ソフトウェア/Igor/システムの基本 の履歴(No.3)
更新もっともお手軽な定型処理の仕方 - コマンドラインへの貼り付け†
複数のグラフの見た目を揃えたい場合など、 ある動作を繰り返し行いたい場合に使える最もお手軽な方法は、 コマンドウィンドウに(複数の)コマンドをクリップボードから貼り付けて実行するやりかたです。
コマンドウィンドウとは†
コマンドウィンドウというのは、
[ウィンドウ]-[コマンドウィンドウ]
をせんたくするか、もっと普通には
Ctrl+J
を押すと現れる、
このウィンドウです。
このウィンドウは通常「操作のログが残るウィンドウ」として認識されているかもしれませんが、 ここに Igor のコマンドを手で打ち込むことで、任意のコマンドを実行することができます。
Hello world!†
例えばここに、
LANG:Igor DoAlert 0, "Hello world!"
と打ち込んで、最後に ENTER を押すと、
のようにアラートを表示できます。
複数行のコマンドを貼り付け†
このコマンドウィンドウには複数行のコマンドを一度に貼り付けられます。
次のテキストをコピーしてコマンドウィンドウに貼り付け、 最後に ENTER を押すと、
LANG:Igor
Make/N=100 wave0 = sin(2*pi*x/99*2)
Make/N=100 wave1 = cos(2*pi*x/99*3)
Display wave1 vs wave0
ModifyGraph width={Plan,1,bottom,left}
ModifyGraph mode=3,marker=60
このように一連の処理を一度に実行できます。
いくつもあるグラフの見た目を揃える†
雑多なグラフが並んでいる状態から、
LANG:Igor make wave0=gnoise(1), wave1=gnoise(1), wave2=gnoise(1), wave3=gnoise(1) display wave0 display wave1 display wave2 display wave3
次の手順で1つのグラフ (Graph3:wave3) の見た目を整えました。
- 青線でマーカーを付ける
- グラフの大きさを 3cm x 6cm にする
- フォントを Times New Roman 14pt にする
- 縦横軸にラベルを付ける
コマンドウィンドウには一連の操作のログが残っていることを確認できます (黒く選択されている領域)。
このように操作ログをマウスカーソルで選択して Ctrl+C でコピーすると、 操作ログをクリップボードに入れられます。今の場合、その内容は
LANG:Igor *ModifyGraph mode=4,marker=19,msize=1,rgb=(0,0,65280) *ModifyGraph msize=3 *ModifyGraph width=170.079,height=85.0394,gFont="Times New Roman",gfSize=12 *Label left "Value [a.u.]";DelayUpdate *Label bottom "Time [s]"
のようになります。
(始め、マーカーサイズを1にしましたが、小さすぎたので3に直した様子も残っていますね)
この内容はコマンドのログのようでもありますが、 実際には同じ動作を行うためのコマンドのリストになっていて、 先頭の * さえ取り除けばそのまま Igor のコマンドとして解釈可能です。
ここで、Graph0:wave0 のグラフを選択し、前面に持ってきてから
Ctrl+J でコマンドウィンドウを出し、
Ctrl+V で先ほどコピーしたコマンドリストを貼り付けます。
(各行の先頭に * が付いていますが気にしなくて大丈夫です)
このように貼り付け後は最終行しか見えませんが、 実際にはちゃんとすべての行が貼り付けられています。
ここで ENTER を押すと、先ほどのコマンドがすべて実行され、 Graph0:wave0 の見た目が Graph3:wave3 と一致します。
この操作を Graph1:wave1, Graph2:wave2 についても行うことで、 すべてのグラフの見た目を統一することができました。
Igor で一連の動作を繰り返すにはこのように、
- まずは一回メニューなどから必要な操作をやってみて、
- コマンドウィンドウのログから必要部分を取りだして、
- 必要に応じてテキストエディタなどで編集して、
- コマンドウィンドウに貼り付けて実行する
 または
- Ctrl+M で出るプロシージャウィンドウに貼り付けて関数とする
 
- コマンドウィンドウに貼り付けて実行する
というのが一般的な手順になります。
始めからコマンドをすべて覚えていなくても メニューから選んだコマンドの名前をコマンドウィンドウのログから 知ることができるのが良いところですね。
Igor のマルチスレッド対応†
Igor Pro 6.1 から、マルチスレッド対応が強化されたそうです。
LANG:Igor wave0 = any_expression(x)
のような代入文で時間がかかっている場合、
LANG:Igor MultiThread wave0 = any_expression(x)
とするだけで、個々の座標値に対する計算を異なるスレッドで行ってくれます。
当然、wave の個々の座標の値の間に依存関係がある場合にはうまくいきませんが、 独立に計算できる場合にはこれだけでかなり速度が上がります。
より高度なマルチスレッド†
もっと複雑なことをしたい場合には、 ThreadGroupCreate / ThreadStart / ThreadGroupPutDF / ThreadGroupGetDF / ThreadGroupWait / ThreadGroupRelease といった関数を使うことで、きめ細やかなマルチスレッド制御を行えます。
実際やってみると、メモリ確保などに時間がかかっていることも多いようで、 単純にスレッド数倍もの速度向上は望めませんが、シングルスレッド比で 2倍くらいの速度は簡単に出せるようでした。
例えば、Intel Core i7-3520M @ 2.9GHz + Windows 7 (64bit) で 1024 本のスペクトルに対して解析を行った結果、
- シングルスレッド = 11.0 秒
- マルチスレッド = 4.3秒
という結果が得られました。
注意点†
このようにマルチスレッドで使う関数、例えば SomeMutiThreadableFunction(x) には ThreadSafe というキーワードを付けて定義する必要があります。
LANG:Igor
ThreadSafe function SomeMutiThreadableFunction(x)
    // マルチスレッド対応コード
end
このような ThreadSafe な関数からは、同じく ThreadSafe とマークされた関数以外を呼び出せません。
やってみるとすぐ分かるのですが、現在のところ ThreadSafe とマークした関数には デバッガ機能が働かず、ブレークやステップ実行ができません。
シングルスレッドで十分にテストしてからマルチスレッドに移行しないと、 うまく動かないときに面倒なことになります。
デバッグ環境設定のようなところで「Multithread 機能をオフにして、 すべてをシングルスレッド(ノンプリエンプティブマルチスレッド)で動作させる」 なんていうのを選べると、デバッグが楽になって良いんですけどね・・・
幸い、print や printf は ThreadSafe 関数からも呼べるので、 デバッグにはこれらを使って頑張るしか今のところ手はないようです?
コードのモジュール化 Tips†
FUNCREF を利用したコールバックを使うとコードをモジュール化できる場合があります。
例えば、2次元データの中から条件に合致する点を探し、 そのデータ点に対して処理を行いたい場合に、
LANG:Igor
function DoSomethingOnThePoints()
    wave image
    variable i, j
    for(i=0; i<DimSize(image, 0); i+=1)
        for(j=0; j<DimSize(image, 1); j+=1)
            if( #condition# )
                DoSomething(i, j, image[i][j])
            endif
        endfor
    endfor
end
というようなコードが思い浮かびます。
しかし、同様の点に対して、異なる関数 DoAnotherThing(i, j, image[i][j]) を呼び出したい時に、DoAnotherThingOnThePoints() という別の関数を書いて、 そこにループ処理を貼り付けるのはばからしく感じられます。そこで、
LANG:Igor
function DoSomethingProcProto(i, j, v)
variable i, j, v
    // DoSomething のプロトタイプなので、実際の処理は何もしない
end
function DoAnythingOnThePoints(DoSomethingCallback)
string DoSomethingCallback
    FUNCREF DoSomethingProcProto DoSomething = $DoSomethingCallback
    wave image
    variable i, j
    for(i=0; i<DimSize(image, 0); i+=1)
        for(j=0; j<DimSize(image, 1); j+=1)
            if( #condition# )
                DoSomething(i, j, image[i][j])
            endif
        endfor
    endfor
end
この DoAnythingOnThePoints と言う関数に、呼び出して欲しい関数名を与えれば、 任意の関数を同じ手順で呼び出すことができるようになります。
DoSomethingProcProto は DoSomething という関数リファレンスの「型」、 すなわち、引数リストの型及び返り値の型を規定するためのダミー関数なので、 中身は何も書かなくて構いません。
このように文字列で書いた任意の関数を FUNCREF で呼び出す手法は、 特定のデータフォルダにグローバル変数としてコールバック関数名を書いておくことで コードの動作を替えるなど、様々な使い道があって、コードとコードの依存性を遮断して、 モジュール性を高めるために活用できます。
