線形写像・像・核・階数 の履歴(No.21)
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写像†
通常、関数 と言えば実数を実数に、あるいは複素数を複素数に変換する規則のことである。 例えば複素関数 は「 を に変換する」という規則なので、 によって複素数 は に変換される。
この考え方を拡張して、ベクトルをベクトルに変換する関数を考えることができる。
例えば2次元列ベクトルを3次元列ベクトルに変換する関数
は、 を、
&math( f(\bm x)=\begin{pmatrix}1&0\\0&1\\1&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1\\2\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}1\\2\\3\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}1\\2\\3\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}2\\4\\2\end{pmatrix} );
のように、 に変換する。
この は2次元列ベクトル空間から3次元列ベクトル空間への「写像」である。
一般に、ある集合 の元を別の集合 の元に変換する関数 を、 集合 から への写像と呼ぶ。 がそのような写像であることを
と書く。このとき、
に対して
となる。 は を に変換する規則であるため、
という書き方も良く行われる。
例:
先の例であれば、
ただし
と書ける。これを
のように書くことも多い。
線形写像†
を線形空間として、 が および に対して 次の条件を満たすとき、 は「線形である」と言う。
すなわち、ベクトル和やスカラー倍を行ってから で変換しても、 で変換してからベクトル和やスカラー倍を行っても、同じ結果が得られるということである。
演習:
(1) 実数関数 は線形か? → つまり、 と は常に等しいか?
(2) 実数関数 は線形か?
(3) 実数関数 は線形か?
(4) が 実行列であれば、 は の写像となる。この写像は線形か?
線形の条件は、 として、
と書いても同じ意味になる。
(このように線形写像を大文字のアルファベットで表わすとき、 写像の括弧を省略して行列 とのかけ算のように書くこともよく行われる。)
例:
2次以下の の多項式の集合を として、 を
ただし
と定義すれば、これは線形写像になる。
&math( \because T(a\bm x+b\bm y)=\frac{d}{dx}(a\bm x+b\bm y)=a\frac{d}{dx}\bm x+b\frac{d}{dx}\bm y=aT\bm x+bT\bm y );
微分や積分は 典型的な線形写像 として以後頻出する
という書き方は などという書き方と対応する。
こういう場合、 を 線形「演算子」などとも呼ぶ。
例:
2次以下の の多項式の集合を として、 を
ただし
と定義すれば、これは線形写像になる。
例:
先に見た、多項式と数ベクトル表現との間の変換
も線形写像になっている。
練習†
問: が線形写像であれば、 となることを示せ。
答:
(最後の部分で、任意の について となることを使った)
像 $\Image T$†
写像
の「像」は、
として定義され、 とも書かれる。当然、 である。
上記の集合の記号は 「 は、 ある に対して が成り立つような の元 からなる集合である」 と読む。
高校で関数について定義域、値域を考えたが、その値域にあたる。
線形写像の像は線形空間となる†
線形空間の部分集合が部分空間となることを示すには、 その集合が演算に対して閉じていることを確かめればよかった。
に対して、 となるような が存在するから、
&math( a\bm x'+b\bm y'&=aT\bm x+bT\bm y\\ &=T(a\bm x+b\bm y)\in \Image T );
すなわち であり、 はベクトル和とスカラー倍について閉じている。
したがって、 は部分空間となる。
階数†
ある線形写像
の「階数」は、
として定義される。すなわち像の次元。
行列の階数との関係は後述する。
例:
が ならば、 であり、 である。
が ならば、 であり、 である。
練習:
のとき、
を示せ。
解答:
前者は、 の任意の基底 に対して が を張ることと、 であることから証明される。
後者は が の部分空間であることから自明。
全射(上への写像)†
写像 が を満たすとき、上への写像あるいは全射であるという。 (教科書の「全写」は間違い)
これは、任意の に対して、 そこに移ってくる を見つけられること、 と同義である。
例えば、
は
なら全射ではないが、
なら全射である。
(矢印の右側の大括弧 [ ] はベクトルが張る空間を表わす記号だった)
単射(1対1写像)†
一般の写像では異なるベクトルが同じ値に移される場合があるが、 であれば必ず であるとき、 は単射である、あるいは、1対1写像である、という。
- と との間に1対1対応を生む
- と との間だと0対1の場合もある
全単射(上への1対1写像)†
単射かつ全射であることをいう。
の元の1つ1つに の元が1つ1つ対応することになる。
このときに限り、「逆写像 」が定義できる。
- 全単射でないと逆写像は定義できないことに注意せよ
- 1対1でないと、ある に複数の が対応してしまう
- 上への写像でないと、ある に対応する が存在しない場合がある
- 逆写像も全単射になり、逆写像の逆写像は元の写像である
練習†
問:
線形写像の逆写像
は線形写像であることを示せ
答:
とすると、
一方、
の両辺に を作用させると
この左辺は と等しいことから、 が線形であることが示される。
同型 †
2つの線形空間 と の間に全単射の線形写像 を定義できるとき、 と は同型であるといい、 と書く。
このとき、 を同型写像と呼ぶ。
注)同型である2つの線形空間の間には無数の異なる同型写像を定義可能であるが、 1つでも同型写像を定義できれば同型と呼ぶ。
同型の空間は非常に似た構造を持つ。
- なら
- なら
-
が
の基底なら、
は の基底となる - などなど
特に、すべての 上の 次元ベクトル空間は に同型であるため、1年生でやった数ベクトル空間が、 任意の(有限次元の)線形空間を理解するための基礎となる。
∵ の元から数ベクトル表現への写像が同型写像となる。
同値関係†
線形空間の「同型」は同値関係の公理を満たす。すなわち、
- : 反射律 (恒等写像による同型)
- : 対称律 (逆写像による同型)
- : 推移律 (合成写像による同型)
一方を調べればもう一方が分かる例†
の同型写像を とすると、
が線形独立であれば、
も線形独立である。
対偶を証明する。証明するのは、
「
が線形従属ならば、
も線形従属である。」
は従属なので、 すべてがゼロではない3つのスカラー に対して
が成立する。 は線形なので、
ここで両辺に を掛けると、 より、
はすべてがゼロではないから、 は線形従属。
核 $\Kernel T$†
線形写像 の核 (Kernel):
核はゼロを含む†
核は線形空間となる†
に対して、
&math( T(a\bm x+b\bm y)=aT\bm x+bT\bm y=a\bm 0+b\bm 0=\bm 0+\bm 0=\bm 0 );
より、 となる。
すなわち、 はベクトル和とスカラー倍に対して閉じており、 部分空間となる。
1対1写像の条件†
は が1対1写像であるための必要十分条件となる。
なぜなら、
なら複数の元が に移る。
逆に、 かつ ならば より かつ より
次元定理†
上記をまとめると下図のようになる。
- は の、 は の、部分空間である
- に含まれる元は に移る
- に含まれる元は に移る
線形写像の次元定理とは、次の関係のことである。
(イメージ的には上の 3. そのまま)
略証明:
の基底を として、 これにいくつかベクトルを加えた が の基底となるようにできる。(本当は証明が必要)
つまり、 である。
は によってすべて に移る一方、 は に移り、 は の基底を為す。
すなわち、
退化次数†
もともと の次元を持つ線形空間が、 で移されることにより だけ次元が減ってしまうため、 を退化次数と呼ぶ。
練習†
&math( \bm x'=\begin{pmatrix}x'\\y'\\z'\\w'\end{pmatrix}=T\bm x=\begin{pmatrix}3&0&0\\0&1&0\\0&0&0\\0&1&0\end{pmatrix} \begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix} );
&math(\mathbb R^3= \Bigg[\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix}\Bigg]= \Bigg[\begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1\\1\\1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1\\-1\\0\end{pmatrix}\Bigg]= \Bigg[\begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1\\1\\1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1\\-1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}3\\2\\1\end{pmatrix}\Bigg] );
&math(\Image T =\Bigg[ \begin{pmatrix}3\\0\\0\\0\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}0\\1\\0\\1\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}0\\0\\0\\0\end{pmatrix} \Bigg] =\Bigg[ \begin{pmatrix}3\\0\\0\\0\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}0\\1\\0\\1\end{pmatrix} \Bigg]);
&math(\Kernel T =\Bigg[ \begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix} \Bigg]);
行列による線形写像の階数†
上で見たように、 の時、
(右辺は が張る空間)であるから、 は の列ベクトルが張る空間の次元となる。
そしてこれは次に見るとおり に等しい。
すなわち
略証明†
まず任意の行列 は、ある正則行列 により階段化可能であり、 その「段数」が であった。
&math( PA=\left[\begin{array}{c@{\,}c@{\,}ccc@{\,}c@{\,}ccc@{\,}c@{\,}cccccc@{\,}c@{\,}c}0&\cdots&0&1&*&\cdots&*&0&*&\cdots&*&0&*&{\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ }&0&*&\cdots&*\\\vdots&&\vdots&0&0&\cdots&0&1&*&\cdots&*&0&*&&\vdots&\vdots&&\vdots\\\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&0&0&\cdots&0&1&*&\cdots&\vdots&\vdots&&\vdots\\\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&0&0&&\vdots&\vdots&&\vdots\\\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&\vdots&&\vdots\\\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&0&\vdots&&\vdots\\\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&1&*&\cdots&*\\\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&\cdots&0&0&\cdots&0\\\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&\vdots&\vdots&&\vdots&\vdots&&\vdots\\0&\cdots&0&0&0&\cdots&0&0&0&\cdots&0&0&0&&0&0&\cdots&0\\\end{array}\right]\ \begin{split}\left\}\phantom{\begin{matrix}\\ \\ \\ \\ \\ \\ \\\\\end{matrix}}\ \rank A\right .\\\begin{matrix}\\ \\ \\\end{matrix}\end{split} );
階段形から、 の列ベクトルが張る空間の次元が に等しいことはすぐに分かる。
すなわち に対して
さらに、 は、 と との間の同型写像を定義する。
なぜなら、任意の に対して であり、さらにこの線形写像は正則つまり逆写像を持つ(全単射である)。
同型な空間の次元は等しいため、
すなわち、