょうか?~

//
- 例えば、銅の円盤の一部に磁場を当てた状態で円盤を回転させると渦電流が生じます。一方、上記の「静止物質中の Maxwell 方程式」では 電磁誘導を生じるには磁束密度に時間変化がなければなりません ($\text{rot}\,\bm E+\partial\bm B/\partial t=\bm 0$)。しかしこの系には磁束密度が時間変化しているような箇所は存在しません ($\partial\bm B/\partial t=\bm 0$)。したがってこの渦電流を説明できないと思います。そのように考えると、物質が運動する場合には「静止物質中の Maxwell 方程式」は少なくともそのままの形では成り立たず、その位置での物質の速度を含めるような拡張が必要になるのではないでしょうか。 -- [[武内(管理人)]] &new{2021-10-26 (火) 13:17:35};
- 相対性原理で、互いに等速度運動をしている2つの座標系において、基本的自然法則(マックスウェルの方程式を含む)は全く同じ形で表されるといわれています(共変性)。一方、構成方程式は基本的自然法則でなく、その一つであるオームの法則は形が違ってきて、J=σ(E+v×B)(いずれもベクトルで静止座標系の量)といわれています。ここで速度vの項がはいっています。E'=E+v×Bが運動物質の速度vの点でみた運動座標系の電界です。マクスウェルの方程式は運動している物体があっても成り立つとはっきり書かれた本があまりみあたらず(?)、逆に静止物体中のマクスウェルの方程式という言葉が使われると、運動する部分では違うのかと思ってしまいます。 -- [[辻 峰男]] &new{2021-10-27 (水) 09:57:14};
- 真空中のマクスウェル方程式は辻さんのおっしゃる意味での基本的自然法則ですから運動している物体があっても当然成り立ちますが、このページで扱う静止物質中のマクスウェル方程式は辻さんのおっしゃる意味での基本的自然法則ではなく、運動する物体を考える場合には拡張が必要だと思います。また真空中のマクスウェル方程式の共変性は、ある系から見た時の静止電荷が別の系から見ると電流を生む、すなわちある系から見て磁場が存在しない空間に、別の系から見ると磁場が存在する、というようなことを考えても分かる通り、ニュートン方程式の共変性などとはけた違いに複雑な対応関係を表したもので、突き詰めれば特殊相対論になっていきます。 -- [[武内(管理人)]] &new{2021-10-27 (水) 10:36:03};
- マクスウェル方程式を E,D,B,H で書くと基本方程式ではなくなるということではなく、本来は無数の荷電粒子(原子核と電子)からなる「物質」を、このページで説明したように真電荷、伝導電流のみ取り出して扱う近似が運動物体のある時にはそのままでは適用できなくなる、ということです。 -- [[武内(管理人)]] &new{2021-10-27 (水) 10:40:13};
- 運動している物体と同じ速度で動く座標系からみれば静止物体なのでE,D,B,Hで表したマクスウェルの方程式が成り立つことは荷電粒子を平均的に捉えて問題ないと思います。これを静止座標系から見たマクスウェルの方程式で表すと同じ形になることが特殊相対性理論の共変性で言えるのではないでしょうか?座標変換はローレンツ変換です。 -- [[辻 峰男]] &new{2021-10-29 (金) 17:38:27};
- 絶対静止系というものは存在しませんので、ある慣性系から見てすべての物体が静止しているならその系に「静止物体中のマクスウェル方程式」を適用することには何の問題もありません。 -- [[武内(管理人)]] &new{2021-10-29 (金) 19:23:27};
- 一方で、ある慣性系から見た時に運動している物体がある場合、その座標系で記述した「静止物体中のマクスウェル方程式」を運動物体中に適用しようとするとどういった問題が生じうるか、というのがもともとのご質問ではないかと思います。実際、運動する物体がある系に「静止物体中のマクスウェル方程式」をどのように適用すれば良いか、具体的に検討してみるとどうなるでしょう? -- [[武内(管理人)]] &new{2021-10-29 (金) 19:24:13};
- 何らかの形で各点で物質がどのような速度を持っているかを方程式に組み込む必要があるのは間違いなく、上記のように磁場の時間変化のない場所で空間的な磁場勾配と物質の速度から起電力が生じる効果や、分極によって生じる分極電荷が物質の速度のせいで電流を生む効果など、このページでは扱わなかったようなさまざまな効果を組み入れる必要が出てきます。そういった拡張を行った結果はもはやこのページで議論している「静止物体中のマクスウェル方程式」の範疇からははみ出たものと考えるべきかと思います。 -- [[武内(管理人)]] &new{2021-10-29 (金) 19:25:43};

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**分極電流 [#l8d16189]
>[[TK]] (&timetag(2021-07-10T12:09:43+09:00, 2021-07-10 (土) 21:09:43);)~
~
分極電流と分極ベクトルの関係式の導出のところで、div(id-∂P/∂t)=0より、id-∂P/∂t=0であると考えるのが自然なのはどうしてでしょうか。~
誘電率が不均一な場合や、誘電率が均一でも誘電体の境界が曲面の場合には、id-∂P/∂tが一部渦状の分布となり、成り立たないこともあるのではないかと疑問に思っております。~
これが成り立たないと、誘電体中のアンペール・マクスウェルの法則の式も成り立たないのではないかと思います。~
実際に成り立たないことがあるのか、成り立たないことがある場合、どのような限定を加えれば成り立つといえるのか、見解を頂けますと、非常に理解の助けになります。~

//
- 授業では触れたのですが、このページには書いていなかったところでしたね。そもそも分極は負電荷から正電荷へのベクトルと、電荷を掛けたものとして定義されていました。つまり、もともと負電荷のあった位置にあった電荷を、正電荷のある位置まで動かすことで分極を作れることになります。つまり、時間とともに分極が増加するなら、その電荷移動と同じだけの電流が流れるわけです。これが $i_d=\partial P/\partial t$ の意味するところになります。わざわざ電荷保存まで戻らずにうまく説明できればその方が分かりやすいのかもしれないとも思えて、うまい説明方法を検討しているところです。 -- [[武内(管理人)]] &new{2021-07-10 (土) 22:24:02};
- 早速のご回答ありがとうございます。分極は正負電荷の微小変位によって生じるものであると考えれば、微小変位を時間微分することで、分極電流と分極ベクトルの関係が得られると理解しました。 -- [[TK]] &new{2021-07-11 (日) 13:26:52};
- 横から失礼します。 $i_{d}=\partial \bm{P}/\partial t+rot \bm{a}$の誘電体上の表面積分をとれば誘電体から電流が流れ出ることはないので$\bm{a}$の周回積分のみが残り、それがゼロになると思います。そうすれば、任意の誘電体上での線積分がゼロになるので$\bm{a}$がゼロになると結論できるのではないのでしょうか。 -- [[FY]] &new{2021-08-12 (木) 20:29:58};
- すみません。少し勘違いしていたみたいです。 -- [[FY]] &new{2021-08-12 (木) 20:32:16};

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**自由電子について [#y7be617e]
>[[円城塔]] (&timetag(2019-05-27T06:42:47+09:00, 2019-05-27 (月) 15:42:47);)~
~
誘電体における電気双極子は、結晶構造に電子が束縛されているため、その束縛する力が、原子核に対する斥力と釣り合うから双極子になると思うのですが、束縛されない自由電子は、どうして双極子になるのでしょうか。~

//
- 自由電子が双極子になると書いたつもりはありませんでした。どこか書き方が悪いのかもしれません。具体的に記述のおかしい箇所を指摘していただけませんか? -- [[武内(管理人)]] &new{2019-05-27 (月) 15:51:21};
- お返事ありがとうございます。申し訳ありません、私の勘違いでした。 分極の項で、原子に外場Eがかかることにより、分極するという事ですが 理論電磁気学(砂川重信)の第3章で同様のテーマが扱われていて、そこでは 金属結晶において、真電荷(=自由電子の空間的分布)のつくる電場が物体内の原子を分極させている場合についての記述があり、同様の設定だと勘違いしてしまいました。申し訳ありません。 -- [[円城塔]] &new{2019-05-28 (火) 03:28:59};

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