解析力学/ハミルトニアン の履歴(No.5)
更新目次†
ハミルトン力学†
ラグランジアンによる力学では、座標 $q_k$ と速度 $\dot q_k$ を変数としてラグランジアンにより運動を記述した。
同じ運動を、座標 $q_k$ と運動量 $p_k$ を変数としてハミルトニアンにより運動を記述しようというのがハミルトン力学である。
ルジャンドル変換†
物理学系がある特性関数(ここではラグランジアン)によって記述されるとする。これは、その特性関数のみの情報から物理学系の運動が完全に決定される、という意味である。
この特性関数をある変数(ここでは $\dot q_k$)で偏微分した値(ここでは $p_k=\partial L/\partial\dot q_k$)を新たな変数とし、元の変数($\dot q_k$)を消去して新たな特性関数を得る変換はルジャンドル変換と呼ばれ、ラグランジアンからハミルトニアンを得る際や、熱力学における各種の特性関数を得る際などに用いられる。
特性関数を $f(v)$ として $p=\frac{\partial f}{\partial v}$ とすると、
$$ df=p\,dv $$
であるが、新たな関数 $g(p)$ を、
$$ g(p)=pv-f(v) $$
と定義すれば、
$$ dg=p\,dv+v\,dp-df=v\,dp $$
が得られ、すなわち
$$ \frac{\partial g}{\partial p}=v $$
となる。このとき $f(v)$ の持っていた物理系の情報はすべて $g(p)$ に含まれているため、$g(p)$ を新たな特性関数として利用できる。この $f(v)$ から $g(p)$ への変換がルジャンドル変換である。
ルジャンドル変換が有効なのは元の変数 $v$ と新たな変数 $p$ との間で1対1の相互変換が可能な場合に限られる。これは $v$ に対して $p=\partial f/\partial v$ が単調増加あるいは単調減少することと同義であり、$f(v)$ が定義域全域にわたり上に凸あるいは下に凸であることと同義である。
ハミルトニアン†
ラグランジアンに対して $\dot q_k$ から $p_k$ へのルジャンドル変換を施した、
$$ H(q_1,q_2,\dots,q_n,p_1,p_2,\dots,p_n)=\sum_{k=1}^n p_k\dot q_k-L(q_1,q_2,\dots,q_n,\dot q_1,\dot q_2,\dots,\dot q_n) $$
をハミルトニアンと呼ぶ。 ラグランジアンが $q_i,\dot q_i$ の関数であるのに対して、 ハミルトニアンが $q_i,p_i$ の関数となっていることに注目せよ。
先に見たように $L=T-U$ と表されるときハミルトニアンは系のエネルギーに相当するため、 「系のエネルギーを座標と運動量で表したものがハミルトニアンである」と言って良い。 ただしここでの「座標」、「運動量」は「一般座標」、「一般運動量」である。
ハミルトニアンの全微分は
$$ \begin{aligned} dH &=\sum_{k=1}^n\big(\dot q_k\,dp_k+\cancel{p_k\,d\dot q_k}\big)-\underbrace{\sum_{k=1}^n\big(\cancel{p_k\,d\dot q_k}+\dot p_k\,d q_k\big)}_{=\,dL}\\ &=\sum_{k=1}^n\big(\dot q_k\,dp_k-\dot p_k\,d q_k\big)\\ \end{aligned} $$
となり、
$$ \dot q_k=\frac{\partial H}{\partial p_k} $$
$$ \dot p_k=-\frac{\partial H}{\partial q_k} $$
が成り立つことが分かる。この方程式はハミルトンの正準方程式と呼ばれる。
ラグランジュの運動方程式に現れた $\partial/\partial q_i$ が $\dot q_i$ を固定した偏微分だったのに対して、ハミルトンの運動方程式(正準方程式)に現れる $\partial/\partial q_i$ が $p_i$ を固定した偏微分になっていることに注意せよ。
上記の計算を逆にたどればラグランジアンの運動方程式 $\dot p_i=\partial L/\partial \dot q_i$ が得られるるため、この正準方程式はラグランジアンの運動方程式と同値であり、やはり系の運動方程式を与える。
例†
実際に上の振り子の例で試すと、
$$L=\frac12 mr^2\dot\theta^2-mgr(1-\cos\theta)$$
$$ p_\theta=\frac{\partial L}{\partial \dot \theta}=mr^2\dot\theta $$
より、
$$ \begin{aligned} H &=p_\theta\dot\theta-L\\ &=p_\theta\dot\theta-\big[\frac12 mr^2\dot\theta^2-mgr(1-\cos\theta)\big]\\ &=p_\theta\dot\theta-\big[\frac12 p_\theta\dot\theta-mgr(1-\cos\theta)\big]\\ &=\frac12p_\theta\dot\theta+mgr(1-\cos\theta)\\ &=T+U\\ &=\frac1{2mr^2}p_\theta^2+mgr(1-\cos\theta)\\ \end{aligned} $$
となり、ハミルトニアンが運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和、すなわち系のエネルギーそのものを表すこと、そして、$p_\theta$ が $\dot\theta$ を含むため、これで $\dot\theta$ を消去して $\theta,p_\theta$ のみの関数として表せること、を確かめられる。
そしてハミルトンの正準方程式は、
$$ \dot \theta=\frac{\partial H}{\partial p_k}=\frac1{mr^2}p_\theta\ \ \ \to\ \ \ p_\theta=mr^2\dot\theta $$
$$ \dot p_k=-\frac{\partial H}{\partial q_k}=-mgr\sin\theta $$
となり、第1式から運動量の定義が、第2式から運動方程式が出る。
これらが質点系や剛体系のハミルトニアンの一般的な性質として成り立つことを以下に見よう。
ハミルトニアンと最小作用の法則†
ラグランジアンによる最小作用の法則では作用を $q_i(t)$ の汎関数とみなして最小値を探した。
これに対して、
ハミルトニアンによる最小作用の法則は関数 $q_i(t), p_i(t)$ を独立関数とみなし、$q_i(t), p_i(t)$ を自由に動かして最小値を探す問題として定式化される。
このことを以下に見よう。$p_i(t_1),p_i(t_2)$ を固定した上で $p_i(t),q_i(t)$ を自由に選べると考えれば、
$$ \begin{aligned} dS&=S[q_i+\delta q_i, p_i+\delta p_i]\\ &=\sum_{i=1}^n\int_{t_1}^{t_2} \Big[\delta p_i\dot q_i+p_i\frac{d \delta q_i}{dt}-\frac{\partial H}{\partial q_i}\delta q_i-\frac{\partial H}{\partial p_i}\delta p_i\bigg]dt\\ &=\cancel{\sum_{i=1}^n\big[p_i\delta q_i\big]_{t_1}^{t_2}}+\sum_{i=1}^n\int_{t_1}^{t_2} \Big[\delta p_i\dot q_i-\dot p_i \delta q_i-\frac{\partial H}{\partial q_i}\delta q_i-\frac{\partial H}{\partial p_i}\delta p_i\bigg]dt\\ &=\sum_{i=1}^n\int_{t_1}^{t_2} \Big[\underbrace{\Big(\dot q_i-\frac{\partial H}{\partial p_i}\Big)}_{\delta S/\delta p_i}\delta p_i\underbrace{-\Big(\dot p_i +\frac{\partial H}{\partial q_i}\Big)}_{\delta S/\delta q_i}\delta q_i\bigg]dt\\ \end{aligned} $$
となるが、作用が極小値を取る条件 $\delta S/\delta q_i=0, \delta S/\delta p_i=0$ は、
$$ \dot q_i=\frac{\partial H}{\partial p_i} $$
$$ \dot p_i =-\frac{\partial H}{\partial q_i} $$
を与え、これはハミルトンの正準方程式に他ならない。