解析力学/ハミルトニアン の履歴(No.3)

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ハミルトニアン力学

ラグランジアンによる力学では $q_k$ と $\dot q_k$ を変数として運動を記述した。

同じ運動を、$q_k$ と $p_k$ を変数として記述しようというのがハミルトン力学である。

ルジャンドル変換

物理学系がある特性関数(ここではラグランジアン)によって記述されるとする。これは、その特性関数のみの情報から物理学系の運動が完全に決定される、という意味である。

この特性関数をある変数(ここでは $\dot q_k$)で偏微分した値(ここでは $p_k=\partial L/\partial\dot q_k$)を新たな変数とし、元の変数($\dot q_k$)を消去して新たな特性関数を得る変換はルジャンドル変換と呼ばれ、ラグランジアンからハミルトニアンを得る際や、熱力学における各種の特性関数を得る際などに用いられる。

特性関数を $f(v)$ として $p=\frac{\partial f}{\partial v}$ とすると、

$$ df=p\,dv $$

であるが、新たな関数 $g(p)$ を、

$$ g(p)=pv-f(v) $$

と定義すれば、

$$ dg=p\,dv+v\,dp-df=v\,dp $$

が得られ、すなわち

$$ \frac{\partial g}{\partial p}=v $$

となる。このとき $f(v)$ の持っていた物理系の情報はすべて $g(p)$ に含まれているため、$g(p)$ を新たな特性関数として利用できる。この $f(v)$ から $g(p)$ への変換がルジャンドル変換である。

ルジャンドル変換が有効なのは元の変数 $v$ と新たな変数 $p$ との間で1対1の相互変換が可能な場合に限られる。これは $v$ に対して $p=\partial f/\partial v$ が単調増加あるいは単調減少することと同義であり、$f(v)$ が定義域全域にわたり上に凸あるいは下に凸であることと同義である。

ハミルトニアン

ラグランジアンに対して $\dot q_k$ から $p_k$ へのルジャンドル変換を施し、

$$ H(q_1,q_2,\dots,q_n,p_1,p_2,\dots,p_n)=\sum_{k=1}^n p_k\dot q_k-L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n) $$

これをハミルトニアンと呼ぶ。全微分は

$$ \begin{aligned} dH &=\sum_{k=1}^n\big(\dot q_k\,dp_k+\cancel{p_k\,d\dot q_k}\big)-\underbrace{\sum_{k=1}^n\big(\cancel{p_k\,d\dot q_k}+\dot p_k\,d q_k\big)}_{=\,dL}\\ &=\sum_{k=1}^n\big(\dot q_k\,dp_k-\dot p_k\,d q_k\big)\\ \end{aligned} $$

となり、

$$ \dot q_k=\frac{\partial H}{\partial p_k} $$

$$ \dot p_k=-\frac{\partial H}{\partial q_k} $$

が成り立つことが分かる。この方程式はハミルトンの正準方程式と呼ばれる。

上記の計算は逆にもたどれるため、この正準方程式はラグランジュ方程式と同値であり、やはり運動方程式を与える。

また、解析力学/ラグランジアン#b9eedbd5 で見たとおり、 $H$ は系の全エネルギーに相当し、ポテンシャルが陽に $t$ に依存しないときには運動の保存量となる。

実際に上の振り子の例で試すと、

$$L=\frac12 mr^2\dot\theta^2-mgr(1-\cos\theta)$$

$$ p_\theta=\frac{\partial L}{\partial \dot \theta}=mr^2\dot\theta $$

より、

$$ \begin{aligned} H &=p_\theta\dot\theta-L\\ &=p_\theta\dot\theta-\big[\frac12 mr^2\dot\theta^2-mgr(1-\cos\theta)\big]\\ &=p_\theta\dot\theta-\big[\frac12 p_\theta\dot\theta-mgr(1-\cos\theta)\big]\\ &=\frac12p_\theta\dot\theta+mgr(1-\cos\theta)\\ &=T+U\\ &=\frac1{2mr^2}p_\theta^2+mgr(1-\cos\theta)\\ \end{aligned} $$

となり、ハミルトニアンが運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和、すなわち系のエネルギーそのものを表すこと、そして、$p_\theta$ が $\dot\theta$ を含むため、これで $\dot\theta$ を消去して $\theta,p_\theta$ のみの関数として表せること、を確かめられる。

そしてハミルトンの正準方程式は、

$$ \dot \theta=\frac{\partial H}{\partial p_k}=\frac1{mr^2}p_\theta\ \ \ \to\ \ \ p_\theta=mr^2\dot\theta $$

$$ \dot p_k=-\frac{\partial H}{\partial q_k}=-mgr\sin\theta $$

となり、第1式から運動量の定義が、第2式から運動方程式が出る。

これらが質点系や剛体系のハミルトニアンの一般的な性質として成り立つことを以下に見よう。

ハミルトニアンは座標によらない物理量である

ラグランジアンからハミルトニアンへのルジャンドル変換に現れる $\sum_{k=1}^n p_k\dot q_k$ は以下に見るように座標変換に対して変化しない物理量である。

$$ \begin{aligned} \sum_{i=1}^n p_i\dot q_i&=\sum_{i=1}^n \frac{\partial L}{\partial \dot q_i}\dot q_i\\ &=\sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n \bigg\{\cancel\frac{\partial Q_j}{\partial \dot q_i} \frac{\partial L}{\partial Q_j}+\frac{\partial\dot Q_j}{\partial \dot q_i} \frac{\partial L}{\partial \dot Q_j}\bigg\} \sum_{k=1}^n\bigg\{\frac{\partial \dot q_i}{\partial Q_k} Q_k+\frac{\partial \dot q_i}{\partial \dot Q_k}\dot Q_k\bigg\}\\ &=\sum_{j=1}^n\sum_{k=1}^n\bigg[ \bigg\{\sum_{i=1}^n \frac{\partial \dot Q_j}{\partial\dot q_i}\frac{\partial\dot q_i}{\partial Q_k}\bigg\} \frac{\partial L}{\partial \dot Q_j} Q_k+ \bigg\{\sum_{i=1}^n \frac{\partial \dot Q_j}{\partial\dot q_i}\frac{\partial\dot q_i}{\partial\dot Q_k}\bigg\} \frac{\partial L}{\partial \dot Q_j}\dot Q_k\bigg]\\ &=\sum_{j=1}^n\sum_{k=1}^n \bigg\{\underbrace{\frac{\partial\dot Q_j}{\partial Q_k}}_{=\,0} \frac{\partial L}{\partial \dot Q_j} Q_k+\underbrace{\frac{\partial\dot Q_j}{\partial\dot Q_k}}_{=\,\delta_{jk}} \frac{\partial L}{\partial \dot Q_j}\dot Q_k\bigg\}\\ &=\sum_{j=1}^n\sum_{k=1}^n \delta_{jk} \frac{\partial L}{\partial \dot Q_j}\dot Q_k\\ &=\sum_{j=1}^n \frac{\partial L}{\partial \dot Q_j}\dot Q_j=\sum_{j=1}^nP_j\dot Q_j\\ \end{aligned} $$

すなわちルジャンドル変換を異なる座標系 $Q_i$ に対して行った場合にも、 得られるハミルトニアンは座標系 $q_i$ で得たものと値が変らない。

まあ、ハミルトニアンが系の全エネルギーに対応するのだから、 座標の取り方で変化するわけはなくて、上記の結果は当たり前と言えば当たり前なのだけれど。

座標変換

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