量子力学Ⅰ/箱の中の自由粒子 のバックアップソース(No.13)

更新

[[量子力学I]]

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* 概要 [#a6588189]

シュレーディンガー方程式を解くという問題は数学的に難しく、
解析的な関数として解が得られるような問題は非常に限られている(それ以外は数値的に、あるいは近似的に解くが、それでも精度の高い計算には困難を伴う)。

この節と次の節では、最も簡単な2つの例について時間に依存しないシュレーディンガー方程式を解き、
定常的な解を求めながら、%%%波動関数の一般的性質%%% について学ぶ。

** 前提 [#v9eee0b1]

時間に依らないシュレーディンガー方程式:

 &math(
\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2+V(\bm r)\right)\varphi(\bm r)=E\varphi(\bm r)
);

確率密度が時間によって変化しない解:

 &math(\psi(\bm r,t)=e^{-iE_kt/\hbar}\varphi_k(\bm r));

ただし &math(E_k); は上記方程式の固有値、&math(\varphi_k(\bm r)); はそれに対応する固有関数。
* 演習:1次元の箱の中の自由粒子 [#kde8bf85]

&math(a); を正の定数として、&math(0<x<a); の領域に閉じ込められた電子の定常状態を考える。

このような状況は、上記の範囲内で &math(V(x)=0);、範囲外で &math(V(x)=+\infty);
と仮定することで実現され、井戸型ポテンシャルの問題とも呼ばれる。

&attachref(infinity-well.png,,25%);

(1) 箱の中の領域での、時間に依存しない一次元シュレーディンガー方程式を書け。
(一次元なので &math(\bm r\to x);、&math(\bm\nabla\to d/dx); とすればよい。
また、上記の通り箱の中では &math(V(x)=0); である。)

(2) &math(\varphi(\bm r)=Ae^{ikx}+Be^{-ikx}); の形の波動関数が (1) の解となることを確かめ、
&math(k); の値を定めよ。
この式は2つの任意パラメータを含むから、(1)の2次微分方程式に対する一般解である。

(3) 箱の外では &math(\varphi(x)=0); となる。その理由を答えよ。

(4) 波動関数の連続性より、箱の内側でも壁面において &math(\varphi(x)=0); でなければならない。
この境界条件を満たすために &math(k); に課される条件を
任意の自然数を表わす変数 &math(n); を用いて書け。
((通常は &math(\varphi); の1次微分 &math(d\varphi/dx); も連続となるが、ここではポテンシャルの無限大の不連続性を反映して微係数は不連続になる))

以下、&math(n); で指定される &math(k); を &math(k_n);、
対応する波動関数を &math(\varphi_n(x));、
対応するエネルギー固有値を &math(E_n); と書く。
このように離散化した固有値や固有関数を指定する指標 &math(n); は
量子数と呼ばれる。

(5) &math(E_n); を求めよ。

(6) &math(\varphi_n(x)); を求めよ。ただし、規格化すること。

(7) &math(\varphi_n(x)); に対応する、
時間に依存するシュレーディンガー方程式の解 &math(\psi_n(x,t)); を求めよ。



** 解説 [#y2411480]

*** 固有値の離散化 [#m8ac25af]

上の問題を顧みると、

境界条件を課したことにより解の一般形に含まれるパラメータが
''量子数''を含む形で書かれ、その結果としてエネルギー固有値が''離散化''した。
離散化したエネルギー固有値を''エネルギー準位''あるいは''エネルギーレベル''などと呼ぶ。

一般に、''束縛された電子''では境界条件により''離散化した固有値''が現れる。

一方で、''束縛されていない場合''にはそのような境界条件が存在せず、
''連続的な固有値''が現れる。例えば全空間で自由な場合の平面波には波数の制限はなく、
エネルギー(運動エネルギー)も任意の値を取りうる。

上の例でも箱をどんどん大きくしていくと、離散化したエネルギー準位の間隔は徐々に狭まるから、
箱がある程度以上大きくなればエネルギーや波数が連続値を取ると考えても問題なくなることに注意せよ。

*** 波動関数の形 [#c32b83e0]

下のグラフは &math(\varphi_n(x)); と &math(|\varphi_n(x)|^2); を表わしており、
&math(n=1,2,3); の場合を示している。

&ref(infinity-well1.png,,50%);  
&ref(infinity-well2.png,,50%);

&math(n); 番目の固有関数は &math(n); 個のピークと &math(n-1); 個の&ruby(ふし){節};を持つ。

ポテンシャルの中心を基準とすれば、&math(\varphi_{2n+1}(x)); は奇関数、&math(\varphi_{2n}(x)); 
は偶関数となっている。実は一般に、&math(x=0); に対して対称なポテンシャルに対する
エネルギーの固有関数は必ず偶関数あるいは奇関数に取れることを証明できる。→ [[詳しくはこちら>量子力学I/箱の中の自由粒子/メモ#p955dbba]]

*** 波動関数のエネルギー [#o3488d46]

&math(n); が大きいほどエネルギーが高くなるが、ここでは &math(V(x)=0); であるから、
そのエネルギーはすべて運動エネルギーである。
古典論では「エネルギー障壁」は弾性壁となり、電子は壁の間を一定速度で往復運動する。
一方、上で求めたエネルギー固有関数は有限の運動エネルギーを持つにもかかわらず「定常状態」
を表わしており、確率密度の空間分布は時間によらない。

&math(n=1); は最低エネルギーの状態を表わしており、そのような状態は''基底状態''と呼ばれる。
これに対して、&math(n>1); は''励起状態''と呼ばれる。

興味深いことに、&math(n=1); の基底状態においても系は有限の運動エネルギーを持っている。

 &math(E_1=\frac{\hbar^2 \pi^2}{2ma^2});

基底状態における運動を''ゼロ点運動''あるいは''ゼロ点振動''、エネルギーを''ゼロ点エネルギー''と呼ぶ。
一般に、電子を''閉じ込める範囲が狭ければゼロ点エネルギーは高い''。

* 非定常状態の解 [#k2381f9a]

#ref(time-dependent.png,around,right,50%);

非定常状態の例として、&math(t=0); における波動関数を

 &math(\psi(x,0)=C\sum_{k=1}^\infty \frac{1}{k!}\varphi_k(x));

と置いてみる。右図は &math(|\psi(x,0)|^2); を表わしており、
中心から左に寄った位置にピークを持つ確率分布になることが分かる。
係数 &math(C=1/\sqrt{\big(I_0(2)-1\big)}); は規格化因子で、
&math(I_n(z)); は第1種変形ベッセル関数である。

&math(\sum); の中に現れるそれぞれの &math(\varphi_k(x)); の時間発展は上で見たとおり

 &math(\psi_k(x,t)=e^{iE_k t/\hbar}\varphi_k(x));

であり、シュレーディンガー方程式は線型であるから、上の初期条件で与えられる波動関数の時間発展は

 &math(\psi(x,t)=C\sum_{k=1}^\infty \frac{e^{iE_k t/\hbar}}{k!}\varphi_k(x));

で与えられる。

&math(|\psi(x,t)|^2); の時間変化をグラフに示せば、

&attachref(time-dependent.gif,,50%);  
&attachref(time-dependent2.png,,50%);

右は縦軸を時間軸として表示したもので、確率密度を色で示した。
赤線は &math(x); 座標の期待値を表わす。

 &math(\overline{x}(t)=\int x |\psi(x,t)|^2dx);

電子が2つの壁にはね返り、振動する様子が見て取れる。

このように、シュレーディンガー方程式を満たす関数群 &math(\psi_k(x,t)); 
の一次結合で初期状態を表わせるならば、その時間発展は容易に求められる。

上記のように得られた解は &math(t\to+\infty); において振動を続けるが、
もしこれが現実の電子の運動であれば、荷電粒子の加速度運動は光子の放出を伴うため、
徐々にエネルギーを失い最終的には時間に依存しない状態に落ち着くはずである。
そのような現象について議論するには''相対論を取り入れた波動方程式''を解かなければならない。
上で学んだシュレーディンガー方程式は''相対論的効果の少ない条件でのみ成り立つ''近似的な方程式である。
((特殊相対論の効果を入れた波動方程式は知られており、電子の運動による光子の放出などを記述できる。一方、一般相対論と整合性を持つような、重力まで扱える量子力学の方程式は未だ確立されていない。))



* 1次元の箱の中の自由粒子(有限ポテンシャル) [#d98e5d2d]

#ref(finite-barrier.png,right,around,33%);

次に、有限のポテンシャル障壁 &math(V); に挟まれた一次元の箱の中の自由粒子を考える。
粒子の持つエネルギーは &math(E<V); であり、古典的には一切箱の外には出られない。

無限のポテンシャル障壁では壁面で &math(\varphi=0); となることが境界条件となったが、
有限のポテンシャル障壁では壁面から外へ波動関数がしみ出すため境界条件が変化する。
この様子を見ていこう。

箱の中の解は上と同様に &math(k=\sqrt{2mE}/\hbar); として、

 &math(\varphi(x)=Ae^{ikx}+Be^{-ikx});

箱の外での時間に依らないシュレーディンガー方程式は障壁高さを &math(V); とすれば、

 &math(\left(-\frac{\hbar}{2m}\frac{d^2}{dx^2}+V\right)\varphi=E\varphi);

 &math(\frac{d^2}{dx^2}\varphi=\frac{2m(V-E)}{\hbar^2}\varphi);

より、

 &math(\varphi(x)=Ce^{k'x}+De^{-k'x});

が一般解となる。ただし、&math(k'=\sqrt{2m(V-E)}/\hbar);

箱の中では右辺の係数が負であったため振動解が得られたが、
箱の外では右辺の係数が正になるため、解は減衰あるいは発散を表わす指数関数になる。
&math(x\to\pm\infty); で &math(|\varphi|\to 0); となるためには &math(x<0); で &math(D=0);、
&math(a<x); で &math(C=0); でなければならないことがすぐに分かる。

#ref(continuous.png,right,around,33%);

すなわち右図のように、
''自身のエネルギーを越える障壁中に染み出した粒子の波動関数は距離と共に指数関数的に減衰する''。
減衰定数は &math(1/k'=\hbar/\sqrt{2m(V-E)}); となる。

&math(x=0); および &math(x=a); で波動関数 &math(\varphi); とその1次微分 &math(d\varphi/dx); 
がどちらも連続であるという条件の下、&math(A,B,C,D); を決定すると
箱の中心を基準として &math(\cos); 的な解と、&math(\sin); 的な解の2種類が現れる。((ここでも解は偶関数あるいは奇関数となる))

それぞれに対して &math(k); に対する条件は

 &math((ka/2)^2(1+\tan^2(ka/2))=mVa^2/2\hbar); ただし &math(\tan(ka/2)>0);

および

 &math((ka/2)^2(1+\cot^2(ka/2))=mVa^2/2\hbar); ただし &math(\tan(ka/2)<0);

となる。(→ [[詳しい導出過程>量子力学I/箱の中の自由粒子/メモ#eb7f9871]])

&math((ka/2)^2(1+\tan^2(ka/2))); と &math((ka/2)^2(1+\cot^2(ka/2))); をグラフに表わすと、

&attachref(finite-well-energy-levels.png,,75%);

グラフの右下の影のかかった部分は &math(E>V); の領域で、このとき箱の外でも''振動的な解''が得られる。
その場合無限遠における位相に境界条件が課されないため、&math(k); は''連続値をとれることになる''が、
粒子はポテンシャルに束縛されず無限遠まで広がるため、
確率密度として規格化された解は得られない。

縦軸の &math(mVa^2/2\hbar); の値によって &math(ka/2); には &math(E<V); の範囲に有限個の解が得られ、
それらが離散化した波数、ひいては離散化したエネルギー固有値を与える。
グラフから &math(V); が大きくなるほど解の個数が増えていくことが分かる。

&math(mVa^2/2\hbar\to+\infty); のときは &math(ka/2=n\pi/2); がすべて解になる。
これらの解は &math(V=+\infty); の場合に求めた &math(k_n=\pi/a); に一致する。

例えば &math(mVa^2/2\hbar=50); においては &math(ka/2); は &math(E<V); の範囲に5つの解を持ち、
その形状は次のようになる。

&attachref(leaking-well-levels.png,,50%);  
&attachref(noleak-well-levels.png,,50%);

対比のため、&math(V=\infty); の場合も合わせて示した。
波動関数は、そのエネルギー期待値だけ上方にオフセットして表示してある。

ポテンシャルが無限の場合と比べると、
ポテンシャルが有限の場合には障壁から左右に染み出す分だけ箱内部の &math(k); の値が小さくなり、
エネルギーも低下する。((狭い範囲に束縛するほどエネルギーが増加したことを思い出せ))
しかし両者で波動関数の特徴は一致しており、
特に障壁エネルギーよりもずっと小さなエネルギーに対応する波動関数では差が小さい。

上記の計算は例えば金属中に閉じ込められた電子のモデルと考えることができる。
金属中には結晶の周期でイオン核が存在するにも関わらず、
電子は自由に運動できることを固体物理学で学ぶ。
金属中に比べて真空中は電子の感じるエネルギーが高いため、
金属の端面を上で見たポテンシャル障壁と見なすことができる。

ただし金属物体の端面は必ずしも平面的でないし、急峻でもないため、
そのようなポテンシャル形状に対する境界条件は複雑な物になる。
ただ上でも見たとおり、一般に「境界条件」はシュレーディンガー方程式の解を定量的に変えるのみで、
定性的には変化させしない。そこで、不定形の金属の境界条件を箱形であると仮定したり、
あるいは周期的であると仮定したり(箱の一方の端がもう一方と繋がっていることを仮定)して
問題を解いたとしても、端面近傍や極端に波数の長い解の性質を除いて得られる結果は現実の物と
変わらない。そのようにして問題を易しくして解くことが良く行われる。

* 3次元の箱の中の自由粒子 [#x7f96fce]

#ref(box.png,right,around,33%);

&math(a,b,c); を正の定数として、&math(0<x<a); かつ &math(0<y<b); かつ &math(0<z<c); 
の領域に、無限大のポテンシャル障壁で閉じ込められた電子の定常状態を考える。

今の場合 &math(x,y,z); 座標に相関はないから

 &math(\varphi(\bm r)=X(x)Y(y)Z(z));

のように変数分離できることを仮定して、

 &math(
&-\frac{\hbar^2}{2m}\left(
  \frac{\PD^2}{\PD x^2}+\frac{\PD^2}{\PD y^2}+\frac{\PD^2}{\PD z^2}\right)\Big[X(x)Y(y)Z(z)\Big]\\
&=-\frac{\hbar^2}{2m}\left[
  \left(\frac{d^2}{dx^2}X(x)\right)Y(y)Z(z) + 
  X(x)\left(\frac{d^2}{dy^2}Y(y)\right)Z(z) +
  X(x)Y(y)\left(\frac{d^2}{dz^2}Z(z)\right)
\right]\\
&=EX(x)Y(y)Z(z)
);

 &math(
\left(\frac{d^2}{dx^2}X(x)\right)\frac{1}{X(x)} + 
\left(\frac{d^2}{dy^2}Y(y)\right)\frac{1}{Y(y)} +
\left(\frac{d^2}{dz^2}Z(z)\right)\frac{1}{Z(z)}
=\frac{-2mE}{\hbar^2}
);

左辺の各項はそれぞれ &math(x,y,z); のみの関数であり、右辺は定数である。
任意の &math(x,y,z); に対してこの式が成り立つためには、左辺の各項が定数でなければならない。

すなわち、

 &math(
&\left(\frac{d^2}{dx^2}X(x)\right)\frac{1}{X(x)} = \frac{-2mE_x}{\hbar^2}\\
&\left(\frac{d^2}{dy^2}Y(y)\right)\frac{1}{Y(y)} = \frac{-2mE_y}{\hbar^2}\\
&\left(\frac{d^2}{dz^2}Z(z)\right)\frac{1}{Z(z)} = \frac{-2mE_z}{\hbar^2}\\
&E_x+E_y+E_z=E
);

&math(X(x),Y(y),Z(z)); に対する方程式は1次元の箱形ポテンシャルの問題に帰着して、

 &math(X_{n_x}(x)=\sqrt{\frac{2}{a}}\sin\left(\frac{n_x\pi}{a} x\right));

 &math(E_{x,n_x}=\frac{\hbar^2 \pi^2}{2ma^2}n_x^2);

等の解を得る。&math(\varphi(\bm r)); の解は量子数 &math(n_x,n_y,n_z); により指定できて、

 &math(\varphi_{n_x,n_y,n_z}(\bm r)=\sqrt{\frac{8}{abc}}\sin(n_x\pi x/a)\sin(n_y\pi y/b)\sin(n_z\pi z/c));

 &math(E_{n_x,n_y,n_z}=\sqrt{\hbar^2 \pi^2}{2ma^2}(n_x^2+n_y^2+n_z^2));

となる。

例えば電子(&math(m=9.11\times 10^{-31}\,\mathrm{kg});) を &math(a=b=c=1\,\mathrm{nm}); 
に閉じ込めれば、ゼロ点エネルギーは &math(11.3\,\mathrm{eV}); となる。

次の準位は &math(E_{211}=E_{121}=E_{112}=22.6\,\mathrm{eV}); である。

このように異なる量子数に対応する波動関数のエネルギーが等しいとき、
それらの準位は''縮退している''と言う。この様子を示したのが下図左である。

&math(a=b\ne c); では &math(x,y,z); 方向の''対称性が崩れる''ため、
このうちいくつかの''縮退が解けて''、''準位の分裂''が生じる。
&math(a=b=c/1.1); としたときのエネルギー準位と、分裂前の縮退した準位との関係を下図右に示した。

&attachref(3d-box.png,,25%);

* 質問・コメント [#habf08f6]

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