線形代数I
(カリキュラムと教科書との間のギャップを調整中の内容です)
実数ベクトルの標準内積†
,
に対して、その標準内積を
として定義する。
実数ベクトルの内積の性質†
標準内積について以下の性質を容易に確かめられる。
-
かつ
⇔
数学的にはこの4つの性質を持つような任意の演算を「内積」と考えてよい。
すなわち、内積の定義の仕方には標準内積以外にも様々な物がある。
例:
も内積を定義する。
例:すぐには分かりにくいが、2次のベクトルに対して、
も内積を定義する。
(確かめてみよ)
以下で見る内積の性質は上記4つの条件のみを使って定義・証明可能であるから、
標準内積だけでなく、任意の内積について成立する。
内積の定義されたベクトル空間を「内積空間」あるいは「計量空間」と呼ぶ。
(複素数ベクトルについては内積の定義が多少異なるが、以下の議論はそのまま成り立つ)
ベクトルのノルム†
内積の持つ性質
より、任意の
に対して
を定義することができる。これを
のノルム(長さ・大きさ)と呼ぶ。
内積の定義より、
は
の時のみ生じる。
の書き換えは頻出するので覚えておくように。
シュワルツ (Schwartz) の不等式†
内積の絶対値は常に大きさの積以下である
(証明)
この2次式が
の値に依らず負にならないためには、
判別式が負でなければならないから、
両者の正の平方根を取れば、
与式を得る。
三角不等式†
三角形の一辺は他の二辺の和より短い
(証明)
両辺とも正なので、平方根を取れば与式を得る。
ベクトルの為す角†
が共にゼロでないとき、シュワルツの不等式より
そこで、
を満たす
ただし
がただ一つ決まる。
この
を
の「為す角」と呼ぶ。
(「内積」が標準内積でない場合、通常の角度の定義とは異なった物になるが、
以下の議論には影響しない)
ベクトルの直交†
より、
内積がゼロ ⇔
である。
そこで、
であることを 「
が直交する」と言う。
実は、
の一方または両方がゼロの時もやはり
となるが、
は定まらない。
だが、この場合も含めて「直交」を定義する。
⇔
すなわち、ゼロベクトル
は全てのベクトルに直交する。
正規化†
ゼロでない任意のベクトル
に対して、
のノルムは1になる。
このように、ベクトルをその大きさで割ってノルムを1にすることを「正規化」と呼ぶ。
正規ベクトル:ノルムが1のベクトルのこと
正規直交系†
ベクトル
が正規直交系である、とは
- すべてノルムが1である
すなわち
- 互いに直交する
の条件を満たすこと。
- 条件はまとめて
と書ける。
- 基本ベクトル
は正規直交系である
正規直交系は一次独立である†
が正規直交系であるとき、
が成り立つとすると、両辺と
との内積を取ることで、
したがって、すべての
について
となることが導かれる。
成分の導出†
同様にして、基本ベクトル
は正規直交系であるから、
のとき、
と
との内積を取ることにより、
として
方向の成分を求めることができる。
直交変換†
任意の
に対して、
を満たす一次変換
を直交変換と呼ぶ。(なぜ直交?の答えは後ほど)
- 直交変換は
を満たす。(定義より、ほぼ明らか)
こちらを直交変換の定義とする場合もある(同値な条件であるため)
練習:
から
を導こう。
(証明)
条件より
(左辺)2
(右辺)2
したがって、
合同変換†
直交変換はすべてのベクトルの長さを保つから、それはすなわち「合同変換」である。
合同変換 = 回転 ( + 反転 )
∵三角形の3辺の長さが等しければ合同であったのを思い出そう。
Rn にて標準内積を取る場合†
である。
また、
と書けるから、
ここで、
が対称行列
であれば、
が成り立つ。
直交行列†
標準内積を用いた場合、直交変換の標準行列
は任意の
に対して、
を満たす。したがって、2つの基本ベクトルに対して
となるが、この左辺は行列
の (i,j) 成分に等しい。
すなわち、
であり、
は
[Math Conversion Error]
を満たす。
この条件を満たす
を直交行列と呼ぶ。
なぜ直交?†
直交行列の列ベクトル分解を
と書くと、
すなわち、直交行列の列ベクトルは正規直交系を為す。
これが直交変換、直交行列の語源である。