回転宇宙コロニーでの物理学 のバックアップ(No.4)

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公開メモ

概要

こちらのツイートにヒントを得て、 回転による遠心力で仮想的な「重力」を生み出す宇宙コロニーにおける物理学について考えた。

このような系では慣性力として遠心力とコリオリの力が働く。

遠心力が仮想的な重力と見なせる一方で、大きなコリオリの力が存在する系における力学は普段の我々の感覚とはかけ離れたものになるようだ。

目次

コロニー地面から見た運動

以下では物体の質量を $m$、回転中心からの距離を $r$、回転中心周りの角速度を $\omega$ とする。

遠心力

地上にある物体は力を受けなければ速度 $r\omega$ で等速直線運動を続け、 $\Delta t$ 後には $r\omega\Delta t$ だけ進むことになる。 この進んだ距離を中心から見込む角度は $\theta=\omega\Delta t$ であるから、 このとき地中に $r/\cos\theta-r\sim r\theta^2/2=r\omega^2\Delta t^2/2$ だけ埋まってしまう。

埋まらないよう物体を地表に留めるには鉛直上向きに $g=r\omega^2$ の加速度を加える必要があり、 この加速度に対応する力 $mg=mr\omega^2$ が円運動における向心力である。

このとき物体は地面に対して向心力と同じ力で押しつけられ、 これが遠心力として感じられるから、遠心力も

$$mg=mr\omega^2$$

と表せる。

例えば $r=10\,\text{km}$ のコロニーで $9\,\text{m/s}^2$ の遠心力加速度を生むには $\omega = 0.03$ が必要で、これは3分半で1周するほどの速度となる。

鉛直方向の運動に伴う見かけの加速度 = コリオリの力

コロニーと共に回転する人から見ると、動径方向に速度を持つ物体には回転方向に見かけ上の加速度が生じる。

これを理解するには、 自由運動する物体は角運動量が一定となるように運動することを思い出すと良い。

角運動量は $L=mr^2\omega$ と表せる。

これが一定となる運動では、

$$ \frac{dL}{dt}=2mr\omega\frac{dr}{dt}+mr^2\frac{d\omega}{dt}=0 $$

より、

$$-2\omega\frac{dr}{dt}=r\frac{d\omega}{dt} $$

が成り立つことが要求される。

これは、鉛直方向に速度 $dr/dt$ を持つ物体に対して、この速度に比例した回転方向の見かけの加速度

$$-2\omega\frac{dr}{dt} $$

が生じることを表す。この加速度を生む見かけ上の力(慣性力)はコリオリの力と呼ばれるらしい。Wikipedia:コリオリの力

上の例のように $\omega=0.03$ とすれば、$1\,\text{m/s}$ の鉛直速度を持つ物体にはその重量の $0.667\%$ にあたる見かけの力 (kg重) が回転方向に加わる。

したがって、例えば体重 60kg の人が回転方向を向いてスクワットする際に 重心速度 0.5m/s でしゃがむならば、 その間 後ろ向きに 200g重 の力を感じることになる。 たぶんこれは知覚可能な大きさで、コロニー上で地上人が激しい運動をすれば乗り物酔いになってしまう懸念がある。

物体の鉛直(にならない)落下

上と同じ設定で物体を高さ $h$ から静かに落とすことを考える。 この物体はコリオリ力のため真下には落ちない。

これを外部から見て簡単に理解するには、「地上」より高い位置にある物体は水平方向に地面よりも小さな速度しか持っていないため遅れる、と考えれば良い(斜めに進む効果も考える必要はある)。内部から見るなら、落下により中心からの距離が伸びるため角速度が低下して遅れる、としてもいい。

重りを糸で吊り下げれば真下に向くにもかかわらず、 その糸を切ると「真下」には落ちない、というのは地上人からすれば不思議な感覚だ。

まずは外から見て計算

の図のように、物体は初速

$$ (r-h)\omega $$

で半径と垂直方向に飛び、これが「地表」と交差する地点に落ちる。 落ちるまでの時間を $\Delta t$、 初期位置から落下点までを回転中心から見込む角度を $\theta$ とすれば、

$$ (r-h)\omega\Delta t=r\sin\theta $$

より、

$$ \Delta t=\frac{\sin\theta}{(1-h/r)\omega} $$

この間に地表は、

$$ r\omega\Delta t=\frac{r\sin\theta}{1-h/r} $$

だけ回転しているが、落下点は初期位置から

$$ r\theta $$

の位置となるから、鉛直位置と落下点位置との間の距離 $d$ は

$$ d=r\theta-\frac{r\sin\theta}{1-h/r} $$

となる。ここで、

$$ r-r\cos\theta=h $$

より、

$$ 1-h/r=\cos\theta $$

$$ \theta=\arccos(1-h/r)\sim\sqrt{2h/r} $$

と表せることを利用して近似すれば、

$$\begin{aligned} d&=r\theta-\frac{r\sin\theta}{\cos\theta}\\ &= r\theta-r\tan\theta\\ &\sim r\theta-r(\theta+\theta^3/3)\\ &=-r\theta^3/3\\ &=-(2/3)h\sqrt{2h/r}\\ \end{aligned}$$

を得る。

例えば $r=10\,\text{km}$ で $h=1\,\text{m}$ なら $d=9.4\,\text{mm}$ となる。

結果がコロニーの回転速度に依存しないのは、 重量とコリオリ力の両方が $\omega$ に比例するためで、 回転速度を下げてコリオリ力が小さくなっても、同じだけ重力が小さくなって コリオリ力の働く時間が長くなるためだ。

回転座標系で考える

graph2.gif

鉛直方向の運動は、高さによる加速度の違いを無視して

$$ \frac{g}{2}\Delta t^2=h $$

より、$\Delta t=\sqrt{2h/g}=\sqrt{2h/r}/\omega$ 後に地面に落ちる。

この間、鉛直方向の速度は $0$ から加速度 $g$ で増加するから、 角加速度は近似的に、

$$ \frac{d\omega}{dt}=-2\omega\cdot gt/r $$

となる。当初、物体の角速度はコロニーの角速度と等しいことを加味しつつ、両者の相対的な角速度を求めると、

$$ \Delta \omega = -\omega gt^2/r $$

これを積分して落下地点を出す。

$$\begin{aligned} r\int \Delta\omega\,dt &\sim \Big[-\omega gt^3/3\Big]_0^{\Delta t}\\ &= -\omega g\Delta t^3/3\\ &= -r\omega^3 (\sqrt{2h/r}/\omega)^3/3\\ &= -(2/3)h\sqrt{2h/r}\\ \end{aligned}$$

ちゃんと上の計算と合った。

この運動の様子をグラフにすると右図のようになる。

始め鉛直に落下し始めるが、徐々に水平方向の速度・加速度とも上がり、 着地直前にはかなりの加速度が見られる。 この図では横軸を大きく引き延ばしており、実際には上記の通り $1\,\text{m}$ から落下させた際の着地点のずれは $1\,\text{cm}$ に満たない。

落下点までの距離が $h^{3/2}$ に比例する理由もこれで分かる。 落下するまでの時間が $h^{1/2}$ に比例するのに対して、 水平方向加速度が時間に比例することにより 水平方向位置が時間の3乗に比例するため、 合わせて $h^{3/2}$ に比例するようだ。

地表から真上に投げ上げる

graph1.gif

鉛直方向の運動は最高点に達するまでの時間を $\Delta t$ とすれば、

$$ \frac{dr}{dt}=g(-\Delta t+t) $$

回転方向の運動は近似的に、

$$ \frac{d\omega}{dt}=-2\omega\cdot g(-\Delta t+t)/r $$

$$ \Delta \omega =-2\omega\cdot g(-\Delta t\cdot t+t^2/2)/r $$

$$\begin{aligned} r\int \Delta\omega\,dt &= \Big[-2\omega\cdot g(-\Delta t\cdot t^2/2+t^3/6)\Big]_0^{2\Delta t}\\ &= -\omega\cdot g[-\Delta t(2\Delta t)^2+(2\Delta t)^3/3]\\ &= (4/3)r\omega^3\Delta t^3\\ \end{aligned}$$

となって、当初の上昇運動により回転の正方向へ角速度を持ったのが、 下降運動により完全に打ち消されて相対角速度がゼロになったところで着地するため、 飛翔中はずっと回転正方向へ飛んでいくことになり、結果的にそこそこ遠くまで飛ぶことになる。

例えばこの物体の最高到達地点を $g\Delta t^2/2=1\,\text{m}$ とすると、$\Delta t=0.4714\,\text{s}$ になり、上記の設定なら $3.8\,\text{cm}$ 前方に落ちることになる。

$\Delta t=1\,\text{s}$ だと $4.5\,\text{m}$ まで上がり、$36\,\text{cm}$ 前方に落ちる。

これを図にしてみると右図のようになる。 式からも分かるとおり上昇中に水平方向の速度が上がり、最高点で水平方向の速度が最大になる。 落ちてくる間に水平方向の速度が下がり、着地する瞬間に水平方向の速度はゼロになっている。

このようなコロニーでテニスをすれば、 ロブや、サーブのトスが落ちてくる位置がコロニーの回転方向により大きく異なるため、 特にコートチェンジ後は大きな混乱を生むと思われる。非常に難しい競技になりそうだ。

地球の自転によるコリオリの力

Wikipedia:コリオリの力#地球の自転によるコリオリの力

によれば、地球上でも初速の大きな砲弾の弾道などはコリオリの力を考慮しないと的を外してしまうそうで、 言われてみれば確かにそうなのだろうけれど、日常生活ではあまりその影響を感じないため直感的には理解できないところでもあるなあ、と思った。

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