量子力学Ⅰ/電子の波動方程式 のバックアップ(No.6)

更新


量子力学I?

波動方程式

電子は粒子と波の両方の性質を持つことが分かってきた。

量子力学では電子の「波動方程式」により電子の運動を記述する。

準備:波動を表わす関数

速度 $v$ で移動する関数

f(x-d) は、 f(x) x の正方向に d だけ移動した関数になる。

translation.png

f(x,t)=f(x-vt,0) は時刻 t=0 の時の関数形 f(x,0) が時刻 t において vt だけ移動することを表わす。

すなわち、 f(x,0) の関数が形を変えずに x の正方向に速度 v で伝播する関数になる。

位相速度 $v$ で伝播(でんぱ)する正弦波(一次元)

f(x,0)=\cos(2\pi x/\lambda)=\cos(kx) と置けば、これは波長 \lambda 、 波数 k=2\pi/\lambda の正弦波である。

したがって、 f(x,t)=f(x-vt,0)=\cos(k (x-vt)) は、波数 k の正弦波が速度 v で伝播する関数になる。

wave-function.gif

\cos(k (x-vt))=\cos(kx-\omega t) と書けば、 この関数が時間に対して角振動数 \omega=kv で振動することが分かる。

速度 v の波が1周期 T の間に進む距離が波長 \lambda だから、 \lambda=vT

両者の逆数を取って、 2\pi v/\lambda=2\pi/T

ここから得られる \omega=vk と整合性がとれている。

位相速度 $v$ で伝播する平面波(三次元)

3次元空間で考えると、 f(\bm x,t)=\cos(k x-\omega t) という関数は x 軸方向に進む平面波を表わす。

一方、3次元空間内で \bm k 方向に進む平面波を表わす式は f(\bm x,t)=\cos(\bm k\cdot\bm x-\omega t) である。

なぜなら・・・

まず、 |\bm e|=1 のとき、 \bm e\cdot\bm x \bm x \bm e 方向成分の長さ

\bm e\cdot\bm x=d は原点から距離 d のところにある \bm e に垂直な平面

したがって、 f(\bm x)=\cos(\bm e\cdot\bm x) は、 \bm e 方向に波長 2\pi 、波数 1 を持つ正弦波である。

f(\bm x)=\cos(\bm k\cdot\bm x)=\cos(|\bm k|\bm e_{\bm k}\cdot\bm x) なら、 \bm k 方向に波数 |\bm k| の正弦波である。

さらに、 f(\bm x,t)=\cos(\bm k\cdot\bm x-\omega t) とすれば、 波数 k=|\bm k| 、周期 \omega 、速度 v=\omega/k \bm k 方向に伝播する平面波を表わす。 (下図は二次元の場合)

wave-function-2d.gif

演習:波動方程式(電磁波の場合)

平面波 \bm E(\bm x,t)=\bm E_0\cos(\bm k\cdot\bm x-\omega t) が電磁波の波動方程式

  \nabla^2\bm E=\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2} \bm E

を満たすことを示したい。

(1) \nabla^2 \bm E=-k^2\bm E となることを示せ

(2) \frac{\PD^2}{\PD t^2} \bm E=-\omega^2\bm E となることを示せ

(3) \nabla^2\bm E=\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2} \bm E となるためには k \omega の間にどのような関係が必要か

(4) 速度 c で進む波の周期 T と波長 \lambda との間には \lambda=cT の関係がある(1回振動する間に進む距離が波長である)。 \lambda,T をそれぞれ k,\omega で書き直して、(3) と同じ式が得られることを示せ

(5) より一般に、任意の関数 f(x) に対して、 \bm E(\bm x,t)=\bm E_0 f(\bm k\cdot\bm x\pm\omega t) \nabla^2\bm E=\frac{1}{c^2}\frac{\PD^2}{\PD t^2} \bm E を満たすことを示せ

自由な電子の波動方程式

外力を受けない(自由な)電子の満たすべき波動方程式はどのようなものであろうか?

外場がなければ電子のエネルギーは運動エネルギーのみで書けるから、

  • エネルギーと周波数の関係 E=h\nu=\hbar\omega
  • 運動量と波数の関係    \bm p=\hbar\bm k
  • エネルギーと運動量の関係 E=\frac{p^2}{2m}

これらを組み合わせると、

  \hbar\omega=\frac{\hbar^2 k^2}{2m}

が得られる。この条件を要求するような波動方程式を作ろう!

電子波を \psi(\bm x,t)=\psi_0\cos(\bm k\cdot\bm x-\omega t) と置いて、 \omega,k^2 が出てくるように微分すると、

  \frac{\PD}{\PD t}\psi=-\omega\psi_0\sin(\bm k\cdot\bm x-\omega t)

  \nabla^2\psi=-k^2\psi_0\cos(\bm k\cdot\bm x-\omega t)

となって、上では \sin 、下では \cos が現れてきてしまい両者を等号で結べない。 \cos \sin は微分により形が変わってしまうのが問題。*1条件式の両辺を二乗して k^4 \omega^2 の式にすれば \cos \sin でも式は作れるが、それでは物理現象と合う方程式が得られない

微分で形の変わらない関数を使ってみる。

  \psi(\bm x,t)=\psi_0e^{i(\bm k\cdot\bm x-\omega t)} =\psi_0\{\cos(\bm k\cdot\bm x-\omega t)+i\sin(\bm k\cdot\bm x-\omega t)\}

これも波数 \bm k 、角周波数 \omega の波動を表わす。*2関数値は複素数になるし \psi_0 も一般には複素数値である

\omega,k^2 が出てくるように微分すると、

  \frac{\PD}{\PD t}\psi(\bm x,t)=-i\omega\psi(\bm x,t)

  \nabla^2\psi(\bm x,t)=-k^2\psi(\bm x,t)

これらを用いて \hbar\omega\psi=\frac{\hbar^2 k^2}{2m}\psi を書き換えると、

  i\hbar\frac{\PD}{\PD t}\psi(\bm x,t)=-\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2\psi(\bm x,t)

これが自由な電子に対するシュレーディンガー方程式である。

外力を受ける場合

電子に外力がかかるとき、電子の感じるポテンシャルエネルギーを V(\bm x,t) とすると、 電子のエネルギーは

\frac{p^2}{2m}\to \frac{p^2}{2m}+V(\bm x,t)

となる。そこで、シュレーディンガー方程式も、

i\hbar\frac{\PD}{\PD t}\psi(\bm x,t)=\left(-\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2+V(\bm x,t)\right)\psi(\bm x,t)

とすればよい。

当然、上記の導出には任意性があるから、 この式が正しいかどうかは実験結果と合うかどうかで判断することになるが、 後に非常に良い一致を示すことが確かめられる。

シュレーディンガー方程式に現れる得体の知れない関数 \psi(\bm x,t) は 「電子の波動関数」と呼ばれる。

時間に依存しないシュレーディンガー方程式

シュレーディンガー方程式を実験と比べるために、 「波動関数の空間分布が時間によらず変化しない場合」を考える。 安定に存在する原子の中の電子はこのような「定常状態」にあるはずである。

すなわち、想定するのは \psi(\bm x,t)=\Psi(\bm x) の形であるが、 ここではひとまず \psi(\bm x,t)=\Psi(\bm x)\Phi(t) のように変数分離ができることだけを仮定しよう。

\hat H=-\hbar^2\nabla^2/2m+V(\bm x,t) と置けば、 \hat H \Psi(\bm x) のみに作用し、 \Phi(t) に作用しないから、

  i\hbar\frac{\PD}{\PD t}\Psi(\bm x)\Phi(t)=\hat H\Psi(\bm x)\Phi(t)

  \Psi(\bm x)\cdot i\hbar\frac{\PD}{\PD t}\Phi(t)=\Phi(t)\cdot \hat H\Psi(\bm x)

  \frac{i\hbar\frac{\PD}{\PD t}\Phi(t)}{\Phi(t)}=\frac{\hat H\Psi(\bm x)}{\Psi(\bm x)}

となる。左辺は t だけの関数、右辺は \bm x だけの関数であり、 それらが t,\bm x によらず等しいなら、これらはある定数 E に等しくなければならない。

  \frac{i\hbar\frac{\PD}{\PD t}\Phi(t)}{\Phi(t)}=\frac{\hat H\Psi(\bm x)}{\Psi(\bm x)}=E

すなわち、

  i\hbar\frac{\PD}{\PD t}\Phi(t)=E\Phi(t)

  \hat H\Psi(\bm x)=E\Psi(\bm x)

上の式はすぐに解けて、

  \Phi(t)=\Phi(0)e^{-iEt/\hbar}

時間依存性は複素数の位相が一定速度で回転するのみであり、 絶対値は変化しないことが分かる。

すなわち、始めに想定した \psi(\bm x,t)=\Psi(\bm x) は満たさないが、 |\psi(\bm x,t)|=|\Psi(\bm x)| を満たすことになり、 「位相を除いて時間に依存しない解」が得られた。

残った \Psi(\bm x) に対する方程式

  \hat H\Psi(\bm x)=\left(-\frac{\hbar^2\nabla^2}{2m}+V(\bm x,t)\right)\Psi(\bm x)=E\Psi(\bm x)

は時間に依存しないシュレーディンガー方程式、と呼ばれる。

エネルギー固有値

\hat H=-\hbar^2\nabla^2/2m+V(\bm x,t) はある関数を別の関数に変換する線型な演算子と見なすことができる。

\Psi_1'(\bm x)=\hat H\Psi_1(\bm x) , \Psi_2'(\bm x)=\hat H\Psi_2(\bm x) ならば、

  a\Psi_1'(\bm x)+b\Psi_2'(\bm x)=\hat H(a\Psi_1(\bm x)+b\Psi_2(\bm x))

線形代数Ⅱで学んだように、線型な演算子 \hat H に対して固有値問題を考えることができて、 時間に依存しないシュレーディンガー方程式はそのまま \hat H の固有値方程式である(ここでは E が固有値)。

  \hat H\Psi(\bm x)=E\Psi(\bm x)

これを解いて固有値 E_0,E_1,E_2,\dots に対する 固有関数 \Psi_0,\Psi_1,\Psi_2,\dots が求まれば、

  \phi_k(\bm x,t)=e^{-iE_kt/\hbar}\Psi_k(\bm x)

として(絶対値が)時間に依存しない波動関数が得られる。

上記の導出課程より、これ以外に時間に依存しない定常的な解は存在しない。

シュレーディンガー方程式の導出課程から \hat H はエネルギーを表わすから、 この固有値 E_k は波動関数 \phi_k の持つエネルギーを表わすと期待される。

シュレーディンガー方程式の有用性

水素の原子核が電子に及ぼすポテンシャルは V(\bm x,t)=-\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0|\bm x|} である。

このポテンシャルに対して上記時間に依存しないシュレーディンガー方程式を解くと、 とびとびのエネルギー固有値 E_0,E_1,E_2,\dots が得られ、 その値はボーアの量子条件をうまく説明する。

シュレーディンガー方程式は正しそう!

質問・コメント





*1 条件式の両辺を二乗して k^4 \omega^2 の式にすれば \cos \sin でも式は作れるが、それでは物理現象と合う方程式が得られない
*2 関数値は複素数になるし \psi_0 も一般には複素数値である

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