スピントロニクス理論の基礎/2

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2 磁性と電気伝導の基礎

磁化と局在スピン

磁化 \bm M \mathrm{A/m} という単位を持ち、物質の持つ磁気モーメント \mathrm{Am^2} を体積当たりにした量。これと原子当たりのスピンの大きさ \bm S との関係は、電子スピンあたりの磁気モーメントが -g\mu_B/2 なので:

a^3 \bm M=-g\mu_B \bm S

より、(2.9)

\bm M=-\frac{g\mu_B}{a^3}\bm S

となる。( |\bm S|=1/2 であることに注意)

電子のスピン

量子力学では電子のスピン角運動量は S^2=\frac{3}{4}\hbar^2 および S_z=\pm\frac{1}{2}\hbar などと習うが、

ここで書いている |S|=1/2 はスピン量子数であって角運動量ではなく、 さらに古典論の範疇なので \bm S は任意の方向を向き、 その x,y,z 各成分は同時に決定可能である。

ボーア磁子とg因子

電子スピンの磁気モーメントは上記の通り

a^3\bm M=-g\mu_B \bm S

と表される。よく見る式では右辺の \bm S の代わりに \bm S/\hbar となるが、 これは上記の通り S=\hbar/2 がスピン角運動量であるため。

この教科書のように S=1/2 としてスピン量子数である場合、 角運動量は

\hbar S

と表される。( \hbar はそのまま角運動量の単位を持つことに注意)

いずれにせよ、角運動量を \bm L とすれば、

a^3\bm M=-g\mu_B \frac{\bm L}{\hbar}

である。

角運動量と磁化が比例関係にあることは、以下の様にして説明される。

質量 m_e の電子が半径 r の円軌道を速さ v で回転するとき、その角運動量は (運動量)×(原点からの距離) として求められるから、

L=p r=m_e v r

となる。同じ仮定で、この電子は 2\pi r の円周上を速さ v で回転するため、 円周上を1秒間に v/2\pi r 回だけ周回する。すなわち、円軌道を流れる電流は1秒間に

\frac{ev}{2\pi r}

だけの電荷を運ぶ。上式は電流そのものを表し、

I=\frac{ev}{2\pi r}

である。磁化は電流に面積を掛けて表され(MKSA単位系ならそれに \mu_0 が掛かる)、

a^3 M=IA=I\pi r^2=\frac{evr}{2}=\frac{e}{2 m_e}L=-g\mu_B \frac{L}{\hbar}

ボーア磁子の定義は \mu_B\equiv\frac{e\hbar}{2 m_e} なので、 L が軌道角運動量であれば当然 g=1 となり、 確かに角運動量と磁化が比例関係にあることが分かる。

L がスピン角運動量の時は比例係数が異なり、 g\sim 2 となって、 これが電子スピンの g 因子と呼ばれる物である。

電子スピンの g 因子の 2 からのずれ a=g-2 は異常磁気モーメントと呼ばれる。

強磁性相互作用

隣り合うスピンが平行になると安定なので、最隣接のみを考慮したハミルトニアンは

H_J=-J_0\sum_{\bm r,\bm a}\bm S(\bm r)\cdot\bm S(\bm r+\bm a)

ただし (J_0>0) であり、 \bm a は隣の格子点へのベクトル。
S が無次元なので、 J_0 はエネルギーの次元を持つ。

ダブルカウントを防ぐことを考えると、立方格子であれば \bm a

\bm a=\begin{pmatrix}a\\ 0\\ 0 \end{pmatrix} \mathrm{or} \begin{pmatrix}0\\ a\\ 0 \end{pmatrix} \mathrm{or} \begin{pmatrix}0\\ 0\\ a \end{pmatrix}

の3種類を取る。

連続極限

フェルミエネルギーレベルの極端に高エネルギーの電子伝導を考えない限り、 格子の効果は均して考えることができる → 連続極限

\bm S(\bm r)\cdot \bm S(\bm r+\bm a)=-\frac{1}{2}\{\bm S(\bm r+\bm a)-\bm S(\bm r)\}^2 + S^2

連続極限では \bm S は大きさを変えず、その向きだけを a の空間スケールに比べて十分ゆっくりと変化すると考える。

  • 大きさを変えないことから S^2 の項は定数項として落とせる。
  • \bm a を小さいとして1次の項までで評価する。

\{\bm S(\bm r+\bm a)-\bm S(\bm r)\}^2= \{\bm a\cdot\bm \nabla S_x(\bm r)\}^2+ \{\bm a\cdot\bm \nabla S_y(\bm r)\}^2+ \{\bm a\cdot\bm \nabla S_z(\bm r)\}^2

立方格子では

\bm a&=(a,0,0),(0,a,0),(0,0,a)\\ &=a\bm e_x,a\bm e_y,a\bm e_z

なので、

\sum_{\bm a=a\bm e_x\!,\, a\bm e_y\!,\, a\bm e_z}& \{\bm S(\bm r+\bm a)-\bm S(\bm r)\}^2\\ =\ &a^2\{\bm \nabla S_x(\bm r)\}_x{}^2+ a^2\{\bm \nabla S_x(\bm r)\}_y{}^2+ a^2\{\bm \nabla S_x(\bm r)\}_z{}^2+\\ &a^2\{\bm \nabla S_y(\bm r)\}_x{}^2+ a^2\{\bm \nabla S_y(\bm r)\}_y{}^2+ a^2\{\bm \nabla S_y(\bm r)\}_z{}^2+\\ &a^2\{\bm \nabla S_z(\bm r)\}_x{}^2+ a^2\{\bm \nabla S_z(\bm r)\}_y{}^2+ a^2\{\bm \nabla S_z(\bm r)\}_z{}^2\\ \equiv&\ \{\nabla \bm S(\bm r)\}^2

より、

H_J=\frac{J}{2}\sum_{\bm r}\nabla {\bm S}(\bm r)^2

ただし、 J\equiv J_0a^2 である。

J は (エネルギー) × (距離)2 の次元を持つことになる。

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