量子力学Ⅰ/平均場近似 のバックアップの現在との差分(No.10)

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[[量子力学Ⅰ]]

* 目次 [#f10aabe3]

#contents
&katex();

* 平均場近似による1体問題化 [#gab67a11]

前述のように、「粒子間の相互作用がないこと」を仮定すれば、
前述のように、「個々の粒子の系が独立しており、粒子間に相互作用がないこと」を仮定すれば、
1粒子波動関数を複数掛け合わせて、多粒子シュレーディンガー方程式を解ける。

しかし、「粒子間の相互作用がないこと」を要件とする限り、
しかし、「個々の粒子の系が独立しており、粒子間に相互作用がないこと」を要件とする限り、
興味のある問題にはまったく適当できない。

そこで、「擬似的に相互作用をなくすために」粒子・粒子間の相互作用を平均化して、
ポテンシャル &math(V); に含めてしまう___平均場近似___が行われる。
そこで、「___擬似的に___相互作用をなくし、独立の問題とするために」粒子・粒子間の相互作用を平均化して、
一体問題のポテンシャル $V$ に含めてしまうという___平均場近似___が行われる。

* ハートレーの方法 [#i288001d]
* ハートリーの方法 [#i288001d]

先に見た水素様「分子」のポテンシャル

 &math(
$$\begin{aligned}
V(\bm r_1,\bm r_2)&=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\Biggl[
\underbrace{
\frac{-1}{|\bm r_1-\bm R_1|}+
\frac{-1}{|\bm r_1-\bm R_2|}}_{電子1と原子核}+
\frac{-1}{|\bm r_1-\bm R_2|}}_\text{電子1と原子核}+
\underbrace{
\frac{-1}{|\bm r_2-\bm R_1|}+
\frac{-1}{|\bm r_2-\bm R_2|}}_{電子2と原子核}+
\underbrace{\frac{+1}{|\bm r_1-\bm r_2|}}_{電子間相互作用}
\frac{-1}{|\bm r_2-\bm R_2|}}_\text{電子2と原子核}+
\underbrace{\frac{+1}{|\bm r_1-\bm r_2|}}_\text{電子間相互作用}
\Biggr]\\
&=V_{1体}(\bm r_1)+V_{1体}(\bm r_2)+V_{2体}(\bm r_1,\bm r_2)
); 
&=V_\text{1体}(\bm r_1)+V_\text{1体}(\bm r_2)+V_\text{2体}(\bm r_1,\bm r_2)
\end{aligned}$$ 

でもそうだったように、
粒子間の相互作用が「2体相互作用の重ね合わせ」で書けるとすれば、
粒子間の相互作用がすべて、電子と陽子、電子と電子などのような「2体間相互作用」で書けるとすれば、
多体問題のポテンシャルを一般に次のように表せる。

 &math(
$$\begin{aligned}
V(\bm r_1,\bm r_2,\dots,\bm r_n)=
\underbrace{\sum_{j=1}^n V_j(\bm r_j)}_{1粒子ポテンシャル}+
\underbrace{\sum_{j=1}^n\sum_{k=j+1}^n V_{j,k}(\bm r_j,\bm r_k)}_{2粒子ポテンシャル}
);
\underbrace{\sum_{j=1}^n V_j(\bm r_j)}_\text{1粒子ポテンシャル}+
\underbrace{\sum_{j=1}^n\sum_{k=j+1}^n V_{j,k}(\bm r_j,\bm r_k)}_\text{2粒子ポテンシャル}
\end{aligned}$$

(相互作用ポテンシャルを2重にカウントしないため、
2つ目の &math(\sum); の &math(k); は &math(j+1); から始まっている)
- 原子核を不動としたため2体相互作用のはずが1粒子ポテンシャルになっている
- 相互作用ポテンシャルを2重にカウントしないため、
2つ目の $\sum$ の $k$ は $j+1$ から始まっている

このようなポテンシャルを仮定した場合、
例えば粒子 &math(j); の感じるポテンシャルは他の粒子の位置により変化するのであるが、
例えば粒子 $j$ の感じるポテンシャルは他の粒子の位置により変化するのであるが、

 &math(
$$\begin{aligned}
v_j(\bm r_j)&=V_j(\bm r_j)+\sum_{k\ne j} V_{j,k}(\bm r_j,\bm r_k)\\
);
\end{aligned}$$

これを "平均場" で置き換えよう。
そうなると問題を解くのが非常に難しくなってしまうため、これを "平均場" で置き換える。

 &math(
$$\begin{aligned}
\overline{v_j}(\bm r_j)&= V_j(\bm r_j)+\sum_{k\ne j} \overline{ V_{j,k}}(\bm r_j)\\
);
\end{aligned}$$

ただし、

 &math(\overline{ V_{j,k}}(\bm r_j)=\int V_{j,k}(\bm r_j,\bm r_k)\,|\varphi_k(\bm r_k)|^2\,d\bm r_k);
$$\begin{aligned}\overline{ V_{j,k}}(\bm r_j)=\int V_{j,k}(\bm r_j,\bm r_k)\,|\varphi_k(\bm r_k)|^2\,d\bm r_k\end{aligned}$$

であり、これはポテンシャル &math(V_{j,k}); を粒子 &math(k); が &math(\bm r_k); 
に見いだされる確率 &math(|\varphi_k(\bm r_k)|^2); で重み付けして平均したものである。
&math(k); 番目の粒子は様々に動き回るが、その際 &math(\bm r_k); に存在する確率が
&math(|\varphi_k(\bm r_k)|^2); であることから、粒子 &math(j); 
であり、これはポテンシャル $V_{j,k}$ を粒子 $k$ が $\bm r_k$ 
に見いだされる確率 $|\varphi_k(\bm r_k)|^2$ で重み付けして平均したものである。
$k$ 番目の粒子は様々に動き回るが、その際 $\bm r_k$ に存在する確率が
$|\varphi_k(\bm r_k)|^2$ であることから、粒子 $j$ 
の感じるであろう「平均的なポテンシャル」を上記のように求めたわけである。

この &math(\overline{v_j}(\bm r_j)); に対する「1体のシュレーディンガー方程式」
を解いて、粒子 &math(j); に対する一体の波動関数 &math(\varphi_j(\bm r_j)); を得る。
この $\overline{v_j}(\bm r_j)$ に対する「1体のシュレーディンガー方程式」は

 &math(
$$\begin{aligned}
\left[-\frac{\hbar^2}{2m_j}\nabla_{r_j}^2+\overline{v_j}(\bm r_j)\right]\varphi_j(\bm r_j)=\varepsilon_j\varphi_j(\bm r_j)
);
\end{aligned}$$

このようにして、平均場近似により多体問題が1体問題に変換されたことになる。
となる。平均場近似により多体問題が1体問題に変換されたことになる。

ただし、&math(\overline{v_j}(\bm r_j)); を求めるのに &math(\set{\varphi_j(\bm r_j)}); が必要で、
個々の &math(\varphi_j(\bm r_j)); を求めるのに &math(\overline{v_j}(\bm r_j)); が必要なので、
この方程式はそのままでは解けない。
一応、これを解けば粒子 $j$ に対する一体の波動関数 $\varphi_j(\bm r_j)$ が得られることになるが、そもそも

始めに適当な &math(\overline{v_j}(\bm r_j)); を仮定して &math(\varphi_j(\bm r_j)); を求め、
そこから新しい &math(\overline{v_j}(\bm r_j)); を求め、、、、などと繰り返して、
「全体としてつじつまの合う(セルフコンシステントな=自己無頓着な)」解 
&math(\varphi_j(\bm r_j)); を得るような手順(= 自己無頓着場の方法 あるいは
セルフコンシステント法)が必要となる。
- 個々の $\varphi_j(\bm r_j)$ を求めるのに $\overline{v_j}(\bm r_j)$ が必要
- $\overline{v_j}(\bm r_j)$ を求めるのに $\varphi_j(\bm r_j)$ 以外のすべての $\{\varphi_j(\bm r_j)\}$ が必要

そのようにして求めた &math(\varphi_j(\bm r_j)); から
であるから、鶏が先か、卵が先か、ではないが、この方程式はそのままでは解けない。

 &math(\Phi(\bm r_1,\bm r_2,\dots,\bm r_n)=\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)); 
そこで、

を作れば、1体のハミルトニアン
- 始めに適当な $\overline{v_j}(\bm r_j)$ を仮定して $\varphi_j(\bm r_j)$ を求める
- 求まった $\varphi_j(\bm r_j)$ から得られる新しい $\overline{v_j}(\bm r_j)$ から新しい $\varphi_j(\bm r_j)$ を求める
- 求まった $\varphi_j(\bm r_j)$ から得られる新しい $\overline{v_j}(\bm r_j)$ から新しい $\varphi_j(\bm r_j)$ を求める
- ・・・

 &math(
と繰り返していくと、うまく行けば $\varphi_j(\bm r_j)$ はある値に収束する。

この収束した $\varphi_j(\bm r_j)$ は、そこから得られる $\overline{v_j}(\bm r_j)$ に対する1粒子シュレーディンガー方程式を満たすことになるため「全体としてつじつまが合っている」ことになる。

そのようにして「全体としてつじつまの合う(セルフコンシステントな=自己&ruby(むどうちゃく){無撞着};な)」解 
$\varphi_j(\bm r_j)$ を得るような手順を自己無撞着場の方法 あるいは
セルフコンシステント法 と呼ぶ。

そのようにして求めた $\varphi_j(\bm r_j)$ からハートリー積

$$\begin{aligned}\Phi(\bm r_1,\bm r_2,\dots,\bm r_n)=\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\end{aligned}$$ 

を作れば、これが多体のハミルトニアンの近似的な固有関数になっていることを確かめよう。1体のハミルトニアン

$$\begin{aligned}
&\hat h_j=-\frac{\hbar^2}{2m_j}\nabla_{r_j}+V_j(\bm r_j)+\sum_{k\ne j}\overline{V_{jk}}(\bm r_j)\\
);
\end{aligned}$$

をにらみつつ、

 &math(
$$\begin{aligned}
&\hat H\Phi(\bm r_1,\bm r_2,\dots,\bm r_n)\\
&=\left[-\sum_j\frac{\hbar^2}{2m_j}\nabla_{r_j}+\sum_jV_j(\bm r_j)+\sum_j\sum_{k>j}V_{jk}(\bm r_j,\bm r_k)\right]\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\
&\sim\sum_j\left[-\frac{\hbar^2}{2m_j}\nabla_{r_j}+V_j(\bm r_j)+\sum_{k>j}\overline{V_{jk}}(\bm r_j)\right]\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\
&=\sum_j\left[\hat h_j-\sum_{k<j}\overline{V_{jk}}(\bm r_j)\right]\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\
&\sim\underbrace{\left[\sum_j\varepsilon_j-\sum_j\sum_{k<j}\overline{V_{jk}}\right]}_{E}\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\
&=\left[-\sum_j\frac{\hbar^2}{2m_j}\nabla_{r_j}+\sum_jV_j(\bm r_j)+\frac{1}{2}\sum_j\sum_{k\ne j}V_{jk}(\bm r_j,\bm r_k)\right]\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\
&\sim\sum_j\left[-\frac{\hbar^2}{2m_j}\nabla_{r_j}+V_j(\bm r_j)+\frac{1}{2}\sum_{k\ne j}\overline{V_{jk}}(\bm r_j)\right]\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\
&=\sum_j\left[\hat h_j-\frac{1}{2}\sum_{k\ne j}\overline{V_{jk}}(\bm r_j)\right]\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\
&\sim\underbrace{\left[\sum_j\varepsilon_j-\frac{1}{2}\sum_j\sum_{k\ne j}\overline{V_{jk}}\right]}_{E}\varphi_1(\bm r_1)\varphi_2(\bm r_2)\dots\varphi_n(\bm r_n)\\
&=E\Psi(\bm r_1,\bm r_2,\dots,\bm r_n)
);
\end{aligned}$$

のように、多粒子ハミルトニアンの(近似的な)固有関数になっていることが分かる。

ここで、

 &math(
\overline{V_{jk}}=\iint V_{jk}(\bm r_j,\bm r_k)\,|\varphi_j(\bm r_j)|^2\,|\varphi_k(\bm r_k)|^2\,d\bm r_j\,d\bm r_k
);
$$\begin{aligned}
\overline{V_{jk}}
&=\int \overline{ V_{j,k}}(\bm r_j)\,|\varphi_j(\bm r_j)|^2d\bm r_j\\
&=\iint V_{jk}(\bm r_j,\bm r_k)\,|\varphi_j(\bm r_j)|^2\,|\varphi_k(\bm r_k)|^2\,d\bm r_j\,d\bm r_k
\end{aligned}$$

とした。

このときのエネルギー固有は、

 &math(E=\sum_j\varepsilon_j-\sum_j\sum_{k<j}\overline{V_{jk}});
$$\begin{aligned}E=\sum_j\varepsilon_j-\frac{1}{2}\sum_j\sum_{k\ne j}\overline{V_{jk}}\end{aligned}$$

であるから、1体問題のエネルギー固有値の単純な足し算にはなっていない。
これは、2粒子ポテンシャルのエネルギーを &math(j); と &math(k); 
これは、2粒子ポテンシャルのエネルギーを $j$ と $k$ 
とで2回取り込んでしまっているためであり、上式の2つ目のシグマはこの分を差し引いているものである。

** 平均場近似の変分法による理解 [#o19b35d7]

上記のようにして求まる解が「多体波動関数を1つのハートレー積で表示する場合」の最適解となることを「変分法」(量子力学II で学ぶ)を用いて確かめることができる。
上記のようにして求まる解が「多体波動関数を1つのハートリー積で表示する場合の最適解」であることを「変分法」(量子力学II で学ぶ)を用いて確かめることができる。→ [[ハートリー方程式の導出>@量子力学Ⅰ/ハートレー方程式の導出]]

- 波動関数をある形に規定する &math(\phi_\mathrm{model});
- その形の関数で、もっとも「正確な解」に近いもの(&math(\|\Phi_\mathrm{model}-\Phi_\mathrm{exact}\|);最小)を探したければ
- エネルギー期待値を最小化するものを求めれば良い
-- すなわち、&math(\overline E=\int \Phi^*\hat H\Phi dx); を最小化する &math(\Phi); を求めればそれが最適解になる
- 変分法の考え方
-- あるハミルトニアンに対する基底状態 $\varphi_0$ は、最低のエネルギー固有値 $\varepsilon_0$ に対する固有状態である
-- 任意の波動関数のエネルギー期待値は基底エネルギーを下回ることはなく、その最低値である基底エネルギーを与えるのは基底状態のみである。これは、任意の波動関数 $\varphi$ をエネルギー固有関数 $\{\varphi_n\}$ の線形結合に分解すると $\varphi=\sum_nc_n\varphi_n$、そのエネルギー期待値は $\langle H\rangle=\sum_n\varepsilon_n|c_n|^2$ で与えられることから示される。
-- したがって、もし(いくつかの)パラメータを含む何らかの試行的な波動関数を作ったとして、そのパラメータを調節することで厳密な基底状態を表せるのであれば、それはエネルギー期待値が最小になるようにパラメータを選んだところにあるはずである
-- そこから発展させて、試行関数が厳密解を表せない場合にも、なるべく良い近似解を作るのには波動関数のエネルギー期待値を最小化するようにパラメータを調節するのが良い指針になるはずだ

というのが変分法の原理。
このように、エネルギー期待値が小さいことを、その波動関数が基底状態にどれだけ近いかを図るバロメータとして用いよう、というのが変分法の基礎となる。

多体波動関数を1つのハートレー積で表して、エネルギー期待値を最低にする条件
(&math(\frac{\delta}{\delta\varphi_j}\overline E=0);)を求めると、
上記で求めた「平均場を感じる粒子の波動方程式」が出てくるのである。
多体波動関数を1つのハートリー積で表して、エネルギー期待値を最低にする条件
($\frac{\delta}{\delta\varphi_j}\overline E=0$)を求めると、
上記で求めた「平均場を感じる粒子の波動方程式」が出てくる、
というのがハートリー法の正しい理解となる。

** 問題点 [#ub870885]

ハートレー法にはいくつかの問題点があり、実用性には乏しい。
ハートリー法にはいくつかの問題点があり、実用性には乏しい。

- 波動関数が対称化・反対称化されていない(実在粒子の波動関数として正しくない)
- 粒子毎にハミルトニアンが異なり、1体波動関数間の直交性が保証されない
- 波動関数が対称化・反対称化されていない(多粒子波動関数として正しくない)
- 粒子毎にハミルトニアンが異なり、1体波動関数間の直交性が保証されないため扱いづらい

そこで、ハートレー・フォック法を始めとした、
そこで、ハートリー・フォック法を始めとした、
さらに実用的な1粒子問題化の方法が開発されている。

* ハートレー・フォックの方法 [#q6dc1c57]
* ハートリー・フォックの方法 [#q6dc1c57]

多体波動関数を「1つのハートレー積で表示する場合」の最適解を求める方法がハートレー法だったのに対して、多体波動関数を「1つのスレイター行列で表示する場合」の最適解を求める方法がハートレー・フォック法である。
「1つのハートリー積」として表示できる波動関数の中から最も基底状態に近い解(エネルギー期待値が小さくなる解)を求める方法がハートリー法だったのに対して、「1つのスレーター行列」で表示できる波動関数の中から最も基底状態に近い解(エネルギー期待値が小さくなる解)を求める方法がハートリー・フォック法である。ハートリー・フォック法からは対称あるいは反対称な解が得られるため、より実用的な方法となっている。

ハートレー・フォック法ではハートレー法とは異なり、1粒子方程式(「フォック方程式」と呼ばれる)はすべての粒子に対して共通となる。したがって、これを解けば一連の正規直交完全な1粒子波動関数が得られ、そこから &math(n); 個を取り出したスレイター行列が求める解となる。
ここでは詳しい導出は省略するが、ハートリー・フォック法ではハートリー法とは異なり、すべての粒子に対して共通の1粒子方程式(エルミート演算子に対する固有値方程式)が得られる(これは、波動関数として粒子の入れ替えに対称・反対称な関数を仮定し、同種粒子の不可弁別性を入れたことの帰結である)。したがって、これを解けば一連の正規直交完全な1粒子波動関数が得られ、その固有状態をエネルギーの低い方から $n$ 個取り出して作ったスレーター行列から基底状態を表す解が得られる。ただし、ハートリー法と同様に1粒子方程式に波動関数自体を含むため、これを解くにはセルフコンシステントな方法が必要となる。

フォック方程式には、ハートレー法でも現れた
ハートリー・フォック近似により得られるフェルミオンに対する1粒子方程式はフォック方程式と呼ばれる((ボゾンに対する方程式は [[Wikipedia:グロス=ピタエフスキー方程式]] と呼ばれる))。
そこにはハートリー法でも現れた
- 1粒子ポテンシャル項~
&math(\biggl[-\frac{1}{2}\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\sum_A\frac{1}{|\bm{r}-\bm{R}_A|}\biggr]\phi(\bm r));
- 平均化された2粒子ポテンシャル項(クーロン項)~
&math(\biggl[\frac{1}{2}\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\sum_j\int dx'\ \frac{|\phi_j(x')|^2}{|\bm{r}-\bm{r}'|}\biggr]\phi(\bm r));
~
$V_1(\bm r)\varphi(\bm r)$~
~
- 平均化された2粒子ポテンシャル項(電子ではクーロン項と呼ばれる)~
(ただしハートリー法とは異なり $k\ne j$ の条件がなくなっている)~
~
$\underbrace{\biggl[\sum_j\int d\bm r'\ V_2(\bm r,\bm r')|\varphi_j(\bm r')|^2\biggr]}_{\overline {V_2^{(j)}}(\bm r)}\varphi(\bm r)$~
~

の他に、

- 波動関数が反対称化されたことを反映した「交換項」~
&math(\biggl[-\frac{1}{2}\sum_j\int dx'\ \frac{\phi_j^*(x') \phi(x')}{|\bm{r}-\bm{r}'|}\biggr] \phi_j(x));
~
$-{\sum_j}'\int d\bm r'\ V_2(\bm r,\bm r')\varphi_j^*(\bm r') \varphi(\bm r') \varphi_j(\bm r)$

と呼ばれる項が現れる。

交換項は関数 &math(\phi(\bm x)); に「積分演算子」がかかった形になっているが、
まず、ハートリー法ではクーロン項で和を取る際に $k\ne j$ の制限があったが、
フォック方程式では制限がなくなっている。
このために全ての粒子で同じ形になっている。

同様に、交換項でも $k\ne j$ のような制限はないのだが、
一方でここに現れる ${\sum_j}'$ は、$\varphi(\bm r)$ と同じスピンを持つ軌道 
$\varphi_j(\bm r)$ についてのみ和を取ることを表すため、
場合によってはスピンごとに方程式が異なることになるが、
系の対称性が高い場合にはやはり全ての粒子で同じ形になる。

この交換項は関数 $\varphi(\bm r)$ に「積分演算子」

$$
\varphi(\bm r)\mapsto-{\sum_j}'\int d\bm r'\ V_2(\bm r,\bm r')\varphi_j^*(\bm r') \varphi(\bm r') \varphi_j(\bm r)
$$

がかかった形になっているが、
この演算子はこれまでに見てきた「微分演算子」と同様に''線形な演算子''であるから
フォック方程式はやはり線形演算子(フォック演算子)の固有値問題となっている。

交換項の物理的起源は、波動関数の反対称性から生まれるパウリの排他律により、
同じスピンを持つ電子が互いに避け合うため、
結果として電子・電子間の斥力エネルギーが低下する影響(交換相互作用)を表している。
線形性の確認:
$$
\begin{aligned}
A\varphi_a(\bm r)+B\varphi_b(\bm r)
&\mapsto-{\sum_j}'\int d\bm r'\ V_2(\bm r,\bm r')\varphi_j^*(\bm r') \big[A\varphi_a(\bm r')+B\varphi_b(\bm r')\big] \varphi_j(\bm r)\\
&=-A{\sum_j}'\int d\bm r'\ V_2(\bm r,\bm r')\varphi_j^*(\bm r') \varphi_a(\bm r') \varphi_j(\bm r)\\
&\phantom{=}-B{\sum_j}'\int d\bm r'\ V_2(\bm r,\bm r')\varphi_j^*(\bm r') \varphi_b(\bm r') \varphi_j(\bm r)
\end{aligned}
$$

フェルミオンについては、
交換項の物理的起源は、波動関数に課される(反)対称性の要請から、
同じスピンを持つ同種粒子の間にパウリの排他律が適用され、
粒子間距離が長くなりがちな波動関数分布を取るため
結果としてポテンシャルエネルギーが変化する影響を表している。

この項がパウリの排他律を生むのではなく、パウリの排他律の結果どれだけエネルギーが変化するかを表したのがこの項であるため混同しないように。

パウリの排他律により複数の粒子が同じ固有関数状態を取ることはできないため、
フォック方程式の固有関数をエネルギーの低い方から 
&math(n); 個集めて作ったスレイター行列が、多粒子系の基底状態となる。
$n$ 個集めて作ったスレーター行列が、多粒子系の近似的な基底状態を与える。

ボゾンについては、1粒子状態の基底状態 &math(n); 個から作ったスレイター行列が基底状態である。

固有関数をエネルギーの低い方から &math(n); 個集める代りに、
いくつか飛ばしながら &math(n); 個集めれば、
固有関数をエネルギーの低い方から $n$ 個集める代りに、
いくつか飛ばしながら $n$ 個集めれば、
それは低エネルギー状態の粒子を高エネルギー状態へ励起した、
(仮想的な)「励起状態」を表す。

フォック方程式もそのポテンシャルに求めるべき波動関数を含むため、
フォック方程式もそのポテンシャルに「求めるべき波動関数」を含むため、
セルフコンシステントな解を探す形で解くことになる。

&uml(
start
repeat
  :平均場ポテンシャル;
  :   フォック方程式   ;
  :正規直交固有関数系;
  :任意のn個を対称化 ;
repeat while (収束まだ?)
stop
);

ハートレー・フォック法での解法をまとめると上記のようになる。
ハートリー・フォック法での解法をまとめると上記のようになる。

適当なポテンシャルから始めて、
+ 1体方程式の解として、フォック方程式の正規直交固有関数系を得る
+ 任意の数の1体波動方程式を選び、それらを対称化して多体波動関数を作る
-- ここでの選び方により、任意の数の粒子の任意の基底/励起状態を作れる
+ 多体波動関数から平均場ポテンシャルを求めて、
-- 1. で仮定したものと等しければ終了
-- 等しくなければポテンシャルを適当に更新して 1. から再スタート

全体としてセルフコンシステントな解が得られるまで繰り返す

2. において、任意の数の粒子を含む任意の基底/励起状態を作れることが、
さらに進んだ議論において重要となってくる。

** クープマンズの定理 [#ld9c5b4a]

ハートリー・フォック法でも、1粒子エネルギー固有値 $\varepsilon_i$ を全て集めると2粒子ポテンシャルは
同じ粒子対に対して2度ずつ数えられてしまうため、
すべての $\varepsilon_i$ を加えた値は系全体のエネルギーを意味しない。

その代りに、クープマンズの定理によれば この $\varepsilon_i$ には次のような物理的意味がある。

例えば $N$ 個の電子を持つ原子から、電子 $i$ を無限遠まで運び去るのに必要な、
イオン化のためのエネルギーが $\varepsilon_i$ で近似されるのである。

これに対して、2つ目の電子 $j$ 
を無限遠に運び去る際にはすでに1粒子ポテンシャルの形状が変っているため、
$N$ 電子系に対して求まった $\varepsilon_j$ ただし $j\ne i$ はもはや
電子 $i$ を取り去った後の $N-1$ 電子系から電子 $j$ を取り去るためのエネルギーを意味しない。

すなわちクープマンズの定理は、すべての $\varepsilon_i$ を加えても系全体のエネルギーにならない理由の説明にもなっている。

** 精度の限界 [#ia16af36]

多体波動関数が「1つのスレイター行列式で表示できる」というのはあくまで近似であるため、
この近似の範囲を超えた精度を必要とする計算には、ハートレー・フォック法を越えた議論が必要となる。
多体波動関数が「1つのスレーター行列式で表示できる」というのはあくまで近似であるため、
この近似の範囲を超えた精度を必要とする計算には、ハートリー・フォック法を越えた議論が必要となる。

「1つのスレイター行列式で表示できる」というのは、
個々の粒子があくまで平均場ポテンシャル(と交換相互作用)のみを感じて運動しており、
ポテンシャルが他の粒子の位置に依存しない(相関関係を持たない)ことと同義である。
「1つのスレーター行列式で表示できる」というのは、
個々の粒子の感じるポテンシャルあるいは結果として得られる個々の粒子の分布が、他の粒子の位置に依存しない(相関を持たず独立している)ことと同義である。

そのような複雑な相互作用(「相関相互作用」と呼ばれる)を取り込むために、
ハートレー・フォック法を越えた理論が必要となる。
他の粒子位置によってポテンシャルが変化することを取り込むためにハートリー・フォック近似を越える方程式に現れる相互作用は「相関相互作用」と呼ばれる。

- ハートレー法:フェルミ粒子の反対称性を反映しない
- ハートレー・フォック法:フェルミ粒子の反対称性に起因する粒子間の反発
(同じ座標に2つの粒子が入れない)= 交換相互作用(粒子の交換に対する反対称性に起因)
を正しく取り込む
- それ以上の近似:ハートレー・フォック法で取り入れられていない粒子感の相関
(クーロン斥力を及ぼし合う電子同士は互いに避け合いながら運動する)=
相関相互作用 を程度取り込もうとする
- ハートリー法:(反)対称性を満たさず、交換相互作用を無視する
- ハートリー・フォック法:(反)対称性を満たし交換相互作用を取り込むが、それ以上の相互作用(相関相互作用)は無視
- それ以上の近似:相関相互作用 を(ある程度)取り込もうとする

波動関数を複数のスレイター行列式の線形結合で表すことにより、
「相関」を取り入れることができる。
波動関数を複数のスレーター行列式の線形結合で表すことにより、「相関」を取り入れることができる

上で述べた「最安定状態」のスレーター行列と、
具体的には、上で述べた「最安定状態」のスレーター行列と、
複数の「励起状態」のスレーター行列との線形結合を取ることで、
より正確な「最安定状態」が得られる事が知られている。

当然、多くの項数を含めた高精度な計算には多大な計算資源が必要となる。
当然、多くの項を含めた高精度な計算には多大な計算資源が必要となる。

*** 別系統の手法 [#w73a33ac]

ハートリー・フォック法とは別系統の手法として、密度汎関数理論 (DFT = density functional theory) が有名である。

ハートリー・フォック法では系のエネルギーを「$n$ 個の1粒子波動関数の汎関数」として表し、それ最小化することを基本としたが、DFT ではエネルギーを「粒子数の空間密度関数の汎関数」として表し最小化することを基本とする。

必要な計算量と得られる精度との兼ね合いから、現在は多くの実際の数値計算で DFT が用いられている。

** 複数種類の粒子 [#od0916e9]

全体の波動関数は、
それぞれの粒子に対応するスレーター行列式の掛け合わせで表される。
ここまで、単一の粒子種を含む系のみの話をしてきたが、

複数の粒子種を含む多体波動関数は、
それぞれの粒子種に対応する対称・反対称波動関数(たとえばスレーター行列式)の掛け合わせで表される。

$$
\Phi(\underbrace{\bm r_1,\bm r_2,\dots}_{\text{電子}},\underbrace{\dots,\bm r_n}_{\text{陽子}})=
\frac1{\sqrt{n_{\text{e}}!}}\begin{vmatrix}\text{電子の}\\\text{スレーター行列}\end{vmatrix}
\ \frac1{\sqrt{n_{\text{n}}!}}\begin{vmatrix}\text{陽子の}\\\text{スレーター行列}\end{vmatrix}
$$

* 質問・コメント [#p2533295]

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**無題 [#a252810f]
>[[あ]] (&timetag(2019-02-13T00:36:16+09:00, 2019-02-13 (水) 09:36:16);)~
~
自己無頓着~
自己無撞着~

//
- これは「『自己無頓着』は間違いで、『自己無撞着』が正しい」というご指摘ですね? 私が学生の時には「本来の意味からすれば自己無撞着と言うべきだが、自己無頓着という語が広がっていて、こちらを使っている人が多い」と教わったのですが、Google で検索してみる限り、あるべき姿に戻りつつあるようでした。このページでも本来の形に直しておくことにします。ありがとうございました。 -- [[武内(管理人)]] &new{2019-02-13 (水) 09:51:21};

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