固有値問題・固有空間・スペクトル分解 の履歴(No.4)
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$n$ 次正方行列 $A$ の固有値問題†
1年生でしっかりやったはずなので、ここでは簡単におさらい。
固有値問題†
ただし
を満たすような
を固有値、
を固有ベクトルと呼ぶ。
これらを求めるのが固有値問題。
変形すると
もし が正則なら となってしまってダメなので、
これは に関する 次方程式( の固有方程式と呼ぶ) となる。これを複素数の範囲で解けば、重複度を含めて 個の が求まる(代数学の基本定理)
固有方程式から得られたそれぞれの について、
を について解くことで、
1コ以上、重複度コ以下の一次独立な固有ベクトルの線形結合の形で の一般解が求まる
練習†
&math( A=\begin{pmatrix} \cos\theta&-\sin\theta\\ \sin\theta&\cos\theta\\ \end{pmatrix} ); について固有値問題を解け。ただし
は回転を表わす行列。一方で、固有値問題は だから、 を掛けても向きの変わらないベクトルを探す問題。すなわち・・・解無しになるのでは? と思うのが正しい感覚。
実際、実数の範囲では固有値は存在しない。一方、複素数の範囲ではどんな行列にも必ず重複度を含めて コの固有値が存在し、それぞれの固有値に対して最低1コの固有ベクトルが見付かる。
回転を表わす上記の に対しても、複素数の範囲ならばちゃんと固有値・固有ベクトルが見付かることを確認せよ。
対角化†
すべての固有値に対して、それぞれちょうど重複度コの一次独立な固有ベクトルが求まる場合には (必ずしも見付からない)、それらをすべて集めると コの一次独立な固有ベクトルが見つかることになる。
これらをまとめて書くと、
&math( A\underbrace{\Big(\bm x_1\ \bm x_2\ \dots\ \bm x_n\Big)}_P &=\Big(\lambda_1\bm x_1\ \lambda_2\bm x_2\ \dots\ \lambda_n\bm x_n\Big)\\ &=\underbrace{\Big(\bm x_1\ \bm x_2\ \dots\ \bm x_n\Big)}_P \underbrace{\begin{pmatrix} \lambda_1\\ &\lambda_2\\ &&\ddots\\ &&&\lambda_n \end{pmatrix}}_\Lambda );
の列ベクトルが一次独立であることから は正則なので、 左から を掛ければ、
として、正則行列 により を対角化可能。
対称行列の場合†
- 固有値 はすべて実数
- 直交行列 により対角化可能
1年生の時に証明した。後でより一般的な証明を与える。
線形変換の固有値問題†
線形変換 に対して、
ただし
を満たすスカラー を固有値、ベクトル を固有ベクトルと呼ぶ。
この方程式の、ある基底 に対する表現は
ただし
となるから、行列 の固有値問題を解けば の固有値問題が解ける。
当然、別の基底 に対する表現も
ただし
となるから、
&math((Tの固有値)&=(T_Bの固有値)\\ &=(T_{B'}の固有値));
であり、固有値は基底の取り方に依存しない。
基底 から基底 への基底の変換行列を とすると、
異なる基底に対する の表現 は互いに相似の関係にあるのだから、固有値が等しいのは当然だ。
一方、固有ベクトル に対する表現 は、 基底の取り方に依存する
練習†
の2次以下の多項式からなる線形空間 において、 次の線形変換を考える。
の固有値、固有ベクトルを求めよ。
&math( T(ax^2+bx+c) &=a(x+1)^2+b(x+1)+c\\ &=ax^2+(2a+b)x+(a+b+c) );
基底を と取れば、
&math( T_B=\begin{pmatrix} 1&0&0\\ 2&1&0\\ 1&1&1\\ \end{pmatrix} );
であるから、
&math( |T_B-\lambda E|= \begin{vmatrix} 1-\lambda&0&0\\ 2&1-\lambda&0\\ 1&1&1-\lambda\\ \end{vmatrix}=(1-\lambda)^3=0 );
&math( (T_B-E)\bm x=\begin{pmatrix} 0&0&0\\ 2&0&0\\ 1&1&0\\ \end{pmatrix}\begin{pmatrix} a\\b\\c \end{pmatrix}=\bm 0 );
と置けば、
&math( \begin{pmatrix} a\\b\\c \end{pmatrix}= s \begin{pmatrix} 0\\0\\1 \end{pmatrix} );
&math( \bm x_B=\begin{pmatrix} 0\\0\\1 \end{pmatrix} ); に対応するベクトルは
すなわち、固有値 、固有ベクトル が答えになる。
特殊な線形変換の固有値問題†
エルミート変換・エルミート行列†
エルミート変換:
エルミート行列:
ただし
は正規直交基底
エルミート変換の正規直交基底に対する表現行列はエルミート行列になる
注:エルミート行列は実行列では対称行列に対応する
エルミート変換の固有値は実数になる†
&math( &(\bm x,T\bm x)= \lambda(\bm x,\bm x)= \lambda|\bm x|^2=\\ &(T\bm x,\bm x)=\overline\lambda(\bm x,\bm x)=\overline\lambda|\bm x|^2\\ );
エルミート変換の異なる固有値に属する固有ベクトルは直交する†
、 のとき、
&math( &(T\bm x,\bm y)=(\lambda\bm x,\bm y)=\overline\lambda(\bm x,\bm y)=\lambda(\bm x,\bm y)=\\ &(\bm x, T^\dagger\bm y)=(\bm x, T\bm y)=(\bm x, \lambda'\bm y)=\lambda'(\bm x, \bm y) );
&math( \therefore (\lambda-\lambda')(\bm x,\bm y)=0 );
ならば、 である。
ユニタリ変換・ユニタリ行列†
ユニタリ変換:
内積を保存する変換のこと
ユニタリ行列:
ただし
は正規直交基底
ユニタリ変換の正規直交基底に対する表現行列はユニタリ行列になる
注:ユニタリ行列は実行列では直交行列に対応する
ユニタリ変換の固有値の絶対値は1になる†
&math( &(T\bm x,T\bm x)=\lambda\overline\lambda(\bm x,\bm x)=|\lambda|^2|\bm x|^2=\\ &(\bm x,\bm x)=|\bm x|^2\\ );
絶対値が1の複素数は と表せるから、
と書けることになる。
ユニタリ変換の異なる固有値に属する固有ベクトルは直交する†
、 のとき、
&math( &(T\bm x,T\bm y)=(\lambda\bm x,\lambda'\bm y)=\overline\lambda\lambda'(\bm x,\bm y)=\\ &(\bm x,\bm y) );
&math( \therefore (\overline\lambda\lambda'-1)(\bm x,\bm y)=0 );
ここで、 より と置けば、
この値は のときゼロにならないから、
例†
ユニタリ行列
&math( A=\begin{pmatrix} \cos\theta&-\sin\theta\\ \sin\theta&\cos\theta\\ \end{pmatrix} ); について上記を確かめよ。
正規行列†
正規行列であること
と、
ユニタリ行列 で対角化可能なこと
とは同値である。
証明は 線形代数Ⅱ/正規行列の対角化可能性 を参照。
固有空間†
ある固有値 に属する固有ベクトルは部分空間 を作る。
ならば であるから、 はベクトルの和とスカラー倍に対して閉じている。
厳密には固有ベクトルの集合にゼロベクトル を加えた集合が部分空間になる
この部分空間 を の に属する固有空間と呼ぶ。
固有値 に属する固有ベクトルの一般解が コの一次独立なベクトル を用いて
と書かれるならば、 は の基底であり、 である。
対角化可能な場合には†
次元線形空間 で定義された線形変換 について、 すべての固有空間 の基底を集めると、 コのベクトルが得られ、それらは一次独立である。
→ の の コの列ベクトルのこと
次元空間は一次独立な コのベクトルによって張られるから、 これらのベクトルは 次元空間の基底となる。
部分空間 の基底が の基底となるから、
ユニタリ行列で対角化可能な場合(正規行列の場合)†
固有空間 の正規直交基底を集めたものが の の コの列ベクトルとなり、これらは の正規直交基底となる。
部分空間 の正規直交基底が の正規直交基底となるから、
スペクトル分解†
を
&math( \bm x&=\bm x_1+\bm x_2+\dots+\bm x_m );
として の成分に分解すると、
&math( A\bm x&=A(\bm x_1+\bm x_2+\dots+\bm x_m)\\ &=\lambda_1\bm x_1+\lambda_2\bm x_2+\dots+\lambda_m\bm x_m );
である。
への 射影演算子をそれぞれ とすると、
&math( \bm x_i=P_i\bm x );
であるから、
&math( A\bm x&=\lambda_1P_i\bm x+\lambda_2P_2\bm x+\dots+\lambda_mP_m\bm x\\ &=(\lambda_1P_i+\lambda_2P_2+\dots+\lambda_mP_m)\bm x\\ );
これが について成り立つから、
と表せる。
この形を正規行列 のスペクトル分解と呼ぶ。