解析力学/正準変換

(99d) 更新


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目次

正準変換

ラグランジアン力学が、

$$ Q_i=Q_i(q_1,q_2,\dots,q_n) \ \ \ (i=1,2,\dots,n) $$

の形の任意の変数変換に対して共変性を持っていることを

において見た。

これに対してハミルトン力学は座標と運動量とをまぜこぜにした、さらに広い変数変換

$$ Q_i=Q_i(q_1,q_2,\dots,q_n,p_1,p_2,\dots,p_n) $$

$$ P_i=P_i(q_1,q_2,\dots,q_n,p_1,p_2,\dots,p_n) $$

に対して共変な理論となることが知られている。

ただ当然ではあるが、それぞれの $Q_i$ に対していかなる $P_i$ を取っても構わないというわけではなく、 新たな変数 $Q_i,P_i$ に対してハミルトンの運動方程式が成り立つにはある一定の条件が課される。

この条件を満たす変換は正準変換と呼ばれる。

ハミルトン力学を共変に保つ変数変換を正準変換と呼び、正準変換に対してハミルトン力学が共変であることがハミルトン力学の利点である、というのは循環論法のようにも思えるが、実際に正準変換と認められる変数変換の範囲がラグランジュ力学を共変に保つ変数変換よりもずっと広い範囲をカバーしていることに利点を見出している、と理解してほしい。

母関数 $W$

もしある関数 $W$ に対して

$$ dW=\sum_{i=1}^np_i\,dq_i-\sum_{i=1}^nP_i\,dQ_i $$

が成り立つとすれば、$q_i,p_i\to Q_i,P_i$ の変換が正準変換となることを以下に示そう。

この $W$ は正準変換の母関数(generating function)と呼ばれる。

これには、正準方程式を満たす $q_i(t),p_i(t)$ を変数変換して得られる軌道 $Q_i(t),P_i(t)$ がやはりハミルトンの最小作用を与えることを示せば良い。そこで、この軌道の周りの任意の $\delta Q_i, \delta P_i$ ただし $\delta Q_i(t_1)=\delta Q_i(t_2)=0$ なる変位に対する作用の変分を計算してみる。上式の両辺を $dt$ で割ると、

$$ \dot W=\sum_{i=1}^np_i\dot q_i-\sum_{i=1}^nP_i\dot Q_i $$

が得られることに注意して、

$$ \begin{aligned} \delta S&=\delta\int_{t_1}^{t_2}\bigg[\sum_{i=1}^nP_i\dot Q_i-H\bigg]dt\\ &=\delta\int_{t_1}^{t_2}\bigg[\sum_{i=1}^np_i\dot q_i-H-\dot W\bigg]dt\\ &=\int_{t_1}^{t_2}\bigg[\sum_{i=1}^n(\cancel{\delta p_i\dot q_i}+p_i\delta \dot q_i)-\underbrace{\sum_{i=1}^n(\cancel{\dot q_i\delta p_i}-\dot p_i\delta q_i)}_{\delta H}-\delta\dot W\bigg]dt\\ &=\int_{t_1}^{t_2}\bigg[\sum_{i=1}^n(p_i\delta \dot q_i+\dot p_i\delta q_i)-\delta\dot W\bigg]dt\\ &=\int_{t_1}^{t_2}\bigg[\frac d{dt}\Big(\sum_{i=1}^np_i\delta q_i\Big)-\delta\dot W\bigg]dt\\ &=\bigg[\sum_{i=1}^np_i\delta q_i-\delta W\bigg]_{t_1}^{t_2}\\ \end{aligned} $$

と変形できる。ただし $\delta q_i,\delta p_i$ は $\delta Q_i,\delta P_i$ を与える $q_i,p_i$ の変位である。

正準変換では、$\delta Q_i(t_1)=\delta Q_i(t_2)=0$ という条件が $\delta q_i(t_1)=\delta q_i(t_2)=0$ を意味しないため、部分積分で出てくる $p_i\delta q_i$ の項は消えずに残ってしまう。

しかし $W$ が上記の条件を満たす正準変換の母関数である場合、

$$ \delta W=\sum_{j=1}^np_j\delta q_j-\sum_{i=1}^nP_i\delta Q_i $$

となるから、これを代入することで

$$\delta S=\bigg[\sum_{i=1}^nP_i\delta Q_i\bigg]_{t_1}^{t_2}$$

確かに $\delta Q_i(t_1)=\delta Q_i(t_2)=0$ を満たす任意の変位 $\delta Q_i,\delta P_i$ に対して $\delta S=0$ となることを確かめられる。

すなわちハミルトニアンは新しい変数 $Q_i,P_i$ に対しても最小作用の条件を満たし、すなわちこれら新しい変数も正準方程式を満たすことになる。

(これを逆にたどることで上記の条件が成り立たなければ変分がゼロにならないことも恐らく言えて、母関数が存在することの必要性も示せるのだと思う)

変数変換に対する条件式

上で示した全微分

$$ dW=\sum_{i=1}^np_idq_i-\sum_{i=1}^nP_idQ_i $$

より、 $W$ を $W(q_1,q_2,\dots,q_n,Q_1,Q_2,\dots,Q_n)$ の形に表した場合に、

$$ p_i=\frac{\partial W}{\partial q_i}, \ \ \ P_i=-\frac{\partial W}{\partial Q_i} $$

を満たす変換が正準変換を与えることが分かる。すなわち、ある関数 $W(q_1,q_2,\dots,q_n,Q_1,Q_2,\dots,Q_n)$ に対して上式が成り立つことが正準変換を与える条件となる。

一方、母関数 $W$ から $W_2=W+P_jQ_j$ を作れば

$$dW_2=d(W+P_jQ_j)=\sum_{i=1}^np_idq_i-\sum_{i\ne j}^nP_idQ_i+Q_jdP_j$$

となるから、$W_2$ を $Q_i$ の代りに $P_i$ を用いた関数として表すと、

$$ p_i=\frac{\partial W_2}{\partial q_i}, \ \ \ P_i=-\frac{\partial W_2}{\partial Q_i}, \ \ \ (i\ne j) $$

$$ p_j=\frac{\partial W_2}{\partial q_j}, \ \ \ Q_j=\frac{\partial W_2}{\partial P_j}\hspace{16mm} $$

が正準変換を与える条件になる。

同様に、$W_3=W-p_jq_j$ として $q_j$ の代りに $p_j$ を変数に取れば、

$$ q_j=-\frac{\partial W_3}{\partial p_j}, \ \ \ P_j=-\frac{\partial W_3}{\partial Q_j}\hspace{16mm} $$

$W_4=W-p_jq_j+P_jQ_j$ として $q_j$ の代りに $p_j$、$Q_j$ の代りに $P_j$ を変数に取れば、

$$ q_j=-\frac{\partial W_4}{\partial p_j}, \ \ \ Q_j=\frac{\partial W_4}{\partial P_j}\hspace{16mm} $$

が、正準変換を与える条件になる。

$W$ を使った条件と、$W_2,W_3,W_4$ を使った条件とは独立なものではなく、同じ条件を別の形で表したものに過ぎないことを理解せよ。$W$ で表した条件が満たされるとき、それを変数変換してみれば $W_2,W_3,W_4$ で表した条件は自動的に満たされる。

一般の場合

一般には、各 $i$ に対して $q_i,p_i$ のうちどちらか1つ、$Q_i,P_i$ のうちどちらか1つ、を選び、それらを引数として構成された $W$、例えば、

$$ W=W(q_1,q_2,p_3,p_4,Q_1,P_2,Q_3,P_4) $$

に対して、$W$ をそれぞれ引数となる変数で偏微分した値が、

$$p_1=\frac{\partial W}{\partial q_1}, \ \ \ P_1=-\frac{\partial W}{\partial Q_1}$$

$$p_2=\frac{\partial W}{\partial q_2}, \ \ \ Q_2=\frac{\partial W}{\partial P_2}$$

$$q_3=-\frac{\partial W}{\partial p_3}, \ \ \ P_3=-\frac{\partial W}{\partial Q_3}$$

$$q_4=-\frac{\partial W}{\partial p_4}, \ \ \ Q_4=\frac{\partial W}{\partial P_4}$$

を満たせばこれが正準変換を与える。

これを $W'(q_1,P_1,q_2,P_2,p_3,Q_3,p_4,P_4)=W-P_1Q_1$ のようにルジャンドル変換し、

$$P_1=-\frac{\partial W}{\partial Q_1}\ \ \text{の代りに}\ \ \ Q_1=\frac{\partial W'}{\partial P_1}$$

を条件としても、$W$ で書かれたのと同じ正準変換を与えることになる。 つまり、2つの条件は同値である。

$W$ の条件と $W_2,W_3,W_4$ の条件とが同値であることを正しく理解していれば、このような変換の他に正準変換が存在しないことに納得できるはずだ。

さらなる拡張

変数変換 $q_i,p_i\to Q_i,P_i$ に伴いハミルトニアンも $H\to H'$ と変換するとして、この新たなハミルトニアン $H'$ に対して

$$ \dot Q_i=\frac{\partial H'}{\partial P_i},\ \ \ \ \dot P_i=-\frac{\partial H'}{\partial Q_i} $$

が成り立つ場合も正準変換と呼ぶよう制限を緩めることで、さらに広範な変数変換を扱うことが可能となる。

そのような変換は露わに $t$ に依存する、例えば

$$ W=W(q_1,q_2,p_3,p_4,Q_1,P_2,Q_3,P_4,t) $$

のような母関数により与えられる。

この母関数に対して $q_1,q_2,p_3,p_4,Q_1,P_2,Q_3,P_4$ に関する上記の条件が成り立つ時、ハミルトニアンを

$$ H'=H+\frac{\partial W}{\partial t} $$

のように変化させることで、新たな $Q_i,P_i,H'$ に対して正準方程式が成り立つ。このことは母関数の全微分が

$$ dW=\sum_{i=1}^np_idq_i-\sum_{i=1}^nP_idQ_i+(H'-H)dt $$

となることを用いると上記と同じ手順で示せる。

正準変換の直接条件

ハミルトニアン自体が変化しない $(H'=H)$ 正準変換の話に戻ると、 そのような正準変換を与える条件はより直接的な形にも書くことができる。

$$ \begin{aligned} \dot Q_i &=\sum_{j=1}^n\bigg[\frac{\partial Q_i}{\partial q_j}\dot q_j+\frac{\partial Q_i}{\partial p_j}\dot p_j\bigg]\\ &=\sum_{j=1}^n\bigg[\frac{\partial Q_i}{\partial q_j}\frac{\partial H}{\partial p_j}-\frac{\partial Q_i}{\partial p_j}\frac{\partial H}{\partial q_j}\bigg]\\ \end{aligned} $$

と、

$$ \begin{aligned} \frac{\partial H}{\partial P_i} &=\sum_{j=1}^n\bigg[\frac{\partial q_j}{\partial P_i}\frac{\partial H}{\partial q_j}+\frac{\partial p_j}{\partial P_i}\frac{\partial H}{\partial p_j}\bigg]\\ \end{aligned} $$

とを比較して、

$$ \frac{\partial Q_i}{\partial q_j}=\frac{\partial p_j}{\partial P_i},\ \ \ \ -\frac{\partial Q_i}{\partial p_j}=\frac{\partial q_j}{\partial P_i}\hspace{1cm}\text{(1)} $$

同様に、

$$ \begin{aligned} \dot P_i &=\sum_{j=1}^n\bigg[\frac{\partial P_i}{\partial q_j}\dot q_j+\frac{\partial P_i}{\partial p_j}\dot p_j\bigg]\\ &=\sum_{j=1}^n\bigg[\frac{\partial P_i}{\partial q_j}\frac{\partial H}{\partial p_j}-\frac{\partial P_i}{\partial p_j}\frac{\partial H}{\partial q_j}\bigg]\\ \end{aligned} $$

と、

$$ \begin{aligned} {}-\frac{\partial H}{\partial Q_i} &=\sum_{j=1}^n\bigg[-\frac{\partial q_j}{\partial Q_i}\frac{\partial H}{\partial q_j}-\frac{\partial p_j}{\partial Q_i}\frac{\partial H}{\partial p_j}\bigg]\\ \end{aligned} $$

とを比較して、

$$ \frac{\partial P_i}{\partial q_j}=-\frac{\partial p_j}{\partial Q_i},\ \ \ \ \frac{\partial P_i}{\partial p_j}=\frac{\partial q_j}{\partial Q_i}\hspace{1cm}\text{(2)} $$

上記の(1), (2) は、ハミルトニアンが変化しない正準変換を与える「直接条件」と呼ばれる。

正準変換の具体例

恒等変換

何も変えない、

$$Q_i=q_i,\ \ P_i=p_i$$

なる変換に対応する母関数は、

$$W(q_1,q_2,\dots,q_n,P_1,P_2,\dots,P_n)=\sum_{i=1}^nP_iq_i$$

である。このとき、

$$ p_i=\frac{\partial W}{\partial q_i}=P_i $$

$$ Q_i=\frac{\partial W}{\partial P_i}=q_i $$

として恒等変換が得られる。

座標変換

$Q_i$ が $p_j$ に依存しない、通常の位置座標の変換を考える。

$$ Q_i=f_i(q_1,q_2,\dots,q_n) $$

恒等変換を参考にすると、これに対応するのは、

$$W(q_1,q_2,\dots,q_n,P_1,P_2,\dots,P_n)=\sum_{i=1}^nP_if_i(q_1,q_2,\dots,q_n)$$

を使って

$$ p_i=\frac{\partial W}{\partial q_i}=\sum_{j=1}^nP_j\frac{\partial }{\partial q_i}f_j(q_1,q_2,\dots,q_n) $$

$$ Q_i=\frac{\partial W}{\partial P_i}=f_i(q_1,q_2,\dots,q_n) $$

第2式に思った通りの座標変換が得られている。これに対応する $P_j$ を第1式を使って $p_i$ から求めるには、$A_{ij}=\partial f_j/\partial q_i$ なる行列の逆行列を求めてかけてやれば良いことになる。

で気づくのが、この行列はいわゆるヤコビ行列に他ならず、

$$ A_{ij}=\frac{Df}{Dq}=\frac{DQ}{Dq} $$

であるから、この逆行列は逆変換のヤコビ行列で、

$$ A_{ij}^{-1}=\Big(\frac{DQ}{Dq}\Big)^{-1}=\frac{Dq}{DQ}=\Big(\frac{\partial q_j}{\partial Q_i}\Big) $$

と書けることになり、

$$ P_i=\sum_{j=1}^n\frac{\partial q_j}{\partial Q_i}p_j $$

を得る。同じ式はラグランジアンからも得られるはずで、

$$ \begin{aligned} P_i &=\frac{\partial L}{\partial \dot Q_i}\\ &=\sum_{j=1}^n\Big(\underbrace{\frac{\partial q_j}{\partial \dot Q_i}}_{=\,0\rule{0mm}{2mm}}\frac{\partial L}{\partial q_j}+\underbrace{\frac{\partial \dot q_j}{\partial \dot Q_i}}_{=\,\partial q_j/\partial \dot Q_i}\underbrace{\frac{\partial L}{\partial \dot q_j}\rule[-3.5mm]{0mm}{1.8mm}}_{=\,p_j\rule{0mm}{2mm}}\Big)\\ &=\sum_{i=1}^n \frac{\partial q_j}{\partial Q_i}p_j\\ \end{aligned} $$

として確かめられる。

座標と運動量の入れ替え

$$W(q_1,q_2,\dots,q_n,Q_1,Q_2,\dots,Q_n)=\sum_{i=1}^nQ_iq_i$$

とすると、

$$ p_i=\frac{\partial W}{\partial q_i}=Q_i $$

$$ P_i=-\frac{\partial W}{\partial Q_i}=-q_i $$

すなわち、$Q_i=p_i,\ \ P_i=-q_i$ として座標と運動量とを入れ替えることができる。

ラグランジュ力学はこのような変換に対して共変ではなかったが、ハミルトン力学はこのように座標と運動量が入り交じるような変換に対しても共変になっている。

正準変数

正準変換を視野に入れると、ハミルトン力学に現れる $q_i$ や $p_i$ はもはや座標、運動量ではなく、もっと抽象的かつ一般的な力学変数でしかないことになる。そこで、$q_i,p_i$ をどちらも正準変数と呼び、ハミルトンの運動方程式で結びつく特定の $q_i$ と $p_i$ とは互いに正準共役である、と呼ばれる。


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