線形代数I
2次の行列式†
2次の正方行列 
 の行列式は、
であることを高校で学んだ。
ここで、
と書く代わりに
と書くことに注意せよ。
一般に 
 次の正方行列に行列式が定義される。
例:3次の場合
 次の行列式はこのように、
個の要素を掛け合わせたものに符号を付けて足し合わせた形で表せる。
1つの項の中に現れる
個の因子には、
1つの行から、あるいは、1つの列から複数の要素が含まれることは無い。
- 
 は (1,1), (2,2), (3,3)
 
- 
 は (1,2), (2,3), (3,1)
 
- 
 は (1,3), (2,1), (3,2)
 
必ず1つの行、1つの列から1つずつ取られていることを確認せよ。
3次の場合、このようにダブらずに項を作る作り方は上記の6つしか存在しない。
行列式を定義するのに「順列」を考える。
 次の順列とは、
 の数字を任意の順に並べ替えて丸括弧でくくった物。
- 1次:(1)
 
- 2次:(1 2), (2 1)
 
- 3次:(1 2 3), (2 3 1), (3 1 2), (3 2 1), (2 1 3), (1 3 2)
 
(1つの順列の中には同じ数字は複数回現れないことに注意せよ)
n 次の順列は n! 個存在する†
 個存在する。
, 
, 
, 
, 
, 
, 
, ・・・
文字で書くときは†
 などと書く。
 には 
 の自然数が1回ずつ現れる。
転倒数†
 と 
 が、
 にもかかわらず 
 となるとき、
 は「転倒している」と言う。
(
 の順を基準として、入れ替わっていると言う意味)
- (1 2 3) 転倒はない → 転倒数 0
 
- (1 3 2) 3 と 2 が転倒 → 転倒数 1
 
- (2 3 1)  2 と 1, 3 と 1 が転倒 → 転倒数 2
 
- (3 2 1) 3 と 2, 3 と 1, 2 と 1 が転倒 → 転倒数 3
 
間違いなく数えるには、それぞれの数字に対して、
自身よりも右にあって、自身よりも小さな数字の出現回数を数えて、
最後に全て加えればいい。
順列の符号†
 と書く。
順列の符号は 
 の値を取り、
- 
 : 転倒数が偶数の場合
 
- 
 : 転倒数が奇数の場合
 
両方まとめると、転倒数が 
 の時に
隣り合う要素の入れ替えで符号は反転する†
∵ 
 以外の要素の組については転倒数が変化しない。
したがって、
(1) 
 の時、入れ替えにより転倒数は1増える
(2) 
 の時、入れ替えにより転倒数は1減る
どちらの場合も、符号は反転する。
任意の要素の入れ替えで符号は反転する†
∵
とすれば、
番目と
番目、
番目と
番目、…、
番目と
番目をこの順に入れ替えると、入れ替え階数は
回であるから
(左辺)
となる。
さらに、
番目と
番目、
番目と
番目、…、
番目と
番目をこの順に入れ替えると、入れ替え階数は
回であるから
(右辺)
となる。
n次正方行列の行列式†
 とすると、行列式は次のように定義される。
- 
 は、
 次の順列全てについて、それぞれ 
 の値を計算し、
できた 
 個の項を足し合わせた値を意味する。
 
例1: 
 の時:2次の順列を転倒数で分類すれば、
したがって、
例2: 
 の時:3次の順列を転倒数で分類すれば、
したがって、
正則行列の行列式†
任意の正則行列 
 は基本行列の積で書けるから、
となり、
- 
 が正則であること
 
はすべて同値な条件となる。
行列の積と行列式†
 を正則行列とすれば 
 が成り立つ。
(1) 
 が正則な場合
 は基本行列の積で書けるから、
(2) 
 が正則でない場合
 であり、また 
 も正則でないため 
したがって、
行列の転置と行列式†
基本行列の転置をとっても行列式は変化しない†
 および 
 は対称行列であるから自明。
 については、
転置をとっても行列式は変化しない†
 が正則でなければ 
 も正則でないので、
 が正則ならば、基本行列の積で書けて
列に対する性質†
転置に対する定理のおかげで、行に対する性質はすべて列に対しても成立する。
- {行or列}に対する多重線形性
 
- {行or列}に対する交代性
 
- {行or列}に対する基本変形
- ある{行or列}を c 倍すると行列式も c 倍
 
- ある{行or列}に別の{行or列}の c 倍を加えると行列式は変化しない
 
- ある{行or列}と別の{行or列}とを入れ替えると行列式は反転
 
 
- 次数の低下({行or列}方向)
 
- {行or列}に対するその他の性質
- 同じ値を持つ{行or列}が複数存在すると行列式はゼロ
 
- ゼロ{行or列}を含む行列式はゼロ
 
 
次数の低下の一般公式†
ある行、あるいはある列が、1つの要素を除いてゼロの時、要素の添え字に依存する符号を付けて次数を低下できる。
行方向に 
 回、列方向に 
 回、行を入れ替えることで、それぞれ
の形にでき、(1,1) 要素を前に出せば上記公式を得る。
一般の行列式の求め方†
- 行および列に対する基本変形で、ある行または列を掃き出す
 
- 次数を低下する
 
を繰り返すことで、大きな行列でも行列式の値を計算できる。
行列式の展開†
余因子†
ある行列 
 を、
 を中心に次のように分割する。
このとき、
 行目と 
 列目を除いてできる行列式に符号を付けた
を、
 の 
 余因子と呼ぶ。
 の表式は 
 を含まないことに注意せよ。
 である。
i 行目に対して展開する†
j 列目に対して展開する†
ゼロとなる和†
 あるいは 
 の時、
となる。
なぜならこれらは、
- 
 の 
 行目に 
 行目と同じ行を持ってきた
 
- 
 の 
 列目に 
 行目と同じ行を持ってきた
 
行列の行列式となるため。
 の 
 余因子と、
 の 
 余因子とが等しいことに注目せよ。
余因子行列と逆行列†
余因子行列†
余因子行列の性質†
すなわち、
ここからも、
 であれば 
 が正則であることを確認できる。
クラメル(Cramer)の公式†
連立一次方程式を 
、その解を 
 とすると、
 のとき
・・・
と表せる。
 のように列ベクトルに分割する。
したがって、
両辺を 
 で割れば与式を得る。